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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
180/800

180食目 忍び寄る闇

 ◆◆◆


 再びクーラントビシソワーズを大量に作るはめになった俺。

 俺とダナン、ルドルフさんとザインで特製の容器に完成した

 クーラントビシソワーズを詰めている最中だ。

 透明の容器から見える青空色がとても綺麗で清涼感が溢れており、

 見た目も涼し気な感じが人々の心を掴んだのだろう。

 売れ行きが好評なのは、恐らくこの容器のお陰だな。

 その透明の容器には、ちゃっかりと付けられた

 ジェフト商店のロゴが黒く光っていた。


 俺は黙々と容器に詰めながらダナンに製作状況を訊ねた。

 これだけの量をこしらえれば、かなりの数が出来上がるのではないだろうか?


「かなり作ったつもりだが、どのくらいの数になりそうだ?」


「ん~、この分だと三百個いくか、いかないかだな」


 全然足りなかった。ちくせう。

 このままでは生産が消費に追いつかなくなる。

 何か良い方法はないだろうか?


 思い付く案とすれば、人海戦術くらいなものである。

 それぞれの作業を専門に熟す人がいれば、かなり違うだろう。

 せめてコンソメスープを作ってくれる人がいてくれれば、

 なんとかなりそうなのだが……あ、ティンときた。

 明日学校でお願いしてみよう。


 さて、もう一回クーラントビシソワーズを作るぞ~!(白目痙攣)


 俺は明日がんばってくれる火曜日組のために、

 再びクーラントポテトと語り合うのだった。


 ◆◆◆


「……エル、疲れた顔をしているけど大丈夫なの?」


「おぉう、ヒーちゃん。そのことで相談があるのだが」


 俺はヒュリティアに、クーラントビシソワーズ用の

 コンソメ作りを頼もうと思ったのだ。

 運良く登校中にばったり出会ったヒュリティアに事の経緯を説明し、

 今晩からでも手伝ってもらえないか聞いてみると快く引き受けてくれた。


 ヒュリティアの料理の腕前は中々のものだ。

 学校の実戦訓練で仕留めた獲物を一緒に調理するうちに、

 メキメキと上達していったのだ。


 リンダは……うん、今のところ残念な結果に終わっている。

 彼女が上達するには、今暫くの時間を有することだろう。


「……でも私はコンソメスープの作り方を知らないわ」


「大丈夫だ、問題ない。俺がきちんと教えるよ」


 俺のその言葉にヒュリティアは嬉しそうに頷いた。

 抱きしめたいな! ヒュリティア!! というか抱きしめちゃえ、それ~。

 俺達は人目もはばからず抱きしめ合った。


 ……いいぞ~この温もりっ!


 しかし、ヒュリティアはまた背が伸びたな。

 出会った頃は殆ど背丈が変わらなかったのに、

 何やら俺だけが取り残されているような気分だ。


「おやおや、朝から仲が良いことだね」


「あ! おはよう、ゴーレムファイター!」


 イチャイチャしていた俺達に声をかけてきたのは

 三代目ゴーレムファイターことフォウロ・キョウダであった。

 はて? こんなところで出会うなんて、どういうことだろうか?

 ホビーゴーレムギルドは町の北部にあるはずだが……。


「やぁ、おはようエルティナ君! 君は確か……ヒーちゃんだったかな?」


「……おはようございます、ヒュリティアです」


 フォウロさんは「そうかそうか!」と言って豪快に笑った。

 相変わらず元気そうで何よりだ。

 だが笑い終わった彼の表情には少し影があった。

 本当に少しだ、言われなければ気が付かないほどのものだったが、

 俺はその少しに気が付いてしまった。


「どうしたんだ、ゴーレムファイター?

 何か嫌なことでもあったのか?」


「はは……君には隠し事ができないな。

 うん実はちょっとね……いや、聞いておいてもらった方がいいか。

 すまないが、放課後にホビーゴーレムギルドへ寄ってもらえないだろうか?」


 普段陽気な彼が、そんなに真面目な顔で言ってくるからには、

 重要な用件なのだろう。

 俺は二つ返事で了解し、放課後ホビーゴーレムギルドに赴くことになった。

 まぁ、火曜日組とセングランさん達を送り出してからだが。


 ◆◆◆


 ホビーゴーレムギルドということで、俺はライオットとプルルを誘い、

 元祖モモガーディアンズとして向かうことにした。

 もちろん、ムセル、イシヅカ、ツツオウも一緒だ。


 ルドルフさんとザインは火曜日組と一緒にカサレイムへ行ってもらった。

 ルドルフさんに会わせろとの声が殺到しているらしいので、

 沈静化の意味を含めて現地に赴いてもらったのだ。

 ザインは助っ人だ。

 絶対に人手が足りなくなるだろうから。


 さて、ホビーゴーレムギルドはゴーレムギルドから独立したとは言うが、

 実際は入っている建物も同じだし、研究内容もさほど変わらない。

 はっきり言って建前上の独立である。


 しかもプルルの爺ちゃんがゴーレムギルドのギルドマスターになってからは、

 更に境界線が曖昧になり、両方のギルド員が好きなギルドの部屋で

 好きなように研究や実験を行っている。これ、独立した意味ねぇな。

 お互いの仲が悪いのよりはいいのだが。


「いらっしゃい! ホビーゴーレムギルドにようこそ!」


 到着した俺達を、出迎えてくれたフォウロさんに

 案内されて入った部屋は、まさに宝の山であった。

 ところかしこにホビーゴーレム用の

 オプションパーツが展示されていたのである。

 まだ販売されていない物まであって非常に興味深い。


 部屋の中央に設置されたテーブルには先客が複数人いた。

 どの顔も見知った者達である。


「やぁいらっしゃいエルティナ君、

 いや……モモガーディアンズと言った方がいいかな」


「久しぶりね、元気にしてた?」


 ザッキー・タケヤマとその奥さんのリィカさんだ。

 この二人が、ここにいることに違和感はない。

 だが後の三人はどういう理由でここにいるのかがわからない。


「待ってましたよ、我が友エルティナ、そしてライオット君にプルルたん」


 そこにはタカアキ、フウタ、そしてアルのおっさんまで集まっていた。


 ……タカアキ『プルルたん』はどうかと思う。

 後、彼女を見てハァハァするな。プルルがドン引きしてるぞ。


「プルルたんカワユス。

 っと、心の声が漏れてしまいましたね? 深く謝罪いたします。

 それではテーブルに着いてください。

 フォウロ君とフウタが大切な話をしてくれますので」


 タカアキに促されて俺達はテーブルに着いた。

 これはもう、はっきり言って悪い予感しかしない。

 勇者パーティーのメンバーが揃っている時点で大事の可能性大だ。


「さて、何から話したものか……そうだな」


 フォウロさんが神妙な面持ちで手を組み静かに話し始めた。


「昔『ワールドピース』という秘密結社が『イビルハート』という

 マジックウィルスを作り、世界を掌握しようと暗躍していた……」


 俺達はフォウロさんの話を静かに聞いていた。

 話を纏めると……フォウロさん率いるチームPGが

 悪の秘密結社ワールドピースを犠牲を払いつつも壊滅させた。

 といった内容だ。


「次は俺だな。

 これは俺がまだ冒険者で、アルフォンスさんの教えを受けながら、

 エレノア達とパーティーを組んでいた時に対峙した……ある組織の話だ。

 君達を信用して話すが他言は控えて欲しい」


 こんなにも険しい表情のフウタは初めて見る。

 いったいどんな組織なのだろうか?

 ライオットもプルルもフウタの迫力に縮こまってしまっている。

 俺は鼻の穴がムズムズしたのでホジホジしていた。


「ちょ、汚いよ食いしん坊」


「だってムズムズしたんだぜ? ホジホジするだろう」


「それ以前に、女が人前で鼻をほじるなよな」


 俺達のやり取りにガクリと項垂れたフウタ。

 大人達はそんなフウタを見てニヤニヤしていた。

 暫くし、立ち直ったフウタが再び語り始める。


 いつ創立したか、わからないくらい昔から存在するとある組織、

『カオス教団』がフウタ達の対峙していた組織の名前だそうだ。


 この組織は終末思想の教えを信者に施しているそうで、

 その教えを受けた信者達は決まって、

 他者に害を及ぼす存在へと堕ちるらしい。


 この信者達は世界各地に散らばり破壊活動や人攫い、

 果ては殺人まで行っていたそうだ。


 うん……要するに、この組織はテロリストみたいなものなのだろう。

 つまり、悪いヤツだ。


 この『カオス教団』は様々な国に存在し悪行を繰り返していた。

 国も何もしてなかったわけではなく、何ヶ所もの拠点を潰したが

 それらは全て末端組織だったらしく、大本の『カオス教団』は

 まったく損害を被らなかったそうだ。


 だが、この『カオス教団』は知ってか知らずにか、

 一番相手にしてはいけない相手を敵に回してしまった。

 それがここにいるフウタである。


「ヤツらはエレノアを攫って

『カオス教団』が神と崇める存在に生贄として捧げようとしたんだ。

 もちろん、俺達はすぐに救出に向かったよ」


 ここで、遂にフウタがブチ切れたそうだ。

 ありとあらゆる手を使って『カオス教団』の本拠地を割り出して

 殴り込みをかけたらしい。


「あの時のフウタは凄まじかったなぁ。

 流石の俺もドン引きする勢いだったぞ?」


「あの時は、彼女の命がかかっていたんですから仕方なかったじゃないですか。

 そう言うアルフォンスさんだって、無茶苦茶なことをしてましたよ?」


 アルのおっさんは「そうだったか?」ととぼけていた。

 そんなアルのおっさんを見て苦笑いをするフウタ。


 無事にエレノアさんを救出したフウタ達は

『カオス教団』の教祖を見事に打ち取り、全世界に害を振りまく組織の

 壊滅に成功したのだそうだ。

 ただ、この事実は各国のトップで話が止められている。


 国が総力を挙げても壊滅できなかった組織を

 個人の、それもたった数名で壊滅させたことが公になれば、

 国の威信にかかわるからだというのだ。


「俺達としてはその方がありがたかった。

 教団の残党共に目を付けられなくてすんだからね」


 大本を失った『カオス教団』は国の討伐隊に次々と壊滅させられていった。

 これにより『カオス教団』は世界から姿を消した。


「……はずだった。このホビーゴーレムを見てくれ。

 つい最近、フィリミシア城で発見された物なんだが……」


 フウタはテーブルに一体の壊れ果てたホビーゴーレムを置いた。

 右半身が砕け散ってゴーレムコアが見えている。

 とても痛々しい姿に、俺は深い悲しみを覚えた。


「ここだ、このゴーレムコアのこの部分を見て欲しい」


 フウタが指さした部分には、ギザギザのハートのような模様が浮き出ていた。

 それを見たザッキーさんが「うっ!?」っと呻く。


「イ、イビルハート……!!」


 ザッキーさんの言葉に頷くフウタは話を続けた。


「このホビーゴーレムは、式典が行われた場所に壊れた状態で落ちていた。

 聖女様が式典に出席なされていた時にも、

 恐らくこのホビーゴーレムは活動していたはずです。

 しかし、あの異常な盛り上がりの中で活動したために、

 だれかに踏まれて壊されてしまったのでしょう」


 ザッキーさんがフウタの話を受け継いだ。

 その表情は苦々しい。


「不幸中の幸いと言える。

 イビルハートは人にも感染するのだが、

 ゴーレムコアが作動してないと感染が発生しないのが欠点なんだ。

 魔力で作用するウィルスだからね」


「問題は何故、あの場所にこいつがいたのか……だ」


 アルのおっさんが怖い顔をして腕を組んでいた。

 そして俺を見つめてきた。

 フウタも、タカアキも……皆が俺を見てきた。


「ま……まさか、俺って今モテ期!?」


「違うっ! まったくおまえは、鈍いというか図太いというか」


 アルのおっさんが頭をバリバリ掻いて改めて言った。

 その表情は険しく声も少し怖かった。


「エルティナ……おまえを狙ってたんじゃないか、と思うのが自然だ」


「マジで!?」


 アルのおっさんの衝撃の発言に俺は驚愕してしまった。

 何故に俺が狙われないといけないのだろうか?

 俺は何もしてないぞっ!?


「解せないのは、何故あのタイミングだったか、ということですね」


「あぁ、突発的なものだったのか。 

 それとも、最初の策が失敗して最後の手段だったのか。

 憶測の域は出ないな」


 フウタとアルのおっさんが難しい話を始めていた。

 俺は何がなんだかわからなくなっていた。

 何故に今頃こんな話を……?


「この話は国王陛下には?」


 フォウロさんがフウタに訊ねた。


「いえ、まだ話してませんよ。

 事が事なだけに、慎重に捜査をしてからお伝えしようかと」


 気軽な気持ちでやって来たはいいが、

 とんでもない方向にドンドン話が進んでいき、

 結果俺達はポカーンとするしかなかった。


「なんか、大事になってきたんだぜ」


「エルが鼻をほじったからじゃねぇのか?」


「ありうるねぇ……んふふ」


 俺達が現実逃避すること数分、

 大人達の今後の行動が決まったようであった。

 フウタが俺と向かい合い話しかけてきた。


「取り敢えずは聖女様には、いつもどおりの生活を送ってもらいます。

 聖女様にはルドルフ君が護衛に就いているので、

 余程のことがない限り大丈夫でしょう」


「おや、そう言えば彼の姿を見かけませんね。

 今日は休暇の日でしたか?」


 ぎくっ! いかん、カサレイムに派遣しているのがバレたら

 今までの苦労が台無しになる。

 なんとか誤魔化そう!


「ルドルフさんは試練と戦っているんだぜ」


 ……間違ってはいないが、合ってもいないかもしれない。

 自分で言っておいてなんだが、これは誤魔化しになっているのだろうか?

 いかん、フウタが疑いの目を向け始めた!

 そうだ、話題を変えなければ!


「そ、そんなことよりも、その『カオス教団』と壊れたホビーゴーレムに

 何か関係でもあるのか?」


 俺の振った話にフウタが食い付いた。

 よし、これで取り敢えず話題が変わったはずだ。


「えぇ、このホビーゴーレムはカオス教団所有の偵察用ホビーゴーレムなんです。

 ここを見てください、このマークはカオス教団及び信者が体に刻む

 紋章です。これが何よりの証拠です」


 壊れたホビーゴーレムの背中には、奇妙な形をした紋章があった。

 見ようによっては竜の顔にも見えるが……。


「壊滅したはずのカオス教団の偵察用ホビーゴーレムが

 フィリミシア城に壊れた状態で落ちていた。これは大事です。

 何故なら、教団が再び活動を再開している証なのです」


 フウタの額から汗が流れ落ちた。

 彼の言うことが本当ならばようやく平和になりつつあるこの世界に

 再び黒い影が覆うということになる。

 そんなの許されざるよ!


「我が友エルティナ、問題はその教団に君が狙われているということです」


 タカアキがフウタに変わり話を続ける。

 俺が教団に狙われる理由がわからないのだが?

 いやまて、まさか……!


「察しの良い君なら気付いていると思います。

 教団は我が友エルティナを生贄にしようと企んでいるのでしょう。

 我が妻エレノアのように。まったくもって許しがたいですね」


 言葉使いは丁寧なまま、表情も普段どおりのタカアキだが、

 纏う雰囲気に静かなる怒りが含まれていることに気付いた。

 俺はタカアキが怒っているのを見たことがない。

 いつも優しく笑っているか、ハァハァしている顔しか見たことがない。

 こんなタカアキを見ることになるなんて……。


「取り敢えず話は以上です。

 聖女様は普段どおりの生活を送ってください。

 変に警戒すると教団の連中に気付かれてしまいますからね。

 当然、国王陛下には秘密にしておいてください」


「わ、わかったんだぜ」


 フウタに改めて釘を刺された俺達は困惑していた。

 だが、考えてもどうにもならないと悟り、

 いつもの調子で生活しようと決めたのだった。


 ◆◆◆


 ホビーゴーレムギルドを出た俺達はヒーラー協会を目指した。

 あの話を聞いてからどうも調子が出ない。

 ライオットもプルルも黙ったままだ。


「元気出していこうぜ?

 俺達ができることは殆どないんだし、

 フウタ達に任せておけば、いつの間にか解決しているさ」


 俺の言葉にライオットもプルルも頷くだけであった。

 俺がヒーラー協会に到着するとライオットとプルルは、

 少し頭の中を整理したい、と言って家に帰ってしまった。


 プルルはまだしもライオットがそんなことを言うのは珍しい。

 いったい何があったというのだろうか?


 考えてもわからないし埒が明かない。

 取り敢えずは、自室で待たせているヒュリティアに会いに行こう。

 俺はもやもやする感情を無理やり心の奥にしまい、

 親友が待つ自室へと向かったのだった。

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[気になる点] 誤字:教団』内で 「えぇ、このホビーゴーレムは『カオス教団』の偵察用に作られたものなんです。
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