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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
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雪希

 その後、ルドルフさんの着替えを待ちつつ

 フェンリル母ちゃんのことを聞いてみた。

 よくよく考えたら俺達は、まだ名乗り合ってすらいない。


「まだ名前も、言ってなかったな?

 俺の名はエルティナだ、よろしくなっ!」


 俺は全裸の、フェンリル母ちゃんに、元気良く名乗った。

 裸体を隠す気など毛頭ないようだ。

 うん、元々全裸だしなぁ……この毛玉も全裸ってことだぁ。


 俺に抱っこされて、すぃよ、すぃよと、寝息を立てている毛玉。

 あれだけの傷を、我慢していたのだから、仕方がないことだろう。

 むしろ、よく起きていられたものだ。


 口から少し、ベロをはみ出させて

 気持ち良さげに寝ている、毛玉の頭を撫でてやる。

 気持ち良いのか「くぅ」と微かに鳴いた。


「私の名は、ルリティティスだ。ルリ……と、でも呼んでくれ」


 ルリと名乗ったフェンリル母ちゃん。

 腕を組み胸を強調するポーズは、危険極まりない。

 ここには健全な男子が、二名いるのですよっ!?


「拙者はザインと申す! 以後、お見知りおきをっ!!」


 と、目を瞑り明後日の方向を向いて、大声で自己紹介していた。

 ……そういう手できたか。

 俺達は、まだ七歳児だが……やっぱり、この年まで成長すると

 異性の裸は抵抗あるよな?


 中には、気にしないやつもいるが……ライオットとか。

 あいつは女子が教室で、運動服に着替えている最中に

 堂々と入ってくる剛の者だ。……ある意味、真の勇者だな。


 ザインの挨拶も終わり、桃先輩とビースト隊の紹介を終えた頃

 ようやくルドルフさんの着替えも、終わったようだった。

 重鎧なんて、着こむの大変そうだな。


「さて、君達には随分と世話になった。

 このまま帰してしまうのは、フェンリルとしての沽券に係わる。

 こちらに付いてきてくれ」


 ルリさんに付いていくと、氷の迷宮の最奥に辿り着いた。

 最奥って言っても、すぐ隣の部屋だが……

 ぶっちゃけ、ここで照り焼きチキンサンドを食べていた。


 ルリさんが壁に手を当てると、壁が動き出し

 人が通れるくらいの穴が現れる。

 氷の精霊が『いっそげ、いっそげ』と言って

 せっせと氷を動かしているのが見えた。そう言う原理だったのか……

 

 中に入ると……金銀の財宝が、俺達を出迎えてくれた。

 なるほど、ここはフェンリルの宝物庫だったわけだ。

 広い部屋を埋め尽す勢いで、無造作に金塊や豪華な飾りのついた

 剣や鎧が転がっていた。


「これは私の死んだ夫が、趣味で集めていた、よくわからないものだ。

 君達なら価値もわかるだろうから、好きな物を持っていくといい」


 おぉ! なんという太っ腹! クエスト報酬ってやつだなっ!

 う~ん! 色々あり過ぎて目移りしちゃうんだぜっ!

 この腕輪なんてどうだろうか? このネックレスもいいぞぉ……!?


「なん……だと……!?」


 あれこれ見て回っていた俺の目を、釘付けにする物がそこにあった。


 そこにあった物とは……氷の木になった、透き通る氷の果物だ。

 果物の奥の壁が見えるほど、透き通っている。

 色は、ほんのり青い色が付いている。

 そうだな……例えるならリンゴの形をした、氷の果物ってところかな?


「ルリさん! あれ! あれが欲しいっ!!」


 俺は興奮を抑えきれずに、氷の果物を指差して言った。

 興奮して出した声に、ビックリしたのか「きゅ~ん?」と鳴いて

 毛玉が起きてしまった。


 おっふ……ごめんよ毛玉? まだ寝ててもいいぞ?

 俺が頭を撫でてやると、小さな欠伸をして、また……うとうとしだした。


「ふむ……構わないが、あれは私達が普段食べている『アスラムの実』だ。

 別に高価でもないし、特殊な効果もない普通の実だが……それでいいのか?」 


「それがいい。取り敢えず一口食べてみたい」


 俺は興奮を抑えつつ興奮した。

 毛玉が起きてしまわないようにするのも一苦労だぁ!


 ルリティティスさんが、氷の木『アスラムの木』に近付き

 そっと木に手を当てる。すると……実が一斉に落ち始めた。

 落ちた実は地面に当たると、ぽよんっ! と、バウンドした。

 硬そうに見えるが、どうやら柔らかい実のようだ。


 次々に、氷の地面に落ちていくアスラムの実……って、多い多い!

 いったい何個、木に生っているんだ!?


 俺は慌てて、アスラムの木を観察した。

 実がぽとりと落ちた次の瞬間、凄い勢いで次の実ができあがっていた。

 何これ凄い、永久機関ですか?


「最近……妙に、この子の調子が良くなってね……

 今ではアスラムの実を、いくらでも作れるんだよ」


「スゲェ」


 山盛りになったアスラムの実を、一つ手に取り食べてみる。


「いただきます! はむっ」


 こ……これはっ! 果物と言うよりは『グミ』だこれっ!


 実をかじると、グミ特有の柔らかい弾力が、歯を楽しませてくれる。

 それをかみ切り咀嚼すると、ひんやりとした実から

 ジューシーな果汁が、溢れだしてくる。甘くて美味しいっ!!


 そして、口に広がる爽快感の正体は……

 そう! 炭酸飲料のしゅわしゅわ感だ! 超クール!

 そういうことかっ! この実は『ソーダグミの実』だったのだ!


 ここでは寒くて、爽快感が減ってしまっているが、残暑が残る

 フィリミシアで食べれば、素晴らしい爽快感が期待できるだろう!

 そして、サイズもリンゴくらいの大きさなので、結構お腹に貯まる!

 これはいい! こいつを頂いて帰ろう!


 むちっ……ぷつん! くみっ、くみっ、しゅわしゅわ……ごくん!


「ごちそうさまでしたっ!」


 俺は疲れた心を癒してくれた、アスラムの実に感謝した。

 そして、ルリティティスさんに、アスラムの実を貰うことを告げた。


「君は変わっているな……勿論いいとも、沢山持っていくといい。

 なくなったら、ここに来れば、分けてあげよう」


「やったぜ、ありがとうルリさん!」


 フリースペースに、大量のアスラムの実を、突っ込んだ俺。

 これで、残暑厳しいフィリミシアで、復興にがんばっているやつらの

 乾いた喉と心を潤してやれるなっ! ナイスあいでぃあっ!


「君はいらないのか? ザイン君」

 

 ルリティティスさんが、黙って佇んでいるザインに声を掛けた。


「拙者はルリ殿と、会いまみえた際に、頂戴しました故に」


 ザインは右手をギュッと握り、それを見つめた。

 あの戦いで何かを得たのだろうか?


「ルドルフさんは?」


 俺が何も物色していないルドルフさんに聞くと……


「私ですか? もう、貰いましたよ?」


 そう言って、ルリティティスさんの肩を抱き寄せた。

 ルリティティスさんも、ルドルフさんに体を預ける。

 はいはい、ごちそうさまっ! 呪われろっ。


「ということは、毛玉に新しい父ちゃんができたわけか……

 そういえば、毛玉の名前って?」


「その子の名前は……まだ、付けていない。

 死んだ夫が付けると言って、付ける前に死んでしまってね。

 そうだ、エルティナ……君がその子に名前を付けてやってくれないか?」


 俺が……毛玉に?

 俺は毛玉をじっくりと観察した。


 ライトブルーの、綺麗な毛並みの子犬だ。

 足と尻尾の先端が純白なのが特徴的だ。

 鼻と肉球は桃色、瞳はまるでアクアマリンのような、美しい水色。

 大きくなれば、ルリティティスさんのように

 綺麗なフェンリルになるのだろう。


 むっ! 象さんが付いていない! 

 女の子か……では、かわいい名前がいいな!

 青い毛並み……『ぶるーはわい』なんて、どうだろうか?

 いいかもしれない! これでいこうっ!


 その時、不思議なことが起こった!

 頭の中に「その名前を、名付けるなんて、とんでもない!」と

 響いたのだ! これはいったい……!?


 うむむ、これがダメだなんて……他に何か良い名前は……!?


 悩む俺の顔を、毛玉がペロッと舐めた。

 その時! 俺に電流が走った!! これならいける!

 この子の名は『ぺーねろぺー』でどうだろうか!?


 再び頭の中にあの声がっ!!


「その子に『ふらいとゆにっと』の実装予定はありません」


 ちぃっ! これでもダメかっ! ゆるせんな! ラフティー!!

 ……ん? 違ったかな? まぁいいか。


 ぐぬぬ……どういう名前なら、いいのだろうか?

 ふと……頭に名前が浮かんできた。この名前は……!?

 この名前には、憶えがある。

 何時……どこで……思い出せないが、とても大切な名前だったはずだ。


「おまえの名は……『雪希ゆき』だ」


 俺は毛玉を持ち上げて、そう名付けた。

 舌を出して、嬉しそうに尻尾をブンブンふる。

 毛玉の中に……違う姿が見える。


 白くて……大きくて……桃色の首輪をした……犬?


 気が付くと、その姿は消え……目の前には毛玉。

 いや……雪希がいた。


 これはいったい……でも、悪い気分はしなかった。

 たぶん、俺の失った記憶が呼び起こされたのだろう。

 とても……とても、懐かしい気持ちになったのだから。

 凄く大切な記憶……だったのだろう。


「おまえは雪希だ……」


 俺はキュと、雪希を抱きしめた。

 大切な者と再会した時のように…………

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