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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
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161食目 老いし者が託されたもの

「何かして欲しいこと?」


 ワシの言葉に、ピクッと垂れた長く大きな耳を一瞬跳ね上がらせる。

 ふむ……どうやら、何かして欲しいことがありそうじゃのぅ……?


 エルティナは、会議室の入り口でワシ等と話していたのだが、

 ワシの言葉に反応しグロリア将軍の豊満な胸から名残惜しそうに離れ、

 パタパタとこちらに駆け寄ってきた。


「王様! あのな……」


 近くまで来たエルティナは身振り手振りを交え、

 情熱的にワシにして欲しいことを伝えようと、

 必死ともいえる表情で言葉にしていた。


「スラムの人をな……ふっきゅん! としてな……!?

 でっかい家をな……いもいもっ! としてな……?」


 ……情熱的過ぎて、全くわからなかった。


 だが、彼女の必死さはわかる。

 目には薄っすらと涙が溜まっているからだ。

 上手く言葉にできなくて葛藤しているのだろう。

 終いには「ふきゅーん! ふきゅーん!」と鳴き出してしまった。


 しかし、エルティナは諦めなかった。

 癇癪を抑えワシの足元に跪いて、手を合し祈るようにして口を開いた。


「王様! スラムの人を助けて欲しいんだっ!

 俺には傷を治せても、苦しい生活から救うことはできないっ!

 あそこには、友達や知り合いが沢山いる!

 みんな……皆、いい人達ばかりなんだっ!」


 上目遣いでワシに頼み込むエルティナを見て……はっきりとわかった。

 この場にいた重鎮達の息を飲む音が……


 ワシ等は、いったい何を話し合っていたのだっ!?

 スラムの住人だから止む終えない? なんと情けない考えかっ!?

 同じ国に生きる住人、だが立場的に弱い……弱者だ。

 ワシが率先して守らなくてはならない人々ではないかっ!


 なんということだ……ワシはエルティナに言われるまで、

 こんなことも忘れてしまっていたのか!?


 いや……違う、目を反らしていただけか。

 この目の前の困難にどうしたらよいかわからず、

 楽な方へ楽な方へと、ただただ……逃げていたのだ。


「エルちゃん、勿論だ……勿論だとも!!

 彼等とて、このラングステンに住まう大切な民達じゃ!

 例え……いかなる困難が待ち受けていようとも

 必ずワシ等がなんとかしてみせるともっ!」


 ワシは感極まり、この幼い心優しい聖女を強く強く、

 しかし……壊さないように抱きしめた。


「陛下っ!」


 重鎮達がワシの元に集まり跪き宣誓した。


「我等、いかなる困難が立ち塞がろうとも、

 知恵と力をもって陛下を支えることを、今一度……誓う所存でありますっ!」


 この頼もしい重鎮達も、グロリア将軍を除いて年寄りばかりだ。

 未来ある若者達は『魔族戦争』で散っていった。

 この国の未来をワシ等に託して……この、老いぼれ達に託してだ。


「ありがとう……ワシ等に託されたものは重く尊いものだ。

 ワシ一人では到底背負いきれぬ……皆で支えて欲しい」


「ははぁぁぁぁぁぁっ!!」


 あぁ……これならば大丈夫だろう。

 ワシにはこんなにも頼もしい家臣がいる。

 なんでもかんでも、一人で背負い込む必要はないのだろう。


 任せるものは任せ、自分がやらなければならぬことを見極める。

 初心に帰ろう。ワシ等には、まだまだやらねばならないことが山積みだ。


 ありがとう……エルティナよ。

 何かしてあげるつもりが、何時の間にか……救ってもらっていた。

 本当に……ありがとう。


「王様……苦しいんだぜ」


 エルティナが、もぞもぞと胸元で動く。

 どうやら、今まで我慢していたようだ。これは、すまないことをしたのぅ。


「おぉ……すまなんだ、許せエルちゃん」


「ぷはっ」と、息を吐いて少し顔が赤いエルティナ。

 だが、ワシの顔を見るとニパッと笑ってくれる。

 なんの屈託もない純粋な笑顔だ。


 この笑顔に、何度ワシ等は救われただろうか?

 ワシ等だけではないのだろうな……もっと沢山の人々を救っているのだろう。

 この子の笑顔には力がある。

 見るだけで勇気を、優しさを、愛を貰うことができる。


「御屋形様、大変差し出がましいでござるが、

 そろそろ時間が迫っているでござれば……」


 片膝を付き、エルティナに進言してくる武者鎧の少年。

 この立ち振る舞いからして……


「ふきゅん!? もうそんな時間かっ! あっ! 王様!

 こいつはザイン! 俺の家族みたいなものだぁ」


 そう言われたザイン少年は、改めてワシに向き会い自己紹介をした。


「申し遅れましたでござる。拙者……エルティナ様の家臣、

 ザイン・ヴォルガーと申す。以後……お見知りおきを」


 ワシの目を堂々と見据えて、自己紹介をやり遂げた。

 なんと肝の座った少年であろうか。

 そして、この少年の忠誠はエルティナのみに注がれておる。

 故あれば、ワシですら切る対象になるのであろうな。


「うむ……この子のことを頼むぞザイン『殿』」


「……!! ははっ! お任せ下されっ!!」


 エルティナは良い家臣を見つけたようじゃのぅ。

 出で立ちからしてイズルヒの侍のようじゃ。


 忠義に厚く一途、その力は一騎当千の強者と称される東の島国の戦士。

 まだまだ幼く未熟であろうが、エルティナと共にあるなら

 いずれは並ぶ者がない若武者になるだろう。

 将来が楽しみな少年じゃ。


「あ~……もうそんな時間かぁ。

 もっと話したいことがあったんだけど、今日はこれで帰るよっ!

 またな! 王様! お仕事がんばってなぁっ!」


 そう言ってブンブン手を振り、従者を伴い退室しようとするエルティナを

 ワシは引き留めた。


「エルちゃんや、ルドルフを暫く借りるぞぃ?」


 ルドルフの顔が引き攣った。ふふふ……逃がさんぞぃ!


「王様の頼みとあれば断れないっ!

 ルドルフさんのレンタルを許可するんだぜっ!」


 ギラリと、エルティナの目が輝いたように見える。

 どうやらワシの考えていることを察したようじゃ。ふぉふぉふぉ。


「はうっ、覚悟はできてました……」


 がっくりと項垂れて、グロリア将軍に捕獲されたルドルフ。

 さて、これで後の楽しみは確保できた。

 あとは……ワシ等が、がんばるだけじゃな。


「またな~」と、手を振り帰っていったエルティナ。

 あぁ……名残惜しぃのう。もっとゆっくり愛でたいものじゃ……


 じゃが、今日は非常に得るものがあった。

 それは……『エルちゃん』と、さり気なく言えたことじゃ。

 内心、ガッツポーズを取っておったわぃ。


「陛下……会議を再開いたしましょう」


 モンティスト財務大臣が、憑き物が落ちた顔で会議の再開を進言してきた。

 ワシ以上に救われた気持ちなのじゃろうな。

 きっと、エルティナと知り合ったのも、スラムの住人繋がりなのだろう。


「うむ……なすべきことは多いが、そなた等とであれば

 きっとやり遂げれるであろう」


 こうして、ワシ等は再び会議を再開させた。

 この国の未来を、そこに住まう人々の未来を繋ぐために……


 ◆◆◆


「……う~ん、やっぱり相当苦しいみたいだな……

 ザイン、モンちゃんの額はどうだった?」


「はっ! 太い青筋が出ておりましたっ!」


 あ~……これは決定的だなぁ。

 王様の唇といい、モンちゃんの額の青筋といい……

 それらは苦境に立たされた時に出てくるものだった。


 ズバリ……現在ラングステン王国は経済的に厳しい状態だ。


『魔族戦争』でお金と人員を失い、立て直してる最中に竜巻の一件だ。

 きつくないわけがない。

 タカアキも、俺を心配させないために言ってくれたのだろう。

 でなければ……タカアキ一人で墓を直してなんかいないよなぁ?


「皆……愛すべき嘘吐きなんだぜ」


 これで、俺のやることは決まった。

 なんとかしてお金を稼ぎ、王様に「どやぁ……」と言って渡そう!

 今はお国の一大事である! 子供だからって学生だからって

 何もせずに学校生活なんてできるわけがない!


「ザイン……俺はこの国のためにお金を稼ぐぜ……」


「ははっ! 拙者にできることがあれば……なんなりと!」


 空を見上げれば、だいぶお日様が傾いてきていた。

 季節は確実に秋に向かっている。


「取り敢えず、ライオット達と合流しよう」


 俺達はライオット達が待つ、南地区の露店街へと目指し歩き出した。

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