桃先生の迷宮……?
式典が終わり一夜明けた。
俺は実家に泊まり、ママンの作った美味しい朝食を、頂いているところだ。
献立は、ハニートースト、プレーンオムレツ、ロースハムを炒めたもの
そして、野菜ジュースだ。
野菜ジュースは、にんじんや、トマト、セロリ、等々……美味しい野菜を
ふんだんに使っている。砂糖やはちみつは一切使っていないが
甘くて美味しいのだっ!
やはり、採れたて野菜を手間暇かけて、調理すると格が違うぜ!(確信)
もりもりと、美味しい朝ごはんを食べ尽くし、居間でくつろいでいると
ルドルフさんが迎えにきた。
今日は、桃先生の木に取り込まれた、ヒーラー協会の様子を調べようと
思っているのだ。
既に、レイエンさんが色々見て回ったようだが
入り口らしきものは見当たらず……
かと言って桃先生の木を、傷つけるわけにもいかない。
八方ふさがりの状態だというのだ。
「おはようございますヤッシュ伯爵、エルティナ……様」
「おはようルドルフ君、あと伯爵は付けんでいいぞ?
今までどおりで構わん。エルティナも、そうだろう?」
「うん、そっちのほうがいいな! おケツが、ムズムズするんだぜっ!」
「どうせ、形だけだしな!」と、パパンが豪快に笑った。
今回も、領地やお金等の形のある褒美を、受け取らなかったパパン。
自分に回す余裕があるなら……この災害で傷付いた
ラングステン王国のために、使うべきだと固辞したのだ。
流石パパン! かっくいい!(誇り)
「わかりました……改めて、おはようございます。
ヤッシュ殿、エルティナ」
「あぁ、おはよう! ルドルフ君!」
「おはよう! ルドルフさん!」
挨拶が終わり、俺は出発のために身支度をする。
うぅむ……どんな格好が良いかな?
動きやすいのは勿論のこと、丈夫さも求められるだろう。
で……あるなら、やはりこれだろう!
「おまたせっ!」
「おぉ、似合ってるぞ! エルティナ!」
俺が着たのは……子供用の旅人の服だ。
緑色で統一された上下は、非常に丈夫且つ汚れに強い。
これに緑色の三角帽子を被れば……どこかの勇者が完成する。
そして……左肩に掛かる髪に、ピンク色のリボン。
いもいも坊やが付けていたものだ。
こうすれば、俺の中に居る、いもいも坊やにも
新しい景色が、見えるんじゃないかなぁ……と、思ったのだ。
最後に輝夜を、携えて準備完了だ!
「じゃ、行こうか! ルドルフさん!」
「えぇ、参りましょう、エルティナ」
俺達は見送ってくれた、パパンとママンに手を振って
桃先生の木へ向かうのだった。
◆◆◆
「ん? やっときたか……こっちだ! エルティナ!」
「スラストさん! おはよう!」
「おはよう、エルティナ」と、言って
俺達を迎えてくれる、ヒーラーの仲間達。
現在……仮設の治療所を建てて、負傷者の治療を行っているのだそうだ。
これは、確かに不便だぁ……雨降ったら、ずぶ濡れになるじゃないか。
「町を救ってくれた、御神木だから手を、付けるわけにもいかん。
エルティナの力で……なんとかならんか?」
「う~ん、どうだろう?」
三階建てのヒーラー協会、しかも隣はマイアス大聖堂という
大きな建物を、余裕で取り込むほど成長した桃先生の木。
その巨大さは、フィリミシアの町の、四分の一を覆うほどである。
幹のぶっとさなんて、呆れかえるほどなんだぜ……
俺はヒーラー協会が、あると思われる場所に立ち……
輝夜をふりふりしながら、桃先生にお願いした。
「桃先生~あけて~」
「おい、おい……そんなので、開くなら俺達も苦労……」
くぱぁ……と、幹が左右に割れ、ぽっかりと人が通れる穴ができた!
「開いた」
「開いたなぁ……」
スラストさん達の表情に、ドッと疲れの色が溢れた。
お……俺は、悪くないもんっ!
「よし……いくぞ……ぅ!!」
これは……冒険の匂い! 誘ってやがる! この穴!
俺を危険な冒険へと……誘ってやがる!!
「待て、待て……おまえが、先陣切ってどうする?
中が安全かどうか、わからないんだぞ?」
スラストさんと、ルドルフさんの二人に止められてしまった。
うむ……でも、桃先生だし……大丈夫じゃね?
「一応、面子を揃えて挑みましょう。
大丈夫だとは思いますが……万が一のことを、常に念頭に置いて
行動するようにしてください」
「う~ん、ルドルフさんは心配性だなぁ……
でもまぁ、一理ある! 『モモガーディアンズ』集まれ~!!」
俺の掛け声で、木の根で駄弁っていた野良ビースト達が集まってきた。
ムセル達も一緒に居たようだ。
「よし! これで面子は十分だな!」
「十分と、思えてしまうのが怖いですね。
下手な冒険者より強い動物達って……」
若干、ルドルフさんが、野良ビースト達の強さを思い出して呆れていた。
野獣は強いって、それ一番言われてっから! 気にすんな!
「それじゃ……桃先生の穴に、のりこめ~」
わんわん、にゃ~にゃ~、チュチュッ! と、賑やかに俺達は
『桃先生の迷宮』一階に侵入した!
ヒーラー協会を、見つけるのが最終目標だ!
うおぉぉ……ドキドキしてきたぜ! これが……冒険!!
◆◆◆
桃先生の迷宮 一階
「うえからくるぞ、きをつけろ~」
俺は最後尾で、ぷるぷるしながら皆に付いていった。
これは、怖いのではなく『武者震い』というものである。
……ホントウダヨ?
「シカに、きをつけろ~!
やつは……幾多の冒険者を血祭りにあげた、恐るべき野獣だ~」
「エルティナ、ヒーラー協会が見えましたよ?」
はやいっ! はやすぐるっ!! もう着いたっ!!
……残念! 俺の冒険は終わってしまった!
「へっ! 全然、怖くなかったぜっ!」(豹変)
「……そういうことに、しときましょうか」
ルドルフさんの優しさが痛い。ふきゅん!
というか……迷宮は一本道だった。
あれ? これ、迷宮じゃねぇな? しょぼん。
俺達は、ヒーラー協会の入り口に到達した。
その瞬間! 暗かった迷宮(?)に、明かりが灯った!
うをっ! まぶしっ!?
「これは……魔力に反応する苔でしょうか?
凄い、まるで星々の中に居るようですね?」
ルドルフさんが、少し興奮気味で周りを見渡していた。
なるほど、言われたとおりの光景だ。
淡い緑色の優しい光が、暗かった道を、ヒーラー協会を照らす。
「これは、迷宮を踏破したってことでしょうね。
おめでとうございます、エルティナ。
桃先生も、きっと喜んでいることでしょう」
「と、言っても……一本道で、敵も出なかったんですか……?」
まぁ……一応、目標達成だし、喜んでいいのだろう。
小さいことを、コツコツと積み上げていくのが
本当の力になるのだから。
「エルティナ! これは、いったい何事だ!?」
スラストさん達が、慌てて走ってきた。
いきなり穴が光ったので、心配になって追いかけてきたらしい。
俺は事情を、スラストさん達に説明した。
「なるほどな……あとは、中を調べるだけか。
よし、手分けして、中がどうなっているか調べよう」
スラストさん達は、先にヒーラー協会に入って行ってしまった。
用心するんじゃなかったのか……?(呆れ)
そういえば、ヒーラー協会も痛んでいたはずだが……
俺はヒーラー協会を見上げた。
幾つかの壊れていた部分には、木の根が絡まり穴が塞がっていたり
壁になっていたりしていた。
桃先生が、補強処置をしてくれたようだ。
内部も、このような状態になっているのだろうか?
「よし、俺達も行こうぜ!」
俺達『モモガーディアンズ』も、ヒーラー協会に突入した。
ヒーラー協会内部も、光る苔で照らされていた。
主に天井や壁に群生しているようで、床には殆ど生えていない。
壊れた壁からは木の根が飛び出している。
倒壊した壁の代わりになっているのだ。
その根っ子からは、ぴょこんと無数のキノコが生えている。
「内部も凄いですね……こんなに幻想的な光景、早々見れませんよ?」
俺が奥に進むと……突然キノコが発光した。
次々と光りだすキノコ達。
そして、部屋の中は……かつての明るさを取り戻した。
ここが、桃先生の木の中だとは、思えないほどの明るさだ。
これなら書類を見たり書いたりできるだろう。
「驚きの連続ですね……このキノコも、魔力で反応するんでしょうが
どういう仕組みなのでしょうか?」
「わっかんない、それよりも……このキノコが、食べれるかどうかが問題だ」
俺はジッと、キノコを見つめた。
見逃してくれよ~と、言っている気がした。
仕方がない、がんばって照らしてくれているから、勘弁してやろう。
俺はぷひっ! と、鼻を鳴らして威張った。(尊大)
助かった、もうダメかと思ったよ……と、キノコが言っている気がした。
俺達は更に奥に進む。目指すは……俺の部屋だ。
優しい光に照らされる通路。
一定の間隔で、光るキノコが生えている。
どうやら、人の気配か熱に反応して光るキノコのようだ。
遠く離れたキノコは光るのをやめている。
おぉ……省エネ、省エネ。
「着いた……俺の部屋だ」
ドアには俺の字で『えるてぃな』と、書かれた掛札がかかっていた。
斜めになっていた掛札を直してドアを開けた。
俺の部屋は木の根でいっぱいだった。当然キノコも生えている。
寝る時はどうするんだろうか……? やっぱり食べるしか……
部屋の中は、相当損害があったのだろう。
穴だらけだった。
すぐ隣でドンパチやってれば当然だが……
俺は早速、損害の状態を調べる。
タンスは……壊れて使い物にならなくなっていた。
何時か使おうと思っていたが、それも叶わなくなってしまった。
……残念。
エレノアさんに貰った化粧鏡は……よかった、無事だった!
少し角が欠けているけど、これなら問題ない。
ベッドは……おーまいがっ、大破していた……しょぼん。
色々と、思い出のあるベッドだったのだが……仕方ないか。
机もベッコベコの姿に……とと! 机の上の物は!?
優勝トロフィーと、グランドゴーレムマスターズの選手と
撮った写真は!? あと、ついでに卵。
俺はきょろきょろと、部屋を見渡した。
「あった! 写真は無事……っと」
あとは……お?
優勝トロフィーを、ムセルとイシヅカ
ツツオウはカップの中に入っていた……で、持って来てくれた。
「ありがとうな? よかった、奇跡的に壊れてない」
「にゃーん」
ツツオウは、カップの中で丸くなって寝てしまった。
居心地が良いのか? ツツオウ……?
「エルティナ、卵とは……これのことですか?」
「お!? そうそう、それだよっ!
流石ダナンの卵! なんともないぜっ!!」
ルドルフさんが、卵を見つけてくれた。
しっかし……おっそろしいほど、頑丈だな!? この卵!
ひび一つ入ってないぞ!?
「これは、精霊の卵ですね。
火の精霊のものは、とても貴重ですよ?」
「マジでっ!?」
「はい」と、言って卵の孵し方を教えてくれた。
やり方は簡単。常に持っているだけでいいそうな。
そうすれば、勝手に魔力を少しづつ吸収して孵るって話だ。
「うへへ……火の精霊かぁ。
サラマンダーが、俺に懐けば『ファイアーボール』が
飛ばせるようになるかもしれんな! ふひひ! 期待しまくりだぜっ!」
俺は早速、卵を懐にしまった。一日でも、早く孵ってくれよな!
「こんなところか……元々、物が少ない部屋だったしな」
そのお蔭で、損害は少なく済んだのだが。
さて……他の部屋はどうなっているかな?
治療所も見てこないと……そこは重要な場所だからな!
俺達は治療所に向かった。てくてく……わんわん、にゃ~ぉ、チュチュッ!
「お? ここは、以前と殆ど変わらないな。
光る苔と、キノコが生えている程度か……」
治療所は損害が少なく、すぐ治療に使えるほどであった。
ここが、生きているのであれば問題ないな!
「エルティナ、ここに居たか」
スラストさんが治療所にやってきた。
色々見て回って、やはり驚いたそうだ。
ここ以外にも、風呂場や井戸等の水回り、トイレもバッチリ使えるらしい。
食堂も無事なようで、火も問題なく使えるそうだ。
「あとは、心配していた湿気なんだが……問題無さそうだな」
「そういえば、全然ジメジメしてないな?」
スラストさんに言われるまで、気が付かなかったが
この中は、全然湿気がなかった。超快適空間なのだ!
まぁ、桃先生の中って時点で多少はね……?
「これなら、すぐにでも、ここで治療を再開できるぞ!
外にいる連中に声を掛けて、散らかった部屋を片付けさせろ!」
こうして、ヒーラー協会は営業を、再開させることができた。
これも、桃先生のお陰だぁ……(尊敬)
◆◆◆
やってくるのは主に、土方の連中や大工さんだ。
張り切り過ぎて、けがをしないで欲しいものだ。(心配)
それ以外にも、物珍しさに魅かれて、やってくる人達が後を絶たない。
まぁ、当然だろう。
内部の幻想的な光景は、見る者を魅了し……
時が経つのを、忘れさせるほどだ。
何故なら、人の手で作ることができない芸術が、そこにあるのだから……
マイアス大聖堂は、更に凄いことになっていた。
あれだ、礼拝堂がプラネタリウム状態だ。
そこに……ほのかに光輝く『女神マイアス』の像がある。
毎日、毎日……信者の方々が涙を流して、その像にお祈りしているのである。
確かに、神秘的ではあるが……毎日泣くなと、言いたくなる。
あと、カップルのデートスポットにしないで欲しい。
色々と、噂が流れているらしく……
ここで、告白すると絶対に結ばれる、とか……
ここで、愛を誓うと子宝に恵まれるとか……
ここは、負傷した者が最後に頼る場所であって
バカップル共が、乳繰り合う場所じゃないんですわ? ぉ?
「ま……通路で、邪魔にならなければ、いいのではないでしょうか?」
と、異常に心がガバガバなほど、だだっぴろいレイエンさんの計らいで
通路に限って、ゆっくりしていってね! ……と、お許しがでている。
桃先生も気を遣って、少し通路を広くしてくれていた。
流石、桃先生……寛大だなぁ。
感謝しろよ!? バカップル共!!
「これでよし……と!」
俺の部屋も、ようやく片付いたところである。
片付けよりも、治療を優先していたら、思ったよりも遅れてしまった。
しばらくは、壊れたベッドで寝ていたよっ!
……思ったよりも、快適だったのは内緒だ。
光るキノコは、人がベッドに入ると、光るのをやめるようだ。
ゆっくりと、光が弱くなっていき……完全に消える。
目が覚めて起きると、今度はゆっくりと光り始める。
お利口なキノコだぁ……
新しいベッド、新しい机に椅子。
タンスは俺が成長したら購入予定だ。
そして……片付けの最中、気になるものを発見した。
部屋の隅、元タンスの置いてあった場所に
ぽっかりと大きな穴が開いているのだ。
それは、大人も屈めば通れる穴だった。
「これは……緊急クエストだな!
ムセル! イシヅカ! ツツオウ! 俺に続け~!」
俺は迷うことなく、穴の中に入っていった……
この先には、いったい何があるのか?
恐怖より好奇心の方が勝ったのである。わくわく。
誤字 献立は、ハニートースト、プ『ル』ーンオムレツ
訂正 献立は、ハニートースト、プ『レ』ーンオムレツ




