竜巻討伐隊 本陣
「移動には『テレポーター』を?」
「はい。既にフィリミシア東門に設置済みです」
今……俺達は馬車に乗り、フィリミシア東門に急いでいた。
東門に設置されている『テレポーター』で、目的地に一気に移動するためだ。
この迅速な対応も、日夜ラングステンを監視している魔法使い達のお陰だろう。
ありがたや、ありがたや。
「風が段々強くなってきたな……?」
「竜巻が近付いてきている証拠じゃよ。
なんとしても……止めねばならぬ」
王様の顔のしわが、一層深くなった。
「陛下! 東門です! ご準備を!!」
「……うむ」
凄い速さで、東門に到着した。
俺達を運んでくれた馬は、限界を超えた速さで走ってくれたようだった。
「ありがとな! これでも食ってくれ!」
俺は馬に桃先生を与えた。
……美味そうに食っていた。『うま』なだけに!
これは使える! メモすとこ。
「聖女様! お急ぎを!!」
「すまん! 今行く!!」
メモしてたらルドルフさんに怒られてしまった。……しょぼん。
◆◆◆
午前七時 本陣到着。
『テレポーター』で、移動した先は……予想を遥かに超える暴風雨だった。
吹き荒れる風、叩き付ける雨、激しく光る雷、そして……転がる俺。
「ぬわ~~~~」
「あぁっ!? 聖女様っ!!」
体重の軽い俺では、踏ん張ってその場に留まることが難しかった。
仕方ないので、ルドルフさんにしがみ付いていくことにした。
今の俺は、くっ付き虫だ!
尚、ムセル達もルドルフさんにくっ付いている。
そんな中、ぶちまると、とんぺーは、堂々とルドルフさんの後を
しっかりと付いていった。
「利口な犬だ……これが野良犬とはとても思えません」
「ぶちまる、とんぺー、ルドルフさんが、お利口だって褒めてくれたぞっ!」
「うぉん!」と、吠えて意思表示する二匹。
その表情に油断はない。
周辺を警戒して、ルドルフさんの左右に付いている。
少し歩くと……竜巻討伐隊の本陣に着いた。
「お待ちしておりました……陛下」
「うむ……よく来てくれた。フウタ・エルタニア・ユウギ男爵」
本陣で出迎えてくれたのはフウタだった。
普通は将軍様とかじゃないの?
「グロリア将軍はどうした?」
「はい……『いつもどおり』前線に出向いております。
少しは、本陣で指揮を執っていただきたいのですが……」
フウタの言葉で、王様は眉間を揉み解し始めた。
フウタも同じ動作をした。
将軍様……何やってんの?(呆れ)
「あの、お転婆には困ったものだ……
フウタ男爵が有能と、わかった途端これではな……?」
「将軍が前線に赴けば士気は上がりますが……その分危険が伴いますからね。
私としても、本陣に残ってもらいたいです。
しかし……陛下。今は……」
王様は「うむ」と、頷き兵士達に指示を始めた。
「タカアキ殿、フウタ男爵は、聖女エルティナを伴い前線へ赴け!
此度の戦い……聖女エルティナを失うことは、国を失うと同じ!
心せよ! 己が力尽きようと……聖女エルティナだけは守るのだ!」
「はっ!!」
タカアキとフウタの声が重なった。
二人とも、普段俺が目にしない緊張した表情だ。
「ルドルフ! そなたは、聖女エルティナの手となり足となるのだ!
……この子は、まだ幼い。
にも拘らず……この国のために、力を貸してくれるのだ。
守ってやってくれ!」
「ははっ! 私の誇りと命に代えても……お守りすることを誓います!」
安心しろ! ルドルフさん! 俺がいる限り……死なせはせんよ!
その代わり……俺のアッシーになってね?
「ヒーラー隊は本陣に半分残れ! 前線には俺とベテランで行く!
ただし! マキシード! おまえは付いて来い!」
「わ……わかりました!」
スラストさんに付いて来いと言われた若手ヒーラー、マキシード・ズイク。
彼は今年、ヒーラー協会に加わった新人である。
紫の癖っ毛に薄い眉毛、ソバカスが特徴的である。
顔は悪くない。むしろ可愛い系の男の子だ。歳は十五歳。
あれだ、ショタってやつだ。小柄な体で実年齢に合っていない。
……あれ? なんだか親近感が……
「大丈夫、僕達もサポートするから」
ビビッド兄が、すっごく頼もしく見える……
あの、ヘタレビビッドが……ここまで成長するとは
だれが予想したであろうか?
昔の俺……ケツプリ土下座しとけ!(今の俺はしない)
「くひっ……くひひひひひひひひ! ほらぁ、前線よ? 肉団子?」
「だ……だれが肉団子ですかっ! 私は、ぽっちゃりですよ!」
かつての若手ヒーラー、ディレジュ・ゴウムと、エミール・エフュンが
何時ものやり取りをしていた。
この緊迫した状況下でも、いつもどおりとは大したものである。
黒く艶のある長い髪を膝まで伸ばしているのがディレ姉。
あれだ『さ〇こ』っぽいイメージだ。
髪の隙間から見える赤い瞳が、すっげー不気味だ。
性格もアレな方なので、絶対に逆らわないように!(警告)
エメラルドグリーンの癖っ毛を長く伸ばした結果……
頭が綿飴みたいになっているのがエミール姉だ。
一言でいえば、おデブだ。色んな意味で、美味しそうな……十七歳だ!
「じゃれてないで……行きますよ?」
相変わらず、くっそ真面目なアニキ……ルレイ・ヤークスが二人を注意した。
彼は、紺色の短い髪に金色の瞳。
顔にはソバカスがある小太りな男だったのだが……
何があったのか、今ではすっきりと痩せて、美青年に早変わりである。
ルレイ兄目当てに来る、女性患者が増えていて問題になっているのだが……
彼等にビビッド兄と、ティファ姉を加えたのが
かつての若手ヒーラーである。
それが、今では立派なベテランに!
心を鬼にして鍛えた甲斐があったってもんだぁ!(号泣)
あ、もちろんヒュースさんも来てるよ!
ヒュースさん居ないと、相変わらず上手く立ち行かないから!
マジ感謝!
「セングラン先輩! ここはお願いします!」
「おう! 行ってきなスラスト! こっちは任せておけ!」
セングラン・ドルトス。
今は亡き、デイモンド爺さんの同期兼、ライバルだったヒーラー。
魔族戦争の時も、デイモンド爺さんと連携を組んで
俺達を支えてくれた……先輩だ。
本当に頭が上がらない人である。
……デイモンド爺さん思い出して、泣きそうになった。
生きていたら……ここに居たんだろうなぁ。
本当に熱い人だったから……ぐすん。
「よし……皆の者! 此度の戦いは、国家存亡を賭けた戦いである!
それぞれの守りたいもののために! 暮らすべき国のために……!
皆の力を、どうか貸して欲しい!
この『ラングステン王国』のために!」
全兵士が咆えた!
王様にたのまれちゃぁ……答えなきゃ男じゃねぇっ!
皆、わかっていやがるっ! へへ……燃えてきたぜっ!
「行きますよ! 聖女様!」
「ルドルフさん……俺はエルティナだ。
俺はルドルフさんに命を預ける。
全幅の信頼を寄せる……だから、遠慮なんかしないで呼び捨てにしてくれ」
少し困った顔で「ですが……」と言った。
「頼むよ……聖女様って言われたらケツが痒くなる」
「仕方ありませんね……行きましょうか? エルティナ?」
笑顔でいってくれたルドルフさんマジイケメン。
「おうっ! 行こう……ルドルフさん!」
でも俺はルドルフを『さん』付けする!
年上だし……不正はなかった!(暗黒微笑)
こうして俺達は前線に向かった。
俺達の大切なものを奪おうとする『敵』を倒すために……
午前七時三十八分。 前線に転移……