故郷を守るために!
「作戦は至って単純だ。
エルティナの『桃の加護』を、遠距離攻撃できる者に施し
目標を撃破する……以上」
「ふむ……やはり、そうなるか。桃先輩、布陣は既に整いつつある。
急ぎ、攻撃隊の元へ赴こうぞ!!」
いやいや!? 桃先輩と王様で、トントン拍子に話が進んでいるけど
目標って『竜巻IN鬼』ですよね?
「なぁなぁ? 竜巻相手に、どうやって攻撃するんだ?」
俺は気になったことを、隣に座っていたレイエンさんに聞いてみた。
普通……どう考えても、竜巻相手に勝てるわけがない。
「どうって……基本は魔法ですね。
竜巻は魔法生物の風属性ですから……有効的な属性は地属性ですね」
「竜巻って生きてるんだ……」
ここで俺は、初代の知識を検索した。
ん~? お? あった、あった! これか~
カーンテヒルの災害の原因は、精霊の暴走である。
よって、人の手によって鎮めれる可能性がある。
精霊の弱点を突き、弱体化させて精霊を正気に戻せば
収まる可能性は十分にある。
非常に困難ではあるが、やってみる価値はあるだろう。……か。
属性の方はっと……これか。
火は地を食い、地は風を食い
風は雷を食い、雷は水を食い、水は火を食う。
光と闇は互いを食い合い……全ては竜に制される。……か。
俺が元居た世界とは、考え方が違うんだなぁ……
そうだった、ここはファンタジー世界だった!
だったら、いけるぜ!
竜巻! おまえを……コロス!
「デルケット……ここは任せる!
何もないとは思うが……守備にヤッシュを就かせた。
何かあったら頼るのだ!」
「……お任せを!」
まさかの、パパンの名前が出てびっくらこいた!
まぁ、有事だし……当然といえば当然だ!
パパンががんばるなら、俺もがんばらないとな!
「レイエン! ヒーラー達の準備はどうか!?」
「はい。若手十名、ベテラン十名、サブマスターのスラスト
それと……ジェイムスさんと、セングランさんが参加してくれます。
二十三名ですが……魔族戦争を支えたヒーラー達です。
ご期待に沿えるものだと信じております」
新たに加わった新人五名以外は、俺と苦労を分かち合ったヒーラーだ!
しかも、復帰組のジェイムス爺さんと、セングラン爺さんが来てくれるとは!
これは、心強い!
「そうか……ジェイムスとセングランも、加わってくれるか。
あやつ等には、世話になりっぱなしじゃのぅ……」
王様……爺さん達と知り合いなんだ?
そう言えば、同じくらいの歳だし……その可能性はあるか。
「私は、ここに残り……万が一に備えます」
「うむ……頼む!」
レイエンさんが居てくれれば安心だ!
残った皆を纏め上げてくれるだろう。
「住民の避難は始まったか!?」
「はっ! 既に開始されておりますが……若干遅れが出ております!
しかし、露店街の住民達なので問題ないかと!」
……あそこの方々、無駄に強いから大丈夫か。
ほとんど、元高ランク冒険者だしな……
「うむ……エルティナよ! 今回はそなたに全てが掛かっておる!
すまぬな……そなたのような幼子に、頼らねばならぬ
情けない大人を……許せ……!」
「王様……大人も子供もないんだぜ!
ひょんなことから、ここに流れ着いて聖女になっちまって
ここで生活して……皆に出会った。
ここには楽しいことも、悲しいことも色々な思い出がある!
ここはもう……俺の故郷なんだ!」
そうだ! 俺はここで皆とであって……
泣いたり、笑ったり……苦労を分かち合ったりした。
大切な友達もできた!
大切な仲間ができた!
大切な……家族ができた!
もうここを、見捨てるなんて……できるわけがない!
「俺に、フィリミシアを守る力があるのなら……出し惜しみはしない!
大切な人達のために……俺を使ってくれ! 王様!!」
「……エルティナ! よくぞ……よくぞ申してくれた!!」
王様は俺をキュっと、抱きしめた。
ちょっと、苦しかったのは……ないしょだ!
「礼を言う! フィリミシアを……ラングステンを共に守ろうぞ!」
王様はここにいる皆の顔を見渡した。
そして……満面の笑みを浮かべた。
「皆……良い顔をしておる! ゆくぞ! 出撃じゃ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
皆の声が重なった! 出撃の時だ!
いくぞ、ばかやろう! やるぞ、ばかやろう!
「エルティナ! 『身魂融合』!」
「応! 『身魂融合』!!」
俺は未熟な桃を食べる!
やっぱり、少し甘味があった!
「聖女様こちらへ」
「あ!?」
ヘルメットのフェイスカバーを上げた護衛の騎士の顔に
見覚えがあった。
「お久しぶりです……聖女様」
「ルドルフさん! 久しぶりだな!」
なんと、あの十回も重症のけがを負って生きて帰ってきた兵士
ルドルフ・グシュリアン・トールフであった!
出世したんだ……よかったな!
「覚えてくれていたんですね! 嬉しいです!」
「忘れるもんか! 十回も来たやつなんて、あんたくらいのもんだ!」
俺はルドルフさんと握手して、再会を喜んだ!
「エルティナ、ルドルフをそなたの護衛に付ける。
ルドルフ! 命に代えても……
いや、おまえもエルティナも、絶対に死ぬでないぞ!」
「おうっ!」「ははっ!」
そして、俺達は向かう! 決戦の地へ!
そんな俺に近付いてくる者がいた!
「ムセル! イシヅカ! ツツオウ!?」
ムセル達であった。
ツツオウは最初、だれだかわからなかった。
ツツオウは、カッパと長靴を履いていたのだ。
アースゴーレムのツツオウは雨に弱いので
イシヅカが『フリースペース』から、カッパと長靴を出して着せたらしい。
なんでも入ってるな? イシヅカ!?
「おまえ達も付いてくる気か?」
右腕を上げて、意思表示するムセル。
「ムセルはお前の『桃の守護者』だ。
付いていくのは当然だろう。
他のは……ふむ『桃の従者』に相当するか。
エルティナ、俺はこいつ等を連れていくのには反対しない。
おまえ次第だ」
と、桃先輩が俺の口で喋った。
俺は当然……
「ならば、ユクゾッ! 『モモガーディアンズ』! 出撃だっ!」
その俺の言葉に、二匹の犬が飛び込んできた。
「とんぺー! ぶちまる!?」
野良ビーストの一員……とんぺーと、ぶちまるであった。
白い毛並みのとんぺー。
灰色の毛並みのぶちまる。
この二匹は、俺の部屋によく入って、くつろいでいる二匹だ。
特に、ぶちまるは……俺が聖女になって部屋を貰った
次の日に、既に部屋に入ってくつろいでいた猛者だ。
「おまえ達も行く気か!?」
「うおぉん!」
と、同時に吠えた。二匹の目には強い意志が宿っていた。
「しょうがないな……おまえ等も『モモガーディアンズ』だ。
断る理由なんてない。ただし……覚悟はしとくんだぞ!?」
俺はドアの影で、こちらを見ていた、残りの野良ビースト達に言った。
「おまえ達! 良い子で待ってるんだぞ?」
野良ビースト達が鳴いた。
……俺の無事を祈って。
大丈夫! 必ず戻ってくるさ!
……竜巻をやっつけてな!
俺は、ムセル、イシヅカ、ツツオウ、ルドルフさん
とんぺー、ぶちまるを伴い……ヒーラー協会を出た。
さぁ! 桃使いの『鬼退治』だ!
午前六時三十分 出撃!
二章のラストイベント開始です。
果たして珍獣の達の運命は如何に?