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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
172/800

172食目 誓いの拳

「気分はどうですか、エルティナ?」


 ルドルフさんが俺の顔を覗いてきた。器量の良い顔が近づいてくる。

 うん、マジで女にしか見えない。唇がセクシー!

 よくルリティティスさんは男だってわかったな? 感心するわ。


「あぁ、大丈夫だ。でも謁見は失敗だったな」


 俺はしょんぼりと項垂れた。あれだけがんばったのに、最後の最後で

 大失敗をやらかしてしまった。皆に申し訳が立たない。


「それに関しては、御咎めなしでござる。そもそも原因は……」


「ザイン君」


 ルドルフさんがザインを止めた。ザインは何か言いたげだったが、素直に

 従い口を閉ざした。いったい何を言おうとしたのだろうか?


「真相は追及しない方が、お互いのためなのです。むしろ、我々の方に貸しが

 できている状態です。いざという時のために取っておきましょう」


 ルドルフさんはニヤリと笑った。背後に黒いオーラが見えたのは

 気のせいだろうか? まさか陰の力に目覚めたっ!?


 俺がルドルフさんの黒い笑みに驚愕していると、ベッドの下で

 ごそごそ音がした。なんであろうか?


 やがてシーツが擦れる音がして、ベッドの下から

 一匹の生き物が姿を現した! 何奴っ!?


「わん、わん!」


 ……とんぺーだった。驚かせないでくれ。

 まったく……いないと思ったら、そんなところにいたのか君は?


 安心したのも束の間! 今度は部屋の隅にあるツボが、がたがたと

 揺れ始めたではないか!? ひぃ! ポルターガイスト現象か!?


 そして、急にピタリとツボの動きが止まり、ツボの中からムセルが出てきた。

 色々なところに、潜んでるな君達は!? ビックリするからやめてよねっ!


「護衛ご苦労様です。何事もなくて良かったですね」


 なるほど、俺が倒れている間ずっと守っていてくれたのか。

 俺はご褒美に、とんぺーとムセルの頭を、なでなでしてあげた。

 二人はとても喜んでいた……ってザイン、羨ましそうに見てるが

 君もして欲しいのかね?


 そこに、ドアがノックされダナンが入ってきた。


「大丈夫かエル? 倒れたって聞いたが」


「あぁ……大丈夫だ。よくわからんが、謁見も問題なく終わったらしい」


 ダナンは謁見には参加させてない。

 客室で鑑定の練度を上げる訓練をして貰ったのだ。

 あそこなら、珍しくて価値の高い物が満載だからな!


 そもそも、ダナンは教皇様に謁見できるほどの身分がないからな。

 俺の家臣でもないし。ミリタナス神聖国は、そこ等辺にうるさい国のようだ。

 うちの王様はまったく気にしてないようだが……。

 うちの王様は外見は厳ついが、フレンドリーな王様だ。加えて子供好きなので

 ダナンでも(失礼)喜ばれることだろう(たぶん)。


「それで……練度は上がったか?」


「あぁ、五くらい上がったかな? 飾り物だと、これが限界みたいだな」


 五か……あれだけの品でたった五だと、この先相当珍しい物でないと

 練度が上がらないってことか? 意外に大変なスキルだな。


「ま、じっくりやるさ。それよりも、もう行くのか?」


「そうだな、謁見は終了したしミカエル達も待たせているしな」


 俺はベッドから降りたところで、さぬきの姿が見えないことに気が付いた。

 いったいどこに行ったのだろうか?


 うずめは……テーブルに置いてある、俺の少し豪華な帽子の上で寝ていた。

 そこが気に入ったのか?


「さぬきはどこだ?」


 俺がきょろきょろと部屋を見回してもさぬきの姿はなかった。

 まさか、攫われた!? いかん! 探しに行かねばっ!

 俺は慌てて帽子を被り、捜索に向かおうとした!


「ちろちろ」


 さぬきは俺の帽子の中で、とぐろを巻いて寝ていたようだ。

 ビックリさせないでくれよ。なんにせよ、これで全員揃ったな。


「全員揃ったし、そろそろ行こうか。ライオット達がまっている。

 俺が倒れちまって、大幅に遅れちまってるから、怒ってるかもしれん」


「はい、出立することを伝えてまいります。ザイン、君はエルティナを

 ハマー達の元へお連れしてください」


「承知致した。ささ、御屋形様こちらへ」

「お待ちなさい」


 その時の事だった。

 鈴の音のような声が俺たちを引き留める。


「ふきゅん! あんたはぁ! いや、あなたはっ!」


 その女性の登場に、俺たちは驚きを隠せないのであった。


 ◆◆◆


「エルのヤツ遅いな……予定の時間を過ぎちまってるぞ?」


「本当だねぇ、食いしん坊にしては珍しいねぇ?」


「にゃ~ん」


 俺達はミカエルの家で、エル達の到着を待っていた。

 エルの到着予定時間は、午後三時と言っていたが、今はもう午後四時だ。

 一時間も遅れるなんて何かあったに違いねぇ。


「本当に遅いですね……教皇様の元なので、大丈夫だとは思いますが」


 心配そうな顔でミカエルがやってきた。

 同様にミカエルの料理の支度を手伝っていた、メルトとサンフォも

 やってきて、エルがいるであろう大神殿を見つめている。


「様子をみてくるか?」


 メルトが顔を顰めてミカエルを見る。実はメルトが一番エルが来なくて

 そわそわしている。心配性なのかもしれねぇな。

 同様に俺もそわそわしているんだが。


「にゃ~ん……」


 シシオウも心配そうに大神殿を見つめていた。


 今俺達がいるミカエルの家は、神殿に近い位置にある。

 それは、ミカエルの親父さんが灰色の神官長だからだ。

 ミリタナスでは教皇に近い地位の順で、土地が振り分けられる。

 普通の教徒なら町の一番外側に、白の神官ならその内側、後は灰色と続き

 黒い大神官となると大神殿での生活が許される。


 少し昔の記憶だから当たっているか不安だけど、だいたい合っているだろう。

 もう来ることはないかなと思っていたが、こんな形で来ることになるとはな。

 俺としては未練なんてさらさらねぇが……。


「どうしたんだい? おっかない顔してるよ? ライオット」


「ん……そんなに怖いか?」


 プルルに言われて、俺は自分の顔に手を当てた。

 勿論、そんなことをしてもわかるはずがない。無意識に手を当てただけだ。


「あっ!? エルティナ様です! どうやら無事のようですよ!」


 ミカエルが嬉し気な顔で、エル達が来たことを皆に報告してきた。

 俺もミカエルの見ている先を見ると、確かに白くてちっちゃいのが

 手を振っている。あの無駄に元気な手の振り方は、エルで間違いねぇな。

 まったく……心配かけさせんなよなぁ。


「ふきゅん! 待たせたなぁ……」


「待たせたなじゃないぜ。心配してたんだぞ?」


 俺がエルにそう言うと「すまん」と言って、普段垂れている大きく長い耳を

 更に下に垂らし俯いた。本当に何かあったのか?


「何かあったのかい食いしん坊? いつもらしくないようだけど?」


 プルルが心配そうにエルに接している。ミカエル達も心配そうだ。


「ん~ちょっとなぁ……でも、気にするほどのものじゃない」


 そう言って「この件は終了だ」と付け加えるエル。

 何かあったのは間違いないが、大変なことなら俺達にも知らせるから、

 本当に気にするほどのものじゃないだろう。

 あるいは、俺達じゃどうにもならないことかだ。


「久しぶりだな、ミカエル! 元気してた?」


「はい! エルティナ様に会えると聞かされ、一日千秋の思いで

 お待ちしておりました!」


 うはっ、ミカエルのエルに対する熱の入れようときたら……!

 まるで、何年も合ってない恋人に、ようやく会えた野郎の態度じゃねぇか!

 おいおい! エルもまんざらって顔すんな! つけ上がるだろが!


「ご無事で何よりです、エルティナ様」


「遅かったですねぇ~? 料理が冷めちゃいますよぉ?」


「ふっきゅん! メルトとサンフォも元気してたか!?」


 段々とエルのテンションが上がってきた。サンフォの台詞でエルの食欲の

 スイッチが入ったんだろうな。しきりに耳を、ピコピコさせているのが

 その証拠だ。エルの行動の根底はいつも食べ物と……愛情だ。

 ここ一年で、それがはっきりとわかった。


 食欲については、今更語ることなんてねぇ。味に飢えたグルメ家ってヤツだ。

 食が細くて食べられないせいもあるんだろうな?

 問題は愛情による行動だ。これが非常に危なっかしい。


 エルは幼く見えるが、意外に理性的だし自分の限界を理解している。

 けど……それは、普段の、日常生活である場合だ。エルは自分の大切なものを

 守る時……自分の限界を無視する。自分の限界を越えて能力を使う。

 それは、とても危うい行為だ。


 俺は、そんなエルを何度も見てきた。ガルンドラゴンの時、ヤドカリ君の時、

 グランドゴーレムマスターズの時、そして……竜巻の一件の時もだ。


 何故、他人のために、自分が傷付いてまで限界を越えることができるのか?

 俺にはわからねぇ。俺は頭が悪いから。

 だから勘で動いてきた部分が沢山ある。

 危険を察知する時も勘だし、重要なことを決めるのも勘だ。

 無茶だと思えても勘がそう言っているのであれば、できる範囲で無茶だと

 思われることも少なからずやってきた。

 

 そんな俺でも、エルの行動には驚かされる時がある。

 無謀だ、絶対無理だと、だれもが思う行為を平然とやってのけるのが……

 エルだ。


 俺は身体能力に恵まれている、と自覚している。

 でもエルは恐ろしく身体能力が低い。にもかかわらず、仲間を救うためなら

 圧倒的な能力差のある相手でも、ためらわず向かっていく。

 何も考えてないのか、それとも……? でも、俺はそんなエルを……。


「おいぃ! ライオット! ご飯食べるぞっ! 早く来るんだっ!」


「あぁ! 今行くっ!」


 ……まぁ、いいか! 難しく考えるなんて俺らしくねぇ!

 俺は何も考えず、エルに降りかかる困難を、ぶっ飛ばせば良い!

 これは、エルに頼まれたからじゃねぇ! 俺がそうしたいからだ!


「迷うことなんてねぇじゃねぇか。エルが皆を救うヒーラーなら、

 俺はそれを守るこぶしであればいい……それだけだ」


 俺はいまだ弱く未熟だ。でも、いつかきっと皆を守れる男になってみせる。

 エルの笑顔を守れるくらいの男になってみせる。


 俺は自分の拳を握りしめ、誓いを新たにしたのだった。

『勘』が『感』になっていたので訂正。

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