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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
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堕ちし者

「目標沈黙『鬼の種』の、破壊を確認。

 作戦終了だ……皆、よくやってくれた!」


 桃先輩の作戦終了の声に、皆が安堵と共に膝を付く。

 今回の戦いは、明らかに格上との戦いだった。

 まともにやり合えば、どんな被害を受けていたか、わかったものじゃない。

 桃先輩の指示や、ルドルフさんのガードスキル。

 ザインの身を削る必殺の一撃で、辛くも作戦を達成できた。


 更には、ムセル達ホビーゴーレムの大活躍だ。

 小さい身体に、納まりきらない勇気が勝利を呼び込んでくれた。

 野良ビースト……いや、もう……そんな呼び方はできないか。

 ビースト隊の活躍あっての勝利だ。

 今のところ、陽動や撹乱は彼等あってのものだ。


「皆のお陰で、母ちゃんフェンリルを救えた、ありがとう!」


 俺は皆に、頭を下げて礼を言った。


「御屋形様! そんな勿体ないっ!! 拙者がもっと強ければ……!!」


「ザイン君。

 君一人が強くても、この結果には至らなかったですよ?

 皆の短所を、皆で補ったから……こその勝利です。

 皆は一人のため、一人は皆のために、力を尽くした結果です。

 君一人が、責任を感じる必要はありません」


 流石、ルドルフさん! すかさずザインの、フォローをしてくれる!

 ザインは一人で、背負い込み過ぎる感があるからな。

 ルドルフさんの気遣いは、見習いたいぜっ!

 

『えるてぃな、だいじょうぶ? ともだち、おきた』


 毛玉が無事に意識を、取り戻したことを、ヒュウが教えてくれた。

 淡い水色の毛玉がこっちを見て、きゅんきゅん鳴いていた。


「ふきゅ~ん? きゅきゅん。(具合はどうだ? 毛玉っ子)」


「きゃんきゃん、きゅ~ん?(大丈夫だよ、お姉ちゃんはだれ?)」


 毛玉のつぶらな青い瞳に……不安の色。

 それは……自分を痛めつけた者に、感じる恐怖だ。

 また、同じことをされるのではないかと、不安になっているのだろう。


「ふっきゅ~~~~んきゅんきゅん。ふきゅん、きゅんきゅん。

 (俺はラングステンの一流ヒーラー。

  ヒュウに頼まれて、おまえ達を治療しにきた)」


「きゅ~ん? くぅ……あんあん!?

 (ほんとう? あ……けがが治ってる!?)」


 毛玉が自分の体の状態を、確かめるように動き回った。

 やっぱり、淡い水色の毛玉が

 もふもふ動いているようにしか見えなかった。もふもふ。


 その隙に、親フェンリルの治療を済ませてしまう。

 お母さんのけがを見たら、悲しくなるのは間違いないからな。

 この子には、もう悲しい思いはさせたくない。


「あん! あん、あんあんっ!!(ありがとう! もう、痛くないよっ!)」


 毛玉が尻尾を、千切れんばかりに振って、お礼を言った。

 そんなに振ったら、本当に千切れるぞっ!?


「ふっきゅん。(それは何より)」


 毛玉を抱き上げ、頭を撫でてやる。

 目を細めて、気持ち良さそうにしている毛玉。 

 そうだ、本来……あんな酷い目になんて、されるわけないんだ。

 幸せに……穏やかに過ごしていたはずなんだ。

 いったい、だれが……こんな酷いことを!?


「あ~あ……せっかく苦労して『鬼の種』を植えつけたのに

 無駄にしちまってぇ! こっちのことも、考えてくれませんかねぇ!?」


 っ!? この声はっ!!

 聞き覚えがあるっ! 忘れようもないっ!


 声の方を向けば……やつが居た!!


「ん~、久しぶり……と、言えばいいのかな? エルティナさん?

 それともぉ……初めましてかなぁ? くひひひひっ!!」


「マジェクト・エズクードッ!」


 忘れようにも忘れられないっ!

 初代を陥れ、殺害に加担した三人の内の一人、魔法使いマジェクト!!

 紫の短い縮れ毛に、薄い眉毛、人をバカにしたような表情を常に保っている

 いけ好かない貧相な小男。身なりだけは豪華にして虚勢を張っている。

 なんだ、その黒に金色の魔法使いのローブは!? 似合ってないんだよ!


 そして、この気配は……間違いない! 『陰の力』!!

 ……てめぇ! 鬼に堕ちていたのかっ!!


「アランには、手を出すなって言われてるんだけどよぉ……

 ここまでされちゃぁ~引っ込みが、つかねぇんだよ?

 あの、いけ好かねぇ博士にも、言い訳ができねぇ……

 つ~わけでぇ……い~い土産がさぁ……要るんだよぉ!?」


 マジェクトの『陰の力』が膨れ上がったっ!


『こちら桃夜少佐! 鬼と接触した! 鬼の危険レベル……二十五だ!!

 桃大佐! 対鬼戦闘たいきせんとうを開始する!!』


『こちら桃大佐! 了解した! 対鬼戦闘……承認!

 だが連戦による損耗が激しい! 場合によっては撤退も考慮しろっ!』


 ……あぁ!? 撤退だぁ!?


『撤退は……なしだっ!! やつは絶対に仕留めるっ!!

 初代のみならず……こんな子供までも、手に掛けるやつを

 見逃すつもりはねぇっ!!』


 既に俺の血液は、逆流して沸騰しているっ!

 この怒りは……留まることを知らないっ!!(激怒)


『エルティナ! 『桃源光』用意!! 来るぞっ!

 言ったからには……やってみせろっ!!』


 流石、桃先輩! わかっておられるっ!

 やってやんよぉぉぉぉぉっ!!


「ひゃぁははっ! 魂までも腐り果てろぉ! 『黄泉の光』!!」


 マジェクトから、赤黒い光が溢れ出した!

 見ただけで、不快になる光! 『黄泉の光』だ!

 触れれば、たちまちに腐り果てる。生きる者にとって……この上ない害だ!


「とぉぉぉぉ、げんっ! こぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 対して俺は、『黄泉の光』に相反する力『桃源光』で

 陰の力を陽の力で相殺する。

 これでようやく、鬼に対抗することができるのだ。

 普通の人は鬼と戦うなっ!? 俺との約束だっ!


「はっ! 『桃源光』かよぉ!? 賢しいんだよっ!

 堕ちやがれっ! 『魔鬼呪怨弾まきじゅおんだん』!!」


 マジェクトの手から、無数の赤黒い光弾が放たれた!

 この野郎! 直接『黄泉の光』を、俺達に撃ち込む気か!!


『エルティナ! 「桃結界陣」!!』


「応っ! 『桃結界陣』!!」


 桃色の結界が『魔鬼呪怨弾』を弾くっ!

 しかし『桃結界陣』も、受けた個所が砕けてなくなっている!

 威力高過ぎぃ! 何度も受けてられないぞ!?


『なんだ!? この威力は!! 鬼レベル二十五の威力ではないぞ!?』


 桃先輩が驚愕の声を上げた!

 やっぱり、すっげー威力だったのか。


「相手は魔法使い……懐に飛び込めばっ!!

 いざっ! 参るでござるっ!!」


 ザインが、マジェクトの懐に飛び込み、居合で切り捨てようとする!

 だが、マジェクトは余裕の態度を崩さない!


「バ~カ、対策してねぇとでも……思ったのかよぉ!?

 喰らえ! 『暗火牢苦あんかーろっく』!!」


「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ザインが、薄暗く四角い炎の牢獄に捕らえられた! カウンター持ちかよっ!!

 みるみる内に、ザインの生命力が削られていく!

 うおぁ!? 『ヒール』だ! 『ヒール』!!


 俺はザインに『ヒール』を施すが、回復しても

 みるみるうちに、生命力が減ってしまう。

 これでは、いたちごっこだ!! 


『ムセル! 「裂破桃撃拳」! 目標……「暗火牢苦」!!』


 桃先輩の指示。

 ムセルが構えを取り『裂破桃撃拳』を放った!

 正確無比な一撃は『暗火牢苦』を消し飛ばすっ!!

 無茶すんなぁ!?

 衝撃でザインが壁際まで吹っ飛んだ。


「ひゅ~! いいねぇ? 久しぶりに、いい運動ができそうだぁ!

 楽しませてくれよぉ? 『死苦利霧存ですくりむぞん!!』


 マジェクトから赤黒い霧が放たれた。

 俺は『桃結界陣』を張るが……

 なんと素通りされた! どういうことだっ!?


『桃大佐っ! この鬼の使う『陰技いんぎ』は、どれもデータにないものだ!

 データ収集と対策をっ!!』


『了解した! できるだけのことはするが……実情、君達のみが頼りだ!

 決して無理はせず……最悪、撤退も視野に入れておくんだ!』


 そいつは、できねぇ相談だ!

 撤退なんざぁできないし、させてくれねぇよっ!!


「ひゃぁあはははっ!! 時代遅れの結界なんざぁ……こんなもんよぉ?

 さぁ……苦しめぇ! 悶えろぉ! そして……堕ちろぉ!!」


 があぁっ!? こ……これは!?

 まずい……この霧は体よりも、精神を攻撃するものだ!!

 このままじゃ、皆……鬼に堕ちちまう!!

 霧が……心を……魂を……暗闇に引きずり込んでいく……


 既に全員、立つこともままならず、片膝を付く者

 あるいは、倒れ伏す者が続出する。

 俺も顔面から地面に突っ伏していた。(痛い)


「ひゃはは! 堕ちたな……ぐぁ!?」


 マジェクトの『死苦離霧存』が解除された!


 どういうことだと、顔を上げれば親フェンリルがマジェクトに

 輝く息を吹きかけていた!

 どうやら、意識を取り戻したようだ。


 でも、俺フェンリルに『桃の加護』付与してないけど……

 あ……そうか! 『桃源光』で中和されているから、親フェンリルでも

 攻撃が通るんだ!(名推理)


 助かった! もうダメかと思ったよ!


「許さん……子供を傷つけ、私を利用し、その上……子の命の恩人を

 殺めようとは! 我が力を以て……おまえを滅ぼす!!」


「ちっ! いい気になるなぁ! 犬っころがぁ!!

 死ねやぁ!! 『魔鬼怨束槍まきおんそくそう』!!」


 マジェクトの手に、赤黒い光の槍ができあがる。

 それを親フェンリルに向けて……投げた!


 ……おっそ! 俺でも見える程度の速度で、親フェンリルに向かっている。

 これなら、余裕で回避できるな!


 しかし、親フェンリルは避けようとしない……違う! 動けないんだ!!


 親フェンリルの足に、赤黒い光が纏わり付き、動きを封じている!!

 しかも毛玉までいるじゃねぇかっ!!

 やばい、やばい……!!


「さぁ……当たるまで、存分に恐怖を味わぇ? きひひひひひっ!!」


 必死にもがくが、拘束を解くことはできないでいる!

 このままじゃ、直撃しちまうっ!

 待ってろ! 今俺が行くぞぉぉぉぉっ!!


「下がって! 『タフネススピリッツ』!!」


 ルドルフさんが、親フェンリルの代わりに

『魔鬼怨束槍』の直撃を受けた!!

 盾は……貫通してる! 防御もできないのか!!


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ルドルフさんは壮絶な悲鳴を上げ、地面をのたうち回り……

 やがて動かなくなった。


「ひゃぁぁぁぁっはははははぁ!! まずは一匹ぃ!」


 愉快そうに笑うマジェクト。

 この野郎っ! やりたがったな!? 許さねぇぞ!!


 俺はルドルフさんの魂数値を、恐る恐る確認する……

 あ! 残ってる! よかった、死んでない!

 ……5しか、残ってないけどな!! 急いで『ヒール』じゃぁぁぁ!!


「人の子よ! 何故……私を庇った!? あの程度、耐えて見せた!」


 ルドルフさんは、苦しげに……その問いに答えた。


「私が……護ったのは……その子の、未来……」


 そう言うと、ルドルフさんは、気を失った。

 その答えを聞いたフェンリルは、目を見開き震えていた……


「怒りで周りが見えずにいた私の代わりに、命を賭けてこの子を……

 この子の未来までも、守ってくれたというのか!?

 許せ……! 心優しき騎士よ!!」


 フェンリルの目に、涙が溢れだしていた。

 己の過ち……そして、ルドルフさんの勇気ある行動に、心震えたのだろう。


 俺はルドルフさんに『ヒール』を施す。

 生命力は回復しても、気を失っていては、もう戦えない。

 魔法で無理やり、起してたら寿命が縮むので最後の手段だ。

 俺と違って、寿命がある者に使いたくはない。

 あとは、俺がなんとかする……ゆっくり休んでいてくれ。


「フェンリル母ちゃん、ルドルフさんをよろしく」


「しかし……!」


 俺は、フェンリルをジッと見つめた。

 やがて、観念したように頷いてくれた。

 こっからは『桃使い』である……俺の仕事だ!!


 マジェクトの『死苦離霧存』で、殆どのメンバーは戦闘不能だ。

 俺以外で戦えるのは、ホビーゴーレム達のみ。


「行くぞ! ムセル! イシヅカ! ツツオウ! 鬼退治だっ!!」


 不気味に笑う、鬼に堕ちたマジェクトと対峙する俺達。

 ザインは道を切り開いてくれた。

 ルドルフさんは、未来を護ってくれた。

 ビースト隊は、それを支えてくれた。


 あとは、俺がマジェクトに勝利し、明日を掴む!!

 カーンテヒルの桃使いの力……思い知れ! 『堕ちし者』!!


 俺は……俺の中の『桃力』が、熱く渦巻いているのを感じた……!

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― 新着の感想 ―
[一言] 前世不良だったのかな?
2021/07/29 11:15 思いつかない!(八つ当たり気味)
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