ちろちろ
◆◆◆
「……で、あるからして……」
眠い! 猛烈に眠いっ!
この単調な喋り方っ! 盛り上がりのない授業内容っ!!
どうして、こうまで眠くなる授業ができるのだっ!?
俺は今、三時限目の授業『歴史』の授業を受けていた。
俺は『歴史』の勉強は好きだ。
しかし……初代は、あまり好きではなかったらしく
所々、知識が抜け落ちていた。
それは、基本的な部分でさえ、忘れているという、徹底したものだった。
せめて……今の王様が何代目かくらいは、覚えていていて頂戴っ!
そんなわけで、俺は『歴史』の授業を
積極的に勉強しているわけなのだが……この有様だよっ!
気を抜くと、うとうとしだすは、涎は垂れてるはで
いらんことに労力を、使うはめになっている。
歴史の授業を担当している、お爺ちゃん先生こと
ゴドウィン・サーキス先生に、悪気はないのだろうが
授業自体が既に催眠術状態だ。
教室内に、起きて授業を受けている生徒は、いったい何人いることやら……
彼は、くたびれた茶色いスーツを身に纏い、曲がった腰を
時折トントンと叩きながら、お経のように喋る
白髪のバーコードハゲの人間男性である。
温和で優しいため、寝ていても怒らないのが、余計に居眠りする生徒を
増やす結果になっているようだ。
優し過ぎるのも問題だなぁ……
俺は周りを観察してみる。
リンダ、ガンズロック、ダナン……死亡確認!
……と、いうか起きてるやつを、探した方が早いか。
最早、寝てるやつの方が多い。
んんと~?
委員長と、副委員長は流石に起きてるな……
フォクベルトも生存を確認っ! やるなっ!?
ヒュリティアも起きてるなぁ……意外!(失礼)
うおっ!? ユウユウも起きてらっしゃる! 意外と真面目だなぁ……
そして、俺の目は……エドワードで止まった。
エドワードは姿勢を正し、ペンを右手に持ちジッ……と、黒板を見つめていた。
だが、ペンを持った手は全く動いてはいなかった。
信じられるか? こいつ……寝てるんだぜ?
そう、エドワードは、目を開けたまま寝てるのだっ!
これは最早、特殊能力扱いでも、いいのではないのかなっ!?
ざっと数えたところ……四十人中、起きていたのは俺含め……
たった八名だった。皆、寝すぎぃっ!!
俺が心の中で、エキサイティング・ツッコミを、したところで
授業終了を知らせる鐘が鳴った。
その音をきっかけに、寝ていた生徒達は『ばちっ』と
一斉に目を覚ました。約一名、イビキかいて寝たままだが……
「はい、それでは、ここまでとします」
こうして、歴史の授業が終わる。歴史の授業は何時もこんなものだ。
テストの時も、丸暗記でなんとかなるからなぁ……
「お~き~ろ~!」
起こさなければ、ずっと寝続けるライオットを、揺さぶって起こす。
が、反応しない……耳と尻尾が時折、ぴくぴく動いているところを見ると
寝ぼけている可能性が高い。耳に息吹きかけるぞ? このやろう。
「昼飯、食いにいくぞ~!!」
俺の『飯』の言葉に反応して、勢い良く飛び起きるライオット。
食い意地張り過ぎぃ!!
「うおっ!? もう、そんな時間かっ!? 急げっ!」
バタバタと、食堂に走っていくライオット。
その姿を、やれやれ……と、見送る俺達。
最早、このクラスの名物風景である。
「エルは、寝なかったのね?」
ヒュリティアが、俺の隣にきて食堂に行こうと誘ってきた。
「俺は誘惑には強いんだ……食べ物以外はな?」
そう言って、二人並んで食堂に向かう。
そのすぐ後に、リンダ、フォクベルト、ガンズロックの
何時もの面々が合流する。
そして、今ではそこに、ザインも加わりとても賑やかだ。
大勢で食べるご飯は、とても美味しいものだ。
さぁて……今日は何を食べようかなぁ?
◆◆◆
放課後なう。
「どうでぇ? 中々の力作に仕上がったぜぇ?」
「ほぅ……これは、良い物だぁ……」(うっとり)
俺達はガンズロックに案内され、グランドの隅に置いてあった
ぐれーとらいおっと号を、受け取りにきていた。
以前は、ただのくたびれたリアカーだった物が、見違えるような
立派な物へと生まれ変わっていて、俺は見惚れてしまった。
木の板を張っただけの車体は、黒く塗られ金色の装飾に彩られていた。
「装飾はゴードンに依頼した。こいつぁ……てぇした腕前だなっ!
将来はコンビ組んで、最高の武器を作ってみてぇもんだ!」
「……よせよ、照れるじゃねぇか」
ぽりぽりと頬を掻くゴードン。どうやら、相当嬉しいようだ。
こんなゴードンを、見るのは初めてのことだ。
彼は、普段は褒められても、態度を崩すことはないからな。
は~しっかし……大したものだぁ! 素人目でも、凄い仕事だとわかるぞ!
うおっ!? ちゃんと『ぐれーとらいおっと号』って彫ってある!
ゴードンさん、マジパねぇっす!
「んふふ……僕も手伝ったんだよ? ほら、ここを見てごらん!」
プルルが、車輪部分を注目しろと、言ってきたので見てみると……
こっこれはっ!? サスペンション!?
「以前乗った時、衝撃が直にお尻にきたからねぇ……
キャタピノン……いや、いもいも坊や達も転がってたしね?
少し工夫を加えてみたよ! これは、ゴーレムの技術を応用したものさ!
これで、衝撃を和らげることが、できるはずだよっ!」
満面の笑みで、自信たっぷりに言ったプルル。
これは、中々凄いことになっているな……
我クラスの、技術スタッフ三人による、合作とは恐れ入った!
「よし、早速メインエンジン接続せよ~」
「おうっ」
ライオットがリアカーとドッキングする。
『ブッピガンッ!』……と、聞こえた気がした!
「おぉ……すっげ~軽いなっ!? 素材も変えたのか?」
リアカーを、軽く引いたライオットが、驚きの声を上げた。
ライオットが驚くくらいなのだから、相当軽くなったのだろう。
「あぁ、うちに魔石の欠片が余ってたから『軽量化』の魔法を仕込んで
装飾に埋め込んでみたのさ。上手くいったようだな?」
ドヤ顔のゴードン。
やっぱり、上手くいった時って、こういう顔になるよなぁ?
「よしっ! 乗り心地も確かめねばっ!」
俺はリアカーに試乗すべく、よじよじと……よじ登る。
しかし……そこには、先客がいた!
「ちろちろ」
「あっどーも」
とぐろを巻いた、小さな白い蛇が舌を『ちろちろ』させて
凄く気持ち良さげに、日向ぼっこしていた。
車体が黒いから、日光を吸収して暖かいのだろう。
でも、ずっとそこにいたら、白い身体が焦げちゃうぞっ!?
「ガンちゃん! 先客がいるぞっ!?」
俺の声に皆が、リアカーにいる、白い小さな蛇を見た。
「ん~? この子は……なんなんだろうねぇ?
サンドスネークじゃなさそうだし」
プルルが首を捻る。
「ポイズンスネークでもねぇわなぁ?
あいつらぁ、見た瞬間に襲ってきやがるからなぁ……」
ガンズロックも首を捻る。
「……しっかし、大人しいやつだな? ペット用の蛇……?
もしかして……キューピットスネイクか?
……でも、あいつ等はピンク色の鱗だしなぁ?」
ゴードンも首を捻る。
結局、何もわからない、変な蛇だった。
「あれ? 蛇はどこにいった?」
ライオットの声に皆が、白い蛇が何時の間にか、いなくなったことに気付く。
皆、慌てて探し始めるが……
「ここにいるぞ?」
その白い蛇は、俺の膝の上で、うとうとしていた。
より、温もりを求めて移動してきたのだ。
「人懐っこ過ぎ……蛇って、ここまで懐いたかしら?」
ヒュリティアが、興味深そうに蛇を覗きこむ。
それに気付いた蛇が、ヒュリティアの鼻をペロッと舐めた。
挨拶のつもりなのだろうか?
そして、そのまま首を下ろして、寝てしまった。
……無防備過ぎるぅ!
「う~ん……だれかに、飼われていた可能性が高いねぇ?
じゃないと、ここまで人を怖がらない理由がわからないよ」
プルルはこの蛇が、だれかに飼われていたと断定したもよう。
確かに……この蛇には、野生の匂いが感じられない。
更にはハングリーな感じもしない。
非常に、穏やかな感じしかしないのだ。
「このまま、放っておくと……食べられちゃいそうだな?
一応……保護しとくか? これも何かの縁だし」
俺の提案に、皆が賛成してくれた。
最悪、飼い主が見つからないのであれば、うちで面倒見ればいい。
うちの連中なら、きちんと面倒見てくれるだろう。
とくに、ぶちまるは、世話焼きだからなっ! 安心だっ!
ひとまず、この件は保留にして、復興に携わる労働者達に
アスラムの実を、奢りに行く作業を、開始しないとな!
「よしっ! では、フィリミシアの町に乗り込め~」
「お~い! まって~~!!」
さぁ、行きましょう……と、いうところで『待った』が掛かった。
いったい、だれなんですかねぇ……?