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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第三章 聖女とミリタナス神聖国
137/800

身魂融合 魂のゆりかご

 ◆◆◆


 「午後八時……三分。ラストミッションの終了を確認」


 ここは、桃アカデミー第一リンクルーム。

 全作戦の終了を確認した俺は、エルティナとのリンクを切断し

 リンクヘッドギアを外した。


 大量の汗が流れ落ちる。今回の作戦は、とても長丁場だった。

 そして、エルティナも、よくがんばってくれた。

 大切な者を失い、膝を付きそうにもなったが、よく耐えたものだ。

 これも……あいつを信じ、愛してくれる者達のお陰だろう。


 「お疲れさま、桃夜大尉。長丁場でしたね?」


 「桃魅とうみ少尉か。ありがとう」


 同僚の桃魅少尉が、コーヒーを淹れて持って来てくれた。

 桃色の髪を、ボブカットにした、可憐な少女だ。

 顔が幼くて軍服が似合わない。


 彼女が、淹れてくれたコーヒーを、一口すする。


「……苦いな。だが、美味い……」


「苦くしたんですよ大尉」


 コーヒーは熱く苦かった。

 ……しかし、優しい味がした。


「本当に、作戦が成功してよかったですよ。

 神桃の芽が、イレギュラー個体だってわかった途端

 指令室が、大騒動でしたし、大佐は慌てて飛び出して行っちゃうし」


「それは、大変だったな? それで……真桃沙まとしゃ大尉はどうした?

 作戦中はここに居たはずだが……?」


 ムセルの桃先輩である、彼女の姿が見えなかった。


「あぁ……さっき、すれ違いましたよ?

 凄い勢いで走っていきましたけど……泣かせたんですか?」


「バカを言え。あの鉄仮面を泣かせることが、できるわけないだろう?」


 桃色の長い髪のクールビューティー。

 感情がないのでは? と、疑うほどの無表情な女性。

 付いた二つ名が『鉄仮面』だ。


 彼女がムセルを、サポートしていた席を見た。

 そこには……いくつかの水滴があった。

 ……まさかな?


「おぉ、ここに居たか。全作戦の完了を確認した。

 ご苦労だったな?」


 第一リンクルームに、桃大佐が来られた。

 これは、極めて異例なことだ。


「これは……! 桃大佐!」


 俺達は席を立ち、姿勢を正し敬礼した。


「あぁ、構わんよ。楽にしていてくれ」


「しかし……」


 桃大佐は近くにあった椅子に「どっこいしょ」と腰かけ

 桃魅少尉に、席を外すように指示した。


 桃魅少尉は「了解しました」と敬礼し、部屋を出て行った。

 俺と桃大佐だけが、部屋に残った。


「さて……これから話すことは、最高機密だ。

 わかるね……桃夜大尉?」


「はっ!」


 桃大佐は「よろしい」と、言って……俺に頭を下げた。


「た……大佐っ!?」


「まずは謝罪させて欲しい……済まなかった。

 神桃の芽がイレギュラー個体だということは

 詳しく調べればわかったことだった。これは、我々の落ち度だ」


 立て続けに起きる、異例の出来事に

 少し混乱した俺だったが、なんとか我に帰り、大佐に頭を上げて欲しいと

 言い、了承してもらった。


「重ねて済まんな、桃夜大尉。

 では、ここからが重要な話だ。

 君の後輩、パートナーの、とう……いや、エルティナ君のことだ」


「……はい」


 今……大佐は、別の名を言おうとした。

 やはり、エルティナは……『あいつ』は、特別な何かを持っている。

 それが何かは、わからないが……


「まずは、あの子の身魂融合の型のことだ。

 ステータスに検閲が掛かっていることは知っているかね?」


「はい、以前自分以外の生命体と、身魂融合した際、確認しました」


 桃大佐は「うむ」と、深く頷き……一呼吸置いて、再び語りだした。


「桃夜大尉に、彼女のステータスを見る権限を与える。

 ……これを受け取りたまえ」


 桃大佐に……銅の桃勲章を渡された。

 これは、つまり……


「桃夜大尉、今より君は『少佐』だ。

 そして、エルティナ君の専属となってもらう。

 他の後輩は、桃魅少尉に引き継いで貰うことになるだろう」


「……あいつには、それほどの……過酷な運命が待っていると?」


 桃大佐は、目を瞑り……黙り込んだ。

 少しの時間……静かな時が流れた。


「あの子には、君が必要なのだ。

 あの子は、まだ幼く、純粋で……脆い。

 例え……以前の人格が残っていようともな」


「……はい、自分もそれは、思っていたことです」


 桃大佐は「やはり、気付いていたか」と、少し寂しそうに笑った。


「彼が死に……早や百年。砕けた魂を掻き集め、転生したのが……あの子だ。

 彼女の出生は、私より上の方々しか知らん。

 おそらく、桃神様のご意向であろう」


「…………」


 エルティナの前世、俺の相棒、最強の『桃太郎』と、呼ばれた男。

 そうか……もう、そんなに経ってしまったのか……


「しかしだ……身魂融合の型を見れば、聡明な君なら理解できるだろう。

 ステータスを確認してみたまえ」


 俺は指示されたとおり、エルティナのステータスを確認した。


「リンクコネクト……エルティナ・ランフォーリ・エティル。

 ステータス閲覧、権限………桃夜……展開」


 俺の前に、半透明の四角いプレートが現れた。

 そこには……エルティナのステータス画面が、検閲なしに表示されていた。


「……この、身魂融合の型は……まさか?」


 身魂融合 魂のゆりかご


 エルティナの身魂融合の型は『魂のゆりかご』だった。

 この型は、自身の強化は一切ない。

 傷付き倒れた者を、取り込み……

 魂を癒して、輪廻の輪に返すのが……この型だ。

 しかも、この型は長い桃アカデミーの歴史において……保持者はただ一人。

 桃先生……あなたは……


「桃夜少佐、君の推測はおそらく正しいだろう。

 その上でエルティナ君には、言わないでおいてくれたまえ。

 彼女も……桃先生も、きっと……それを望んでいるだろう」


「……了解しました」


 俺の相棒は……

 どうやら、今回も過酷な運命を負わされて、生まれたようだった。

 いいだろう『今回』も最後まで付き合おうじゃないか。

 そして、今度こそお互いに、笑って終わろうじゃないか。

 今度こそ……今度こそ……!


「桃夜少佐、今夜は付き合いたまえ、行きつけのバーがある。

 良い酒をキープしてあるのでな……飲もうじゃないか。

 彼女が一人前になった記念に……」


「……はっ! お付き合いさせて頂きます!」


 その夜、バーで飲んで……

 酔った勢いで『黄泉返り』の承認者のログを見て……吐血した。

 見ななければよかった不覚……

 視界の隅で、桃大佐がニヤニヤ笑っていた。


 桃大佐ほどの御方が、頼みに行く者達が……普通なわけないのだから……


『黄泉返り』承認者


 天照大神

 月読命

 素戔嗚尊


 ◆◆◆


「桃先輩の霊圧が……消えた……!?」


 俺は、知らないベッドの上で、目を覚ました。


 ここは、どこだろうか? わからない。

 やたら豪華な広いベッド。

 四方に柱が立っていて、屋根と赤いカーテンみたいなのが付いている。

 おぉう……豪華、豪華!

 枕も、布団もふっかふか! でも……何か足りない。


「そっか、野良ビースト達が居ないのか」


 朝起きれば、にゃんこが布団の上で丸くなっている。

 窓にはもっちゅ達が「チュチュッ!」と鳴き

 わんこが下で、だらしなく寝ている。


 それが……俺のいつもの朝だ。


「失礼します……あぁっ!? 聖女様! お目覚めになりましたか!?

 大変! すぐ、お知らせに行って!!」


 侍女さん達が、目覚めて体を起こした俺を見て

 何人かが、慌てて駆けていった。


「あぁ……本当に、よかったです。

 聖女様は、三日も寝たきりだったんですよ?」


「なんですと!? 俺は三日も、ご飯を食べそこなったのか!?」


 うごごご……なんたる不覚っ!!

 俺は九回もご飯を食べれなかった計算にっ!!


「お……おぉっ! エルティナ!! よくぞ……よくぞ!!」


 俺は、勢いよく部屋に入ってきた王様に、ギュッと抱きしめられた。

 何故に、王様がここに?


 あ、そうか! ここはフィリミシア城か!

 侍女さんがいる時点で、気付くべきだよな……


「エルティナ! よかった! 目が覚めたんだな!?」


「パパン! それに皆も!」


 少し遅れて、パパンやクラスの皆、一緒に戦ってくれた仲間もやってきた。


「わんわん!」「うぉん!」


「とんぺー、ぶちまる!」


 ベッドに飛び乗って、俺の顔をペロペロする二匹のペロリスト。

 顔がベトベトになっちゃうぜ!


「おぉ、そなた等も、主が目覚めて嬉しいか。

 存分に、甘えるがいい」


 すっごい甘えてくる、二匹の頭を撫でてやる。

 本当に、よくやってくれたな。

 王様も無事だったし、ご苦労様だよ。


「ほら、食いしん坊。抱きしめてあげて……」


 プルルが腕に抱いてきたのは……生き返ったムセルだった。

 腕をバタバタさせて、こっちに来たがっている。


「ムセル……! さぁ、おいで!」


 俺はムセルを抱きしめた。

 あの時、諦めていたら……もう、こうして

 抱きしめてやることも、できなかっただろう。

 ありがとうエスザク……俺達の戦友よ。

 

「にゃーん」


「おぉ、ツツオウも鳴けるようになったか。

 イシヅカも、直ってよかったな!」


 これで『モモガーディアンズ』復活だな!

 よかった、よかった!


「うむ……色々と話すこともあるが、取り敢えず食事にしよう。

 腹が空いているじゃろう? 

 すぐに、支度させるゆえ着替えて待っておれ」


 そう言って、侍女さん以外退室して行った。

 侍女さん達は俺の体を、ぬるま湯に浸したタオルで綺麗に拭き。

 見慣れた、白と金色の『聖女の服』に着替えさせてくれた。

 その間に食事の支度が終わったようだった。

 

 ようやく、飯にあり付けるぜっ!

 既に俺のポンポンは、きゅ~きゅ~言っている。

 さぁ! ごはんに、突撃だ~!!


 ◆◆◆


 王族専用の食堂なう。


「はむ……んくんく……はむっ……んくんく」


 今、俺が食べているのは……おかゆだ。

 溶き卵と、塩が少量、掛かっている。

 いきなり脂っこい食べ物は、流石にきついので、非常にありがたい。


 食事が終わり、王様に今後のことを聞かされた。

 二日後に、俺が正式に『ラングステンの聖女』と、いうことを

 他国や国民に公表するらしい。

 その際、今回の戦いにおいて功績のあった者に、褒美を与えるらしい。


「今現在も、町の復興作業は続いておるが、そなたの姿を見れば

 更に活気付いて、復興も早まることじゃろうて」


「そんなもんかな?」


 今回、人の命は救えたが、町に付いた傷跡は深かった。

 至るところで、こみどりが暴れたらしく、おまけに竜巻の影響で

 建物が酷いダメージを被っていた。


 しかし、フィリミシアの住人達は、めげずに復興に向けて働いていた。

 逞しい人達である。


「式典があるまでは、この城でゆっくりしておれ。

 現在、ヒーラー協会は『神樹』に取り込まれておる故……

 そなたの帰るべき部屋には入れぬ」


「おっふ、そういえば……えらいことに、なってたんだった」


 桃先生が、超ハッスルしたため、ヒーラー協会が桃先生の木の中に

 埋まってしまったのだ。


 部屋には、優勝トロフィーや、エレノアさんに貰った、大切な化粧鏡がある。

 ついでに、ダナンに貰った卵も置きっぱなしだ。

 式典が終わったら、様子を見に行こう。


 その後、二日間……城でゆっくりと……できなかった。


 エドワードに、べったりとくっ付かれ。王様にも、くっ付かれ。

 デルケット爺さんにも、あと……侍女さんにも、ちゃっかりくっ付かれた。


 ……ふきゅん! ゆっくりできてな~い!


 そんなこんなで、式典当日となったのだった。


 ◆◆◆


「うおぉぉ……超豪華」


「お似合いですよ! 聖女様!!」


 俺は何時もより、豪華な装飾が施された『聖女の服』を、着せられていた。

 ただ……その分、くっそ重いのだ! おごごご……動きにくい!!


「ちょっと、服が大きいですが……聖女様は成長期ですので

 すぐに丁度良くなりますよ?」


「だといいなぁ……」(遠い目)


 最後に帽子と、金色の派手な杖を持たされて

『ラングステンの聖女』が、完成した。


 おっと、そういえば……森の神様に貰ったネックレスがあったっけ。

 あれ、格好いいから付けて行こうっと。

 こういう時くらいしか着けないしな!


 俺は『フリースペース』から久しぶりにペンダントを取り出した。


「およ? 色が付いている……カビじゃないよな?」(汗)


 八つある石のうちの一つに、青い色が付いていた。

 ほんのりと光っているように見える。

 ま……いっか。気にしたら負けだ!(放置)


 ペンダントを、首に掛けて……今度こそ完成!

 うむ! いいぞぉ! これ!


「うむうむ! よぉ似合っておるわい! さぁ! いよいよ式典じゃ!

 者共、まいるぞっ!!」


 超テンションの高い王様を筆頭に、式典に向かう俺達。

 まずは王様が、場を盛り上げてから、俺が登場するってわけだ。


 フィリミシア城の式典場で、王様が演説を始めた。

 俺は物影から、こっそりと様子を覗いている。

 うおぉぉ……えらい喝采だ。流石王様、上手な演説だぁ……


「さぁ! 讃えよ! 我等が『ラングステンの聖女』を!!」


 ここで、俺の登場というわけだ。

 俺は、よちよちと歩いて台にあがった……が

 俺が小さ過ぎて、台に上っても奥の皆には、見えないという

 アクシデントが発生した。


 そこで、急遽王様が俺を抱き上げ台に上った。


「ほれ、手を振ってあげるんじゃ」


 王様に言われて、俺は手を振った。

 途端に沸き起こる喝采と『ラングステンの聖女』を称える声。

 中には泣いている人も……あ、ミシェルさんだった。


「今……フィリミシアは、かつてないほどの被害を受けた!

 しかし! 我等には未曽有の災害を防いだ『ラングステンの聖女』がいる!

 国民よ! 決してくじけることなく、前へと歩むのだ!

 そこに必ず、幸福へと続く道があるであろう!

 ラングステンに栄光あれ!!」


 王様の言葉に、国民達のテンションは最高潮に達した!

 ……お耳が痛いっしゅ!!


 それから、今回功績があった者の授与が行われた。


 グロリア将軍、タカアキ、フウタは、ラングステンの勲章を。


 アルのおっさんは、男爵の爵位のみを与えられた。

 ……こき使われること確定の瞬間だった。(憐みの目)


 そして、ミカエル、サンフォ、メルトには

 ラングステン王国の感謝状を贈られた。

 これは、かなり凄いことだそうだ。

 感謝状には、王様の直筆サインがあり、王のハンコも押してあった。


 そして、俺を守って戦ってくれた、クラスメイトやオオクマさん

 トスムーさん、ゴーレムファイター達、ホビーゴーレムのマスター達は

 ラングステンの守護者の称号を与えられた。

 これは、あれだ、いわゆる……身分を保証してくれるものだ。


 特殊な魔法で生成された、星形のバッチを与えられていた。

 それを見せれば、ラングステンの大抵の場所で、身分を保証できる。

 一般市民の報酬としては、破格の報酬らしい。

 よくわからんが……そういうものなのだろう。


 そして……パパンは、伯爵にさせられた。

 身に余る、ということで辞退しようとしたが

 俺が正式に『ラングステンの聖女』に、なったお陰で

 男爵では釣り合いが取れないと、強引に伯爵に封じられたそうだ。


 更になんと! 我等が野良ビーストにも、ご褒美があった!


 とんぺーと、ぶちまるが、ラングステンの守護者の称号を与えられたのだ!

 王様を守って、戦ったのが評価されたのだそうだ。

 非常に勇敢に戦ったらしい。マジパねぇな!? この二匹!


 最後に……ルドルフさんだ。


「ルドルフ・グシュリアン・トールフ……そなたの、親衛隊の任を解く。

 そして……聖女エルティナの守護の任を与える。

 加えて自由騎士の称号を与える。

 ルドルフ、そなたには期待しておるぞ!!」


 と、いうわけで……

『モモガーディアンズ』に、ルドルフさんが加わったのだ!

 ふっははは! これで、行動範囲が広がること、間違いなしだ!


 やること、なすこと、沢山あるが……今はできることからやっていこう!

 町の復興も手伝いながら、ちょこっと冒険っぽいこともできるかも!

 ワクワクしてきた! こっそりとプランを練ろう! そうしよう!


 俺はニヤニヤしながら、明日することを考えたのであった。

誤字 エルティナも、よくばんばってくれた

訂正 エルティナも、よくがんばってくれた

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