魔石
こちらに向かって走ってくる、複数の生徒達。
どの顔も見知った顔だ。
だって……うちのクラスのやつ等だしなっ!
「はぁ、はぁ……間に合ったぁ! エルティナさんっ!
アスラムの実を、分けてくれないかしらっ!」
いち早く、俺の元に辿り着いたアマンダが
息をきらせて、アスラムの実を、分けて欲しいと頼んできた。
それから、少し遅れてマフティが、その後ろをのっしのっしと
ブルトンが歩いている。
更にその後ろを、プリエナが走って……? いるのかなぁ?
既に疲労が、頂点に達した状態で、こちらに向かって……
倒れたぁぁぁぁっ!? 衛生兵! 衛生兵ぃぃぃぃぃぃっ!?
結局、ブルトンに抱えられて、無事にプリエナも俺の元に到着した。
ムチャシヤガッテ……
「アスラムの実を、どうするんだ?
これは、労働者達の乾いた喉と、心を潤す使命を持った果物達なのだが……?」
俺はアマンダに、アスラムの実を、どのように使うかを説明した。
アマンダの実家の店も、被害を受けているから他人ごとではないはずだ。
「エルティナさんなら、その答えが返ってくるとわかってたわ!
取り敢えず、味見させて頂戴!」
アマンダの顔が、俺の顔に接近する!
もうちょっとで『ちゅ~』しちゃうっ!!
そこに、アマンダが挨拶しにきたと、勘違いした白へび君が
俺とアマンダの間に割って入った。
「ちろちろ」
ぶちゅっ!
絶妙なタイミングで入ってきたので、アマンダは白へび君と
くちづけを交わすはめになった!
……哀れ、アマンダのファーストキッスは、白へび君のものとなったのだ!
「あんっ! なぁに? この子……珍しい子ね?
エルティナさんのペット?」
「うんにゃ、迷子だぁ……『ぐれーとらいおっと号』に、何時の間にか乗ってた」
「ふ~ん」と、白へび君をじろじろと見るアマンダ。
照れ臭そうに、ちらちらと、アマンダを見る白へび君。
どっちかというと、白へび君の方が被害者っぽく見える……不思議っ!
「ま……取り敢えずは、試食させてやろう。
何に使うかは……だいたい、想像できるけど」
俺は『フリースペース』からアスラムの実を取り出し
同じく取り出した包丁で、一口大に切ってアマンダに渡した。
受け取ったアマンダは、それを口に放り込んで……良く味わった。
「ふんふん……んん~? これはいいわぁ……
バニラエッセンスのクリームと凄く合いそうね!
どう、配分しようかしら……スポンジは固めがいいかしら……?」
思ったとおり、アマンダはアスラムの実を
『ケーキ』の具材にしようと思っていたようだ。
上手くいけば、素晴らしいケーキになりそうだ。
「やっぱり、そういうことかっ!
ならば……持っていけいっ! どうせ、大工さん達に振舞うんだろ?」
「あ……バレた!?
まぁ……お父さんにも、手伝ってもらう予定なんだけどね?」
「えへへ……」と、舌を出して笑うアマンダ。
勿論、俺も後でケーキを食べにいくっ! 当然だなぁ!?
アマンダも相当な腕だが、アマンダの父ちゃんは、更にその上を行く!
至高の甘さの加減と、容赦ない思いきり!
予想だにしない具材の投入! それを纏める技術力!
そして、それを昇華させる芸術性あるデザイン!!
間違いなく、世界最高ランクの職人の一人だろう。
惜しむらくは……全く、自己アピールしないため
知る人ぞ知るレベルなのだ。
よくいる、頑固な職人と、いうやつだぁ……
「こいつはいいなぁ? 良い値段で売れそうだ!」
「な……何奴っ!?」
いきなり、俺の背後を取り
尚且つ……ひと口大に、切り分けたアスラムの実を、奪った謎の男が
ドヤ顔で腕を組み俺を見下していた!
そしてその男の顔は……知っている男の顔だった!
「俺の名前を、言ってみろぉぉぉぉぉっ!」
「お……おまえは!? チョモランマ・鈴木!?」
……謎の男が固まった。どうやら、違ったようだ。
んん~? 違ったか?
「い……いったい、おまえは……何ものだなん……?」
俺は、ほっぺを流れる汗を拭って、警戒しつつ言った。
「もう答え言ってるよ!? ダナンだよ! ダ・ナ・ン!」
「知ってる」
崩れ落ち、地面を手でバンバン叩くダナン。
「はぁ~……これが、ゴードンの言っていたリアカーか?
立派な物じゃねぇか! 久しぶりに仕事したって言うだけはあるなぁ!」
「えっ!? スルー!?」
見事に無視されたダナン。
何時ものことながら、不憫でならない。
でも、構ったら負けだと思う。(確信)
マフティが『ぐれーとらいおっと号』の周りを歩きながら
ため息と共に、感想を述べる。
彼の肩に乗っているてっちゃも、パチパチと拍手を送っていた。
「……魔石か……これは、例のやつか?」
「流石に目聡いな? あぁ、例の技術で試作した魔石さ」
『ぐれーとらいおっと号』の、正面の装飾に埋め込まれた
朱色に輝く石を、マジマジと見つめていたブルトンがゴードンに
知り物顔で言った。
「ねぇ、ねぇ? えるちゃん……ませきって、なぁに?」
プリエナが、魔石を眺めながら、俺に質問してきた。
ふむ、プリエナは、まだ知らないのか……よろしい! 教えて進ぜよう!
「魔石と言うのはだな……」
ざしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
俺とプリエナの会話に、割って入る二つの影!!
だれだっ!?
「……魔石と言えば……装飾職人!」
「魔石と言えば……ゴーレムッ!」
やたら、大げさにポージングを取りながら、台詞を言っていく二人。
だいたい察してるとは思うが、ゴードンとプルルである。
「我々に説明は任せて貰おうかっ!?」
二人の後ろで爆発が起こった。
アマンダが気を利かせて『ファイアーボール』を、地面に撃ち込んだもよう。
「たわばっ!?」
ダナンが、巻き込まれたが……誤差だな!
「『ヒール』プリーズ……」と、プルプルしながら、ダナンがお願いしてきたので
仕方なく『ヒール』を施す。まったくもうっ!
「ギャグキャラなんだから、すぐ治るだろっ!? 『ヒール』!」
「だれが、ギャグキャラだっ!? 死に掛けたわっ!!」
そんな、やり取りをしている間に、ゴードンとプルルの説明会が始まった。
こういうの好きそうだな、この二人……
「んっん、『魔石』というのは……魔力を持った石、というわけではなく
魔力を溜めることが可能な石……と、いう意味だ。
正式名称は『魔力蓄積石』という。それを略して『魔石』といっているのさ。
これがその魔石さ……こいつは標準サイズの一般的な物だな」
ゴードンがズボンのポケットから
様々な色の綺麗な石を出して見せてくれた。
その石達は全て透き通っていた。
対して『ぐれーとらいおっと号』の魔石は透き通ってなく
内側から輝いているように見える。
「わぁ~きれいっ!」
プリエナが、食い入るように魔石を見つめる。
確かに……綺麗な石だと思った。
「普通の魔石はただ、魔力を溜めるだけの予備タンクみたいなものなんだ。
魔力が少なくなってきたら、魔石から魔力を取り出す……
なんてことも可能さ」
プルルが魔石を手に取り、魔力を込めたり、取り出したりしてみせた。
魔石は魔力を込めると濁り、魔力がなくなると透き通った。
「……一見すると、これで魔力の枯渇が解消される……と、思うだろう?
ところが、そうは上手くいかないんだ。
……魔力の蓄積量が、石の大きさに比例するんだ。
つまり、余程大きな魔石でないと、魔力タンクとしては役に立たない」
ゴードンが見せてくれたものは
全てピンポン玉くらいの大きさの魔石だった。
そして『ぐれーとらいおっと号』の魔石は……更に小さかった。
パチンコ玉くらいの大きさだ。ちっさ!
「しかも……魔石は産出量が低く、主な産出国が、ドロバンス帝国なんだ。
だから、ゴードンが見せてくれた魔石でも
一つだいたい大金貨五枚はするんだよ?」
……マジで!? 高過ぎるっ!!
「一応……ラングステンも沢山取れるが、豆粒サイズの物しか採れなくてな……
今まで使い道がなくて捨てていたんだ」
ゴードンが、その魔石を見せてくれた。
本当に小さい! パチンコ玉サイズだ!
「でも、きれいねっ!」
プリエナが、目をキラキラさせて、うっとりしている。
やっぱり女の子は、宝石類が好きなんだろうな……
「魔石って加工して、指輪やアクセサリーにしないのか?」
俺はゴードンに、聞いてみた。
ゴードンの手の中にある、パチンコ大の魔石達も綺麗な物ばかりだ。
「するぜ? でも、そこまでする価値の魔石は、中々産出されないな」
「あ~、グレードB以上じゃないと、宝石としての価値がないんだったか?」
マフティが、ゴードンの代わりに答えてくれた。
どうやら、魔石にはグレードがあるらしい。
「うん、グレードはEからSまであるねぇ……
Aクラスだと、大金貨千枚は固いかなぁ?」
プルルが宙を見ながら、人差し指を唇に当てて言った。
とんでもない金額が出たものである。
「Aクラスで大金貨千枚かよ……Sクラスだと、どうなるんだ?」
俺は再び、ゴードンに聞いてみた。
聞くのが怖くなる金額に突入しそうだ。
「Sクラスは買えないな、いわゆる『国宝』ってやつになるんだ。
個人が持っていても大金貨百万枚なら譲るってレベルだ」
「だいたい、国が管理してるねぇ」
ゴードンとプルルが、うんうんと頷きながら言った。
見事に動作がシンクロしている。
「ラングステンにもあるよな? Sクラスの魔石。
確か……『女神の涙』だったか? このくらいのやつ」
マフティが手を上下に動かしながら説明しているが……よくわからん。
う~ん……バスケットボールくらいの大きさかな?
「あぁ、そうだ。俺も一度だけ、親父に連れられて見たことがあるが……
見た瞬間、体に電流が走った気分になったぜ?」
ゴードンが、ぶるるっと、体を震わせる。
それ程の衝撃的な出会いだったのか……
どんなものか、俺も見てみたいものである。
「おっと、話が脱線したな? 話を戻すぜ?
この豆粒サイズの魔石に、溜め込める魔力はだいたい一MPだとされている。
こっちの標準サイズの魔石はランクCで、込めれる魔力は十MP前後だな。
こいつ等を大量に持って、魔力を引き出せばいいって、思うだろうが
引き出すには一回、一回、一個ずつ魔石を手に持って
魔力を引き出さないとといけないんだ。
えらい手間だってことで、この豆粒サイズは今まで、捨てられてきたのさ」
ゴードンが、手の中にある豆粒大の魔石を、転がしながら説明を続ける。
「ところがだ……と、ある加工を施すと
こいつに魔法を仕込めることがわかった。
加工方法は秘密だが……今のところ、日常魔法程度なら可能になっている」
ここで、渾身のドヤ顔を披露するゴードン!
凄い発見をしたようだ。
「ゴーレムコアにも魔石を使ってるけど、ゴードンの発見のお陰で
ゴーレム誕生の秘密が、わかりそうなんだ!
そういうわけでぇ……製造方法教えてくれないかなぁ?」
プルルが媚びるようにゴードンに迫るっ!
しかし、まだ子供! 色気が足りないっ! 残念っ!!
「だめだ、製造方法もまだ完璧じゃない。
成功率も低いし、魔石の純度もまだまだだ。
納得いくまで、教えるわけにはいかねぇな」
流石、根っからの職人気質! 納得しないと教える気が起こらない病だ!
ぷくっと、ほっぺを膨らまし「けちぃ」と言って拗ねるプルル。
ゴードンが納得いくまで、我慢しなさいな。
「その試作型を、取り付けたのが『ぐれーとらいおっと号』ってわけだ。
実験は成功……あとはこいつを、安定して作れるようにしていくわけだ」
ニヤリとゴードンが笑った。
「幸い……そのサイズは、ラングステンで大量にとれるからな」
ブルトンが、フォローするように付け加える。
「へ~? すごい、いしなんだぁ?」
プリエナは、よくわかっていないもよう。
なんとなく、周りに合わせて、わかった振りをしているみたいだ。
たぬ子……賢い子っ!
「なるほどっ! 俺じゃあ、わからねぇことがわかった!」
ライオット……それは、威張っていうものじゃないぞっ!
「魔石に関しては、こんなところか?
もっと詳しく、説明して欲しいならするぜ?
ただし、三日ほど説明する時間を貰うことになるが……」
「んふふ……それくらいで、終わればいいけどねぇ……?」
ニタリと、ドス黒いオーラを纏うゴードンとプルル。
「けけけけけけけけ……!!」
「くうぃぃぃぃぃひっひっひっひっひっひ……!!」
遂には、狂ったように笑い始めた。
これは暴走状態と判断してもいいだろう。
「マフティ、ゴードンを頼む。
俺はプルルに、ツッコミを入れる」
「任せろ」
俺はプルルに、斜め四十五度チョップを、マフティはゴードンに……
踵落としを決めていた。
……ゴードン白目になってるけど、死んでないよな?
それを見ていた、フォクベルト達がドン引きしていた。
一応『ヒール』かましておくか……
取り敢えず、正気に戻ったプルル。
気を失ったゴードンは『ぐれーとらいおっと号』に突っ込んでおいた。
尚……ゴードンを、突っ込んだのはブルトンである。
『ゴツンッ』って音がしたが、大丈夫だろうか?
ん? そういえば……マフティ達は、俺に何の用だったんだろう?
まぁ、町に向かいつつ、聞いてみるか……
少し遅くなったし、そろそろ出発しないとな。
「おしっ! 『ぐれーとらいおっと号』発進だ~」
「任せろ~!」
ライオットに、燃料となるアスラムの実を渡し
ひとまず、フィリミシアの商店街を目指し、出発したのであった……