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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
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氷の迷宮

 ◆◆◆


 森の主、グレオノーム殿から森の通行許可を頂いた拙者達は

 ヒュウの友人がいる場所に急いだ。


 しかし……御屋形様の御力は、拙者の想像を遥かに超えるでござる。


 獣達の話がわかる……までなら、普通の者は御屋形様を

『び~すとていま~』とかいう獣使いと、同等に捉えるであろう。


 だが『獣と会話する』では、わけが違うでござる。


 これは、獣の言うことを、正確に把握し

 理解しなければ、成立しないからでござる。


 会話とは、言葉のやり取り。


 よもや、御屋形様が獣の言葉を理解し、獣が理解できる言葉を……

 拙者は未熟故「ふきゅん」としか聞こえぬが……

 発せれるとは、思わなんだでござる。


 ルドルフ殿は、御屋形の「ふきゅん」を

 理解しているようでござったが……

 いったい、どのような修行を積まれたのか、今度聞いてみるでござる。


 御屋形様の「ふきゅん」のお陰で、戦闘らしき戦闘もなく

 順調極まりない進行でごさった。


 森で出くわした『狩り熊』然り……森の主グレオノーム殿然り……

 ただ闇雲に、力で押し通ればいいものではない。

 そのことを……改めて思い知ったでござる。


 拙者が力で、ことを推し進めていたならば

 このような速さで、この森を進むことは、できなかったであろう。

 御屋形様には、学ばされることばかりでござるな。


 しかし、中には「ふきゅん」に、応じぬ獣も居る可能性が

 無きにしも非ずでござる。

 その場合は、如何様いかようにするでござろうか?

 ここは一つ、御屋形様に問うてみるでござる。


 拙者は、狩り熊に乗った御屋形様の横に並び、話しかける。


「御屋形様、道中「ふきゅん」が通じぬ獣がいた場合……

 如何様になされるおつもりか?」


「その場合は、適当に攻撃して追っ払ってくれ。

 それでも、襲ってくるやつは……仕留めてくれ」


 ……なんと!? 命を取れと!!

 御屋形様の口から、そのようなお言葉が出るとは、思いませなんだ!


「ここは、自然の掟が支配する大自然だ。

 弱いやつが食われ、強いやつが食う。

 その掟に従って、生き物達は日々、この世界を生きている。

 それは、俺達も含まれる。

 無暗に命を奪うのは本意ではないが、生きるために命を奪うのはやむなしだ。

 仕留めた獣は、きちんと美味しく食べて、弔ってやるようにな?」


 そう言って、再び前を向いた御屋形様。

 なるほど……信念を持って行動し、実践なされておるのでござるか!

 このザイン! 感服した次第でござる!

 御屋形様に、どこまでもお供することを、改めて誓うでござる!


 良き主君に出会えたことを、深く竜の神に感謝し

 拙者は進む、暗く深い森の中を……御屋形様達と共に。


 ◆◆◆


『ここ、ここに、ともだち、いる、くるしんでる、たすけて』


 ヒュウに案内され、ゲンゴロウさんに守ってもらった俺達が

 辿り着いたのは……『氷の迷宮』の入り口であった。

 うん、だいたい知ってた。

 だって、ヒュウって氷の精霊だもん。


「氷の迷宮ですね……

 攻略難度は、Aランク冒険者六人による、フルパーティー推奨です。

 それでも、全滅する可能性が高いそうです」


「なにそれこわい」


 でも、ここにヒュウの友達がいるのなら、行かねばならない。

 もたもたしてられない現状、腹括って突撃じゃぁっ!


「ふきゅきゅ~ん!(ヒュウいくぞ!)」


『こっち、ついて、きて』


 俺達は、案内してくれるヒュウに付いて『氷の迷宮』に入っていった。

 

 氷の迷宮内部は、意外に明るかった。

 何か、魔法の照明みたいなものが、点在していたからである。

 この氷の迷宮に挑戦した、冒険者達が設置したものなのだろうか?


 薄っすらと青み掛かった氷の壁は、何かの芸術品のように美しかった。

 俺は好奇心に駆られ、ゲンゴロウさんの背から下り

 氷の壁をつついてみた。つんつん。


「ちべたい」


 当然の結果だった。でも……つい、やっちゃうんだぜ!


 照明に照らされて、キラキラと光り輝き、表情を変える氷の壁に

 うっとりしつつ……再びゲンゴロウさんの背に乗り、ヒュウに付いていく。

 

 少し歩くと、行き止まりに辿り着く。

 道を間違えたっ……て、落ちはなしの方向で……おなしゃす!(切望)


『みんな、あけて、あけて』


 ヒュウが氷の壁に向かって、ひらひらと飛び回っている。

 すると、氷の壁が音を立てて、ゆっくりと横に開いていくではないか!

 これが……いわゆる『封印が解かれた』というやつか!

 ちょっと、感動した。


 人が通れる程度に開いた道の奥には、下へと降りる階段があった。

 階段があるってことは、この迷宮は人の手で作られたものなのだろうか?

 わからんが……なんのために、こんな迷宮を……?

 はっ!? もしかして……冷凍庫の可能性が!?


『いた! まだ、いきてる! はやく、はやく!』


 階段を下りていき……というか、随分長い階段だな!?

 くっそ長い階段を下りきり、少し進むと開けた場所に出た。


 ヒュウが指さす場所には、息が荒い水色の毛玉が横たわっていた。

 その毛玉には所々、赤い染みが付いていた。おそらく血だろうか?

 俺はゲンゴロウさんの背から降りて……氷で滑って転んだ。


 ぬあぁぁぁぁぁっ!? くっそ滑るんじゃぁぁぁぁっ!


 まともに立って移動できないので、四つん這いになって移動する。

 ……普通に歩いて移動しているルドルフさんとザイン。

 どういうこと?


 いや、今はそんなこと、どうでもいいんだ!

 いっそげ! いっそげ!!


 じたばたしながらも、ようやく水色の毛玉の元に辿り着いた。

 水色の毛玉は、よく見ると……わんこだった。


「フェンリルの子供ですね。

 上位精霊なので、肉体をもって生まれてきます。

 しかし……酷い傷です、エルティナこの子に『ヒール』を」


「わかった……『ヒール』!」


 この様子だと、出血以外にも骨折や、最悪内臓にも損傷が

 ある可能性があったので、俺は『ヒール』を選択した。

 安心と信頼の『ヒール』だ。


 柔らかな光に照らされて、たちまちに傷が塞がっていく。

 呼吸も穏やかになっていった。

 これで、もう大丈夫だろう。よく我慢したな、偉いぞ!


『よかった、ありがとう! えるてぃな!』


「ふきゅん。(それほどでもない)」


 俺は謙虚に答えた。


「そこで、何をしている……人間どもっ!!」


 強い敵意を感じて振り向けば……そこには体長三メートルほどの

 巨大な水色の狼が身構えていた。

 おそらくこの水色の毛玉の親だろう。


 てか、普通に喋ってるな? この狼。


「俺達はヒュウに頼まれて、この子を治療しにきた、謙虚なヒーラーだ。

 治療は終わったから、もう安心して……」


「だまれっ! また……その子に、危害を加えようとしていたのだろう!?

 最早……許さぬっ! 食い殺してくれるわっ!!」


 わぁお、もんどうむようだぁ。

 

 水色の毛を持つ『氷狼フェンリル』が襲いかかってきた!

 子供に危害を加えられて、我を忘れているのかっ!?

 いずれにしても、戦わんとやられちまうっ!


「戦闘用意! エルティナを守れっ!」


「承知!」


『モモガーディアンズ』が戦闘態勢に入った!

 俺も生まれたての小鹿のように

 プルプル震えながらでも、なんとか立ち上がった。

 ガチの戦闘だ! 援軍を呼ばざるをえない!

 きて~桃先輩!


「おいでませっ! 桃先輩!」


 俺の手の中に光が集まり、まだ未熟な桃が現れた。


「ひさしぶりだ……」


「身魂融合!!」


 がしゅがしゅと、未熟な桃を食べ、問答無用で身魂融合を果たす。

 ……げふぅ。


『おまっ、挨拶ぐらいさせんか!?』


『緊急事態だ! 桃先輩! フェンリルに襲われているから

 サポートよろしく! 取り敢えず……普通に立ちたい』


 脳内会話で、簡単に現状を説明する。

 そうしている間にも戦闘は行われていた。


 フェンリルが俺達に、息を吹きかけてきた。

 その息はキラキラと輝き、周りの空気を凍らせていった。

 あんなの喰らったら、氷漬けになっちまうっ!


「エレメンタルガード! アクア!」


 ルドルフさんが、大きな盾を構え俺達の前に出た。

 彼の手に持っている盾が青白く光っている。

 その盾に、フェンリルの息が命中した瞬間、盾は息を吸収しだした!

 さっきの魔法か、スキルだかはわからんが、それの効果だろう。


「カウンタークラッシュ!」


 ルドルフさんは、息を吸収し終えた盾で、フェンリルをぶん殴った。

 三メートルはあろう巨体が、宙を舞い氷の壁に激突する。

 盾の光は収まり、今は普通の盾に戻っているようだ。


 これが、ルドルフさんの必殺技なのだろうか?

 かっけ~! 俺も使ってみたいぜっ!


 ルドルフさんのお陰で、フェンリルとの距離が開き、態勢を整えられる。

 

『アナライズ完了だ、エルティナ悪い情報と、良い情報……

 どちらから聞きたい?』


『いい情報からっ!』


 脳内会話にて、謎の二択を迫ってきた桃先輩。

 今忙しいんだから手短にねっ!?


『桃力を足に回して、氷の干渉を抑えてみろ。

 本来は属性に合わせて魔法で制御するらしいが

 ……おまえには無理だろうからな』


 うぐぐ……なんにも言い返せねぇ!(血涙)

 でも、有益な情報が! 早速試してみよう!


 俺は足に『桃力』を回し、氷の干渉を抑えてみた。

 するとどうだ、ちゃんと氷の上でも、立てるようになったではないか!

 やったね! エルちゃん! プルプルしなくても済むよっ!


 ……あとは、悪い情報か。嫌な予感しかしない。


「聞けっ! そのフェンリルには『鬼の種』が植え付けられている!

 鬼に転じるまで、もう時間がない! これより『鬼の種』の 

 除去を開始する! 各員に指示を出す! 指示どおり動いてくれっ!

 頼むぞっ!!」


 桃先輩の声が、俺の口から発せられた。

 最悪の情報、ありがとうございます。(白目)


 ……要するに、何者かがフェンリルを『鬼』にするためだけに

 フェンリルの子供を襲った……ってわけか。

 ……許し難いなっ!


 ヒュウの友達を治して、一件落着とはいかないかった。

 よもや、この件に『鬼』が絡んでいるとは

 だれが気付くというのだろうか?


 今、限られた時間で、フェンリルに植え付けられた『鬼の種』を

 除去する戦いが、始まろうとしていた!

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[気になる点] 誤字:冷凍庫 (氷の迷宮なので) はっ!? もしかして……冷蔵庫の可能性が!?
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