154食目 ラングステンの安息の地
◆◆◆
「うおぉぉぉぉっ! いっそげぇぇぇぇぇっ!!」
只今、俺達は……のどかな通学路を爆走中である。
理由は、竜巻の一件で、お墓が倒れたり、壊れたりしてるんじゃね?
と、ダナンが言ったからである。
確かに、あの一件以来……お墓参りには行ってない。
もし……お墓が、倒れていたりしたら大問題である。
俺達が爆走することによって、のどかな通学路が一変して
騒々しいものへと変貌する。
俺は興奮のあまり立ち上がるっ!
白へび君は、振り落されないように、俺の首に巻き付いていた。
蛇の首輪状態だ。
「ちろちろ」
この位置が、気に入ったみたいである。
リズミカルに、尻尾を振って上機嫌のもよう。
「落ち着けエルッ! 立ったら危ないぞっ!?」
ライオットが『ぐれーとらいおっと号』を、爆走させながらも
俺を気遣ってくれるが……俺はテンパっていて、それどころではなかった。
気持ちだけが焦って、どうしようもない!
「ふきゅーん! ふきゅーん!」
終いには、興奮し過ぎて、珍獣語で喋りだしてしまう。
これ、普通に会話できる人には、通じないんだよな……
「御屋形様! 殿中! 殿中でござる!!」
どう見ても、殿中じゃないんですがっ!?
普通の通学路ですっ!
まぁ、通学路といっても……道の草を取っ払っただけの
土が剥き出しの道路だ。舗装なんてされちゃいない。
また、それも風情があっていいのだが……
脇の草原には、色とりどりの花が咲き誇り、俺達の目を楽しませる。
脇を固めるのは、綺麗な羽を持った、蝶々達だ。
時折、ミツバチがせっせと、花の蜜を集めている姿を見て
俺達も、がんばらなきゃ……と、いう気持ちにさせてくれる。
いやいや! 今は、そんな……ほっこりしている場合じゃないっ!
急ぐんだっ! お墓に、いっそげ~!!
「エルティナ……落ち着いてください」
ルドルフさんの、落ち着いた声に我に帰る。
危ない、危ない……冷静に、クールにならなくては……
「落ち着いた……凄く落ち着いたっ!」
「それは、何よりです」
穏やかな笑顔で、そう言ったルドルフさん。
彼は何時もどおり、カッチカチの、くっそ重い、重鎧を身に付け
『ぐれーとらいおっと号』に、追従している。
はっきり言おう。
ライオットの足の速さは尋常ではない。
まだ、弱冠七歳だが……学園内で、トップテンに入ると言われている。
いくら『軽量化』の、魔石が付いた
『ぐれーとらいおっと号』を、牽引してるとしても
ライオットの、走る速度は恐るべきものだ。
それに、息ひとつ乱さず付いてくる、ルドルフさんの体力に脱帽する。
いったい、どのような鍛え方を、しているのだろうか?
あとで聞いておこう……最近、座り仕事ばっかりで、体力が落ちてきている。
この爆走劇に、付いて来れているのは……マフティ、ザイン、フォクベルト
だけだ。
女性陣は、爆走前に『ぐれーとらいおっと号』に搭乗させた。
男は走れっ! 俺は女尊男卑なのだっ!
「はぁ、はぁ……流石は……ルドルフ殿! 息ひとつ乱さぬとは……!」
「君も、いずれは……できるようになりますよ。
今は……できることを、ひとつ、ひとつ増やしていきましょう」
彼等は、なんか……師弟の間柄になっていた。
まぁ、良いことなんだろうけど。
付いて来れなかった男性陣には悪いが……
行先はわかっているので、問題はないだろう。
目的地の墓地『ラングステンの安息の地』は、通学路の途中にある。
学校の少し離れた場所に、墓地があるのだ。
墓地に至る道は、丁度……学校とフィリミシアの町を繋ぐ道の
真ん中付近にある。
そこを、北に進めば墓地に出るのだ。
墓地はとても静かで、穏やかで、少しさみしい雰囲気の場所だ。
騒がしい場所だと、静かに眠れないから当然だなぁ?
「あー!? お墓が倒れてるよっ!?」
リンダが墓の惨状を見て大声を出す。
俺は、その声に釣られて、墓地の状態を見て愕然とした。
かつて、ラングステンを支え、力を尽くしてきた先人達の墓標が
ことごとく、無残な姿を晒していたのだ。
「なんてこった……お墓がこんな姿に……」
今は、町の復興に手がいっぱいで、ここが直されるのは
町が復興した後であろう。
それまで、放置されるのは、いたたまれない気持ちだった。
取り敢えず俺達は、デイモンド爺さんの墓を目指す。
以前とは、変わり果てた墓地なので、少し探すのに苦労するが
無事に見つけることができた。
「あー!? お墓が……倒れてる!」
案の定、デイモンド爺さんの墓も、他の墓石と同じく倒れていた。
決して立派な墓石ではないが、ヒーラー協会の皆、そして……
彼の世話になった、スラム街の人々が、少しずつお金を持ち寄り
建てた……四角い板状の小さな墓だ。
墓石には『ヒーラー、デイモンド・オワーグここに眠る』と
シンプルに文字が彫ってある。
最後まで、ヒーラーとして在り続けた、彼らしい文字である。
皆が思いを込めて、感謝を込めて建てた
その墓石が、倒れているさまを見た瞬間……
俺は『ぐれーとらいおっと号』から飛び降り、墓に向かおうとして
盛大に……こけた。
「ふきゅ~~~~んっ!?」
そして、そのままゴロゴロと、墓石の元まで、転がっていったのだった。
け……計画どおりだぜっ!
「エル……危ないわ……落ち着いて……ね?」
ヒュリティア達、女性陣も『ぐれーとらいおっと号』から降りて
こちらに駆け寄ってくる。
「俺は冷静だっ! 一刻も早く、お墓を直さねばっ!」
はい、どうしようもないくらい、焦りまくってます!
だって、大切な人のお墓が倒れているんだよっ!?
何時、焦るの!? 今でしょう!? ……今でしょうっ!?
大切なことなので、二回言った!
「ふぎぎぎ……!」
俺は急いで、墓石を元の場所に戻すため、墓石を持ち上げようとした!
しかし、墓石は重たくて持ち上がらない!
力のない自分が恨めしい!
「わたしも、おてつだいするよぅ!」
プリエナの加勢! ぽんぽも手伝ってくれるが……無理すんな!?
当然のごとく、全く墓石は動かないっ!
「落ち着け! エルッ! 墓石の真ん中を持ったら、持ち上がらないぞ!?」
ライオットの冷静な判断っ! 流石だっ!
よくよく見たら、俺もプリエナも、墓石の真ん中を持っていた。
「ったく……仕方ねぇな、おまえ等」
すかさず駆け寄り、手伝ってくれるライオット!
やだ……惚れてまうやろがっ!
「あの……普通に『ゼログラビティ』を使えばいいのでは?」
フォクベルトの言葉に、俺とプリエナ、ライオットの動きが止まった。
そして、三人で抗議の視線を、フォクベルトに送る。……空気読めと!
「もうっ! ここは皆で力を合わせて、お墓を直す場面でしょう!?
ほらっ! 皆で力を合わせて……」
リンダが駆け寄り、力を合わせて墓石を、持ち上げようとして……
ひょい。
彼女は『片手』で、墓石を持ち上げてしまった。
「あ……」
その場にいた、皆がリンダを見て固まった。
墓石を片手で持っている、幼い少女の姿はシュールである。
「リンダさん? 墓石を『武器』と、認識しましたね?」
「し……ししし、してないよっ!?」
否定するが……彼女は、俺の目を見ないで顔を背けた。
顔からは、滝のように汗が流れている。
「おいぃぃぃ……じゃぁ、なんで片手で持ってるんですかねぇ?」
リンダの武器の素質『鈍器』は、Sランクである。
つまり、彼女にとって、重たくて刃がないものは、全て鈍器である。
得体の知れない塊然り、墓石然りである。
俺は、じ~……と、リンダを見つめ続けた。
ライオットも、それに続いた。
プリエナはぷくっと、ほっぺを膨らまし……
ぽんぽは、もふもふとリンダの足を叩く。
そして……プルルは、お腹を抱えて笑い転げていた。……何気に酷い。
リンダは、無言で……そっと、墓石を元にあった場所に戻し……
デイモンド爺さんの墓は、元通りに直った。
「出来心だったんです! ごめんなさいっ!」
と、自白し……泣き崩れた。
俺達の必死の説得が、通じたようである。
……こうして、悲しい事件は、解決したのだった。
何故……人は過ちを犯すのだろうか?
それは、人故に……なのだろう。
で……あるならば、俺の言うことは、ただ一つ!
「許す」
「もう許したっ! 流石っ! 聖女は格が違ったっ!」
ゼィゼィ言いながら、ダナンが台詞を言いきり……倒れた。
それだけのために、全力疾走してきたのか……
見上げた芸人魂だ。
「それほどでもない」
ダナンの苦労を、労う意味で言葉を返した。
ダナンは満足気に笑い、息を引き取った……
「ダナン……おまえの死は、無駄にしないと思う」
「いやいや、殺すな?」
マフティが、絶妙のタイミングでツッコミを入れる。
肩に乗っている、てっちゃも同じ動作をする。
いちいち、かわいい。
「私、許されたっ!」
許されたリンダが、俺に突撃し……そのままの勢いで、抱き付いてきた。
その勢いは、よろしくない! 強烈な衝撃によるダメージは計り知れない!
「ぬふぅっ!?」
当然、堪え切れるわけなく、リンダに押し倒される。
こう見えても、俺は……か弱いのだよ?(白目)
「おやおや? 仲の良いことですね?」
そこに現れた、巨躯の男!
ぐるぐる眼鏡に、同じく……ぐるぐるの天然パーマ!
「げぇ!? おまえは……!!」
「ふふふ……しんのゆうしゃ『タカアキ』参上です!」
何故か、ラングステンの勇者、タカアキ・ゴトウが現れた。
ご丁寧に、みょうちくりんな決めポーズを決めている。
いったい、墓地に……なんのようだろうか?