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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
160/800

160食目 迷走会議

 ◆◆◆


「モンティスト財務大臣」


「はっ」


 小太りで背の小さい、中年の人間男性が立ち上がった。

 濃い金髪を中分けにし先端をカールさせ、鋭い目には青い瞳が納まっている。

 太っていて台無しだが、痩せれば中々の二枚目になるであろう容姿だ。

 身なりはこれでもか!

 ……と、いうほど宝石をちりばめた、豪華な赤い衣装を身に纏っている。


 これだけ聞くと、贅を尽くした強欲な貴族を想像するだろう。

 だが真相は違う。

 彼が身に纏っている衣装の宝石は、全てガラス玉のダミー宝石だ。

 そして着ている服だが……

 これは、三十年前の物を少しづつ修繕して着続けている物だ。

 よく見れば、おびただしい修繕の後が見て取れるだろう。


 普段は自宅で、ステテコ姿で枝豆をつまみにビールを飲んでいる

 どこにでもいる中年のおっさんだ。


 私は見栄っ張りなのです……と、彼は言っていた。

 だが、ド派手な衣装も実は彼に仕えている従者のためだ。

 彼は自分のことを後回しにし、他人のことを優先することのできる

 超ドけちな男……それが、モンティスト・ウルク・ダイザギンである。


 ワシに長年仕えている、最も信頼のおける側近だ。


「現在の我が国の財力から計算して、完全復興まで十五年はかかります。

 その際……一般住民は飢えの心配はございませんが

 スラムの住人は多大な犠牲が出る可能性があります」


 モンティストの額に青筋が立っている。

 相当無理しての発言だろう。


「うむ……やはりか。

 本来であれば、弱者であるスラムの住人を優先的に救済してやりたいのだが

 多大な不満と苦情が来るであろうな……」


「…………!」


 ワシの言葉にモンティストの表情が曇る。

 とても思い悩んでいる顔だ。

 今ワシ等が今後の国政を検討している最高会議室の空気は

 とてつもなく重い。


 既に秘書官が三人程気絶し交代している。

 現在、懸命に発言を書き記している秘書官も既に涙顔だ。


「多少の犠牲は止むを得まいか……」


 ワシの言葉に会議に出席していた者が息を飲んだ。

 皆……ワシの表情を見たのであろう。

 ……自分でもわかっている。


 ワシはきつく唇を噛んで血を流していた。

 口に広がる鉄の味、幾度となく味わった血の味だ。


「なっ……なりませぬっ! 陛下がそのようなお言葉をなされるのはっ!

 かくなる上は、我が私材を全て投入して……!」


 モンティスト財務大臣が席を立ちあがり、叫ぶように発言するが……


「ならんっ! モンティストッ!

 そなたの従者は、全てスラムから雇い入れた者達であろうっ!

 その者達を再び路頭に迷わすつもりかっ!?」


 モンティストを止めたのは、普段は国家資産の運用で揉め合っている

 防衛大臣のホウディック・ザン・ロロリエだ。


 彼は壮年の狼型の獣人男性で長年ワシに仕えてきた親友だ。

 紅蓮の髪を短く刈り込みいかにも武骨そうに見せているが、

 その頭には白く可愛らしいリボンが飾られていた。


 話によると、孫娘に貰った物でいつも着けていてね?

 と言われた物らしい。


 羨ましい……げふん! けしからんっ!


「し……しかしっ!」


 納得のいかないモンティストが尚も食ってかかるが……


「貴公の言いたいことはわかるが……貴公のやることは認められぬ!」


「ぐっ!」と、呻くモンティスト財務大臣。

 普段はいがみ合っているが、それは国を想ってのこと。

 彼等は親友同士……それも三十年来の仲である。


「止せ、二人共……ワシの発言が不用心であった……許せ」


 ワシが頭を下げると、二人は申し訳なさそうに黙ってしまった。

 更にこの場の空気が重くなった。


「陛下、秘書官が気を失いました……代わりを補充いたします」


 グロリア将軍が、ぐったりした赤毛の若い女性秘書官を抱きかかえていた。


「……そうか、悪いことをしたのぅ」


 グロリア将軍に抱きかかえられ、若い女性秘書官は退室していった。

 幸せそうな顔をしているのは……気のせいだろうか?


 ふむ……それほどまでに、常人では耐えられないほど重い空気になっていたか。

 ここの決定いかんでは、生きることができず死に絶える運命の者まで現れる。

 それほどまでに重く、責任のある会議なのだ。


 この会議に出席した者達は皆……押し黙った。

 皆なんとかしたい気持ちでいるのに、上手い案が出てこない。

 葛藤と焦りで遂に会議が進まなくなった。


 その時……大袈裟に大きく作られた会議室のドアが、バンバンと叩かれた。

 この緊迫した会議中に、いったいだれがこのような横やりを……


 と、考えるだけ野暮というものであろう。

 このようなことをするのは……一人しかいないからだ。

 モンティストもホウディックも理解しているようだ。


 やがて、大きな扉がゆっくりと開かれると

 小さな少女が従者を付き従え中に入ってきた。


「おいぃぃっ! おまえ等の聖女が来たぞぉぉぉぉっ!」


 そう言って、みょうちくりんなポーズを取る聖女エルティナ。

 このポーズは見たことがある……我が国の偉大なる勇者、タカアキ・ゴトウが

 よく取るポーズだ。

 この子はおそらく、それを真似たのであろう。

 ……かわいいから許す。


「せっ聖女様!? 今は会議中なのでご用件は……」


 モンティスト財務大臣が聖女エルティナに注意するが……


「モンちゃん! 空気が重過ぎるんだぜっ!」


「エルちゃん! 公務ではモンティストと呼んでくださいっ!」


 この野郎、何時の間にそんな仲にっ!?


「あー、忘れてたー、気にすんなっ! そんなことより、こんにちはっ!」


 天真爛漫な笑顔の少女の挨拶に、皆が釣られて笑顔で返事をする。

 一瞬にして重苦しい空気が霧散していった。


 我が国の聖女エルティナ・ランフォーリ・エティルの仕業である。


「がはは! 王様! 皆! 今日は美味しい物を持ってきたぞっ!!」


 そう言って指を鳴らそうとしたが……ぺひっと、情けない音が微かにした。

 いや……ワシを見られても困るのじゃが?


 仕方がないと気を取り直して、今度は口笛を吹こうとしたエルティナ。


 ふひ~……


 だから、こっちを見ても困るんじゃよ?


 仕方ないのでワシは指を鳴らした。

 パチンと甲高い乾いた音が部屋に響いた。


 その音にエルティナは嬉しそうに、長く大きな耳をピコピコと動かして

 喜びを表現していた。ふぉふぉふぉ……めんこいのぅ……


 その音を合図に、メイド衆がトレーを片手に部屋になだれ込んだ。


「取れたてほやほやの『愛の果実』だ~! ゆっくり食べてねっ!?」


 エルティナの発言に、ぶふぅ~!? っと、吹きだす自由騎士ルドルフ。

 皆……ニヤニヤしながら彼を見つめている。

 勿論、ワシもニヤニヤしている。


 この状況下にあって、彼の功績は非常に大きい。

 絶望的な状況下でおめでたい話は、周りをも元気にさせる。

 それが、素晴らしく珍しいカップルなら尚更である。


「おぉ!? これはこれはっ! かの、水の上級精霊フェンリルと添い遂げた

 自由騎士ルドルフ・グシュリアン・トールフ殿ではありませぬかっ!?」


「呪われろっ! ……あ、いえ、オメデトウゴザイマス」


 皆が重苦しい空気を忘れ、自由騎士ルドルフを祝福する。

 ルドルフは困った顔をしているが……内心は嬉しそうだった。


「ルリティティスさんから貰ったアスラムの実だっ!

 ゆっくり味わってね!?」


 メイド衆がニコニコしながら、食べやすいように切り分けられた

 アスラムの実を、ワシ等の前に置いていく。

 薄く青みがかった半透明の果実が妙に食欲をそそる。


「先ずは私めが……」


 そう言ってモンティスト財務大臣が、アスラムの実をむしゃむしゃと食べた。

 本人は毒見役のつもりで言ったのだろうが……

 彼は、咀嚼する度に目じりが下がり、笑顔になるのが止められないでいた。


「おお……なんという爽快感! 堪りませぬ……!」


 最後には、全身の骨を抜かれたような姿になっていた。

 ええぃ! もう我慢できぬっ! ワシはいただくぞっ!


「あー!? 陛下っ!? まだ毒見が……」


「エルちゃんが持ってきた物に、毒があるわけなかろうっ!!」


 ホウディック防衛大臣の制止を振り切って、美味しそうな果物を口に運ぶ。

 ムチムチとした食感、しゅわしゅわとした感触に、口に広がる心地良い甘さ。

 全てが極上の食感だった!


「ふぉぉぉ……これは堪らぬ! 皆も食べるがよいっ!!」


 ワシの言葉を皮きりに、我先にとアスラムの実をむしゃむしゃと食べ始める。

 食べ終えた者達は、例外なく幸せそうな表情を浮かべていた。


「お~? ちびっ子! どうしたんだ?」


「ぬあ~グロリア将軍っ!」


 エルティナは、グロリアを確認した途端……彼女の豊満な胸に飛び込んだ。

 この子は、とにかく女性の豊満な乳房が大好きだ。

 ……理由は、わからないでもない。


 この子はきっと、自分の産みの母を追い求めているのだろう。

 それが、女性の胸に知らず知らずのうちにスイッチしている……

 そう考えるのが妥当だ。


「がはは! おまえは相変わらず、おっぱいが好きな子だなっ?」


「おぉぉうっ! だいすきだぁ……」


 この子は決まって、豊満な胸に顔を埋め……切なそうな顔をする。

 本人は気付いていないのだろう。

 だが、本人は気が付かずとも抱いている方は気が付く。

 グロリアは、エルティナの切なさを埋めるように、キュッと抱きしめていた。


 思えば……ワシ等はこの子に助けられてばかりであった。

 ワシ等は……この子に何かしてあげていただろうか?

 ただ、ただ……ワシ等はこの子に甘えていただけ……なのではなかろうか?


「ふきゅん……」


 ああ……そうだ、この子の幸せとは……人の温もりだ。

 このかけがえの無い、なんでもないことに、この子は命を賭ける。

 誰しもができないことを……平然とやってのける。


 ワシはこの子に……何かしてあげたい。

 喜んでもらいたい! せめてもの恩返しのために!


 この国の民のために命を賭けてくれた……心優しき聖女のために……!


 そんなワシを見る、皆の顔があった。

 どうやら気持ちは同じらしい。

 ワシは意を決して聖女エルティナに言った。


「エルちゃんや……ワシ等にして欲しいことは何かあるかのう?」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 多字:さ 最後には、全身の骨を抜かされたような姿になっていた。 誤字:が 「ふぉぉぉ……これは堪らぬ! 皆も食べるかよいっ!!」
[気になる点] 必ず誤字脱字があるなあ ふきゅん
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