162食目 めげない人々
「ふきゅ~ん、ふきゅ~ん……」
「御屋形様、如何なされた?」
俺は露店街に向かいつつ、どうやってお金を稼ぐか考えていた。
しかし……俺が思い付くのは、ありきたりな稼ぎ方ばかりだった。
俺が思い付いたのは、普通に旅ヒーラーとして町や村を回りお金を稼ぐ、
あるいは何か物を売ってお金に変えるだ。
ぶっちゃけた話……俺には商才がない。
お金がなくて困っている人にはタダで持っていけ! と言ってしまうヤツだ。
これでは儲けるどころか損ばかりしてしまうだろう。
俺はお金には執着心があまりない。その代わり食べ物には凄くあるが……
これはおそらく、桃先生を出して食べれるからだろう。
そう、俺は飢えて死ぬ可能性が極めて低いのだ。
だからお金も何も考えずに、ドバーっと使ってしまう。
貯めていたお金は、ムセル達のオプションパーツに使っちゃったしなぁ……
後悔後先立たずである。ふきゅん。
「御屋形様っ!?」
「ふきゅん!? ……どうしたザイン?」
ザインが大声で俺を呼んだ。
彼の顔はとても心配そうな表情をしていた。何故に?
「如何したではござらん……先程から唸ってばかりでござる。
道行く方々も御屋形様を心配しているでござるよ」
むむ……どうやら知らず知らずのうちに、俺は唸っていたようだ。
一人で考えていても埒が明かない、ここは一端この問題を保留にして
合流を急ごう。今日はこの後に仕事が控えているからな。
そもそも、フィリミシア城で意外と時間を費やしてしまっているから
急がないといけなかったんだ! うごごご……俺のドジっ子!(大失敗)
「すまん、考え事をしていた。そして、仕事まで時間がないことに気付いた。
急ぐぞ! ザインッ!!」
「唐突でござるよっ! 御屋形様っ!!」
俺達はドタバタと露店街目指して走り出したのだった。
◆◆◆
「お? きたきた! 遅いぞ! エル~!! ザイン~!!」
ライオットが手を振りながら俺達の名を呼んだ。
現在俺はザインの背中にライドオンしている。
俺の足が遅すぎるからだ。……がっでむ。
「あれ? ルドルフさんは?」
目聡いリンダは、ルドルフさんがいないことに気が付いた。
くりくりした目をしきりに動かし、ルドルフさんを探している。
「ルドルフさんは犠牲になったのだ……」
俺は遠くにあるフィリミシア城を見つめ敬礼した。
王様達に弄られているであろうルドルフさんを想って……
「あはは……そうなんだ。今一番の有名人だしね」
リンダも納得した様子だった。
彼女も俺を真似て、生贄になったルドルフさんに敬礼を送ったのであった。
「すみません、遅くなりました」
そこに眼鏡少年フォクベルトが合流した。よくここがわかったな?
何か特別な方法でも使ったのかな?
「フォク、よく俺達の場所がわかったな?」
「えぇ……時間的に、ここではないかなと」
くいっと眼鏡の位置を直すフォクベルト。その際キラリと眼鏡が光った。
フォクベルトは、どうやらヤマ勘でここにきたようだ。
まぁ、高確率でここに俺がくることを知っているしな、フォクベルトは……
「それよりも……アマンダちゃんは?」
リンダが興味深々な様子でフォクベルトに迫った。
まだ七歳児とはいえ、こういうことには興味が尽きないのだろう。
友人の恋愛事情のことなら尚更か?
「アマンダさんなら自室のベッドに寝かせてきましたよ。
まだ少し熱があったのですが……丁度、彼女の父が戻ってきてくれたので
あとをお願いしてきました」
なんという模範解答だろうか。
可もなく不可もない……恐ろしく面白みのない回答だった!
流石フォクベルト! 俺の予想どおりの回答だ! 真面目少年めっ!
「な~んだ~つまんないのっ!」
ぷくっと、ほっぺを膨らませてご立腹のリンダ。
いやいや……この歳で何かあったら大問題だろうが?
おっと、時間がないのだった! もりもりとアスラムの実を配らなければっ!
「よぅしっ! 面子も揃ったし! アスラムの実を配って差し上げろっ!」
「お~!」と、腕を天に向けて上げる皆。気合十分のもようだ。
俺は『ぐれーとらいおっと号』に大量のアスラムの実を搭載させた。
……「ぐえっ!?」とか聞こえたが気のせいだろう。ふきゅん。
ここ露店街は非常に激戦区だったようで、建物の損傷が最も激しい状態だ。
元々がボロ屋みたいな建物が多かったせいもあって、強風で倒壊してしまった
店も多いみたいだった。
現在も店の跡地にて、めげずに再び店を建て直している人々の姿がある。
中には茣蓙を敷いて、もう商売を再開している猛者もいた。
このように、重大な損失を受けても雑草のようにたくましいのが、
ここ露店街の住人達である。半端じゃないタフさだぁ……(驚愕)
「うん? おぉっ、エルティナ!
どうしたんだ? まだ店はそれほど再開してないぞ?」
俺の姿に気が付いたトスムーさんが声をかけてきた。
トスムーさんの自慢の店『アマナイ屋』も、残念なことに半壊状態であった。
俺もその無残な姿を見て胸が抉られた気持ちだった。
俺ですら、そのような気持ちになるのにトスムーさんは……
「また直せばいいさ」と笑っていた。
本当に強い人は心も強いのである。(尊敬)
「お疲れさま、トスムーさん! 今日は差し入れを持ってきたんだぜ!」
そう言って俺はアスラムの実を、トスムーさんに手渡した。
トスムーさんは、その青く透き通った果実を不思議そうに眺めている。
「アスラムの実だよ、冷たくてシュワシュワして美味しいクールな果物だ。
トスムーさんにアスラムの実を奢ってやろう」
決め台詞と決めポーズをバッチリと決める俺。
ポーズはタカアキのものを参考にした。今の俺はたぶん格好良い。
「はははっ、タカアキ様のマネか? 決まってるな!」
そう言って、ムシャリとアスラムの実にかぶり付くトスムーさん。
一口目はよく味わっていたが突然目を見開き、
一気にアスラムの実を食べ尽くしてしまった。
「うおぉぉ……こいつはスゲェな?
あまりの美味さに、我を忘れて食っちまった」
どうやら、相当にお気に召したようだった。よかった。
まだまだ沢山あるので、遠慮なく食べてくれとトスムーさんに伝える。
「悪いなぁ……お~い! ミシェル! エルティナがきてるぞ!」
半壊状態の店の裏側からミシェルさんが顔を出し、
俺を確認するや否や猛ダッシュで俺の元にやってきて、
その大きな胸で俺を抱きしめた。むぎゅ。
「よくきたねぇ! 体の調子はどうだい?
あんなことをした後だ……調子が悪くなったら休まないとダメだよ?」
「わかったんだぜ……ありがとうミシェルさん」
優しく頭を撫でてくるミシェルさん。俺は少しの時間されるがままでいた。
気を利かせてくれたライオット達がその間に
露店街の人達にアスラムの実を配ってくれている。ありがたいなぁ……
やがてミシェルさんから解放された俺は、
アスラムの実をミシェルさんに手渡した。
トスムーさんと同じく、不思議そうにアスラムの実を眺めていたが、
やがてその実を一口かじり味わうと……一気に食べ終えてしまった。
夫婦揃って同じ行動とは……恐れ入ったんだぜ。
「う~ん、美味しいねぇ……無我夢中で食べちまったよ!」
口の周りをペロペロと舐めるミシェルさん。うちのおまめと同じ行動だぁ……
やっぱり、おなじイヌ科なんだなと感心する。
「おまえなぁ……外でそれをするのはみっともないから嫌だって、
自分で言ってただろうが」
「……あ」
そう、トスムーさんに言われたミシェルさんが、恥ずかしそうに下を向いた。
俺はそんなミシェルさんをなだめつつ、
「アスラムの実は、まだまだあるから」と言って数個手渡した。
ミシェルさんは猛烈に尻尾を振って喜んでいた。……尻尾千切れちゃうよ?
「……エル、だいたい配り終わったわ」
ヒュリティアがアスラムの実を配り終えたことを伝えにきてくれた。
『ぐれーとらいおっと号』に搭載されていた沢山の果実は空っぽになっており、
代わりに白目のダナンとゴードンが乗っかっていた。そろそろ起きてどうぞ。
「おぉ、あれだけあったのになくなったか! 大好評で何よりだぁ……
よぅし! お次はスラム街にユクゾッ」
「次はヒーラー協会だ」
げぇっ! この声はっ!?
「スラストさん!? どうしてここにっ!」
声の主は、ヒーラー協会のサブギルドマスターであるスラストさんだった。
銀色の角刈りが、夕日で輝いてまぶしいんだぜ……
「あぁ、ハゲオウ爺さんが腰を痛めたらしくてな……
訪問治療の帰りに、おまえを見かけたから声をかけたんだ。
施しを授けるのには感心するが、
ヒーラーとしての仕事もしっかりせんとな?」
「もう、そんな時間だったのか……ぐぬぬ。
仕方がない、あとはヒーちゃんに任せてもいいか?」
どうやら、もうすぐ仕事の時間だったらしい。
スラストさんに声をかけられなかったら、
またライオットに死んで貰わなくてはならない事態だった。(暗黒微笑)
「……えぇ、任せてちょうだい。スラムの人達もきっと喜ぶわ」
俺は『ぐれーとらいおっと号』に、どっさりとアスラムの実を乗せる。
これを食べて、スラムの人達に希望を持って貰えたらな……と願いを込めて。
「じゃぁ皆! あとは頼んだぞっ!
トスムーさんにミシェルさんもがんばってな!」
俺はスラム街に向かうヒュリティア達と、
再び店を直す作業に戻るトスムー夫妻に手を振り、
スラストさんとザインと共にヒーラー協会に向かったのだった。