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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
190/800

190食目 問題児達

 ◆◆◆


 俺が目を覚ますと、隣にザインとライオットが寝息を立てており、

 ライオットの腹の上には丸くなったツツオウが載っていた。


「にゃ~ん」


 俺が起きたことを察したツツオウが、一鳴きして挨拶をしてきた。

 その後、またライオットの腹に頭を預けて寝てしまう。

 おまえは寝てばかりだな?


 ここは……俺のベッドか。

 どうやら、桃師匠との訓練でぶっ倒れちまったらしいな。


「目が覚めたかエルティナ」


 体を動かすのはきついので、

 ベッドに寝たまま、顔だけを動かして声の主を確認する。

 そこには、机の上にちょこんと載っている桃先輩の姿があった。


「あぁ、おはよう桃先輩」


 俺は時間を確認する。

 時計の針は午後七時を指していた。

 俺はかなりの時間をベッドで過ごしていたようだ。 

 でも、なんでライオットも転がっているのだろうか?


「……エル、今日の仕込みは休む?」


 ヒュリティアが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

 仕込みを手伝いに来てくれたのだろう。

 非常に心配させてしまったらしく、彼女の目にはうっすらと涙が溜まり、

 部屋の放つ淡い光で宝石のように輝いていた。


「いや、大丈夫だ。

 わりぃな、ヒーちゃん。だいぶ待たせちまった」


 俺は自分が大丈夫だということをアピールするために、

 無理やり体を動かしてベッドで立ち上がり、ガッツポーズを決めた。


「ぐえっ!?」


 その際に、俺は勢い余ってザインの腹を踏みつけてしまったようだ。

 ごめんよ……ザイン。


「うぐぐ、いったい拙者は?

 ここは……お、御屋形様っ!? もしや拙者はっ!?」


「仲良く訓練中に力尽きたようだ」


 ザインは起き上がるなり「不覚」と落ち込んでしまった。

 気にするなザイン。


 あの訓練は七歳児には無理だ。

 俺は過酷な訓練を思い出して白目になってしまった。

 そして、自分がザインの立場でなくて、

 本当に良かったと心から思ったのであった。


「ふん、このバカ弟子が!

 おまえも体力がつき次第、侍小僧と同じ訓練をしてもらう。

 覚悟しておくのだな」


「慈悲などなかった。そして見抜かれていた……ふきゅん!」


 俺はしばらくの間、ぷるぷると震えていたが気を取り直し、

 ジェフト商店で商品の仕込みを開始することにした。

 クーラントポテトを使った商品は問題なさそうだが、

 グーヤの実を創り出すのがいささか心配だ。


「トウヤ、娘、侍小僧よ、このバカ弟子に付いて行ってやれ。

 ワシはここに残る。」


「了解しました、桃師匠。

 エルティナ……身魂融合だ」


 俺は桃先輩と身魂融合を果たす。

 すると、少し体が軽くなった気がした。


 これは……桃先輩の桃力が俺に流れ込んできているのか。

 きっと、今までも流れてきていたんだろうな。

 あの時もきっと……。


『身魂融合完了……流石、桃師匠だ。

 この短時間で、おまえの桃力の上限が大幅にアップしている。

 身体能力もだ。

 エルティナ、訓練はきついだろうが決して投げ出すな』


 桃先輩が俺の状態を魂会話にて教えてくれた。

 俺はいまだに『ステート』を使っても、

 自分の詳しいステータスを確認できないが、

 桃先輩はどういうわけか俺の能力を知ることができるようになっていた。

 桃先輩ずる~い!


『あぁ、一流のヒーラーは決して物事を投げ出さない!

 そして、俺は最強の桃使いを目指す男!

 この程度の訓練など、へのツッパリで粉砕してくれるわっ!』


 俺も魂会話にて桃先輩に返事を返した。

 桃先輩に「おまえは女だ」とツッコミを入れられたが……。


 俺は桃力を体に巡らせる。

 桃先輩の大きく力強い桃力が体中を駆け巡り、

 俺の体は再び戦う力を取り戻した。


 と言っても、戦う相手はクーラントポテトなんだがな!


「じゃあ皆、行こうか?

 桃師匠! 行ってきます!」


「うむ」


 俺達は部屋に桃師匠とライオットを残して、

 ジェフト商店へと向かうのであった。


 ◆◆◆


 さぁ! 問題の日が来たぞぉぉぉぉぉぉっ!

 今日は問題児ばかりが集合する日だ!


「出撃する前に、どの子がどんな問題を起こす可能性があるか、

 詳しく説明するっ!」


 俺とルドルフさん、ザインとダナンにブッチャーさんとで、

 カサレイムに向かう前に展望台にてミーティングをすることにした。

 この日のために展望台には黒板を購入しておいた。

 これは、学校でも採用されている魔導式の黒板だ。

 魔力を使って文字を浮き出させる仕組みなので、

 チョークいらずであり経済的なのだ。


 俺は今日の面子の名前を黒板に表示させた。

 こうしてみると、そうそうたる顔ぶれの名前がずらりと並んでいる。


「まずはアルアだが……この子は恐らく、

 俺にべったりくっついているので、それほど問題ないだろう。

 ただし、戦力として期待するな!

 そして、アルアが迷子にならないように気を付けること!」


 のっけから問題過ぎるが、これはまだ可愛い方だ。

 ダメなら断ればいいのでは?

 という考えもあるが、俺は命の危険がない限りは断らない主義だ。

 それに、この商売は密かに思い出作りとしても行っているのだ。

 参加した者達はきっと、このことを思い出として心に刻み込むことだろう。

 俺って、なんて策士なんでしょう。


「次はスケベトリオのロフト、スラック、アカネだ。

 この中でも特に問題なのが……ロフトじゃなくアカネだ!

 男二人よりもスケベなので注意を払うこと!」


 アカネは自分が女であることを利用して、

 犯罪まがいのスケベ行為に走る可能性が大だ。

 アカネをどう抑えるかで被害は激減することだろう。


 ロフトとスラックは男だから、ぶっ飛ばしておけばいいが、

 アカネは女の子なので物理攻撃で黙らすことはできない。

 さて……どうしたものか?


「さて、ユウユウ閣下だが……彼女に対する対策はないっ!!

 要するにだ……彼女は放っとけばいい!

 決して手を出すな! 意見をするな! イエスマンになっておけ!

 そうすれば、ユウユウは獄炎の迷宮で結果を出してくれるだろう!

 全身を真っ赤に染め上げてな……」(白目痙攣)


 この場にいる、彼女を知る者達から盛大なため息が漏れた。

 ユウユウはとても七歳とは思えないほどの、圧倒的な力とタフネス、

 そして残虐性を持ち合わせている。


 ラングステン王国の冒険者達の間で、

 彼女は既に伝説級の狂戦士として語られている。


 曰く、素手で巨大な岩をバターのように切り裂いた。

 曰く、素手で大地を真っ二つに割って、凶暴な猛獣の群れを一網打尽にした。

 曰く、素手で巨大なドラゴンと対峙し、ケガひとつ負わずに勝利した。


 どれもこれも耳を疑うような話ばかりだが、

 ドラゴン以外の話は、学校の訓練で実際に見ているので間違いはない。


 彼女の強さの秘密に迫りたいが、

 そのようなことをすれば酷い目に合うので、

 皆は決してユウユウに対して探りを入れることはない。


 以前、ユウユウに探りを入れたララァが、

 普段決して彼女が着ない、ひらひらが沢山付いた白いドレスを着させられて、

 グラウンドに(はりつけ)にされているのを目撃したからだ。


 ララァは虚ろな目で「ごめんなさい」を繰り返し呟いていた。

 何があったか聞いても、突如虚ろな目になって「ごめんなさい」を

 繰り返すだけだった。

 相当なトラウマになったのだろう。


「そして、最大の問題がルドルフさんだっ!

 ここ数日で、ルドルフさんの女装姿に心を奪われた野郎共が群がり、

 商売にならない事案が発生している!」


 ルドルフさんは顔を抑えてテーブルに突っ伏していた。

 そう、一番の問題はルドルフさんであった。


 その魔性の美貌で、カサレイムの男達を骨抜きにしてしまったのだ。

 いまや「彼女はいつ店頭に立つんだ?」 

 と押し寄せてくる冒険者や一般市民に今日は来ないと、

 説明するところから始まるそうだ。

 昨日、帰ってきたダナンがボヤいていたから間違いない。


 たった数日でこの有様である。

 今日このまま店頭に立ったら、

 それこそ拉致されるんじゃないだろうかと心配になる。


「そこで、俺にいい考えがある!

 作戦はこうだ。ルドルフさんに男装をしてもらう!

 完璧な作戦過ぎて自分が怖いぜ」


「男装というか……鎧を着ないだけじゃねぇか」


 ダナンがツッコミを入れてくるが華麗にスルーする。

 これで、野郎共に群がられる心配はなくなったわけだ。


「そして、この紳士服を着てもらう!

 これはルーカス兄に借りてきたものだが、

 ルドルフさんでも着ることができるだろう。

 きっと似合うぞぉ」


 早速ルドルフさんに着てもらい姿を確かめる。

 髪型はオールバックだ。

 これで正体を隠すことができるだろう。


「うん、どこからどう見ても……男装の美女にしか見えない」


 それは想定外の出来事であった。

 まさか、この執事服を着て髪型をオールバックにしたにもかかわらず、

 女の色気が出まくるとは思わなかったのだ。


「女装よりは気が楽でいいですよ?」


 ルドルフさんは執事服が気に入ったもようだった。

 というか、女装でないからだろうな。

 もう、このままカサレイムに突入して、事の成り行きを見守るしかないか。


 ミーティングを終えると、丁度よく木曜日組が姿を見せた。


「おっす、食いしん坊! 早く行こうぜ!」


 ロフト達がそわそわしているのは間違いなく、

 カサレイムのお姉様方に会いたいからだろう。

 早くも嫌な予感しかしない。


「カサレイムのお姉様方……楽しみだなぁ。ぐひひっ!」


 アカネは欲望に忠実過ぎる……修正が必要だ(呆れ顔)。

 彼女の将来が心配だ。


「あはははっ! エル、カサレサイム行くっ、行く行く! あははっ!」


 うん! アルアはいつもテンション高いな!

 そして、いつもどおり俺の耳を狙っているな!(警戒)


「皆揃っているのかしら?

 私はいつでもカサレイムに行けるわよ?」


 一番の問題児ユウユウは、まさかの純白のドレス姿であった。

 どこからどう見ても戦いに行く姿ではない。

 これは、ひょっとすると店を手伝ってくれる可能性がっ!?


 セングランさん率いる若手ヒーラー部隊も集合したので、

 俺達はカサレイムへと向かうことになった。

 果たして、俺達は上手く商売することができるのだろうかっ!?


 ……わかりませんっ!

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[気になる点] 桃力を全身に…、でないと箸も持てないはずなのに簡単に立ち上がれるの?: 無理やり体を動かしてベッドで立ち上がり、ガッツポーズを決めた。
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