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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
132/800

託された希望

 ◆◆◆


 午前十一時三十七分。ゴーレムギルドにて……


「おじいちゃん、七号から三十号までのゴーレムの起動完了したよ!

 一号はゴーレムコアに異常、緊急停止。

 二号から五号までは起動反応なし。六号は魔力供給に遅れが出てる!」


 僕は今、ゴーレムギルドにある人型戦闘ゴーレムの起動を手伝っていた。


 何時の間にか、帰宅していたおじいちゃん共々、たたき起こされて

 ゴーレムギルドに直行。

 そして……運搬用ゴーレムの起動中に『こみどり』が発生し町を襲っているとの

 情報が転がり込んできた。

 

 そこで……急遽、戦闘用ゴーレムの起動となったのだ。

 

 フィリミシアにある人型戦闘ゴーレム。名前は『ラング改』という。

 全長2m重さ800Kgの汎用アーマードゴーレムだ。

 淡い青色のフルプレートが、自動的に動いてる感じの機体である。

 尚、剣や盾……魔導キャノンを装備すると総重量1tにも及ぶ。


 魔族戦争以前は、五百体もの『ラング』が

 フィリミシアに配備されていたが、戦争時に全機体を投入。

 そして……帰ってきたのは、たったの五十体程度だったらしい。


 帰ってきた『ラング』は改良強化され『ラング改』として

 フィリミシアの警護に当たっていた。

 今、四十号から五十三号が、街でこみどりと戦っている。

 が……既に半分近くのラング改の識別反応が途絶えていた。


「ええい! やっぱりシングルナンバーズは、駄々っ子じゃわいっ!

 新造した四足も、多脚も起動を急がせいっ!

 まったく! 経費をケチるから、いざという時に遅れるんじゃ!」


 ゴーレムギルド新ギルドマスター、ドゥカン・ドゥランダ。

 僕こと、プルル・ドゥランダの祖父……は、カンカンだった。


 生粋のゴーレム職人で、ゴーレム以外には無頓着。

 頭はボサボサで髪も髭も伸び放題。服は何時も青い作業着だ。

 白髪が目立つようになったなった今でも、現場に身を置いている。

 ピンク色の髪に、同じくピンク色の鋭い瞳。

 僕と同じ髪と瞳の色だ。


「親方! 試作逆関節一号から三号出します!」


「おうっ! だせだせっ! 戦力温存してても、意味ないわいっ!」


 ギルドマスターになっても、おじいちゃんは『親方』と、呼ばれている。

 おじいちゃんも気にしていないようだ。

 僕もずっと親方と、呼ばれているおじいちゃんしか

 知らないので気にならない。


「プルル! 動けるラング改は、全部出せ!」


「わかったよ! ラング改……行っといで!」


 僕はラング改に出撃を命じた。

 任務内容は……市民の保護と、こみどり撃退だ。

 情報によると、こみどりは通常の攻撃でも撃破は可能。

 しかし、相手の攻撃……特に『憎しみの光』は防御不可という。

 動きが遅いラング改には、少々荷が重い相手だ。


「プルル! おまえも避難所に行けっ!

 もう、ここのゴーレム達の起動作業は終わる!

 あとは、わしらで十分じゃ!」


「で……でもっ!?」


 その時、工場の入り口で、ラング改が倒れたのを見た。

 ゴーレムコアのある、胸部にぽっかりと大きな穴が開いていた。


「な……なんじゃぁっ!?」


 おじいちゃん達が、驚きの声を上げた。

 僕も息を飲んだ、だって……あれは……!?


「みどりちゃん……? 違う、あれは……ギュンター!?」


 のそりと、緩慢な動きで工場内に入ってきた『それ』は……

 グランドゴーレムマスターズ決勝で戦った『鬼』

 ギュンターが取り憑いていた黒いゴーレムだった!


「何をしておるんじゃ! あれを撃退するんじゃ!」


 でも……今ここに、残っているゴーレム達は起動準備中だよっ!

 もう、僕達自身が戦うしかない! 何か武器になるようなものは……!?

 いやいや、だめだよ!? あれが仮にギュンターだとしたら……

『黄泉の光』で、皆やられちゃうじゃないかっ!?

 

「コロス……コロス……モモツカイ……コロス……」


『鬼』が喋った! やっぱり『あれ』はギュンター!?

 でも……何かおかしい。なんというか……存在というか意志というかが

 とても希薄に感じられる。

 決勝で対峙した時のギュンターの圧力は、息ができなくなるほどだった。


「コロス……!!」


 考えている時間はない!

 ギュンター? が『憎しみの光』を放とうとしている!

 何か攻撃手段は……!? そうだ! 攻撃するだけなら……この子でも!


「おじいちゃん! 伏せて! 『ケンロク』! 魔導キャノン!」


 僕は魔力供給中の『ラング改』六号機『ケンロク』の

 魔導キャノンの発射を命じた。


 六号機『ケンロク』は特殊機体で、中距離支援の砲撃機体だ。

 背中に、強力な魔導キャノンを、二門背負っている。

 一撃で30cmの鉄板を撃ち貫くほどの威力を誇る。


 問題になるのが……魔力供給時間の長さ。

 ゴーレム本体の魔力が満タンになるまでに、かなりの時間が掛かってしまう。

 でも、攻撃だけなら……


 ケンロクから放たれた魔力の光は、ギュンター? に命中して……

 黒いゴーレムの頭部を破壊した。


「た……倒した?」


 僕は、安堵し気を緩ませてしまった。


「おじいちゃん! 今の内に……」


 僕は、おじいちゃんの方に顔を向けた。

 しかし……それが、致命的なミスだと気づいた時には……遅かった。


「プルル! 危ないっ!」


「……え?」


 おじいちゃんの悲鳴。

 僕の眼前には……『憎しみの光』が迫っていた!


 どうして!? 倒したはずじゃ……!?

 いやっ! 今は回避を……間に合わない!?


「ひっ!?」


 濃厚な死の予感。

 体が動かない! 動いて! 動いて!! ……動かない!?


 死の恐怖で、体が固まってしまっている!?

 ここには、数々の奇跡を起こした白エルフの少女も

 驚異的な身体能力で仲間を守ってきた獣人の少年もいない。

 僕の自慢のホビーゴーレムも……いない。

 もう……ダメ!? 間に合わないっ!?


 僕は恐怖と、絶望のあまり……目をきつく閉じてしまった。

 でも……『憎しみの光』のよる痛みや衝撃はこない。


 …………? 死んでない? 生きてる……?


 僕は恐る恐る……目を開いた。

 目の前には……『憎しみの光』を赤い盾で防ぐ……

 トリコロールカラーのホビーゴーレムの姿があった。


「パ……パーフェクトゴーレム!?」


「間に合ったようだね? プルル君」


 その声はフォウロさん!? でも……何故ここへ? 

 いや、そんなことより……何故『憎しみの光』を、防ぐことが!?


「た……助かりました。ありがとうございます、フォウロさん」


「無事で何よりだ。それよりも、あれは……少しくらい破壊してもダメなんだ」


 頭部が再生しているギュンター? は

 PGの砲撃を受けて再び頭部を破壊された。 

 しかし……砕けた頭部の欠片は『こみどり』となり、再び本体に戻り

 破損した個所と融合した。


「そういうことでしたか……やっかいだねぇ」


「フィリミシアの町にあらわれた『こみどり』は時間経過と共に

 この形態になりつつある。

 俺達『ホビーゴーレムギルド』は、ゴーレムギルドと

 連携をとることに決定したんだ」


 そう言ってる間にもPGは、容赦なくこみどりの集合体を攻撃していた。

 そして、徹底的に破壊された、こみどりの集合体は霧散して消えていった。


「フォウロさん……PGはどうして『憎しみの光』を防げたんですか?」


 僕の質問にフォウロさんは、少し意外そうな顔をした。

 何故そんな表情を……?


「君なら知ってると思ったんだが……実は俺もわからないんだ。

 これは推測になるが……おそらくグランドゴーレムマスターズ決勝で

『モモガーディアンズ』と共に戦ったホビーゴーレム達に宿った

 不思議な力が残っているか、あるいは……

 未だに、供給されているかだろうね」


 僕は決勝のことを、よく思い出してみた。

 確か……食いしん坊は、あの不思議な力を

 会場全てに行き渡らせていたはずだ。

 

 つまり、あの会場にいたホビーゴーレム達は、戦う力を貰っている?


 食いしん坊はこのことを、知って……ないだろうねぇ。

 きっと教えたら「マジでっ!?」と、言って驚くだろう。

 あの子はそういう子だからねぇ……


「きっと、その考えで合ってると思います。

 力を貰っているのは、会場にいた全てのホビーゴーレムだと思います」


「あの会場の……? だとしたら、かなりの戦力になるじゃないか!?

 いや、しかし……子供達を危険にさらすことに……」


 フォウロさんは、難しい顔をして考え込んでしまった。

 確かに、ゴーレムマスターとホビーゴーレムは、大抵の場合

 常に共に行動する。

 ホビーゴーレムは攻撃を防げるけど、私達は防げないのだ。


「フォウロ! わし等に協力するならプルルを

 そこのホビーゴーレムの、行きたがってる場所に連れてってやってくれ!」


 突然おじいちゃんが、フォウロさんにそう言ってきた。


 いったい、どういうことなのだろうか?

 PGの行きたがっている場所って……?

 何故そこに、僕が行く必要があるのだろうか?


「長年……ゴーレムと一緒にいるとな……わかるんじゃよ。

 何をいってるのか、何を望んでいるかが。

 そいつは、行かなくてはならない場所が、あるんじゃとよ!

 そこには……プルルの相棒が待っているそうじゃ。

 連れてってやってくれい!」


 そう言うと、おじいちゃんは残ったゴーレム達の起動準備に入った。


「……ドゥカンさんの言ってることは、正しいと思う。

 PGも俺の指示に従ってくれているが

 さっきから、そわそわしてるしな? ……行こうプルル君!

 きっと、そこにはイシヅカがいるはずだ!」


「イシヅカ……行きましょう、フォウロさん!

 行ってきます! おじいちゃん!」


 僕とフォウロさんは、PGに先導され工場を後にした。

 いったい……PGの目指す場所とは、どこなのだろう?

 風と雨が益々激しくなるフィリミシアを僕達は走っていった。


 ◆◆◆


 午後十二時十五分。桃の聖域に到着……


「よしっ! 着いたぞっ! 桃先生やぁいっ!」


 俺達はようやく『桃の聖域』に辿り着けた。

 途中、とんでもない数のこみどりに襲われて、遅くなってしまったのだ。

 でも……ここまで来れば一安心だ! 早速、桃先生の芽に桃力を……?


「あれは……? おぃ……嘘だろっ!?」


 俺は自分の目を疑った。

 地面に横たわる……いもいも坊や達の姿。

 激しい雨に打たれている、にもかかわらず……ピクリともしない。


「ルドルフさん! 早く……早く下ろしてくれっ!」


 俺は、ルドルフさんの背から下ろして貰い……駆け出した。


「うっぐ!?」


 足が滑って転んで、泥だらけになってしまうが……構ってる暇なんてない!

 急げ! 急げ!! ……急げっ!!


 もどかしい! なんでこの体は、走るのが遅いんだっ!?

 もっと早く! 早くっ!!


 俺は……ようやく、いもいも坊や達の横たわる場所に辿り着いた。

 俺は震える手で……いもいも坊やを持ち上げる。


「あ……あぁっ!?」


 感じない……! 命の鼓動が……

 小さな体に、溢れんばかりにあった、生命の輝きが……


「う……嘘だっ! 嘘だ……こんなのっ! こんなの認めねぇぞっ!!」


 他の……他の子はっ!? まだ、大丈夫な子がいるはずだっ!!


 俺は震えて動かない手を……

 あまりの惨状に、硬直してしまった体を、無理やり動かす。

 まだ……まだ……諦めるわけには!


 俺は……残ったいもいも坊や達を拾い上げる。

 

「頼む! 頼むから……生きててくれよ! はぁはぁ……」


 視界が歪む。動悸が荒くなる。苦しい……!

 けど、今はそんなこと、構ってられない! 頼むから……!


 しかし……拾い上げた十匹のいもいも坊や達は……

 皆……命の輝きが失われていた。


「うぅ……そんなぁ……そんなぁ!!」


 ボロボロと涙が溢れてきた。

 どうして……こんな日に外に出てきたら……

 こうなるって、わかってるだろうにっ!?


 俺は……桃先生の芽に目を向けた。


 そこには……桃色のリボンを身に着けたいもいも坊やが

 桃先生の芽の横で倒れていた。


「リボン坊やっ?!」


 俺はそっと……リボン坊やを持ち上げた。

 まったく感じられなかった。

 命を……鼓動を……

 肩に乗っていた時に感じていた……生命の喜びを!


「なんで……なんでだよぉ……!?」


 そして、俺は気付いた。

 桃先生の芽に施された、白い糸による補強を……


「も……桃先生の芽を助けるために、こんな無茶をしたのか……?」


 今も激しい雨風にさらされている桃先生の芽。

 しかし、いもいも坊や達の糸のお陰で

 吹き飛んでしまうことはなさそうだった。

 こんなにも、沢山の糸を吐いて……桃先生の芽を助けたのか?


 怖かったろうに……寒かったろうに……苦しかったろうに……!!


 俺は雨や風の音とは別の音を聞いた。

 それは俺の部屋の窓だった。


「おまえ等……」


 にゃんこ達が窓を必死に引っ掻いていたのだ。

 ……外に出ようと必死に。

 窓には血が付いていた。にゃんこ達の前足は……血に染まっていた。


 現在、何時も出入りしている部屋の窓は鍵が掛かっている。

 それとは別に俺の部屋には、ぽっかりと穴が開いていて外と繋がっている。

 タンスで穴を隠しているのだが、何時の間にかタンスにも穴が開いていて

 一番下の開き棚は、俺の部屋に入る野良ビースト達の

 入り口になっているのだが……


 そこは、風に運ばれてきた木材や、がらくたで塞がれていた。


「なんてことだ……お前達は、そこでなす術なく、友達が力尽きるのを

 見るはめになっちまったのか!?」


 未だに窓を引っ掻くにゃんこ達。


「ルドルフさん!

 あそこの、穴を塞いでいるがらくたを、どけてくれないかっ!」


「……お任せを」


 ルドルフさんが、がらくたを撤去し始めてくれた。

 雨は激しさを増し、風は強くなる一方だ。

 俺は、いもいも坊や達の亡骸を抱えて座り込んでしまった。


「なんで……こんなことに……まだまだ、楽しいことが……

 お前達の、見たことのない世界が……沢山あったんだぞ……?」


 いもいも坊や達の返事はない。

 体をいっぱい使って、自己表現することは……もう、ないのだ。


 そして……がらくたは撤去され、穴からにゃんこ達が飛び出してきた。

 小さなわんこも、もっちゅもだ。

 この時ばかりはブッチョラビも飛び出してきた。……凄い勢いで。


 野良ビースト達は、いもいも坊やを抱えている俺の元に駆け寄り……

 その中の小さなわんこが、鼻で優しくいもいも坊やを突いた。

「起きろ」と、言っているのだ。


 でも……もう……いもいも坊やは…………


 それに気づいたわんこが、遠吠えをした。

 やりきれない怒り、悲しみを遠吠えに乗せて空に放った。

 次々に鳴き出す野良ビースト達。


 俺達は………大切な友達を失ったのだ。

 俺達は……この怒りを、悲しみを、どこに、ぶつければいいのだろうか?

 この理不尽な結末を……どう受け入れればいいと、いうのだろうか?


「寒かっただろう……もう、大丈夫だからな? ゆっくり眠ってくれ」


 俺は、いもいも坊や達を懐に入れた。

 ここなら、暖かいだろうと思ったのだ。


 そして、怒りと悲しみで震え、固まっている体を強引に動かし……

 俺は立ち上がった。


「エルティナ……俺には、お前の気持ちはわかってやれん。

 だが、これだけは言える。

 おまえは託されたのだ、その小さな勇者たちに……希望を」


 桃先輩の言葉が俺の口から発せられた。


 それは何時もの話し方ではなく……

 失われた命に対して、敬意を払ったものだった。


「……わかってる、わかっているよ! 桃先輩!!」


 怒りが沸き上がって止まらない。


 力なき自分に! 理不尽な運命に!!

 ……この事態を、引き起こしたやつに!!


「俺は……守ってみせる。フィリミシアを……

 いもいも坊や達と過ごした……この町を……! 絶対に!!」


 そして……俺達の辛く、苦しく、長い戦いが始まったのだった……

誤字 全長2m重さ800Kgの凡庸アーマードゴーレムだ。 を

   全長2m重さ800Kgの汎用アーマードゴーレムだ。 に訂正。

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