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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
159/800

159食目 この鬼には桃使いでも勝てない

 ◆◆◆


 俺達はモルティーナの案内を受け、棟梁達の仕事現場に向かっていた。

 道の脇に積まれていた瓦礫達の中には、見覚えのあるある物もチラホラあった。

 今のその姿を見ると……せつなくなる。


 しばらく歩くと棟梁達の大きな声が聞こえてきた。


「作業効率落ちてるっスよー!! もっと気張れっスー!!」


 そこには……仕事の鬼がいた。


 地均じならしの終わったその場所には、数人のモグラ獣人が倒れ伏し

 現在作業中のモグラ獣人達も「俺に構うなっ」……と、言い次々に倒れていく。


「アンドリュー!? ちくしょうっ! 絶対に今日中に終わらせてやるっ!」


 そう言った彼もその数秒後には、倒れたモグラ獣人の仲間入りを果たした。

 なんだ……この地獄は!?


 その中、一際仕事が早いモグラ獣人の姿があった。

 モルティーナの父親にして、この現場の棟梁……モック・ルルセックである。


「おぁ~きょうはまた、たおれているやつらがおおいっすね~?」


「お~! モル~! 今日のやつ等はだめッス!

 早くモルも仕事に加わってくれっス!」


 そして、この会話である。

 二人そろって『仕事の鬼』であった。

 蛙の子は蛙とはいったものだが、全くもってそのとおりな親子であった。


 しかしだ、仕事の『鬼』であるならば……

 この世界唯一無二の桃使いである、この俺が退治せねばなるまい!(きりっ)


「おいぃ! 棟梁! この有様はどういうことだぁ!

 死体だらけじゃないですかやだー!」


「おぁ~聖女ちゃんじゃないっスか~? どうしたんスか?」


 俺の抗議を全く気にしない、恐るべき神経の持ち主がこの棟梁だ。

 モルティーナと同じく灰色の毛に覆われた、普通のモグラ獣人よりも

 二回りほど大きいく逞しい肉体の持ち主。

 手に生えた巨大な爪は、易々と硬い地面を掘り起こす。

 特筆なのは、その圧倒的な体力だろう。


 噂でしか聞いたことがないが……

 十代の頃、一度も休まずに二十四時間働き続けたことがあるらしい。

 どこかの企業戦士かな?


「どうしたじゃないんだぜっ! 見ろぉ! この横たわるもぐもぐ達をっ!

 皆そろって白目じゃないかっ!?」


「全くッスね~最近の若いやつ等は貧弱でだめッス」


 か……会話が通じない。

 でも……ここで諦める俺ではないっ!


「休憩はさせているのか~!?」


「休憩? ……たしか~十時間前に、三分程したっスね」


 この重労働で三分とか……ブラック企業も裸足で逃げるレベルだな。

 これはもう、俺が強制的に休ませるしかないっ!

 フウタも驚いた、このアスラムの実でなっ!!


「働き過ぎも効率が下がるぞ! このアスラムの実を奢ってやろう!

 水分補給に火照った体をやんわりと冷やす効果があるのだぁ!

 こいつを食って少し休憩をはさめ~」

 

 俺のその言葉に、地面に倒れ伏し白目を剥いていたもぐもぐ達が

 一斉に起き上がり、まるでゾンビのように『ぐれーとらいおっと号』に

 積まれていた、アスラムの実を無我夢中でむしゃむしゃと食べ始めた。


 ……あ!? それは食べ物じゃないぞ!?


『ぐれーとらいおっと号』に、乗せていたダナンが食べられそうになっていた。

 そんなものを食って、もぐもぐ達のお腹が壊れては元も子もない。

 ポイしなさい! ポイッ!!


「ふ……ふおぁぁぁぁぁぁっ! みなぎってきたぁぁぁぁぁっ!!」


 アスラムの実を食べ終わった、一人のモグラ獣人が突如叫んだ。

 彼はたしか……アンドリューと呼ばれたモグラ獣人だったような気がする。


 そして、彼は物凄い勢いで仕事を始めた。


 その表情は鬼気迫るものがあった。

 まるで、今まで倒れていた分の仕事を取り戻すがごとくの勢いであった。


 あれれ~? 休憩はどうしたんですかねぇ?


 更に彼に続く者が次々と現れる。

 いずれも、アスラムの実を食べ終えた者達だ。


「おぁ~休憩はさむと、これほど効率が出るっスか~?

 今度から休憩時間を設けてもいいっスね~」


「えっ!? 何時休憩したんだっ!?」


 俺にはアスラムの実を、むしゃむしゃと食べていた光景しか

 見えなかったのだが?


「いやっすね~? じゅうぶんすぎるきゅうけいじゃないっすか~?

 おぁ~……このきのみ、おいしいっすね~?

 じゃあ~わっすも、きゅうけいとったんで、しごとにもどるっす~」


 アスラムの実を一気に食べ尽くしたモルティーナは

 そう言って大きな大人に混じって地均しの仕事に加わり

 俺達に大人顔負けの仕事を披露し出した。


「お~し! 今日中に仕上げちまうっスよ~!

 聖女ちゃん差し入れありがとうっス!」


 そう言って棟梁も仕事に戻っていった。

 その場に取り残された俺達はただ、その仕事風景を見ているしかなかった。


「……エル」


 俺の肩に優しく手を置き首を振るヒュリティア。

 その顔は俺に対して『よくやった』と、慰めているようだった。


「ヒーちゃん……桃使いでも勝てない鬼がいたんだぜ」


 仕事の鬼……彼等は最強の鬼なのかもしれない。

 ……と、いうかこれもう病気じゃねっ!?

 仕事ジャンキーだよっ! 仕事中毒ってなんだよっ!? おごご……!


 彼等の異常な仕事への情熱に

 俺達はただ見守ることしかできなかった。ふきゅん!


 ◆◆◆


 モルティーナと棟梁達に別れを告げ、次に目指したのは商店街だ。

 ここも、こみどり達による被害が激しい地域で、今も大工や住人による

 修復作業が進んでいる。


「よぉ! 聖女様! 今日はどうしたんだい?」


「あっ! オオクマさん!」


 親しげに挨拶をしてきたのは、クリーニング店『ピカピカリン』店主の

 オオクマ・シイダであった。


 彼の自慢の店も、こみどりの被害を受けて半壊状態になっていた。

 そのような状況の中、自分の店を放り投げても俺達を助けてくれた

 ナイスガイだ。


 あまりに戦い慣れていたので、話を聞くと昔冒険者をしていたそうだ。

 どうりで強かったわけだぁ……


 トスムーさんからは自分は昔冒険者で、その時組んだミシェルさんと

 冒険の数々をこなして一緒になったって、惚気話を聞かされたので

 知っていたが、まさかオオクマさんも本当に冒険者だったとは。

 

「今日は皆に、アスラムの実を持ってきたんだ!

 美味しいから皆で食べてくれ!」


 俺はアスラムの実を一つ取り、オオクマさんに手渡した。

 それを受け取ったオオクマさんは豪快にかぶり付いた。


「おぉ!? こいつはいいなっ! 歯応えも面白くて……うん、美味い!」


 二カッと笑って俺の頭をガシガシ撫でてくる。

 いかにも武骨な元冒険者だ。でも、信じられるか……?

 今は繊細な作業をするクリーニング店の店主なんだぜ?


 この太くて逞しい指で、服の汚れやちょっとした修繕もやってのけるのだ。

 やだ……凄く器用!


 事実、彼のクリーニング店は誠実でいい仕事をすることから

 フィリミシアの町でも人気上位店まで上り詰めていたのだ。


「うへへ……喜んでくれて何よりなんだぜ」


 オオクマさんの喜ぶ顔を見れて、俺も嬉しくなり顔が綻ぶ。


 周りを見やれば『ぐれーとらいおっと号』に、集まる街の人々に

 ライオット達が笑顔でアスラムの実を渡している。

 アスラムの実を手渡され、それを食べた人々に笑顔が生まれる。

 笑顔の連鎖ってやつだぁ……(うっとり)


「何事かとおもったら、やっぱり食いしん坊か」


「おっす! リック……って、どうしたんだ? その恰好は?」


 普段は学校の制服か鎧姿しか見ることのないリザードマンの彼が

 今は大工姿になっていた。頭のねじり鉢巻きが、意外にもさまになっている。

 そして腹には黄色い腹巻が巻かれていた。やっぱり大工には腹巻が似合うな!


「あぁ……父さんの手伝いさ。ノミ入れや釘打ちくらいはできるからな……

 お陰で槍の練習ができやしない」


「しょうがないだろ? リックの実家は大工なんだから」


 リックの後ろから現れたのは同じく大工姿のクラーク・アクトだ。

 クラークも俺達と同じクラスの仲間である。


 彼は人間であるが、獣人達に劣らない身体能力を持つ超人である。

 羨ましい……その能力を少し分けておくれっ!


 マリンブルーの髪はツンツンに逆立ち、ぶっとい眉毛はゲジゲジ状態だ。

 逆毛にねじり鉢巻きは良く似合うなぁ……


 日焼けしたその肌に合う野性的な笑顔は将来、グレーアニキのように

 野獣的な男になる予感がプンプンしている。

 ……臭くなりそう(超激烈失礼)


 同世代では、体も大きく力も強い。

 ライオットも大きいが彼はそれを上回るのである。

 身長も少し俺に恵んでくれぃ!(切実)


「おぅ! クラークじゃぁねぇか! 親父さんには言ってあるのかぁ?」


「いや……言ったら、ここで手伝いなんてさせてくれないさ。

 だから、内緒にしておいてくれよっ!」


 両手を合わせて、ガンズロックにお願いのポーズをするクラーク。

 彼の父親は、ラングステン王国騎士団の騎士だそうだ。


 彼は彼の父親に、三歳の頃から剣技や武術を仕込まれていて

 七歳にして戦いの申し子と、異名を授かるほどの武術の天才だ。

 将来は騎士団の入団確実とされて期待されている。


 彼は自分でも、その才能を理解し高めていっているが

 彼が最も渇望する職は……なんと大工である。


「物を作っている時が、最高に満たされるんだよなぁ……

 俺も大工の子に生まれたかったよ」


 金槌を手に「はぁ」と、ため息を吐くクラーク。


「ばかやろぉ……俺は騎士の家に生まれたかったてぇの!」


 ノミを手に「はぁ」と、ため息を吐くリック。


 うん……人生とは、かくも上手くはいかないものである。

 お互いの目指すものが、お互いに遠い二人であった。


「おっす! 二人とも精が出るなぁ! これでも食べて一息着いてくれぃ!」


「これは聖女様、お心遣い頂きありがとうございます!」


 俺に対し、騎士の礼を示すクラーク。

 これも、彼の父親の徹底した教育の賜物である。


 俺が正式な『ラングステンの聖女』と、公表される前……

 彼は俺を、珍獣様と言って親しく接してくれたのだが

 今ではご覧の有様である。


 これも、聖女としての弊害の一つだろうな……ふきゅん。


「おっ? 二人ともやってるな?」


 そこにオオクマさんが、リックとクラークに声を掛けてきた。

 どうやら、この二人とは顔見知りのようである。


「あっ! オオクマさん! ちぃーっス!」


 まるで、ヤンキーの下っ端のような挨拶をするリックに対しクラークは……


「こんにちは、オオクマ様。

 オオクマ様の見事なご活躍は、既に家族の耳に入っておりますよ?

 また、父上が訪れに行くと申されておりました」


 この圧倒的な差は、やはり生まれた家の環境なんだろうなぁ……

 リック、色々と大変だろうけど……がんばれよ?


「うへぇ……親父さんまた来るのか?

 騎士団には入らないって言ってるんだがなぁ……」


 ぼりぼりと頭をかいて、困った表情のオオクマさん。

 クラークの父親は『スカウトの鬼』としても有名であった。


 ……ここにも鬼がいたか! 今度の鬼も手強そうだぁ……(白目)


「エルティナ、アスラムの実を配り終えたようです。

 やはり、人数がいると違いますね」


「お~そうか、そうかっ!」


 ルドルフさんが、アスラムの実を配り終えたことを報告しにきてくれた。

 ルドルフさんの顔を見てオオクマさんがニヤリと笑う。


「よぉ! ルドルフ君! 一人前の顔になったなぁ?」


 ガシッと、ルドルフさんの肩を掴み引き寄せ

 ぼそぼそと小声で何かを話している。


 残念だが小声でも、俺の大きなお耳には聞こえちゃうんだぜっ!

 んん~何々……?


「で、彼女の具合はどうだったんだ?」


「ど……ど、どうと申されましても!?」


 俺は……そっと耳を閉じた。ぱたっ。


 よ……よし! 気を取り直して次の目的地に向かうぞっ!

 ライオット達に、次はフィリミシア城に向かうと伝える。


 残念ながら、城にホイホイ入れるのは関係者と従者だけだ。

 ここ等辺はきちんとしているので、強引に連れていくわけにはいかない。


 なので、〈フリースペース〉からアスラムの実を直接『ぐれーとらいおっと号』にドバーっとぶちまける。

 すると、あっ、という間に小さな山となった。


 その食べれる山は、実に清々しいではないか。


 だが、いつまでもその山に見とれているわけにもいかない。 

 速やかに東地区のライゼンさん達に配ってくれ、とライオットにお願いした。


「おう! 任せときなっ!」


 ドンと胸を叩きお願いされるライオット。


「プルル……ライオットが、つまみ食いしないように気を付けてくれ」


「んふふ……任されたよ」


 俺とプルルの会話に、しょぼんとするライオット。

 前科持ちなのだからしょうがないよなぁ?


「では、皆! 出発だぁ! オオクマさんまたな!

 リックとクラークも、がんばってな~!」


「差し入れありがとうよっ! 気を付けて行ってきな!」


 オオクマさん達に見送られ、俺達はフィリミシア城に向かうのであった。

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