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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
181/800

181食目 偶然の産物

「……おかえりなさいエル。

 ……どうしたの、元気がなさそうだけれど?」


「ん? あぁ、ちょっとな……気にしなくていいんだぜ」


 自室に戻ってきた俺を出迎えてくれたヒュリティアは、

 俺の表情を見て心配そうに声をかけてきた。


 いかんな……ヒュリティアに気付かれるほど、俺の表情は浮かないのか。

『カオス教団』のことは気になるが……一端本気で頭の隅っこに寄せておこう。

 よし、あっちいってろ! よせよせ……コレデヨイ。


「それじゃヒーちゃん、ジェフト商店に行ってコンソメスープを作ろうか。

 俺はクーラントポテトを仕込むからさ」


「……えぇ、わかったわ」


 俺は『カオス教団』のことを無理やり頭の隅に追いやり、

 ヒュリティアの手を取って元気良く自室を後にしたのだった。


 ◆◆◆


 俺はヒュリティアを伴ってジェフト商店に向かい、立派な厨房を借りて

 彼女にコンソメスープの作り方を伝授した。

 このコンソメスープの作り方は、ミランダさんに教わったものだ。

 そのまま飲んでも素晴らしく美味しいのだ。

 決して全部飲んでしまってはいけないぞ?(四敗)


「……できたわ、味見してみて」


 ヒュリティアが、作ったコンソメスープの味見を頼んできた。

 俺はスプーンでスープをすくい味を確かめる。


「うん、だいたいできてる。少し塩を足した方がいいな。

 後はもう少し煮詰めつつ、灰汁と油を取っていくんだ」


「根気がいるのね」


 美味しい料理は手間がかかるが、その手間を楽しめるようになったら

 どんどん料理の幅が広がる。


「苦労を楽しむヤツは、どんどん成長していくぞ。

 ヒーちゃんも苦労を楽しむのだぁ……」


「苦労を楽しむ……か。考えたこともなかったわ。

 私の場合は、料理するような量の食べ物を手に入れるのも苦労してたし」


 うぐっ、そうだった。

 ヒュリティアの場合、貧困過ぎてそんな余裕なかったんだった。

 俺は迂闊な発言をしたことに後悔していた。


「……でも、今なら苦労も楽しめるわ。

 今私達がやっていることは、決して無駄にならないから」


 そう言って笑った彼女は、まさに美の女神であった。ふつくしい。

 ヒュリティアは普段クールで表情を変えないから、

 笑顔を見せた時の表情は破壊力抜群なのだ!


「うっし、コンソメスープは……うん、完成したな。

 これを『フリースペース』に小分けにしてしまってと……」


 ヒュリティアは魔法が使えないので、俺の『フリースペース』に収納する。

 厨房が広くてコンロも八台あるから、

 コンソメスープを一回で大量生産できるので非常に助かる。

 ちまちまと作っていられないからな。


「よし、こっちも仕込みは完了だ。

 後は帰ってきたダナン達と一緒に容器に詰めて、

 クーラントビシソワーズの完成という流れだな」


 と言い終わった瞬間、厨房のドアが開きダナン達が返ってきた。

 あれ、もうそんな時間になっていたのか?

 どうやら、作るのに夢中で時間が経つのを忘れていたようだ。


「ただいま。ん? なんでヒュリティアがここにいるんだ?」


 ダナンはヒュリティアを見て首を傾げ……にやけていた。

 不思議がるならわかるが何故にやける?

 しかも微妙にきもい(激烈失礼)。


「おかえりダナン。ルドルフさんとザインもお疲れ様。

 ヒーちゃんにコンソメスープを仕込んでもらってたんだ。

 これで製造がなんとか間に合うと思う。……取り敢えずは」


 ダナンは「へぇ」と言ってチラチラ俺を見ている。

 ……飲みたいのか? だが断る!


「ダナン達は飯を食ったんじゃないのか?」


「あ~、それが大騒動になって、それどころじゃなかったんだよ」


 ダナンがぼりぼりと頬を掻き、気まずそうにしている。

 そして顔を押さえて、うずくまっているルドルフさん。


「聞かない方がいいのか?」


「……武士の情けにてござれば」


 俺の言葉に遠い目をして話すザイン。

 うん、だいたい察した。

 これはルドルフさんの格好を変えないと、大事に発展しかねんな。

 シュルシュル……。


「でも売り上げは凄いことになってるぜ?

 ダンジョンの入り口でクーラントポテトしか売ってない大手の連中も

 焦ってきてるみたいだな。

 頻繁に俺達のことを偵察しにきてるみたいだぜ」


「まぁそうだろう、かなり目立つ商売をしてるからな。

 それで、うちの若手連中はしっかりやってたか?」


 ダナンが売り上げについて、上機嫌で話してきた。

 彼のテンションの高さからいって、相当良い売り上げだったのだろう。

 それについては、非常に喜ばしいことだ。


 そうなると大手が黙って見ているわけがない。

 今は偵察だけだからいいが……直接手を出されるとまずい。

 俺達が、ではなく……相手がだ。


 血の気が多い我クラスメイト達は、すぐさま報復活動を開始するだろう。

 それが木曜日だったら、確実に流血沙汰になること必至だ。

 ユウユウなら間違いなく……


「ついでに、邪魔な置物達も一掃してしまいましょう? クスクス……」


 とか言って、ダンジョン入り口付近を牛耳っている

 大手の連中達を、血祭りに上げてしまうだろう。

 それだけの実力があるから性質が悪いのだ。

 絶対に木曜日だけは止めて欲しい。

 俺も木曜日担当だが、止めれる自信がない。


 ではルドルフさんに止めてもらえば? と思うだろ?

 実はルドルフさんも結構、血の気が多いんだぜ?

 むしろ、そういう連中を見たら即ボコボコにするタイプなんだ。

 

 ではザインはどうかと言うと……


「無礼者ぉぉぉぉっ!」


 と言った瞬間、相手の首は宙に舞う。

 これは酷い。


 最も怒らせていけないのがザインだ。

 あいつは礼儀を重視する男だからな。

 よって、木曜日は止めるやつがいない。


 スケベトリオとアルア?

 何を期待しているんだ?(絶望)


 さて、それよりも派遣した若手ヒーラー達のことだ。

 若手連中にはセングランさんが付いているから、大丈夫だろうとは思うが

 それでも気になるので、ダナンに結果を教えてもらう。トントン……。


「あぁ、セングランの爺さんにどやされながらも冒険者達を治療してたよ。

 ケガを治してもらった連中は、若いのに大したものだって喜んでいたぜ?」


「そうか、後は提出してもらう予定のレポートを読んで、確認しておこう」


 これで、若手達も負傷者達の命を救うとは、どういうことかを学ぶだろう。

 それに、今の若手ヒーラーは俺が細分化した各種の『ヒール』を

 活用しているから、魔力に余裕ができているはずだ。

 多くの治療を経験して、効率の良い作業ができるようになれば、

 一人前になる日もそう遠くないだろう。ジャァァァァァァッ……!


「うはっ、流石に徹底してるなって……さっきから何してんだ?」


「当然だろう、命を預かる仕事なんだから?

 あぁ、これか? 余ったクーラントポテトでポテトフライを作ってるんだ」


 食べやすくカットし、熱した大量の油の中で泳ぐクーラントポテト。

 とても気持ちが良さそうだ。


『ふぅ……良い油だ。もっと熱くてもいいな』


「任せておけ」


 このやり取りにも慣れてきた。

 俺はクーラントポテトの望む温度に合わせてやる。

 クーラントポテトは作る料理に文句は言わない。

 文句を言うのは調理過程のみだ。

 それさえ聞いて彼の言うとおりにしてやれば、

 美味しく料理ができることに気付いたのだ。


『塩はすり鉢ですり、きめ細やかにしてから振りかけるのだ』


「よしきた」


 このように、必要なことは全部教えてくれる。

 俺としては普通の食材より、この特殊素材の方が楽だという

 逆転現象が起こっていた。


「よし、完成したぞ。

 出来立ての『クーラントフライドポテト』だ。熱いうちに召し上がれい!」


 お腹を空かせていたと思われる皆は一斉に『クーラントフライドポテト』に

 群がり「はふはふ」しながら食べていった。


「どれどれ、俺も食べてみるか」


 実はこのフライドポテト、試食していないのだ。

 成功するのがわかっていたからだが、どんな味になるか

 楽しみにしていたという点も大きい。


 今回は厚めに切って揚げたので、外側はパリッパリで中はホコホコだ。

 きめ細やかにすった塩は、ポテトに良く馴染んでいた。

 しょっぱさも塩梅良く、いくらでも食べれそうである。

 しかも、驚くべきことにこのフライドポテトは必要最小限の油しか

 吸収してないらしく、異常にさっぱりしている上にくどさがない。

 そして食べた後に、ほんのりミントの風味が残って爽やかな感じになる。


「どこまでもクールなヤツだぜ、クーラントポテト!」


 俺は次のポテトに手を伸ばした。……伸ばした。

 がいくら伸ばしてもフライドポテトを掴むことはできなかった。


「おいぃ……! おまえら食い過ぎだるるぉっ!?」


 俺が味わっているうちに大量に作った『クーラントフライドポテト』は

 皆のお腹に納まってしまっていたのだ。


「あ、わりぃ。美味過ぎてガツガツいっちまった。

 でだ、これも露店で売ろうと思うんだが?」


「おいおい、これは賄いだぞ? ただ切って揚げただけのおやつだ」


 俺は再びクーラントフライドポテトを作っていた。

 俺も食べたいし、皆まだ物足りないような顔をしていたからだ。

 先程言ったとおり、作るのは簡単だ。

 ぱぱっと切って、揚げて、塩振って完成……簡単だな?


「クーラントポテトを使って、それを作れるのがエルだけなら話は別さ。

 うちでしか作れない物ってのは、商売にとって強力な武器になるんだ」


「そのとおりですよ聖女様」


 ブッチャーさんとカルサスさんが揃って厨房に姿を現した。

 どうやら、売れ行きの状況を報告していたらしい。


「我々が扱っているのは、全て他の店では扱っていないものです。

 しかも、他の店が手に入れたくても手に入れられない物ばかり、

 それを簡単に作ってしまう聖女様は脅威と言えますね」


 ブッチャーさんはそういうと、出来上がったフライドポテトを口に運ぶ。


「ほぉ……このフライドポテトも大した物です。

 最大の特徴は『解熱』作用ですか。『火傷』を治す効果もあるみたいですね」


 彼にそう言われて気付いた。

 出来立てのポテトをガツガツあっと言う間に食べたってことは、

 口の中が火傷している可能性が高い。

 皆に口の中が火傷で爛れていないか聞くと全員が大丈夫と言った。


「……確かに食べると一瞬熱かったけど、すぐ気にならなくなったわ」


「言われてみれば納得でござる。

 食べて飲み込んだ時には、既に火傷の治癒が開始されていたのでござろう」


 お互いの顔を見合わせて、このフライドポテトの効果に驚いていた。

 俺もビックリしていたが、一つしか食べてないので

 効果の凄さがいまいちわからない。ふきゅん!


「それだけじゃ、なさそうだぞ~? ほいっ、ブッチャーさん!」


「あぁ、これはこれは、すみませんねぇ!」


 テーブルにどん! と置いたのは 

 大ジョッキに入った黄金に輝くビールであった。

 大人である彼らはフライドポテトを口に運び軽く咀嚼して飲み込むと、

 続けざまにビールをぐびぐびと喉に流し込んだ。


 ちくせう! 本当にちくせう!

 俺が大人だったら、確実に同じことをしていた!


「ヴォォォォォォォォォォッ!」


 二人して同じ声を上げた。

 うん、熱いもの食べてからキンキンのビールをやっつけたら

 出るよねその声。うらやましい。


「思ったとおりだ。『火傷』の回復速度が倍になった。

 食べ合わせでも効果が変わってきているな」


「そうみたいですね、火傷の回復速度は倍ですが

『解熱』効果は半分になってます。

 これはひょっとすると、ビールの種類でも変わってくるかもしれません」


 二人は一見、楽しんでいるようにみえるが筋金入りの商人だ。

 そして、話は纏まったようであった。


「聖女様、このフライドポテトは

 午後六時からの限定発売として売り出しましょう」


 カルサスさんがぐぐっと顔を寄せてきて言った。


「立て看板にビールと共に食べると『火傷』に効果有りと記しておきます。

 聖女様わかりますね? 冒険者と言えば冒険、金、酒です。

 一日の終わりにお酒を飲まない冒険者は殆どいません。

 そして、カサレイムで稼いでいる冒険者の大半は火傷を負って帰ってきます。

 このフライドポテトは彼らを、救う奇跡の料理となるでしょう」


 ブッチャーさんがニコリとわらった。

 しかも「美味しいですからね」とも言ってくれたのだ。

 俺がなんの気なしに作った賄いが、とんでもない物になっていた。


「偶然って怖いんだぜ……」


 俺がそういうと、皆は大爆笑したのであった。

誤字 ダナンに結果を襲えてもらう。トントン……。

訂正 ダナンに結果を教えてもらう。トントン……。


誤字 それだけの実力があるから達が悪いのだ。

修正 それだけの実力があるから性質が悪いのだ。


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