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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
182/800

182食目 女神マイアスと最後の竜

「おいぃ……なんで大爆笑するんですかねぇ?」


 腹を抱えて笑う皆に遺憾の意を示す。

 そんな俺にダナンが答えた。


「エルが『偶然』なんて言うと思ってなかったからさ。

 だって、おまえは明らかに女神マイアスに愛されてる存在だぜ?

 じゃなきゃ、こうもホイホイ都合良く事が運ばないだろ?」


 女神に愛されているか……この世界の女神は『マイアス』という名だったな。

 主神『女神マイアス』は、この世界を管理している存在だと

 デルケット爺さんに教わった……というか熱心に教えてきたのだ。

 エレノアさんと共に(白目)。


 女神マイアスはあくまでこの世界の管理をする存在で、

 この世界を作ったのは『カーンテヒル』という存在だそうだ。

 この世界の名にもなっているカーンテヒルは実は謎だらけで、

 デルケット爺さんやエレノアさんのような司祭クラスでなければ、

 存在自体を知らない人の方が多い。


 女神様の方は詳しくねっとりと、それでいて情熱的に教えてくれた。

 ……頼んでもいないのにだ。

 まぁ、気持ちはわからんでもない。

 なんといってもマイアス教が崇める神様だもんな。


 女神マイアスはカーンテヒルの後を継いでこの世界を管理している存在で、

 至高の美貌と、究極のお節介焼きを持つ女神だそうだ。

 マイアス教の教義に『困っている人を見かけたらお節介を焼きなさい』と

 いうのはこの女神様のせいだろう(確信)。


 デルケット爺さんが言うには、実はたいした力は持っていないらしい。

 では何故、主神の地位に納まっているかというと……。


 彼女がカーンテヒルに選ばれた、この一点だそうだ。

 本当かどうかわからないのだが伝承が残っているし、

 他の神様達もとやかく文句を付けてヤンチャをしたという話もないので、

 恐らく本当のことだろうと、

 俺はデルケット爺さんから耳にタコができるまで教えられたのだ。


 え~っと、かつて女神マイアスは普通の心優しい人間の少女であり、

 偶々、親とはぐれた猫……いや竜の子だったか? を拾い育てたという。


 ……いかん、なんだか微妙に覚えていない。

 コンビネーションアタックのごとく連続で聞かせてきていたから、

 途中から白目になって、痙攣してたんだった。

 思い出せっ、ここまで思い出したら気になって仕方がない!


 うぬぬ……やがて、竜の子は恐ろしい風貌の竜へと育ち

 彼女のいた村の住民に恐れられるようになったが、

 マイアスだけは変わらない愛情を竜に注いだ。

 だったような?


 しかしある日、村の村長がマイアスに竜を村から追い出して欲しいと

 迫ってきたらしい。

 村長も竜を庇ってきたが限界がきたそうだ。

 マイアスは、それならば私も共に村を出ましょうと言い、

 竜と共に村を出て行った。


 び……微妙に覚えてるっぽい。

 まだ続きがあったようなきがする。

 う~ん、う~ん……あ、思い出した!


 それから竜と共に世界を回り、数々の冒険を経て

 マイアスは『竜使い』と呼ばれるようになったそうだ。


 あれ? こんな話だっただろうか?

 何かと話が混ざってしまった気がしないでもない。

 まぁいいや、最後まで続けよう。

 考えるのはその後でいいだろう……。


 数々の辛い選択を選び、乗り越えてきた彼女達を待っていたのは、

 全世界を巻き込む大戦争であった。

 世界はほぼ全ての命が絶える有様になったという。


 マイアスは竜と共に戦争を止めるべく奮闘したが、

 力及ばず世界は荒廃し、遂には滅亡寸前になってしまったそうだ。

 そこで竜がとった行動は、残った全ての命を喰らうことだった。

 そして、全てを喰らった後……竜はマイアスに頼んだ。


 私を殺して欲しいと。

 今の私を殺せば、世界は再び産声を上げる……と。


 もちろん、マイアスは拒否した。

 我が子を殺せる親がどこにいるのかと。

 涙をボロボロこばしながら、十数年共に歩んだ竜にすがり泣いた。


 崩壊を始める世界。

 もう、止める術はなかった。


 しかし竜は言った……。


 ◆◆◆


「だからこそ、お願いするのです。これは私の使命なのです。

 あなたにしか、強い心を持ったあなたにしか……頼めないのです。

 どうか、この世界のためにも、私のためにも」


 しかし『わたし』にはできなかった。苦しむ竜を。

 我が子同然に育て、共に世界を苦労しつつも旅した竜を

 どうして手にかけられようか?


「お願いです……苦しいのです。どうか、どうか……」


 涙を浮かべ苦しむ我が子を見て『わたし』も苦しんだ。

 しかし『わたし』は決意した。

 これ以上、苦しむ我が子を放ってはおけない。


「カーンテヒル!」


『わたし』は『アスカロン』と呼ばれる竜殺しの聖剣を

 とある王国の王に渡されていた。

 それを使い、愛する我が子の心臓目がけて突き入れた。


「……ありがとう……お母さん」


 そいう言うと、我が子カーンテヒルは胸に『アスカロン』を抱いて

 深い暗闇の中に落ちていった。

『わたし』は泣いた。涙が枯れるまで。


「あなたのいない世界にいても……なんになりましょうか?」


『わたし』は腰に差していたナイフで後を追おうとした。

 しかしその時、聞き慣れた声が聞こえたのだ。

 決して幻聴などではない。

 我が子の声、今さっき自分の手にかけたカーンテヒルの声だ。


『これで、再び世界は産まれます。

 これも全てあなたのお陰です。

 あなたは私を拾ってくれた、あなたは私を育ててくれた、

 あなたは私を叱ってくれた、あなたは……私を愛してくれた』


 完全に崩壊した世界。

 その名残は『わたし』がいる僅かな地面のみであった。

 それ以外は黒い何かが広がっている。

 それは闇ではない、虚無とでも言おうか?

 得体の知れないものであった。


「カーンテヒル!? どこにいるの? 返事をして頂戴っ!」


『わたし』は辺りを見渡すも黒い空間があるのみだった。

 そして、足元から眩い光が溢れ出す。


『あなたの優しさが大地となり、あなたの厳しさが自然を育み、

 あなたの……愛が命を生み出す』


『わたし』の立っている最後の地面が浮き上がってゆく。

 光を放っていたのは、暗闇に落ちていった我が子の体であった。


 最後の地面の浮き上がる速度は段々と加速していく。

 そして、どんどん離れていく我が子、カーンテヒルの亡骸。


「カーンテヒル!!」


『わたし』は手を差し伸べるが、どんどんカーンテヒルから離れていく。

 やめて、止まって頂戴! あの子から離れていってしまう!


『我は世界、世界は我。

 全ての命は我、我は全ての命。

 我は受け継ぐもの、我は授ける者、我は奪う者。

 今……世界は産声を上げる……』


 全てを受け入れた最後の竜は『わたし』共に知った愛を抱き世界を産んだ。

 光となって虚無に解き放たれる最後の竜の亡骸。

 その光は大地となり、その光は空となり、その光は……。


「あぁ……カーンテヒル!」


 私の愛する子、カーンテヒルは星となった。

 新しい世界となったのだ。


 その後『わたし』は空に上がった地面を礎に天界を作り、

 下界を見守り続けている。


 我が子『カーンテヒル』を。


 ◆◆◆


「エルッ、おいエル! しっかりしろ!?」


「えっ!?」


 ダナンが俺の肩を掴み、揺さぶっていた。

 揺さぶられる度に、俺の目からボロボロと涙が零れてくる。


 今のはいったい……!?

 まるで自分が体験しているようなリアルな映像。

 そして記憶、胸が抉られるような憤り。

 そして……カーンテヒルの顔はまるで……!


「エルッ! しっかりして! ……いったいどうしたのっ!?」


 ヒュリティアの泣きそうな顔が俺の視界いっぱいに映る。

 その顔を見て、ようやく俺は我に返った。


「ご、ごめんな……ヒーちゃん。もう大丈夫だぜ」


 俺はヒュリティアを抱き寄せ背中を擦る。

 抱いた彼女の体は震えていた。

 まるで、先程のマイアスのように……。


「大丈夫だ……大丈夫」


 いったい、どうしたというのだろうか?

 今までこんなことはなかった。

 デルケット爺さんに教わった時も、寝る時にエレノアさんに聞かされた時も

 こんなことはなかった。


 それに、今観た記憶は俺が知らなかったことだ。

 デルケット爺さんに教わったものは、俺が今観たものとは違う。

 ありきたりな、めでたしめでたしで終わる『おとぎ話』のようなものだ。


 でも、今観た記憶は……そんな生易しいものではなかった。

 心が抉られるような辛い選択のオンパレード。

 それでも挫けずに歩き続けた彼女達に待っていたのは……悲しい別れだった。

 何故、そんな結末に……いや、あの竜はわかっていた。

 自分に課せられた使命を……運命を。


 それでも、それでもマイアスと共にありたかったんだ!

 マイアスと……お母さんと共に!


 最期の時まで、彼女と一緒にいたかったんだ。


「大丈夫……大丈夫だ……!」


 この言葉は……俺に向けたものだ。

 何故、自分に向けたかはわからない。

 でも……いつかわかる時がくるだろう、ということだけは理解できた。


 俺は胸にかけているペンダントを握りしめた。

 これは森を出る時に『森の神様』に貰った物だ。

 今は八つある石の一つが青く輝いている。


「俺は……どこにも行かないさ」


 この言葉はだれにでもない、自分に向けて言ったものだ。

 俺は大切な人達を置いてどこにも行くつもりはない。

 たとえ神様が連れて行こうとしても、

 その時は神様をぶっ飛ばしても、どこにも行ったりなんてしない!


 俺の居場所はここだ。

 ラングステンのフィリミシアが俺の居場所で、

 皆と一緒にいる場所だ!!


「エルティナ……」


 ルドルフさんは何か察してくれていた。

 その逆にダナンは凄く気まずそうにしていた。


「す……すまん、ポテト食い過ぎて怒ったのかと」


 ダナンの言葉を聞き、新たに作ったフライドポテトを見ると……

 既に残り僅かになっていた。

 あんなにも大量に作ったというのに。


 びきびきっ!


 おぅ! たった今、俺の怒りは頂点に達した!

 この怒りは暫く納まることはないっ!


「ダナン! そこに直れ~!」


 俺はダナンに躍りかかった。

 おまえだけは決してゆるさん……!


 結局、三度目のクーラントフライドポテトを

 揚げることになった俺であったとさ。

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