14食目 召喚の儀
くせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!
こいつは、くせぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
転生チートの匂いがプンプンしやがるぜぇっ!!!
食堂にて、いつもどおりオムライスを食べ終え、
ヒーラー協会にきたフウタってやつのことを、エレノアさんに聞いてみたが……
間違いなく貰ってやがる! チートってヤツをっ!
ぎぎぎ……くやちぃのう、くやちぃのうっ!
しかもなんだっ!?
ドラゴン倒して貴族になって、嫁さんいっぱい貰って子作り三昧って!!
ちくしょう! リア充爆ぜろ!! はあはあ……
まあ、実際には口には出さず顰めっ面になってるだけだが。
エレノアさんは時折、体をくねらせ「いやんいやん」とか言って惚気けている。
だが不幸中の幸いなことに、エレノアさんはヤツの魔の手にかかってなかった。
よかったよかった。……とはいえヤツは許せん。
タンスの角に小指をぶつける呪いを、送信しておこう。
届け! 俺の呪い!! ふっきゅ~~~~ん!!
途中からエレノアさんの惚気話になっていたが、
顰めっ面をしていた俺に気付いたのか、脱線した話を元に戻した。
何でもフウタは、勇者召喚の儀に立会うために王都にきているらしい。
普段はエルタニアってところで領主をやってるとか。
……そういえば勇者か、どんなヤツがくるんだろうな?
「聖女様も勇者召喚の儀に、参加していただきます。
これは国王陛下の要請です」
「俺も?」
「そうですよ? 聖女様なのですから、下級貴族よりも立場は上なんですよ?」
なん……だと……!?
衝撃の事実! 俺は偉かった!!……だからどうしたって話なんだが。
別に権力があってもなあ……性に合わんし、自由にやってた方が気楽でいいよ。
欲しくもない権力やら地位やらが舞い込んでくる。
人生ままならぬものですなぁ……とか、爺臭いことを考えていると
就寝の時間になってしまった。
思ったよりも、エレノアさんとの会話に時間を費やしてしまったようだ。
俺はお子様なので、早めに寝るよう言われているのだ。
具体的には二十時。午後八時だ。はやすぐる……
自室に戻り何時ものトレーニングを終え、桃先生をモリモリ食べて
ベッドに潜り込む。
三日後に、勇者召喚の儀が行われるらしい。
それまではケガ人を、片っ端から片付ける作業が待ってるな……
とか考えてる内に、眠りに落ちていった。 ぐうぐう、すやすや。
それから三日後、遂に勇者召喚の儀が行われる日がきた。
俺はエレノアさんに手を引かれ登城した。実に三ヶ月振りである。
聖女に祭り上げられて、紹介のために王様に顔見せしたぐらいで、
後は治療所に監禁状態で治療に没頭していたから
王様も、俺の顔忘れてんじゃね? とか思いながらテクテクと歩く。
目的地の『召喚の間』に向かう途中、一人の貴族に絡まれた。
三十代半ばだろうか? 金髪オールバックの肥えた男だった。
一瞬、二足歩行の豚かと思ったがそうではなかった。
豚の方がマシじゃね? と、思えるほどの脂肪の塊が従者に支えられながら
移動していたからだ。
しかも、あろうことかエレノアさんの体を舐め回すように
視姦しているではないかっ!? ゆ……る……ざ……ん……!!
「ぶひひ……相変わらず、良い体をしておるなぁ……ワシの側室にならんか?
この世の物とは思えぬ快楽を共にしようぞ?」
おま……ぶひひって、人間の笑い方じゃねえだろ!!
衛兵のみなさーん!! ここに豚っぽい何かが侵入してますよー!!
「……お久しぶりです、グラシ・ベオルハーン・ラングステン伯爵。
側室の件は、以前にもお断りしたはずでしたが……?」
「つれないのう……気が変わったら何時でも迎えに行ってやるぞ?」
と、言って隣にいた俺に目を向ける。こっち見んな!
「おお……これはこれは。聖女様ではございませんか?」
ニヤニヤしながら俺まで視姦する。
うおぉぉぉ…!? 鳥肌立ってきた!!
「いやぁ……将来が楽しみですなぁ、ぶひひ……」
舌舐りしながら俺を見るんじゃねぇぇぇぇぇっ!!
きもいんじゃぁぁぁぁぁっ!!
これ以上付き合っても無駄だと判断したエレノアさんは
「失礼します」と言って、そそくさと俺を連れてその場を後にした。
ナイス判断! 流石エレノアさんやでぇ……!!
「……気分を悪くしましたか? 聖女様」
流石に心配になったのか、俺を気遣ってくる。
「ここは、豚っぽい何かを放し飼いにしているのか?」
と、俺は返した。
ぶふぅぅぅぅぅぅっ!、と吹き出すエレノアさん。
どうやら、ツボに入ったらしい。
「……申し訳ありません、後で飼育係に注意しときますね?」
と、返してきた。
どうやらあの貴族が、フウタやエレノア達に色々ちょっかいを
かけてきている貴族らしい。
上級貴族のため、直接叩けないのが厄介なんだそうだ。
暫く歩くと漸く、召喚の間に到着した。
ドアの前に立っていた衛兵にドアを開けて貰い俺達は静かに中に入る。
中には主だった人物が、既に各々の場所に収まり儀式を待っていた。
『召喚の儀』を行う部屋は思ったよりも小さく古臭い部屋だった。
四方にかけられている赤いカーテンも、よくよく見ればボロボロだった。
本当に召喚の儀以外では使われないようだった。
俺は集まった人々を観察した。
まあ、ぶっちゃけ王様以外知らん。
……と、思ったがチラホラと知ってるヤツ等がいた。
デルケット爺さんに……イケメン、でもって転生チート
……おいぃぃぃぃ!? アルのおっさんなんでここにいるんだよっ!?
彼は何時もの皮鎧は着ておらず、貴族が着るような服を
ビシッと着こなしていた。意外に似合っているのが解せない。
たぶん参加の際に用意された物なんだろうな……(名推理)
「お? エルティナもようやくきたか」
グリグリ頭を撫で回すアルのおっさん。
や~め~ろ~! 髪が乱れるっ!!
「お久しぶりですアルフォンス様」
「おっ、エレノアも相変わらずの美人だな?」
と、親しげな会話である。
じ~、とアルのおっさんを睨んでいると、エアレノアさんが苦笑いしながら
アルのおっさんが数少ない『Sランク冒険者』であると教えてくれた。
「世界が終わる日は近いらしい……」
「ひでぇな、おい」
何時もどおりのやり取りで話を終える。
Sランク冒険者ということには驚かされたが、おっさんはおっさんである。
何時も通りのやりとりしかできんし、しない。
そんなこんなで、遂に勇者が召喚される時がきた。
部屋の中央に設置された魔法陣に、魔力が集まり
やがて目が眩むほどの光を放つ。
光が収束し星屑のように散らばると……そこに人影が見えた。
勇者が降臨した瞬間であった。