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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
158/800

158食目 さぬき

 ◆◆◆


「フウタさま~、じならしが、おわったっす~」


 少し元気がなさそうなフウタを心配していると、後ろから聞き覚えのある

 なんとも間延びした声が聞こえた。


「んん~? その声は、モルティーナか?」


 俺が声の方に振り返ると……そこには、間延びした声の主

 モルティーナ・ルルセックが、土塗れで立っていた。


 地ならしが終わった……と、言っていたのでフウタは

 フィリミシア中央公園を、徹底的にリフォームする気なのだろう。


 俺は改めて、公園を見渡した。

 今いるところは、以前バーベキューを、皆で楽しんだ噴水広場だ。


 しかし……今は、その面影はない。


 見事な装飾と彫像で、俺達を感動させた巨大な噴水は

 こみどり達の『憎しみの光』で、穴だらけになっていた。

 その周りに植えられていた、色とりどりの可憐な花々は枯れ果て

 思い出の場所は変わり果てた姿になっていた。


「いもいも坊や……ごめんな」


 俺は、公園の惨たらしい姿に思わず、左肩に掛かる髪に付けた

 ピンク色のリボンに手を触れる。


 ここは、いもいも坊や達と最後に楽しんだ場所だ。

 その、思い出の地が……こんな、むごい有様になってしまうとは……


「御屋形様……如何いかがなされましたか?」


 ザインが俺を、心配してきた。


「なんでもない、なんでも……ないんだ」


「……そのようなことは、ござりませぬ。

 拙者……お仕えして、日はあそぅございまするが、御屋形様の御心は

 理解できるよう……日々、精進しております。

 ここはきっと、大切なお方との、大切な場所でございましたのでしょう?

 ……で、なければ……そのようなお顔は、召さるまいでしょうに」


 ……すまんな、ザイン。こんな、情けない主人で。


 正直、俺は泣きそうだった。

 思い出を壊されるのが、ここまで辛いものだとは……


 周りに、だれもいなければ……俺はわんわんと、泣いていたかもしれない。

 でも、今の俺は……それをするわけにはいかない。

 だって、ルドルフさんやザインが傍にいるのだから。

 心配させるわけには、いかないからなっ!


「やぁ~エルっち、じゃぁないっすか~、どうしたんすか~?

 こんなところで~?」


 ぼりぼりと、おケツを爪で掻いて、間延びした返事をする。

 こらっ! 女の子が、人前でおケツを、ポリポリしないのっ!!


 彼女は、モグラ型の獣人だ。


 灰色の髪を三つ編みにして垂らしている

 瞳の色も灰色だが、普段は見ることができないだろう。

 何故なら、彼女達モグラ型の獣人は、揃って視力が弱いのだ。

 よって、彼女はタカアキの、ぐるぐる眼鏡に匹敵する

 分厚い眼鏡を着用している。


 俺は以前、彼女が眼鏡を拭くために外した際に

 素顔を脳内にメモリーしている。


 彼女は、モグラ型獣人には珍しく、人間寄りの顔だ。

 大抵はモグラ寄りの顔立ちになるという。

 よって! 珍獣決定! 珍獣仲間だ!


 因みに、プリエナも、珍しいみたいだ。

 本人が言っていたから、間違いないだろう。

 どうやら、俺のクラスには、珍獣が多いみたいだ。

 仲間が、沢山いて嬉しいかぎりである。ふきゅん!


 彼女の目は少し垂れていて、とても愛嬌のある顔である。

 常に眼鏡を、着用しているのは、大変に残念だ。

 鼻は少し低い。例えるなら……日本人の鼻だろうな。


 視力の低い彼等は、その分嗅覚が発達している。

 すかしっぺをしても、彼等にはお見通しだっ! 気を付けろっ!


 彼女の特徴として……唇は、かなりふっくらしている。

 たらこ唇……まではいかないが、それに近い。

 さわったら、凄く……ぷにぷにしていた。気持ち良いっ!


 さてさて、モルティーナが珍しい……と、言っても、それは顔だけの話で

 獣人としての能力は、普通のモグラ獣人と、なんら遜色はない。


 彼女の腕は超巨大だ。

 自分の胴回り程ある、発達した腕。

 その先端には、これまた太くて鋭い爪が五本伸びている。

 爪の長さは、腕を伸ばすと、地面に突き刺さるほどだ。


 一見、とても不便そうに見えるが、彼女はこの爪で万年筆を掴み

 器用にノートに字を書いていく。

 その姿は非常に、ユニークである。

 腕が長いから、椅子を机から離して、筆記しているのだ。


 このように、腕は非常に発達し、モグラの特徴である『穴掘り』に

 特化しているが……逆に足の方はというと……かわいそうなことになっている。


 うん、すっごく短くて、頼りないのだ。

 手を使って移動した方が、早いんじゃね? ってなくらいに。

 それでも、モグラ獣人達は、この頼りない二の足を使い

 のんびりと……ペタペタ歩いている。


 ちょっと、かわいい。


 そう、彼等は……歩くのが、好きなのだ。

 ここが、獣であるモグラとの違いだろう。

 フィリミシアの町を歩いていると、サングラスをかけたモグラ獣人と

 よくすれ違う。


 彼等は、非常に陽気でフレンドリーだ。

 派手なアロハシャツのような服を身に付け、鼻歌交じりに散歩をし

 だれとでも打ち解け、親友のように接してくる。


 太陽から一番遠い獣が祖先なのに、最も太陽のような性格の獣人だ。


 彼女も例に漏れず、派手な服を好んで身に付けるが、今日は仕事中とあって

 汚れても構わない服装……と、いうかほぼ全裸だ。


 今の彼女は、シャツにパンツ……と、いう出で立ちであった。

 君……女の子なんだよ? 恥じらいを持とうぜ!?


 ……ん? 俺? 魂が男だからいいんだよっ!


 モグラ獣人達は、仕事時と仕事外の区別が極端だ。


 仕事時は、仕事の効率優先で、見てくれ等は完全に無視する。

 全身泥だらけでも、びちゃびちゃになっても気にしないし

 汗まみれで臭っても、仕事優先である。

 とにかく、いかに早く、効率良く、完璧に終わらせるかを追求するのだ。


 逆に仕事外は、とにかく自分の趣味に没頭する。

 派手な衣服で満足するまで、散歩を楽しんだり

 丸一日、酒を飲んだくれるやつもいるらしい。


「俺達は、フィリミシア復興に携わる、作業員の渇きを潤すために

 アスラムの実を、奢っている最中なのだ。

 ……と、いうことで、がんばっているモルティーナに

 アスラムの実を、奢ってやろう!」


 俺は『ぐれーとらいおっと号』から、アスラムの実を、むんずと掴み

 モルティーナに手渡した。


「おぁ~ありがとうっす! ちょうど、のどがかわいて

 さぎょうこうりつが、おちていたところだったんす!」


 そう言って、むしゃむしゃと、アスラムの実を一気食いする。

 ……もっと、味わってどうぞ。


「やぁ、流石に仕事が早いね……了解しました。

 棟梁に、よろしく言ってください」


「はい~! わかったす~!」


 フウタが仕事の報告を受け、モルティーナ達を労う言葉を贈る。

 それを聞いたモルティーナは、返事をし現場に戻ろうと振り返る。

 おパンツから、ぴょこっと、出ている小さな尻尾が、かわいらしい。


「あ……モルティーナ! 棟梁達も、アスラムの実を食べるかな!?」


 一応、聞いとかないといけない。

 彼女等の棟梁は、気難しい性格で有名だった。

 とにかく、効率の鬼! 手抜きはご法度! の、完璧主義者だ。

 そして、モルティーナのお父さんである。


 自宅で会った時彼と、仕事場の彼の差があり過ぎて

 同一人物とは、とても思えなかった。

 彼に、逆らってはいけない!(戒め)


「おぁ~きっと、よろこぶっすよ~! たべやすくて、すいぶんを

 ほきゅうできるとあれば~」


 ふむ、モルティーナのお墨付きがあるなら、差し入れても問題なさそうだな!

 よしっ! 棟梁達に潤いを与えに……ユクゾッ!


「ライ~! アスラムの実の配給は終わった~?」


 俺はライオットに、アスラムの実の配分状況を聞いた。


「ふごごっ! うんごうんご! うむうむ!」


 ほっぺを、パンパンに膨らませたライオットが、懸命に返事をしてきた。

 食べるな……とは、言わないが、ものには限度があるでしょうがっ!?


 流石の俺でも、これには呆れたので、ライオットに厳重な注意をしておく。


「自重」


「……ごめん」


 と、ライオットは素直に謝った。

 どうやら、自分の食欲と必死に戦ってはいたが、敗れてしまっていたようだ。


 ライオットが素直に謝ってきたので、俺はこれ以上責めるわけにはいかない。

 従って、俺の口から出る台詞は……


「許す」


 その台詞は、俺の口から……発せられたものではなかった。


「げぇっ!? ダナンッ! 生きていたのかっ!?」


 ダナンであった。

 この台詞だけのために、墓地から全力疾走してきたのだろう。

 ぜひゅー、ぜひゅー、と……してはいけない呼吸音が聞こえる。


 そして、穏やかな笑顔を浮かべると……ゆっくりと地面に倒れ伏した。


「ダ……ダナーン!!」


 幼い命を燃やし尽くし、ネタに生きた少年の生きざまを見た。


 そして俺は……面倒臭くなったので『ぐれーとらいおっと号』に、放り込めと

 ライオットに頼んだ。


「う……いてて、マフティめ……無茶しやがって……べろんがっ!?」


 ……俺は、何も聞いていない。

 目覚めたゴードンとかは、いなかった。ふきゅん!


「フウタッ! 俺達は棟梁の渇きを潤しに行くっ!

 お仕事、がんばってなっ!」


 色々、誤魔化すために、フウタに別れの挨拶をする。


「えぇ、お任せください、聖女様」


 と、笑顔で答えるフウタ。

 ……がここで、色々と思い出す。


「そうだ! フウタ、この白へび君を、見たことあるか?

 あと、タカユキが、よろしくっていってた!」


 俺はフウタに、首でうとうとしている、白へび君のことを尋ねてみた。


「タカアキが……はい、わかりました。

 それと……この蛇は……フォーチュンパイソンですね。

 主に、ミリタナス神聖国で生息している天然記念物です。

 おそらく……密輸されたのでしょうね」


 なん……だと……?


「じゃぁ……なんで、こんなに人に懐いてるんだ?」


「この子達は、人に懐く種族です。

 それだけなら……愛玩動物として、繁栄したでしょうね。

 でも……この子達の力は『持ち主に幸運を与える』です。

 たった、一匹のフォーチュンパイソンのために

 大戦争が勃発したと言います。

 故に、ミリタナス神聖国が、大規模な捕獲をし

 自然に生きるフォーチュンパイソンは、絶滅したと聞き及んでいます」


 フウタの博識には、驚かされるが……この、白へび君の不遇さにも驚かされる。


『人に幸運を与える』


 そんな、眉唾な噂で、自由に生きられなくなったなんて!

 ただ、ただ……人が大好きなだけの蛇なのにっ!


「フウタ……この、白へび君は……どうしたらいいんだ? 

 ミリタナスに帰すのか? それとも……それとも……」


 この時、俺は……きっと、泣きそうな顔をしていただろう。

 それ程までに、白へび君を想っていた。


 ただ、ただ……人が大好きなだけなのに……

 何故、こんな目に合わなければならないのか?


「聖女様、この子が、あなたに出会ったのは……運命でしょう。

 この子は……あなたに会うために生まれてきた……そう、思えてなりません。

 そして、既に運命の子達と、聖女様は出会っている気がします。

 ……私の予感ですが」


「フウタの予感は、未来予知なんだぜ……」


 俺の言葉に、苦笑いするフウタ。

 俺は、フウタの言葉に決心を決めた。


「よしっ! 俺は、この白蛇君を正式に『モモガーディアンズ』に

 加えることを決めたっ!」


 あぁ、そうさ! 俺が……白へび君の居場所になってやる!

 もう、居場所を転々となんてさせない!

 君は……俺達の仲間だ!!


「で……あるなら、君に相応しい名前を付けてあげよう!」


 白蛇君は期待に満ちた眼差しを向けてきた! 

 変な名前は付けられないぞっ!? 


 何がいいかなぁ……? う~ん! 悩むなぁ……


 この子の、特長は……白くて……長い。

 だったら、アレしかないよなっ!?


「よぉしっ! 君の名は……『さぬき』だ!! よろしくな? さぬきっ!」


 猛烈に、嬉しそうに尻尾を振る……さぬき。

 どうやら、俺が送った名前を、気に入ってくれたようだ。


「新しい仲間の誕生ですね」


 ルドルフさんが、笑顔で白へび君を祝福してくれた。


「お……御屋形様っ! 拙者は……『ももがーでぃあんず』の

 一員でございましょうか!?」


 慌てて、ザインが心配そうな顔で、俺を問い詰めて……

 近い近い! 近過ぎる! あと、数ミリで『ちゅ~』しちゃうっ!

 お互いの吐息が聞こえるほどの近さだ。


「あ……もっ、申し訳ござらぬっ! お許しをっ!」


 いち早く、それに気づいたザインが、バックジャンピング土下座を披露する。

 その、あまりに洗練された動きに、普段から鍛錬しているのではないかと

 錯覚させるには……十分な動きであった。


「当たり前だろっ! 

 ザインは、俺に仕えた時点で『モモガーディアンズ』の一員だ!

 ……あと、ザイン。……近い」


 消え入りそうな俺の声。

 結構、大きな声で言ったはずなのに……最後は小声になっていた。

 ……解せぬ。


「っ!! ……はっ、はぁぁぁぁっ!!」


 ガスッ! と、地面に額を叩き付けて、土下座の姿勢を取り続けるザイン。

 その姿勢でプルプルと、震えている。


「ザインッ!! 俺の方が先に入ったんだからなっ!」


 ライオットが、ザインに攻撃を仕掛けてきたっ!

 ……何故に?


「是非もなし! 拙者がその先に参るっ!」


 ザインが、ライオットを迎え撃つ。

 二人は突然に、激闘を繰り広げだした。


「んふふ……僕も『モモガーディアンズ』だよねぇ?」


 プルルが、舌をぺろりと出して俺に聞いてきた。

 その仕草は、幼いながらに物凄い妖艶さを、醸し出していた。

 プルル……恐ろしい子っ!!


「当たり前だろ? 俺達三人と三体は、元祖『モモガーディアンズ』だっ!!」


「んふふ……それを、聞きたかったんだよ」


 そういうと……激戦を繰り広げるライオットと、ザインの間に入り……

 動揺したライオットに抱き付き、耳元で何かを囁いていた。


 次の瞬間……ボムッと、ライオットの顔が真っ赤になって爆発した。

 ライオット……KO!!

 

「お……おいぃぃ、いったい……どんな、技をつかったんですかねぇ?」


 俺の質問に、プルルは……


「んふふ……ひ・み・つ! あと、食いしん坊に、言っておくことがあるんだ」


 そう言って、俺の顔に自分の顔を近づけてプルルは言った。


「ライオットは……僕が頂くよ!!」


 まさかの……宣戦布告であった。

 どうや、プルルは……ライオットに気があるもようだ。


 この珍獣の目を持ってしても、気付かなんだっ!(節穴)


「そ……そうか、是非もなし、互いにがんばろう」


 と、無難な返事をしておいた。

 まさか、プルルが何時の間にか、ライオットを好きになってるなんて

 だれが、思いつくだろうかっ!?


 ……思いつかないよなぁ?(呆れ)


「あの~? そろそろ、もどらないと~、おとっつぁんに

 おこられるんっすけど~?」


 モルティーナに、声を掛けられ一同が、我に帰った。


「お……おう、そうだな!? じゃぁ! フウタ! みんな!!

 復興作業がんばってなっ!?」


 俺達は、慌てて次の目的地を目指す。


 俺達を見送るフウタと、熱烈な声援で俺達を見送る作業員のおっちゃん達。

 俺達の渇きを潤す作業は、終わりそうにないなっ!

 ことごとく、潤してくれるわっ!

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