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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
153/800

153食目 彼が目指したもの

 ◆◆◆


「ところで……マフティ達は、なんで俺のところに、急いできたんだ?」


 フィリミシアの町に向かう道で、俺はマフティに聞いてみた。

 俺は歩くのが、くっそ遅いので『ぐれーとらいおっと号』に搭乗している。

 同じくプリエナも搭乗し、俺の隣でくつろいでいた。

 ゴードンは、いまだに白目のままだ。


 今日は快晴であり、雲一つないので暑さが厳しい。

 しかし……確実に秋へと、向かっているのがわかる。

 今はそんな時期だ。


 朝晩のみが寒く、日中はとても暑い日が続く。

 体調を崩す、お年寄りや子供も、増えることだろう。


 道の脇に生えている、青々とした草達も、段々と元気がなくなっていく。

 そうだ、あの……さむ~い季節がやってくるのだ。

 まぁ、お鍋が美味しい季節なので嫌いじゃないが……


「んぁ? あぁ、俺達もその、アスラムの実狙いだ。

 だって、凄く美味そうじゃねぇか!

 食いしん坊を、倒してでも奪い取るっ!」


 マフティが邪悪な顔を、懸命に作ろうとしているが

 最近は中々上手くいかないようだ。


 中途半端に、怒った顔になっている。

 かわいい女の子が、ムッとした感じの顔になってしまっているので

 全くもって、怖くない。

 こういう時って、女顔は不便だと思う。


「ほぅ……やってみるがいい、このエルティナ相手になっ!」


 俺は『ぐれーとらいおっと号』の上で、座りながらマフティを挑発する。

 立ち上がったら危ないし、白へび君が膝で、うとうとしてるしな。


「上等! いくぜぇ!?」


 マフティが『ぐれーとらいおっと号』に飛び乗り、襲いかかってきた!

 そして、俺のほっぺは、マフティの魔の手に掛かってしまった!

 ぷにぷに!


「こらっ、そこで暴れんな」


「さーせん」


『ぐれーとらいおっと号』の、メインエンジン兼パイロットの

 ライオットに、お叱りを受けてしまった俺とマフティ。

 二人同時に、心の籠った謝罪をしておく。


「あはは……アスラムの実は、この時期が最も美味しく感じるだろうね。

 私も味見した時にそう感じたよ。

 あの、しゅわしゅわ感が、爽快でねぇ……」


 アマンダが横に並び、アスラムの実の味の感想を言ってくる。

 俺もアスラムの実を、実食済みなのでよくわかる。

 故にフィリミシアの復興に携わる連中に配ろうとしているのだ。

 ふむ……そうだ、いいことを思いついた。


「マフティ、アスラムの実をやるから、少し手伝ってくれ。

 これだけ人数が揃えば、効率よくアスラムの実を配り終えることが

 できるだろう?」


「おっ? そうだなぁ……いいぜっ!?」


 ……たぶん、最初っから、そのつもりだったのだろうが

 ここは黙っておこう。


 腕を組み、鼻の穴を大きく広げ「感謝しろよ?」と、ドヤ顔するマフティ。

 マフティの肩にちょこんと座るてっちゃが、それを真似する。

 見事に親子だった。


「プリエナも、おてつだいするよぉ!」


 プリエナが、手をぶんぶん振ってアピールする。

 プリエナの膝に座っていたぽんぽも、同じく動きを真似している。

 こっちも、見事に親子だった。


「そうだねっ! 皆で配れば早く終わるよっ!」


 リンダも嬉しそうに言った。

 何故、嬉しいのかはわからないが……

 そのことを、横に並んで歩いていたフォクベルトに、こっそり聞いてみた。


「そうですね……久しぶりに、このパーティーで活動するから

 嬉しいんでしょうね? 勿論……僕も嬉しいですよ?」


 言われてみれば……そうだった。

 このメインパーティーは、久しぶりだった。

 ここ最近は『モモガーディアンズ』で活動していたからなぁ……


「まぁ、エルが気に病むこたぁねぇさぁ。

 おめぇも、聖女として忙しくなってくる。

 だから、リンダも一緒に行動できて、嬉しいんだろぉよぉ」


 ガンズロックが、俺を励ますように言ってくれる。

 どうやら、表情に出ていたようだ。


「……そうね、どうせ学校に来る以上、メインパーティーは私達。

 学校を卒業するまでは、一緒にいられるわ……」


 と、ヒュリティアが少し、さみしそうに言うが……

 俺は親友の傍を、離れるつもりはないぞ?

 俺はこう見えても、さみしがり屋で、甘えん坊なのだ!

 すっと、皆にくっついてくれるわっ!


「おいぃ……メインパーティーが、学校卒業までと

 何時……錯覚していた?

 メインは死ぬまで、メインなんだぞ!?」


 俺は、はっきりと断言した。

 俺がメインパーティーと、断言するのは、こいつ等以外あり得ない。

 なんと言うか、運命を感じ取ったから!

 俺は自分の直感を信じる派なのだ!


「わぁい! エルちゃんとずっと一緒! 嬉しいっ!」


 リンダが興奮して『ぐれーとらいおっと号』に、飛び乗り

 抱き付いてきた。


「はぁぁぁぁ……エルちゃんかわいいよぉ……くんか、くんか」


 どうやら、また病気が発病したようだ。

 リンダはしきりに、俺の匂いを嗅ぎまくっている。


「エルちゃんは、何時も果物の甘い匂いがしてるね! ハァハァ」


「あー……たぶん桃先生の匂いだな」


 毎日食べてるから、匂いがこびり付いているのだろう。

 あの森から出て、食べなかった日は、ほとんどないからなぁ……


「リンダを、そのままにしといてもいいのか?

 なんだったら、俺がツッコミ入れるか?」


 マフティが、気を利かせてくれるが……俺は丁重に断った。


「今日くらいは、好きにさせてあげようと思う」


「そうか」と言って、マフティは『ぐれーとらいおっと号』から

 飛び降りて、ブルトンと並んで歩き始めた。


 しかし……暑いなぁ? このままでは、本当に焦げてしまう。

 ……白へび君が。


 残念ながら、俺は日焼けしないで、皮膚が赤くなるだけなので

 すぐさま『ヒール』で治してしまう。

 日焼け後の皮むきが、地味に楽しかったりするのだが……

 できなくて残念である。


 日焼けした黒い肌で、夜の縁側に座り……星々を眺めながら

 キンキンに冷えたビールを、ゴキュゴキュやっていた頃が懐かしい。


 勿論、つまみは枝豆だ。 こいつが止まらないんだ!

 枝豆の甘味が、振ってある塩の、しょっぱさで引き立つ。

 偶に塩が掛かり過ぎている部分があるが……ご愛敬だ。

 その時は、ビールを流し込んで「ぷはー」と、すればいい。

 当然だな!


 キラキラ輝く星を見つつ、飲むビールは最高だ!

 夏の暑さも実にいい!

 この暑さが、ビールの隠し味と、いっても過言ではないだろう!


 風に流されてやってくる、豚さんの入れ物に入った、蚊取り線香の香りも

 夏の風物詩でいいものだ。

 風が吹けば、風鈴の澄んだ音色が、気分を爽やかにしてくれる。


 全部……過ぎ去った、過去の思い出。

 縁側に、スイカを持ってきてくれた、婆ちゃんの顔は、もやが掛かっていて

 知ることができない。

 じっちゃんが、将棋盤を持ってきて「一勝負」と言っているが……

 やはり、顔がわからない。


 そうか……俺は大切なものを、沢山置いてきちまったんだな……


 自分が、どのように生きて、どのように死んだかは……わからない。

 記憶がほとんど、欠けている状態だからだ。

 とても、大切な記憶も失ってしまっている。


 自分を産み、育ててくれた……母親の顔も思い出せないのだ。

 前世だから……しょうがない。……では、済ませたくなかった。


 俺は……自分の母親に、何かを残せたのだろうか?

 母親より長く生きて、大往生したならいいが……

 先に死んでしまっていたら……とんでもない親不孝者だ。


 しかし、それを知る術はない。

 桃先輩なら色々知っているから、教えてはくれそうだが……

 正直なところ……知るのが怖い。


 しかも、今世における……産みの親の顔も知らない始末。

 俺って……生まれながらの親不孝体質なのかっ!?


 うおぉぉ……冗談ではないっ!

 こんな……不義理な息子であってたまるかっ!!


 あ……今は女だったか。

 いや、今はそんなこと、どうでもいい! 親孝行するチャンスだっ!


 初代から受け継いだものは、記憶や経験だけではない。

 家族も受け継いだのだ。


 こんな、よくわからない珍獣を、受け入れてくれたパパンとママン。

 リオット兄とルーカス兄……

 ついでに、水槽で泳いでいる……お魚のトーマス。

 俺の全力を持って、恩返しするのだっ!!

 

 あ……


 俺の思い出が、続いていくうちに……将棋を指していた、じっちゃんの顔が

 デイモンド爺さんの顔になっていた。


 俺の大切な仲間。

 共に、困難な戦いを共に戦い抜いた戦友。

 そして……ヒーラーの生き様を、身を持って教えてくれた先輩。

 今はもう……決して会うことが叶わない……愛すべき人。


 記憶の中のデイモンド爺さんが「王手」と言った……


「えるちゃん? どうしたの? どこか……いたいの?」


 プリエナの声で、我に帰った俺は……何時の間にか泣いていたのを知った。

 不覚! どうも最近は、涙脆くなったものだ。


「いや……なんでもない。ちょっと、昔を思い出していた……」


 俺は……ある方向を見つめた。

 その方向には……大切な人が、静かに眠っている場所だ。


「皆……これは、俺の我儘なんだが……聞いてくれるか?」


「エルが我儘なんて、今更だぜ? 言えよ……地獄以外は、いってやるよ」


 ライオットが、理由すら聞かずに言ってくれた。

 ありがたいぜ……相棒!


「ラングステンの安息の地に……向かってくれ。

 大切な先輩に……報告したいことがある」


『ラングステンの安息の地』……要するに墓地だ。

 そこに、デイモンド爺さんの墓がある。


 元々、独り者だったデイモンド爺さん。

 爺さんの死後……ヒーラー協会の皆が、お金を持ち寄り……

 いや、ヒーラー達だけじゃない、デルケット爺さんや、フウタ……

 エレノアさんや、露店街の皆、商店街の人達……そして……

 決して、お金に余裕のないスラム街の人達でさえお金を出してくれた。


 デイモンド爺さんは引退後……スラム街の人々を、無償で治療していた。

 スラム街近くに、デイモンド爺さんの家があったのだが……

 間近で、スラムの人々の生活を知って、いたたまれなくなったそうだ。


 せめて、治療だけでも無償で行って、何時の日かスラムの住人が

 胸を張って生きていけるように、応援するっ……て、いうことで

 始めた、無料ヒーラー病院だったが……魔力の枯渇で……それもできなくなった。


 今は、俺が後を継いで、週一で行っているが……正直、週一じゃ足りない。

 ヒーラー協会も、慈善事業じゃない。

 レイエンさん達が、必死にがんばった結果、ようやく安定している状態だ。


 スラムの人々は、黒エルフが多い。

 職に就ければいい方、大抵は冒険者として依頼を受け……

 大けがをして帰ってきて、ろくな治療を受けれずに、この世を去って行く。


 ……俺にできることは、ただ彼等を治療することだけ……だろうか?

 デイモンド爺さんの目指したもの……

 俺にできること……


 そして、今のこの現状……


 俺の心の底に、火が灯ったのを感じた。

 今は……デイモンド爺さんの眠る墓に行こう。

 全てはそれからだ。


 俺が、ラングステンの聖女として……できること。

 デイモンド爺さんの目指したもの……


 やれるはずだ……いや、やってみせる。

 全てを巻き込んでも……やってやるぜ!


 そうさ、やってやる!

 スラムのガキンチョ共にも、凄く世話になった!

 この恩を返さずにいたら……漢が廃るってもんよ!!


 俺は、デイモンド爺さんの墓を目指す。

 大切な報告をするために……

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