17食目 プロ根性
城の『テレポーター』の門の前に勇者一行はいた。
勇者タカアキ。剣士フウタ。魔法使いアルフォンス。治癒師エレノアといった面々だ。まんまRPGのガチパーティー構成である。強い(確信)
勇者の見送りは意外にも少人数であった。王様を含め、重鎮が数名に
俺という面々。殆どの戦力は戦争に投入しているそうだ。
王様も戦いに参加すると言ったが、家臣達が全力で止めたらしい。
無茶言うなよな王様。
「見送りが少なくてすまないな」
と、王様が申し訳なさそうに言った。
「とんでもない、見送りがあるとは思っていませんでした。
ありがたいことです陛下」
と、返すタカアキ。マジイケメン、不細工だけどイケメン。
略してブサメン。これでいこう。
「生きて帰って来い、友よ」
俺はタカアキに声をかける。彼はにっこり笑って俺に返事をする。
「もちろんだとも、小さき友よ」
「そうだな、死んだら……つまらんからなぁ?」
とアルのおっさん。そして、息の合ったように吐かれる台詞。
「「「全てはおっぱいのために!!」」」
俺たち三人は、拳を合わせ友情を確認し合った。
エレノアさんに、小言を言われたのはいうまでもない。
「ユウギ男爵、勇者殿を頼む」
「お任せを陛下。あの男にはくれぐれも……」
となにやら向こうも、混みいった話を終えたようだ。
そして勇者一行は、門を抜けて戦場に向かった。後に残された俺達は
その場で解散となり、それぞれの帰路に就く。
がんばれよ……皆。
◆◆◆
治療所についた俺は、早速ケガ人共の世話を診る。
午前中、見送りに行ってたから随分と溜まってるな!?
勇者達が向こうでがんばっているんだ、俺も泣き言を言うわけにもいくめぇ!
てやんでぃ! とか江戸っ子みたいなことを思いつつ治療していく俺。
治療を終えて食堂でミランダさんと、たわいもない話で盛り上がっていた
ところに、イケメンが近付いて来てギルドマスターの部屋に来て欲しいと話してきた。面倒だが行くことにする。何事だろうか?
「……どうやら、他の国も勇者召喚に成功したらしい」
と、デルケット爺さんの重々しい台詞。
良い事なんじゃないのか? と聞くとそうでもないらしい。
そもそも、勇者召喚はラングステン王国の専売特許でその方法は長い間、
秘術中の秘術とされてきた。何故なら悪用されたら大変だからだ。
しかし他国で召喚されてしまった。原因は情報の流出らしく、
召喚の技術を横流ししたヤツがいるらしい。困ったものだ。
「現在、勇者同士の睨み合いが続いております」
勇者を召喚したのは、ラングステン王国を含め三ヶ国。
中央大陸のラングステン王国。
西の大陸のドロバンス帝国。
南の大陸のミリタナス神聖国。
「これにより同盟は事実上破棄に近く、協力などとても……」
何をやってるんだか……これはデルケット爺さんも頭を抱える。
なんともまぁ、王様も大変なことになったな。と同情しておく。
でも、こういうことの処理は王様の仕事だ。俺には何もできん。
「そこで、お願いごとなのですが……」
爺さんが何か言いたげだが……良いのよ? 言っても? 話してみ?
とデルケット爺さんを促す。
「実は同盟は破棄に近いのですが、希にこちらの『テレポーター』にも
他国の兵が入って治療を受けに来ています。どうか彼らの治療を引き続き
お願いしたいのです。勇者召喚による関係の悪化は、国同士に因るものですが 戦場に立っている者達は義によって立ち上がった冒険者や、
愛する家族を守るために戦う兵士なのです」
と、一気に言ったデルケット爺さん。無理すんな。
ぜえぜえ、言ってるじゃないか。水飲め、水。
水を飲んで一息吐いた爺さんは「どうか、どうか……」と俺に頼み込む。
「私からもお願いします」
とイケメンも頭を下げてきた。まったくもう。
そんなにお願いされたら、断れないじゃないか。
もっとも、断る気などさらさらないがなっ! ふっきゅん!
「俺は、ただケガ人を治すだけだ。そいつらの事情は知らんし関係ない。
何でもいいから、片っ端から連れてこい。全部、俺達が治してくれるわっ!」
と言って腕を組み仁王立ちした! ふっきゅんきゅんきゅん……!!
なにやら、俺もプロ根性みたいな物が備わってきているらしい。
二人は、顔を合わせ「ありがとうございます、聖女様」と言って喜んでいた。
◆◆◆
勇者が三人か。
自室に戻った俺は、いつものトレーニングを終え桃先生を食べていた。
当分の間、自由な時間はなさそうだ。
俺はベッドに横になり召喚された勇者たちのことを考えていた。
あ、こら。にゃんこ共っ! 一斉に俺のお顔を、ペロペロするんじゃない。
集中させてくれっ。ふきゅん!
んもうっ、気を取り直してっと……。
強すぎる力同士は、反発しか…しないのだろうか?
そんなことなないだろう、転生チートフウタとラングステンの勇者タカアキは
仲が良い。たった数日で数年来の親友みたいに接している。
フウタはおっぱい同盟にこそ入ってないが。
あいつは自宅に戻ったら、マイおっぱいが沢山いるもんな!
不便はしてないってか!? おのれ! 呪われろっ! ハァハァ……。
あ、いかん。考えが変な方向に。修正修正。
「ようやく、屋台に行けると思ってたのに、どうしてこうなった?」
お金は貯まるが肝心の買い食いができない。くそぅ。
いくらお金だけあっても、使えないんじゃあ意味がない。
俺の食に対する欲求は、深まる一方である。
「露店に行きてぇなぁ」
と思ってる内に微睡み、眠りに就いていったのだった。
ぐうぐう、ふきゅきゅ……。