オペレーションモモティーチャー
ど……どういうことだ!?
本体であるギュンターは輪廻に帰ったんじゃなかったのか!?
「どうしておまえが、ここにいるんだぁ? こみどりぃ!
おまえは死んだはずだろぅ? だったら死んでなきゃぁ!」
おもいっきり邪悪な顔で、こみどりを威嚇する。
しかし、こみどりには効果がないようだ……ちくせう。
「!? エルティナ! 『桃結界陣』!」
「ふぇ?」
その直後……おびただしい『憎しみの光』がこちらに向かってきた!
なんつー数だよ!? 少しは自重しろっ!
うおぉぉぉぉぉぉっ!? やっべー! 間に合うかっ!?
「ももももももも……『桃陣』!」
きちんと言えなかったが無事に『桃結界陣』は発動した!
よかった……ほっ。
「こらこら、きちんと言わんか……きちんと」
怒られた……いいじゃん、ちゃんと発動したんだから。
ぎりぎり間に合った『桃結界陣』に次々と当たる『憎しみの光』!
超広範囲に展開してるが……なんとか防げて……いねぇ!?
何発か貫通してんぞ!?
あちこちで、魔法隊の兵士達の悲鳴が上がっている!
「いかん! グロリア将軍! 後退の指示を!」
桃先輩が、慌てて後退要請を、グロリア将軍に頼んだ。
そして俺は、見ちゃいけないものを見てしまった。
『憎しみの光』が飛んで来た方角には……黒い絨毯があった。
「おいおい……冗談きついぜ」
その黒い絨毯は……全て、こみどりだったのだ! ……きめぇ!
「各部隊に通達! 後退だ! 急げ!」
グロリア将軍の指示により、各部隊の後退が始まった。
魔法隊三百人、騎馬隊三百人の構成による部隊だ。
魔法使い達が、騎馬隊の騎士に抱きかかえられて後退を始めた。
その間にも『憎しみの光』が撃ち込まれていく。
部隊の撤収が完了するまでは『桃結界陣』を維持しなくては!
「聖女様も後退しな! ルドルフ! さっさとお連れしろ!」
「結界がなくなったら、部隊の被害が甚大になる!
俺は最後でいい! 先に行ってくれ!」
ここは、踏ん張りどころだ!
俺ががんばれば、がんばっただけ、命が助かる!
「それでは……少し失礼します」
そう言ってルドルフさんは、一本の長い紐を取り出し……
俺とルドルフさんを縛り付けた。
「皆様は先に行ってください。私達もすぐ行きます。
徒歩なら馬よりも、先に行くこともないでしょう」
「ルドルフ! おまえは……!」
グロリア将軍が、呆れた顔をした。
そして……盛大に笑った。
「まさか、そんな突飛もないことをする男だったとはな!?」
「見損ないましたか?」
……と、言うルドルフさんに、グロリア将軍は……
「まさか!? 惚れたよ! 絶対に、聖女様をお連れしろよ!」
そう言って、馬を走らせた。
「フウタは将軍の元へ! 私も我が友エルティナと共に行こう!」
「そうか……! 合流地点でまた会おう! はぁっ!」
フウタも馬に乗って、将軍を追いかけていった。
おぅおぅ……白い馬がよく似合うこと。
あの馬も絶対チートだな。足の速さがダンチだぜ!
「うぉん!」「へっへっへっへ……」
とんぺーと、ぶちまるも残っていた。
おまえ等……帰ったら、うんとエライエライしてやるからな!
「さぁ! 行きますよ! エルティナ!
舌をかまないように、注意してください!」
そう言って走り出すルドルフさん。
重鎧着て走っているが、普通に足が早いですが……
鎧脱いだら、凄そう……「脱いだら凄いんです」とか言いそう。
俺も、そんなこと言ってみたいもんだぁ……
とと……集中! 集中!!
ルドルフさんと逆向きで、背中に固定されているお陰で
『桃結界陣』に集中できる。
未だに『憎しみの光』が撃ち込まれているが
結界を貫通するものはなくなった。
相手との距離が、遠くなったからだろうか?
「我が友エルティナ、そろそろ……速度を上げますよ?」
『憎しみの光』が散発になった頃を見計らって
タカアキが、ルドルフさんを『持ち上げた』……
「ちょ!? おまっ!? そんなのあり!?」
「アリだー!」
と……言って、とんでもない速度で走り出すタカアキ。
これが、勇者の力か! いや、ただの馬鹿力かもしれない!
どっちにしろ、すんげ~速度だ!
おいおい!? 馬に並んだんですけど!? どうなってんの!?
ほら! 並んだ騎士さんがビックリしてるぞ!
な……何か言っておかないと!(使命感)
「私の愛馬は狂暴です」
「ぶっひひ~ん!」
そう言って、騎士さんを置き去りにして
駆け抜けて行った俺達であった。ばびゅ~ん。
◆◆◆
午前九時四十分。第二攻撃地点、大型テント内。
「被害はどうか!?」
「はっ! 聖女様の御力で被害は軽微! 三十名が軽いけが! 三名が重症!
……残念ながら、五名死亡しました」
俺達はなんとか、こみどり達から逃げおおせた。
それでも、五人が亡くなってしまったとは……くそっ!
「しかし、何だい……ありゃ?
小さいくせに、やたら威力のある光線を放ってきやがる。
しかも、数が多過ぎる……どうしたものか?」
「それについてだが……っと
グロリア将軍には、まだ『鬼』の知識を、転送してなかったな?」
桃先輩が情報を共有する術を発動した。
グロリア将軍の頭に、光る線が『ぴとっ』と、くっ付く。
その光る線は、俺の頭と繋がっている。
そして……情報の転送が始まった。みゅいん、みゅいん……
「よし、転送完了だ」
「はぁ~? 便利な魔法だねぇ?
で……ペペローナ、黒ってなんだい?」
「情報漏洩っ!?」
ペペローナさんの、下着の色に決まってんだるるぉ!
一緒にお風呂に入った時に、バッチリメモリーしておいたのだ!
「さて……これであの黒い『子鬼』のことがわかったと思う。
そして……これは推測になるのだが……」
「桃先輩……あの竜巻はやっぱり『ギュンター』なのか?」
少しの沈黙の後……桃先輩は言った。
「おそらくは『ギュンター』の、残留思念ではないかと思う。
それを、なんらかの方法で竜巻に付与したのだろう。
こういう事態は、初めてのケースなので、なんとも言い難いが……」
「では、本体はやはり輪廻に帰って?」
フウタの質問に「おそらくは」と、答えるに留まる桃先輩。
今回は、わからないことだらけだ。
でも、これだけは言える。
これを作り出したやつは、明らかに悪意があるやつだ。
絶対に許さん! 焼き土下座の刑に処す!(憤怒)
「報告します!」
「どうしたっ!?」
伝令兵が、息を切らせてテントに入ってきた。
よく見ると……傷だらけじゃないか!?
「本陣及び……フィリミシアに、はぁはぁ……
小型の黒いゴーレムらしきものが多数出現!
被害が拡大しております! はぁはぁ……」
「な……なんだとぉ!? 陛下は? 陛下はご無事かっ!?」
俺は伝令兵に『ヒール』を施す。
……傷が治っていくな……どうやら、食われたわけじゃなさそうだ。
「陛下は……今のところ無事です! ですが、一刻の猶予もないかと!」
「やはり、あの攻撃で『子鬼』を風に乗せて撒き散らしたのか」
魔法で攻撃した時に飛び散ってたのが……こみどりだったのか!?
じゃぁ、どうやって竜巻を止めるんだよ!?
「桃先輩! 俺達はどうすればいい!? 教えてくれ!」
「それは……む? 少し待て」
そう言って、桃先輩はまたしても俺の脳内で
たれかと連絡を取り始めた。
『はい……はい。しかし、それでは……いえ、はい。……わかりました!』
……どうやら、終わったもよう。
「皆、これから言うことを、よく聞いて欲しい」
テントにいた全員の顔に緊張が走る。
桃先輩が新たな作戦を説明しだした。
「結論から言おう。現状の戦力では、竜巻の撃破は不可能だ」
「ちょっと待ちな! 不可能って!?」
グロリア将軍が、椅子を吹っ飛ばして立ち上がった。
お願いだから、そんなおっかない顔で俺を見ないでっ!
まぁ、桃先輩と融合してるから仕方ないんだが……
「気持ちはわかる……しかしだ『子鬼』の攻撃を防ぎながら
攻撃するには『桃使い』が足りな過ぎる。
エルティナ一人で、あれだけの攻撃を防いでいるのは
正直言って、奇跡としか言いようがない」
……奇跡扱いされた。
「それじゃぁ……黙って国が亡ぶのを見てろって言うのかぃ!?」
グロリア将軍が俺に詰め寄ってきた。
ぬあぁぁぁぁっ! 近い近い! もうちょっとで『ちゅ~』しちゃう!
「話は最後まで聞け。『我々』では、撃破できないと言ったんだ」
「では……我々以外に、あの竜巻を撃破できるものがいると?」
フウタの問いに桃先輩は……
「あぁ……いらっしゃる! ヒーラー協会の裏の空き地にな!」
なん……だと……!? まさか!?
「ブッチョラビの『ひろゆき』が!? ……遂に本気を出すのか!?」
「バカ者! そんなわけあるか! 桃先生が御力を振るってくれるのだ!」
やっぱり、桃先生だったか。
でも……桃先生ちっちゃい芽だぞ?
「ここからが作戦だ! 現在桃先生は『芽』の状態だ。
それをエルティナが『桃力』を補充して『木』に成長させる。
桃先生が『木』になれば……竜巻を一瞬で消し去る術を発動できる。
桃先生を『木』にした時点で、我々の勝利は確定だ。
できなければ……敗北だ。
もちろん、竜巻がフィリミシアの町に到着しても
あるいは桃先生がやられても敗北だ」
「それで……俺達はどうすればいい?」
そう言ったグロリア将軍が、椅子を元に戻して座った。
先程の興奮状態から一変、凄く冷静になっていた。
気性の激しい人だなぁ……
「部隊を三つに分ける。
グロリア将軍率いる攻撃隊は竜巻の『足止め』を頼む。」
「『撃破』じゃなく『足止め』だな?
時間を稼げってことかぃ! 任せな! できるだけ稼いでやるさ!」
グロリア将軍には、何やら策があるようだった。
たのもしいぜっ!
「フウタは本陣にて『子鬼』と国王の護衛を任せたい」
「承知しました」
フウタに任せれば安心だろう。
あとでガッツリ『桃の加護』を付与しとくぜ!
「最後にタカアキと、エルティナはフィリミシアに向かう。
タカアキは『子鬼』を、エルティナは桃先生に『桃力』を……
ムセル達にも、勿論……働いてもらうぞ!」
「任されました。どうぞ、お任せを」
「よっしゃ! やってやるじぇ!」
この窮地に希望の光が見え始めた。
全ては桃先生に掛かっている。
果たして……俺達は、この最大の危機に、打ち勝つことができるのだろうか?
午前十時十五分 『オペレーションモモティーチャー』開始!