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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
164/800

164食目 偶然ではなく必然

 ◆◆◆


「さて……どうしたものか」


 俺は風呂上がりに、桃先生をむしゃむしゃとたいらげた後、自室に戻り

 立ったまま「ふきゅんふきゅん」と唸っていた。


 今は夜ということもあってか、光るキノコは大人し目に、淡く光る苔は

 ここぞとばかりにキラキラと光っている。

 彼等のがんばりによって、まさに部屋にいながら満天の星空の下にいる

 ような状態になっている。


 立ったまま唸っていても仕方がないので、俺は新調した机に向かった。

 前の机といすは大人用の物だったので、お子様の俺には使い難くて

 全く使っていなかった。もっぱらにゃんこ達のお昼寝場所になっていたのだ。

 しかし、新しい机と椅子は俺に合わせて購入した物だ。

 よって、俺にぴったりとフィットするまぶいヤツである。


「ちろちろ」


 その机の上で、とぐろを巻いて寝ていたさぬきが

 俺の帰りに気付いて目を覚ました。

 真っ白な雪のような身体に、さくらんぼのような淡い色の赤い目が

 ちょこんと納まっている。


「おぉ、すまんすまん、起してしまったか」


 俺はさぬきに、起こしてしまったことを謝り、椅子を机から引き出す。

 俺が椅子に座り頬杖を付くと、するすると腕をよじ登り首に巻きついた。


「ちろちろ……」


 何やら満足気である。やはり定位置は落ち着くのであろう。

 出会ってまだ一日も経っていないが、既にさぬきの居場所は

 俺の首になっていた。巻き付きやすく安定しているからだろう。

 頭や手足なら、ぶんぶん振り回されるからナイスな判断だ。


「ふ~む、中々良い考えが出てこないな……」


 その考えとは勿論、お金の稼ぎ方である。

 フィリミシアに来て以来、ヒーラー一本でお金を稼いできた俺にとって、

 一気にお金を稼ぐ方法など考え付かなかったのだ。

 ヒーラーは一気にお金を稼ぐことはできない。

 これはヒーラー協会の決めた、料金支払いシステムのせいである。


 初代ギルドマスター『ナナシ』が、どんなに身分が高かろうと低かろうと

 命の価値は皆……等しきものである、という信念を掲げ

 治療料金を重症、軽症の二つに分け、必要以上に患者から取らないようにする

 支払い制度を決めてしまったのだ。

 この考えについては、俺も賛同しているので問題ない。今までは……。


「ダメだな……一端、露店ヒーラーで稼ぐ考えから離れよう」


 この支払システムは露店ヒーラーにも適用され、違反した場合には

 資格を剥奪される厳しい処置が待っている。

 尚、治療料金を安くするのは良いらしい。

 ビビッド兄が、それをやっていて好評だった。


 さて、そうすると残された方法は、物を売って商売する典型的な方法と、 

 お宝を巡って大冒険するトレジャーハンターになるかである。


「冒険者ギルドに行ったら門前払いされるな……

 年齢と聖女としての顔を広め過ぎたか……ふきゅん」


 そう、この世界ではトレジャーハンターになるには、

 冒険者ギルドに登録しなくてはならない。

 登録せずにお宝を手に入れた場合、発覚するとお宝を国に没収された挙句、

 打ち首になるか、一生涯国にこき使われるかのどちらからしい。

 要は泥棒扱いになるのだ。


 それでも登録せずに、トレジャーハントしている連中がいるのだから

 困ったものである。

 理由は見つけた財宝の十五パーセントを、ギルドに納めなくては

 ならないからだ。

 ここをケチって登録しないヤツが多いそうだ。


 尚、トレジャーハンターと冒険者は似ているが別物である。


 トレジャーハンターはお宝の情報をギルドから優先的に提供されるが、

 冒険者は全て自力でなんとかしなくてはならない、トレジャーハンターは

 罠を解除する最新器具を提供されるが、冒険者は自前で

 買わなくてはならない。等々、かなりサービスに差がある。


 しかし、冒険者はお宝を見つけた場合、

 全て自分の物にできるという決まりがある。

 でもお宝を見つける確率は非常に低いらしい。

 情報力の高いトレジャーハンターに、先を越されることの方が

 多いのだそうだ。


 つまり……俺では、どちらになることもできないってわけだぁ……(白目)


「……と、なると商売だな」


 商売を行うには商人ギルドの登録が必要である。

 が……これは町や村で商売する時に必要になるものであって、

 それ以外の場所で商売するなら必要ではないのだ。


 当然……身の安全は保障されないが、毎年登録料として

 全体の売り上げの五パーセントを払わなくていいことから、

 大草原で茣蓙ござを引いて商売したり、

 洞窟内で店を構えている剛の者もいる。(呆れ)


 さて……登録の方だが、これは問題ない。

 自分の名前さえ書ければ登録は終わる。


 何故こんなに簡単に済むかというと……商人は信用第一という信条からだ。

 信用のない者が登録して商売しても上手くいくはずもなく、

 破産してひっそりとこの世からいなくなる……なんてことが当たり前の世界が

 商人の世界だ。

 登録しても、すぐにひっそりといなくなるヤツ等が多い、

 というのも理由にあるようだが。


 登録が終わると身分証明書であるギルドカードが発行される。


 これを持って各町や村に設置されている商人ギルドに

「今日から、ここで商売します」と申請すると、ギルドカードに

 魔法のハンコを押してくれる。これでその街で商売が可能になるわけだ。


 商売が済んでその街や村を立ち去る場合も、その街や村にある商人ギルドに

「ここでの商売が済みました」と言ってギルドカードを渡し

 手数料である売り上げの三パーセントをそのギルドに納める。


 稼いだお金は、魔法のかかったギルドカードが認識するので、

 ちょろまかすことはできない鬼仕様である。さすが商人。


「と、ここまでが初代の知識か……商人でも目指していたのかな?」


 それならば『フリースペース』内にあった大量の調味料も納得できる。

 あれを各町で売りさばけば、中々の金額になるだろう。

 俺は売る気はないがな!


「商売をするといっても売るものと場所だな」


 場所については考えがある。

 この疲弊したラングステン内での商売は考えてはいない。

 疲弊した者からお金を取っても意味がないのだ。

 俺はラングステンに住む人達のためにお金を稼ぐのだから。


 と、なれば……場所は限られてくる。

 一つはドロバンス帝国。そしてもうひとつが……ミリタナス神聖国だ。

 そして、ミリタナス神聖国には友人達がいる。

 こっそり顔を見せに行ったらビックリするだろう。


 加えてミリタナス神聖国は『魔族戦争』での疲弊が少ないことも挙げられる。


 北の大陸の魔族達の国との間にラングステンがあるため、直接の被害が少なく

 済んでおり、三大大陸の中で最もお金を蓄えているのがミリタナス神聖国だ。

 よって、ここからがっぽりとお金を稼いでくれるっ!


「よし……商売の場所はミリタナス神聖国だ」


 さぬきの故郷でもあるし喜ぶことだろう。


 問題は売る物だ、今俺が持っている物で

 一番価値が高い物は、間違いなくアスラムの実だろう。

 ミリタナス神聖国は南の大陸で温暖である。よって、体を冷やしてくれる

 アスラムの実は、喉から手が出るほど手に入れたいだろう。


 だが、これは売れない。何故ならば、この実はルリさんに頂いた物だからだ。

 皆に食べて貰うために配れはすれども、商売に使うことなどできはしない。


「いかん……振出しに戻ってしまう、うごごご……いったいどうすれば?

 なぁ……輝夜、何か良い手はないかな?」


 俺は机にある、輝夜専用の植木鉢に納まっているパートナーに声をかけた。

「あるよ」と、輝夜が言っている気がする。

 すると、輝夜が淡い桃色の光を纏いプルプルと震え出した。


「ふきゅきゅきゅきゅ……!?」


 俺もプルプルと震え出す。理由は、輝夜が俺の桃力を吸い取っているからだ。

 別に痛くもないし辛くもない、ただ……くすぐったいのだ。


 やがて、輝夜の枝に小さな球体が生え、どんどんと大きくなっていく。

 そして遂には、俺のこぶしほどの大きさまで育ったのだった。


 その実は透明で少し青みがかった……え? これって!?


「アスラムの実か!?」


 試しに、その実をもいで一口かじってみる。

 間違えることなきアスラムの実であった。

 あのシュワシュワ感もばっちり再現できている。


「うおぉ……凄いぞ! 流石、輝夜は格が違った!」


「えっへん」と、輝夜が言っている気がした。


 これで商売の算段が付いた! あとは売るために沢山作ればいい!

 桃力の訓練にもなって一石二鳥だぜっ!


「ふむ……でも、これはアスラムの木からでなく、輝夜から取れた実だから

 新しく名前を付けよう……うん、こいつの名は『ぐぅ~やの実』だ!」


「え~ださいよ?」と、輝夜が言っている気がする。


「なら、輝夜はどんな名前なんだ?」


「私なら『ビューティフルかぐや』かなっ!」と、言っている気がした。


「それは、どうかと思うんだぜ……」


 結局……実の名前は『グーヤの実』に決定した。覚えやすいし良い名だ。

 早速、俺達はグーヤの実を量産し始めたのだった……


 ◆◆◆


「ぐ~ぐ~、ふきゅんふきゅん……」


 チュ、チュ、チュ、ちゅん!


「!?」


 俺はベッドから飛び起きた。布団に乗っかっていたもんじゃが

 転がっていった。まあ、もんじゃだから慣れているだろう。

 でも今はそれどころではない!

 俺の聞き間違いでなければ……今「ちゅん!」と鳴いたヤツがいる!

 普段はもっちゅトリオの鳴き声「チュ」だけである。

 その中にあってリズム良く「ちゅん!」と、鳴くヤツはいなかったはずだ!


 チュ、チュ、チュ、ちゅん!


「な……なにぃ……おまえはっ!?」


 三羽のもっちゅ達に混じり、かつて朝の静けさを己の鳴き声で満たしていた、

 あのかわいらしい茶色い物体の姿を確認することができた。


「ちゅん、ちゅん!」


 スズメである。


 ここ、カーンテヒルでは一羽もいないはずのスズメが……ここにいた。

 この子はどこからやってきたのだろうか?

 もっちゅ達は、このスズメを警戒している様子はない。

 それどころか、既に仲間だと認識しているようだ。


「おいぃ……おまえは何者なんですかねぇ?」


 手を差し出すと逃げずに手に乗ってきた。

 だれかに飼われていた……ぐっ!?


 俺の頭の中に、色々と記憶が流れ込んできた!

 全く知らない記憶が次々と……いや、違う。俺はこの記憶を知っている。

 この記憶は……かつての俺が持っていた記憶達だ。


「ちゅん!」


「スズメ……いや、うずめ……久しぶりで、いいのかな?」


 俺がうずめと呼んだスズメは、嬉しそうに俺の右肩に飛び乗った。

 俺の戻った記憶にはこのスズメ、うずめと共に鬼と戦っていた記憶がある。

 しかし、相変わらず自分の姿は思い出せない。


「まさか……この世界に、おまえが転生していたとはな」


 記憶の中にあるうずめの最期は、俺を鬼から庇って潰される

 というものであった。思い出すと心が締め付けられる。

 その肝心の鬼も靄がかかっていて思い出せない。

 こんなに憎いにも関わらずだ。


「ちゅん……」


 うずめが寄ってきて、俺の頬に体をすりすりし始める。

 これはうずめの愛情表現だ。昔と変わらない……うずめがいた。


 おそらく……うずめは俺の桃力を感じ取って飛んできたのだろう。

 竜巻の一件で起こした奇跡の技、あれで俺のいる場所が把握できたのかな?

 しかし、長時間飛ぶのに適していない体で、よく飛んできたものだ。


 よくよく見れば、長い間旅をしてきたのであろう傷が、

 あちこちに付いている。

 俺は『ヒール』を施しうずめの傷を癒してやった。


「ちゅんちゅん!」


 傷が治ったうずめは嬉しそうに宙を飛び回った。


「なんにしても……よくきてくれたな、うずめ」


 突然の再会に、驚きと喜びが一緒になってやってくる。

 そして甦る記憶の一部。俺はかつて……鬼と戦っていた戦士だったのだ。


 俺が桃使いになったのは、偶然ではなく必然だった。

 今はまだ、そこまでしか思い出せない。


 だが……俺のやることは変わらない。

 この世界の人々のために、鬼をぶっ飛ばしてケガをした人々の傷を癒す。

 ……それだけだ。


 も・ち・ろ・ん! 世界食べ歩きの旅も忘れてはいないっ!

 これは必須事項であるっ!


 取り敢えずは、目の前の問題を一つ一つ解決していくしかない。

 頼もしい戦友が同じ世界に転生していた、その喜びは俺に力を与えてくれる。

 これならば、どんな困難がこようとも乗り越えられるぞっ!


「よぅし! まずは腹ごしらえをしてから出発だ!」


「ちゅんちゅん!」


 こうして、かつての戦友『うずめ』と再会した俺は、

 王様の唇とモンちゃんの血管を守るべく、行動を開始したのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 余字:新しく ①立ったまま唸っていても仕方がないので、俺は新しく新調した机に向かった。 ②しかし、新調した新しい机と椅子は俺に合わせて購入した物だ。 [一言] ”俺”の記憶が断片で集め…
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