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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
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夕日

「夕日が綺麗だなぁ……」


 バーベキューを堪能した後、噴水広場でまったりとし……

 将来について語り合っていたら……夕暮れ時になっていた。


「あぁ、真っ赤だな」


「そう言えば……夕日をじっくりと見る機会も減ったねぇ」


 ライオットとプルルが、夕日を見てポツリと言った。


「夕日か……へへっ、目に染みるぜ!」


「ふん……大人になれば、夕日を肴に一杯と……いくところだな

 今は酒は飲めても、遅くまで飲んでられねぇからな」


 ダナンは相変わらず、ガンズロックも、相変わらずお酒が中心だ。

 だが、ガンズロックの意見には俺も賛成だ。

 この夕日を見ながら飲む酒は……きっと美味しいだろう。


 酒はバーボン、あとはソルトピーナッツが、あればいい。

 それだけで、日が沈むまで……至福の一時が味わえるだろう。


 ……あと、八年か……長い。


 ガンズロックとダナンと別れ、帰路に就く俺達。

 野良ビースト達も遊び疲れたのか、何匹かはぐれーとらいおっと号に

 ちゃっかり搭乗していた。


「エルは乗らなくてもいいのか?」


 ライオットが俺に、そう言ってきた。

 たぶん、病み上がりの俺を心配してくれたのだろう。


「ん……疲れたら乗らせてもらうさ」ぷぴっ! ぷぴっ!


 今は、こうして皆と歩いていたい。

 どうしてかは……わからない。


 でも、俺は自分の勘を信じる質だ。

 きっと……これは俺自身が求める何かなのだろう。


「風が涼しいねぇ……夏も……そろそろ終わりかねぇ?」


 プルルは、ぐれーとらいおっと号に乗っていた。

 イシヅカと共に、沈む夕日を眺めている。

 その隣で、ツツオウといもいも坊や達が、丸くなって寝ていた。


「今日は……楽しかったなぁ……

 また、皆でバーベキューしようぜっ!」ぷぴっ! ぷぴっ!


「おう! 期待して待ってるぜ!」


「んふふ……! 勿論、僕も誘ってくれるんだろうねぇ?」


 我等が野良ビースト達も、連れて行けと吠えたり鳴いたりして

 露骨にアピールしてくる。


「わかった、わかった!

 おまえ等も連れていくから、良い子にしてるんだぞ!?」ぷぴっ! ぷぴっ!


 そう言った後……俺もぐれーとらいおっと号に、乗り込んだ。

 実は少し、足が痛みだしたからだ。

 勿論、このことは絶対に言わない。


「……エル? 痛みだしたのか?」


「痛くない」


 ……と、言う俺の言葉にライオットは……


「そっか……あんまり無理すんなよ?」


 と、言って再び黙々とリアカーを引いて歩いた。

 

 なんか、いきなりバレてるんだが……

 侮れんな、ライオットの勘!


「食いしん坊は、すぐ顔と耳に出るから嘘は付けないねぇ?」


 クスクス笑って、俺の耳をいじるプルル。

 

 そこは、弱いんだから! さわっちゃ……らめぇっ!


 ぐれーとらいおっと号に、ムセルも乗り込んできた。

 ムセルは、グランドゴーレムマスターズが終わって以来……

 常に、俺の周囲を警戒している。


 桃の守護者になったから……と、いうのはわかるが

 こういうときくらいは、以前のように遊んで欲しい。

 

 ……いや、これは俺のわがままか。

 

 それに、変わらないことなんて……ないんだ。


 以前……この道を、エレノアさんと、ミランダさんと、ティファ姉で

 手を繋ぎながら……ヒーラー協会に帰った。


 今、彼女達はそれぞれの道……家庭に入った。

 だから……昔のように、朝起きたらエレノアさんが迎えにきたり

 食堂でミランダさんが、料理を作っていたり……

 ティファ姉が、治療室でがんばっている姿を……見ることはない。


「変わらない物なんて……ないんだなぁ」


 ポツリと言葉が漏れる。

 

 それを聞いたライオットがこちらを振り向かずに言った。


「あるさ……それは『友情』だって。親父が言ってた」


「友情?」


 それは……ないだろう。

 俺もそう信じたい……でも、人の心は移ろうものだ。


「例え一時的に、違えたとしても……何時かは元の鞘に戻るのが『友情』だ。

 って、酒飲んで酔っ払ってた親父が言ってた」


「そうか……」


 そうだな! そうだ! そうに違いない!

 俺は友情パワーを信じるぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!


「でも、お酒飲んでたんだろう?」


 ……と、言うプルルにライオットは……


「あぁ、しこたま飲んでた。普段は一滴も飲まない親父が……

 その日に限って、飲んで酔っ払ってた。

 普段は決して言わない……親友のことを話してくれた」


「そっか……普段飲まないお酒を飲むくらいだし、嬉しいことがあったのかねぇ?」


 いや、逆だろう……

 飲まなければ、やってられないこともある。


「親父の親友は死んだってさ。敵である親父を庇って……」


「…………」


 その言葉を聞いて、黙ってしまったプルル。

 気まずいよなぁ……


「親父の親友は……魔族だったんだ。

 小さい頃から、同じ師匠の元で修行して、張り合って

 何時かどちらが先に、最強の武闘家になるか競い合ってたんだ」


 そこに魔族との戦争か……あの戦争は……悲惨だった。

 もう、体験したくない。

 直接……参加してなくてもあの惨状だ。


 俺は当時のヒーラー協会を思い出した。

 ……うっは! よく乗り越えれたな!? 俺達!!


「そこに魔族との戦争が起こって……あとはお決まりの

 戦場でバッタリってやつでさ。

 お互いに拳を交えて……共に傷ついて……

 その隙を突いて、魔族の兵士が親父を打ち取ろうとしたらしい」


「その時か……」


「あぁ……」と、言ったきりライオットは黙り込んだ。


 友情か……それは俺達にもできるのかな?

 敵である友達を、庇って命を落とす。

 そこまでの、友情が……


「……ヒーラー協会が見えてきたよ?」


「うん、見えてきた」


 夕日に染まる、白い建物。

 俺が帰るべき家……ヒーラー協会だ。


「とうちゃ~くっ!」ぷぴっ! ぷぴっ!


「んふふ……お疲れ様。ライオット」


「ふぅ……疲れた」


 疲れたと言うのは、喋り疲れたということだろうな。

 リアカー引っ張ったくらいじゃ、ライオットはビクともせん男だ。


「桃先生! ただいま!!」ぷぴっ! ぷぴっ!


 夕日に照らされて、赤く染まった桃先生の芽に、今日のことを報告する。

 俺のいつもの日課である。


 いもいも坊や達も、桃先生の芽に集まって、いもいもしている。

 おそらく、俺と同じことをしているのだろう。

「いもいも」に、かなり熱が入っている。


 野良ビースト達も、それぞれのお気に入りの場所でくつろぎ始めた。

 

「……というか、ブッチョ君。君……一歩も動いてないね?」


 そこには、出掛ける前と同じ位置に、そして同じ格好で寝ている

 ブッチョラビが居た。ある意味……パネェ。


「エル~! リアカーここでいいか!?」


「お~! そこでいいぞ~! ありがとな!」


 これで、ぐれーとらいおっと号もお役御免である。

 ご苦労様!


「さて……じゃあ、僕もかえろうかねぇ? また来るよ、イシヅカ」


 プルルは、イシヅカの頭を撫でて、家に帰っていった。

 

「俺も帰るか……シシオウ! 良い子にしてるんだぞ!?」


「にゃ~ん」


 ライオットも、ツツオウを優しく撫でて帰路に就いた。

 そして……俺だけになった。


 実際にはムセル達や、野良ビースト達

 いもいも坊や達に桃先生の芽が居る。


 さみしいわけはないのに……何か心に、ぽっかりと穴が開いた気がする。


「なんだかなぁ……これにも慣れないと、いけない日が来るのにな?」


 ……いつか訪れる未来。


 俺は、その日が来ないことを、切に願うが……無理だろう。

 寿命、事故、病気で……いとも簡単に命は失われる。


 特に寿命は、どうがんばっても……どうにもならない。


 俺は、永遠に近い寿命を持つ。

 対してライオット達は……せいぜい百年程度。

 もっと短いかもしれない。


「俺も……人間に生まれたかったな」


 一人取り残されるのは……さみしい。

 どんなに頼んでも、願っても……最後には俺一人。


 ぽんっ、と……ムセルが俺の足を叩いた。


「ムセル……そっか。

 おまえは、俺と一緒に居てくれるか……ありがとう」


 俺はムセルを抱き上げ……共に、夕日が沈むまで……眺めていた。

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[気になる点] この方が・・:未来 ……いつか訪れる結末。
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