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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
131/800

いもいも坊やと桃先生の芽

 ◆◆◆


 あめいっぱい、かぜびゅうびゅう!

 さむいな! おっかないな!


 ぼくたちは、あめとかぜが、はいってこない、おっきないしのなかに

 にげこんだ。

 

 そこは、えるちんがいつも、ねてるばしょ。

 でも、ぼくらもおっきないしのなかにはいって、ねているんだ。


 おっきないしに、ぼくらがはいれる、ちいさなあながあるんだ!

 そこからはいると、あめとかぜに、あたらなくてすむよ!


 あったかいな! あったかいな!


 ぼくの、なかまたちもいっしょに、あめがはれるのを、まっているよ。

 はやくはれないかな? はれないかな?


 ぼくはあなから、そとのようすをのぞいた。


 ひどいあめに、かぜだよ。

 いつもみんないっしょに、あそんでいるひろばも、みずびたしだよ。

 ともだちのいぬや、ねこたちも、おっきないしのなかに、はいってる。

 でも……


 いつも、ぼくたちに、おいしいはっぱをくれる『ももせんせい』は

 ひとりそとに、おきざりにされているよ。

 かわいそう。かわいそう。


 でも、ぼくたちじゃ、どうすることもできない。

 こまったな。こまったな!


 ぼくがこまっていると、いじわるなかぜが、ごうごうとかぜを

『ももせんせい』に、ぶつけてきた!


 あ! たいへんだ! 『ももせんせい』が、ちぎれちゃうよ!


 ぼくは、いそいであなを、でようとしたんだけど……


「いもちゃん、いもちゃん。おそとにでたら、あぶないよ?」


 なかまに、とめられたんだ。

 でも、でも、ぼくはどうしても『ももせんせい』を、ほっとけない。


「ぼく、いくよ! 『ももせんせい』が、ちぎれちゃう!」


 ぼくは、ゆうきをだして『ももせんせい』のもとに、むかった。


 さむいよ! さむいよ! いたいよ! いたいよ!

『ももせんせい』は、これをずっと、がまんしてたんだ。

 いそがなくちゃ! いそがなくちゃ!

『ももせんせい』が、しんじゃうよ! はやく! はやく!


 でも、ぼくは、あるくのがおそいんだ。

 なかなか、たどりつかないよ! かぜも、いじわるしてくるよ!

 でも、まけないよ!

 

 だって『ももせんせい』は……ぼくの……


 『かぞく』なんだよ! きっとそう!


 あと、すこしなのに、かぜがいじわるして、すすめないよ!

 くやしいな! くやしいな!


「いもちゃん、いもちゃん。わたしたちも、てつだうよ」


「てつだうよ。てつだうよ!」


 あ! みんながでてきて、ぼくをおしてくれた!

 いじわるなかぜも、みんなのちからを、あわせたらだいじょうぶ!

 ぼくたちは『ももせんせい』のもとに、たどりついたよ!


 いそいで『ももせんせい』を、ささえてあげないと!


「いもちゃん、いもちゃん。いとをはいて、くっつけたらどうかな?」


「どうかな? どうかな?」


 ぼくたちは『ももせんせい』に、ぴゅーと、くちからいとをはいて

 つちから、ひっこぬけないように、してあげたよ。

 もちろん、ちぎれそうになっていたぶぶんも、いとでくっつけたよ!


 でも……いとをはくと、すごくつかれるんだ。

 あ……なかまたちが、ねちゃった。すごく、つかれたんだね!

 

 ぼくも、なんだか、ねむくなってきちゃった。

『ももせんせい』を、なおしてあげて、ほっとしたからかな?

 もう、さむくもいたくもないよ。やったね。やったね!


 ぼくも、ねよう。

 あしたおきたら『ももせんせい』の、はっぱをたべて……

 えるちんと、また、おさんぽにいこう!

 たのしみだな。たのしみだな!


 おやすみ『ももせんせい』。

 えるちん。


 またあした……ね…………


 ◆◆◆


 風にあおられる雨が、顔に叩き付けられる。

 雨に流されてしないはずの、血の臭いを感じる。


 今のフィリミシアは、俺の知っているフィリミシアではなかった。

 避難し遅れた市民の死体、守ろうと戦って無念にも倒れた兵士の死体。

 いずれも、知っている人達ではないが、それでも胸が痛む。


「ちくしょう! ちくしょうっ! 俺達の街に……なんてことしやがる!」


 これだけ、被害が出ているとパパンどころじゃない。

 俺の大切な家族や仲間、全員の命が危険な状態だろう。


「スキャン完了……エルティナ、現在フィリミシア全域に

 こみどりが発生している。

 特に戦闘が激しいのは、今向かっている中央エリアだ。

 残念ながら東エリアは……今見たとおりだ」


 桃先輩がフィリミシアの状況を調べて教えてくれた。

 流石、桃先輩! 謎の技術で俺達を導いてくれっ!


「そろそろ、到着しますよ! 二人とも! 油断しないでください!」


 タカアキが走りながら、俺達に注意を促してきた。

 そして……俺達は中央エリア、フィリミシア中央公園に到着した。


 フィリミシア中央公園に到着した俺達の目に飛び込んだ光景は……

 酷いものだった。


 昨日遊んだ遊具は、滅茶苦茶に破壊されており

 俺達の目を、楽しませてくれた花達は、皆枯れ果てている。

 皆の憩いの場が……こみどり達に蹂躙されていたのだ。


 その中で、こみどり達に果敢に攻撃している兵士達。

 その中に……いた! パパンだ!!


「パパンッ!!」


「!? エルティナ!? いかん! こっちにきてはダメだ!」


 そういうわけには、いかんのだよ!

 俺はこの状況を打破するために、フィリミシアへ戻って来たのだから!


 パパンは、かなり傷を負っていたが、命に別状はないようだ。

 それよりも部下の人達の方が不味い。

 十人くらいの兵士が、こみどり達と戦っているが、皆……動きが鈍い。

 しかも一人、意識が朦朧としているじゃないか! 治療だ! 治させろ!


「タカアキ! こみどりを頼めるか!?

 ルドルフさん! 俺をパパンの元にっ!」


 二人とも俺の指示に従ってくれた。

 タカアキはこみどりを攻撃して、注意を引き付けてくれている。

 その隙にルドルフさんが、パパンの元に俺を運んでくれた。

 そして、俺とルドルフさんを、括り付けていた紐を解いてもらって

 俺は、パパンの元へ走る。


「パパン!」


「エルティナ!」


 パパンは俺を軽く抱きしめてくれた。

 パパンは……血の臭いがした。何時もは香水の匂いがするのに……


「どうしてここに!? 竜巻はどうなったんだ!?」


「今説明するよ! でも……その前に! 『ワイドヒール』!!」


 俺は『ワイドヒール』で、纏めてパパンや兵士達の治療を行う。

 続けて『桃の加護』を付与し、防御を万全にした! これで一安心!


「これは……む? 頭に……この知識は!?」


「今……起こっている事態の知識と、俺の情報を転送させてもらった。

 本来なら、きちんと挨拶したかったのだが……許されよ」


 何時の間にか、パパンの頭には光る線が刺さっていた。

 ……変な情報渡してないだろうな!?


「そうか……そのような事態に……

 エルティナ、ここは私達に任せて、すぐに『神桃の芽』に向かいなさい」


「わかったよパパン! ……気を付けて!」


 俺達はパパンに、フィリミシア防衛を任せて『桃先生の芽』のある

『桃の聖域』へと急いだ。


 ◆◆◆


「どうなってるんだ!? なんでこいつらが、ここにいるんだよっ!?」


 マフティの短剣が、こみどりをバラバラにした。

 倒しても倒しても……次々と空から降ってくるこみどり達。

 僕達は学校にある避難施設に、避難させられていたのだが……


 突如、空からこのこみどり達が降ってきて

 避難して来た人達を襲い始めたのだ。


 学校にある避難施設は、強力な結界を幾重にも張り巡らされた

 鉄壁のシェルターだ。

 中に避難できれば安全だが……基本、生徒用なので収容数は多くはない。

 一般市民の方々が、避難施設に避難しているので、既に飽和状態だ。

 そこで、腕に自信がある生徒は

 避難施設を出て、こみどりと戦っているのだが……


「フォクベルト! そっちはどうだ!?」


 ライオットが、走って僕の元にやってきた。

 少しけがを負っているようだ。珍しいな? 油断したのか?


「ライオット、そのけがは?」


「あぁ……たいしたことねぇよ! それよりも、こいつ等……」


 僕達の会話を遮るように、不気味な色の光線が横切った!

 まだいたのか!? 

 その光線は、後ろを向いていたマフティに向かっている!


「マフティ! 避けてください!」


「え?」


 僕の声に振り向くマフティ。

 いけない! 間に合わない! 直撃する……!


 バチィッ! っと音が鳴り……光は霧散した。

 光を霧散させたのは、彼の肩に乗っていたホビーゴーレム

 テスタロッサだった。


「うおっ!? あぶねぇ!? 助かったぜ……テスタロッサ!」


 テスタロッサと呼ばれた少女型のホビーゴーレムは

 目を細め嬉しそうに笑っていた。


「攻撃を弾いた? ……と、いうことは『桃の加護』の効果が残っている?」


「俺は残ってなかったぞ?」


 と、ライオットが不満そうに言った。

 ……まさか、試したんですか? バカですか? きみは……


「……と、いうことは、我々の力が役に立つということですね?」


「君達は……ミリタナス神聖国の……」


 そこには、エルティナと共に戦った『ホーリー』の面々がいた。

 この避難所に誘導されて来たそうだ。

 彼等の腕には、相棒であるホビーゴーレムが抱えられていた。


「戦う力を持っているのに戦わないのは

『神官戦士』として恥ずべきことです。私達もご協力いたします」


「ま、見習いが付くんだけどね?」


 生真面目なミカエル、寡黙なメルト、飄々としたサンフォが

 協力を申し出てくれた。

 

 ……ありがたい! 今はとにかく、一人でも戦力が多い方がいい!

 それに『神官戦士』であるなら……


「『ヒール』!」


 そう『ヒール』が使える。

 ミカエルがライオットの傷を『ヒール』で治していく。

 ……遅い。時間が掛かり過ぎじゃないのか?

 あ、いや……違う! これが普通なんだ!

 エルティナの『ヒール』が異常なんだ!


 彼女の『ヒール』に慣れ過ぎたせいで、彼の『ヒール』による

 治療速度が、遅く感じてしまっているんだ。

 これはいけないな。気を付けないと、失礼なことを言ってしまいそうだ。


「ありがとな! ……でもちょっと遅いな?」


 そう……考えている傍から、この失礼猫が言ってしまった。

 すぐにフォローしなくては……!


「ライオット、失礼だぞ? 申し訳ありません。

 彼に悪気があったわけじゃないんです。許してくれませんか?」


 僕の謝罪に、彼は何故か……にこにこ笑って言った。


「いえ、お気になさらずに。むしろ……ちょっと遅いで済んだのですから。

 聖女……ごほん! エルティナ様の『ヒール』を、見てみたいものです」


 たぶん、自信とプライドが、ズタズタになるから……お勧めはできない。

 ……あれは異常ですから。


「あ! いた~! みんな! プリエナのはなしをきいてっ!」


 クラスメイトの狸獣人の少女が、同じく狸型のホビーゴーレムを

 抱えてこちらに走ってきた。


「どうしたんだ? ここはあぶねぇから、中に入ってろよ?」


「それがね! ぽんぽが、どこかにいきたがってるのっ!

 ふだんはおとなしくて、いいこなのに……

 きっと……なにか、しなくちゃいけないことが、あるんだとおもうのっ!

 おねがい! ぽんぽとプリエナを、そこにつれてって!」


 なんという無茶な頼みを……ダメに決まってるじゃないですか!


「そうか……それはプリエナの『勘』か!?」


「うん!」


 険しい表情のライオット。

 彼でも無茶だと思っているに違いない。


「よし、俺が連れてってやる。

 ただし……怖い目に合っても責任は取らねぇぞ?」


「うん! わかったよぉ! いこう! ぽんぽ!」


 彼は無茶どころか無茶苦茶だった。……胃が痛い。

 普通は止めるだろう?

 彼女はクラス内でも、エルティナに続く運動神経のなさだぞ?

 万が一の時に、自力で窮地を脱することが、できない可能性が高い。

 とても危険だ。


「危険です! 街には……ここ以上に、こみどりが出現しているそうです!

 一人では、守れる者も守れませんよ!?」


「……俺も行こう」


 その声の主は……ブルトンだった。


「……ダイブルトンも、どこかに行きたがっている。

 ……行き場所は、おそらく同じ場所だろう」


「……だな? わららも、さっきから……そわそわしてやがる」


 と、ゴードンがホビーゴーレムを従えて、こちらにやってきた。

 どうやら、向こう側のこみどり退治が済んだようだ。


「お~い! 俺達も行くぜ!」


「人手は多い方がいいだろ?」


 ダナンとリックも付いていくようだ。

 ダナンはともかく……これだけの面子ならば、なんとかなるだろうか?

 しかし……その分、ここの守りが手薄に……


「行ってまいれ。ここは拙者達に任されよ」


「ザイン……頼めるかい?」


 クラスメイトのザイン・ヴォルガーが、ここの守りを買って出てくれた。

 彼は東南にある小さな島国『イズルヒ』の出身で

 ここらでは珍しい『刀』という武器を使う。

『イズルヒ』伝統の武器だそうで、恐るべき切れ味を誇る。

 彼自身もクラスの中でも、トップクラスの実力を持ち

 学校内でも、徐々に頭角を現してきている猛者だ。


 黒髪のざんばら頭に『まげ』という物をつけ、常に口はへの字にしている。

 黒い瞳には意志の強そうな光が宿っていた。

 凛々しい顔つきは、油断するとすぐに、幼くて愛嬌のある顔になる。

 常に気を張っている状態なのだという。


 そこに着こむ鎧も『イズルヒ』伝統の鎧だ。

 重鎧とは違い、軽さと動きやすさ、強度が高い素晴らしい鎧だが

 その分、メンテナンスが物凄く大変らしい。『武者鎧』と、いうそうだ。

 彼の『武者鎧』は、明るい紫色だ。物凄く目立つ。


「わりぃな? ザイン! 行ってくる!」


「貸一つでござる。武運を祈るでござるよ!」


 こうして、僕等は出発した。


 先導はホビーゴーレム達だ。

 幸い先生方には見つからずに、学校を抜け出せた。

 先生方も、こみどり相手に戦っている。その隙を突いた形だ。

 すこし、心苦しいが仕方がない。


 果たして……ホビーゴーレム達の行き着く場所とは?

 僕等を待っているものは……?

 

 一抹の不安を抱えながら、僕達はホビーゴーレム達に導かれるのだった。

誤字 それはプリエナの『感』か!?

訂正 それはプリエナの『勘』か!?

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