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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
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緊急事態

 午前五時十五分。 


 苦しい……なんだ? この圧迫感?

 体が動かない……息ができない……!

 いったい何が……!?


「って、重いわ~~~~~~~~っ!!」


 わんわん、にゃ~にゃ~、ちゅちゅ、と鳴きまくる野良ビースト達。

 いったい全体、どうしたんだ? おまえ等……?


 何時もなら俺のベッドの上は野良にゃんこが二~三匹

 丸くなっている程度なのに……今日に限っては、十匹も居る。

 しかも、わんこまでベッドにINしていた。


 もっちゅ達も、いつもの窓際ではなく、枕もとで肩を寄せ合っていた。


「いったいどうしたん……だぁ!?」


 俺は窓を見て驚愕した。


 吹き荒れる風、叩き付けるような雨、時折光るのは雷だろう。

 これは間違いなく台風だ!


「でも……今日は晴れる予定だったはずだが?」


 フィリミシア新聞の、天気予想は当てにならんな!

 今度、文句言ってやる!


「しかし、ひっどい天気だな……」


 と、その時……コンコンとドアがノックされた。


「聖女様! 起きていらっしゃいますか!?」


 ドア越しにレイエンさんの声が聞こえた。

 えらく慌てている様子だが……

 この台風と何か関係があるのだろうか?


「起きてるよ! どうしたんだ!?」


「あぁ! よかった! 

 至急……隣のマイアス大聖堂にいらして下さい!

 緊急事態が発生しました! 

 詳しくはデルケット様が説明をしてくれます!」


 そう言った後、走っていく音が聞こえた。

 他のヒーラー達を起こしに行ったのだろう。

 ヒーラー協会には、常に何人かのヒーラーが寝泊まりしていて

 有事の際には、すぐ活動できるように待機しているのだ。


 まぁ、俺はここに住んでいるのだが。


「これは、ただ事じゃないな……

 レイエンさんが、慌てるようなことか」


 冷静沈着なレイエンさんが、慌てるほどの事態が発生している。

 俺は急いで寝間着を脱ぎ『聖女の服』を着こんだ。

 これは間違いなく、タフな仕事になりそうだ。


「行ってくる! ここで大人しくしてるんだ。

 大丈夫……何も起こらないさ」


 気休めにしかならないが、野良ビースト達を落ち着かせるために

 そんな言葉を言って自室を出た。


 ◆◆◆


 マイアス大聖堂には、デルケット爺さん、レイエンさん

 ヒーラー協会のサブギルドマスター、スラストさんに、ビビッド兄。


「タ……タカアキまで!? どういう事態なんだ!?」


 そこには、完全武装の勇者タカアキが居た。


「友よ……落ち着くんだ、説明は……」


「わしが説明する」


 ドアを開けて入って来たのは、なんと……!


「お……王様ぁっ!?」


 入って来たのは、ラングステンの王様。

 ウォルガング・ラ・ラングステンであった。

 相変わらず、ごっつくて……でかい!

 他にも護衛の騎士が五名ほど付いている。


「うむ、久しいな? エルティナよ。

 デルケットこれで全員そろったな……?」


「はい。フウタ殿は現地で落ち合う予定です。

 アルフォンス殿は既に、現地で魔法の準備を開始しております」


 その言葉に頷くと……王様は俺達に、今起こっていることを説明していった。


「午前四時三十分頃、フィリミシアの東方に突如巨大な竜巻が発生した。

 その竜巻は周囲の物を『取り込みながら』フィリミシアに向かっておる」


 今……やけに『取り込みながら』を強調したな?


「竜巻は徐々に大きくなりながら、フィリミシアにむかっており……

 午後八時には、フィリミシアを飲み込むだろうと予測されておる」


「陛下、竜巻が逸れる可能性は?」


 レイエンさんが王様に竜巻が逸れる可能性を尋ねるも……


「おそらくないであろう。あれには……な」


「その言い方だと……」


 俺は言い掛けて止めた。

『取り込みながら』、「あれには……な」というキーワードで俺は察した。

 俺を見ていた王様の目が鋭くなった。


「推測だが……竜巻は『全てを喰らう者』である可能性が高い」


 全員の息を飲む声が聞こえた。『鬼』じゃなかった。……しょんぼり。

 タカアキも驚いていたのは、エレノアさんにでも教わったのかな?


「しかし……それはおとぎ話では?」


 と、タカアキが王様に言った。

 俺もおとぎ話で『全てを喰らう者』を知ったが……


「否……『全てを喰らう者』は、実在する!」


 王様の表情が険しくなった。

 同時に、デルケット爺さんが悲しそうな顔になる。


「……実在するのだ」


 今度は、感情を押し殺すように……再度言った。

 過去に何があったかは知らないが……辛そうだった。

 王様のそんな顔は見たくない。

 何時ものように、笑っていて欲しいと思った。


「陛下……対策は何かおありで? 

 仮に竜巻が『全てを喰らう者』であれば……全ての行動は無意味です」


 サブマスターのスラストさんが王様に聞いてきた。

 この角刈り堅物とは、色々衝突したが……今では良い先輩である。

 頼りにしているのだ。


「うむ……それについては、可能性がある」


 と、言って俺を見る王様。


 ……何故に俺?

 俺は『鬼』退治はできても『全てを喰らう者』は、退治できないぞ?


「エルティナよ。

 そなたがグランドゴーレムマスターズで見せたあの奇跡を……

 フィリミシアに住む者のために、今一度起こしてはくれまいか!」


 そう言って、俺に頭を下げる王様。

 デルケット爺さんも一緒に頭を下げた。

 グランドゴーレムマスターズ見てたんかい。

 頭を下げた王様に俺は言った。


「王様! 王様が頭を下げるもんじゃねぇ!

 そんな姿見たら……悲しくなる」


「……! エルティナ」


 王様が頭を上げて俺を見た。

 俺は、はっきりと言った。


「王様はただ……言えばいいんだ。

 ゆ~! ミラクル起こしちゃいなヨ! ってさ!」


 と、言ってビシィッ! と決める俺。


「自重」


「さーせん」


 タカアキにツッコまれる。

 ……流石、わかっておられる。


「そうか、やってくれるか!」


「やれることは、何でもするのが信条だ!

 でも、俺の力が通用するかな? 俺のは対『鬼』専用っぽいし」


 ん~わからないんなら! 聞けばいい!


「おいでませ! 桃先輩!」


 俺の手に光が集まり……未熟な桃が姿を現した!

 王様と護衛の騎士、デルケット爺さんとタカアキが驚いた!

 うちのヒーラーは、知っているので驚かない。

 散々、桃先生を見ているから。


「ほぅ、久しぶりだな! 魂痛はもういいのか?」


「桃先輩! 緊急事態だ! 竜巻に『桃力』が通じるか知りたいんだ!」


「しゃ……しゃべった~~~~~~~~~!?」


 あ……桃先輩は初めてか! 失敗、失敗……てへぺろ。(反省の色なし)


「ふむ、初顔だらけだが……

 エルティナが信用に足る人物達……だと、いうことはわかった。

 俺の名は桃先輩! 

 これより君達に、俺のことと『桃使い』の情報を脳に転送する!

 少しの間、我慢してくれ!」


 と、言って『桃使い』の情報を皆に提供する桃先輩。

 護衛の騎士達は知らん人ばっかりだが……まぁ、いいか。


「これは……!? 『鬼』『全てを喰らう者』……!

 似ている……いや、これは……まったく!?」


「同じだな。世界によって、呼び名が変わるのが『鬼』だ」


 王様は驚き、桃先輩がそれを肯定した。

 そうか、『鬼』と『全てを喰らう者』は同じ存在か。

 だったら、いけるぜ!


「桃先輩! だったら、俺の力で……」


「無理だな、規模が違う。

 今、計算したが……この『鬼』を退治するには……おまえの『桃力』では足りん。

 こいつを退治するには、今のお前の百倍近くの『桃力』が必要になる」


 その言葉に、全員押し黙ってしまった。

 夢も希望もねぇっ!!


「落ち込むな……エルティナ一人での話だ。

 皆が力を合わせれば、なんとかなるかもしれん」


「その方法とは!?」


 デルケット爺さんが、すがるように聞いてきた。

 俺も気になる。


「エルティナ。少し情報を貰うぞ?」


 と、言って俺の記憶を読み出し始めた。

 ら……らめぇ! 記憶みられちゃ~~~う!


「……いや、まてまて! なんだこれは!?

 なんで……『神桃の芽』が、一日で芽吹いてるんだ!

 おかしいだろうっ!?」


「桃先生の芽のことか?」


 普通にぴょこって、生えてたぞ?


「普通は百日掛けて、儀式と祈りをだな……あ!?

 桃先生! まさか!? 少しお話が!

 ……情報規制ですって!? おまちなさい!」


 ギャーギャー! ガタガタ!


 未熟な桃から、様々な声と音が出ていた。

 なにこれ……?


「こほん! 失礼した。作戦を伝える!」


「何があったんですかねぇ?」


 と、言う俺の質問に「箝口令が敷かれた」と、言って誤魔化す桃先輩。

 ……気になるんだぜ!


 静まり返った、マイアス大聖堂に激しい風の音が響く。

 そして、桃先輩の口? から、作戦の内容が話されたのだった……

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