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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第二章 身魂融合 命を受け継ぐ者
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秘密の小部屋

◆◆◆


「うごごご……折角の夏休みが、無駄に過ぎようとしているぅ」


魂痛のおかげで、まともに立つこともできん!

筋肉痛ならストレッチやら、痛みを無視して体を動かせば

早く治るが、こいつに関しては、そうもいかなかった。


桃先輩が言うには……


「食って寝てろ。それが、一番早く治る」……だそうな。


食べるのは大賛成だが、寝てばっかりってのは性に合わない。

動きたい、何かしたい、でも体を動かすと……


「ふきゅん!?」


と、悲鳴が上がる。

普段は出さないようにしている……本気の悲鳴だ。

まったくもって、余裕がない。


心配してくれた野良猫が、俺のほっぺを舐める。

ざらざらとした舌がくすぐったい。


「おぉう、心配かけた。すまねぇな?」


「な~お」


返事をして野良猫は、再び丸くなる。


窓から入ってくる風が気持ち良い。まだ、朝も早いので風も涼しく感じる。

しかし、確実に夏も終わりに近付いてきている……と、思った。

一週間前は朝でも、暑苦しい風が入り込んでいたのだから……


「ふぅ……動けないと、感傷的になるな」


ズキズキと痛む魂。

魂は肉体と繋がっている。

その証拠が……肉体を通して伝わる痛みだ。


「『ヒール』も効かないんじゃ、お手上げだぜ」


そう、俺の『ヒール』でも、まったくの効果無しだ。

そんなわけで、結局……桃先輩の「食って寝ろ」で、落ち着いたのだった。

今の俺は『妖怪くっちゃね』だ。それ以外は、することがないし……できない。


「ふぁ……もう一眠りするか」


心地良い風を感じながら、俺は再び寝ることにした。

なんも、できんのだから仕方ないよな!


ぐぅぐぅ……


◆◆◆


私は今、薄暗い通路を通り……ある場所に向かっていた。

その通路は、王宮の関係者でも、極限られた一部の者しか知らない通路。

豪華な装飾は一切無く、ごつごつした石壁が、むき出しになっている

私は通路の曲がり角で立ち止まった。

そして、壁に手を当て……探り当てる。……隠しボタンを。


カチリと、音が鳴り……隠し扉が開いた。

そこには……既に、先客が待っていた。


「待ちかねたぞ……同志よ」


その男は、かなりの巨躯であった。

更に……一目でわかる、鍛え上げられた強靭な肉体。

年老いた顔には強い意志を持った眼があった。

その男が、ニヤリと笑った。


「して……例の物は?」


「……ここに」


私は小包に入った『例の物』を、部屋の中央に置かれたテーブルの上に乗せる。

男は部屋に二つある椅子の一つに座り、包みを開ける。

その表情が、満面の笑みに変わった。


「これじゃよ! これ! いやぁ、待った甲斐があったわい!」


その男『ウォルガング・ラ・ラングステン』は、私が買ってきた『大福もち』を

愛おしそうに眺めていた。


「おいおい。今、お茶を入れるから待っとれ。

 喉に詰まらせて死んだ……なんて洒落にならんぞ?」


そして、私は『フリースペース』からポットを取り出す。

ポットには予め、お湯をいれてある。

フリースペースは入れた物を、そのままの状態で保管できる。

つまりは、魔法の『保温器』としても使えるのだ。


私は先ず、湯飲みにお湯を入れておく。

こうすることによって、お湯が適温になるようにするのだ。

続いて茶葉を取り出し、急須に入れる。茶葉は人数分だけ、入れるようにする。

そこに、先程湯飲みに入れておいたお湯を、急須に入れて少し蒸らす。


「相変わらず、緑茶にはこだわるのぅ? デルケットや」


「どうせなら……お茶も美味いのが、飲みたいだろうが?」


私は……六十年来の親友に、そう言った。


そんなやり取りをしてる間に、丁度良い感じになったお茶を

湯飲みに回し入れしていく。

うむ、この感じなら……きちんと茶葉が開いて、甘味が出ていることだろう。

最後の一滴をきちんと出し切り、美味しい緑茶が出来あがった。


「ほら、緑茶だ」


「おぅ、ありがとうよ」


私は『緑茶』を、ウォルガングの元に差し出した。

やはり『大福もち』には、こいつだろう。


私達は『緑茶』を一口味わう。

上手く淹れた緑茶には、ほのかな甘みがでる。

それは心を落ち着かせてくれる。


「ふぅ……美味い」


ウォルガングに笑みが浮かんだ。

続いて『大福もち』を一口食べる。


「ふぉぉぉぉ……! これじゃよ~! この優しい甘味!

 小豆の餡が、やはり一番じゃぁぁぁぁぁっ!!」


「おいおい、大声を出したら見つかるぞ?」


そう、たしなめて……私も『大福もち』を一口食べた。


美味い。もっちりとした皮の部分。少し厚めに包んでいる。

中には小豆の餡が、もちの部分には黒豆が入っている。

くどさは無い、ただただ……優しい甘味が口を舌を喜ばせてくれた。

そして、再び『緑茶』を口に含む。……その繰り返しだ。


「ううむ! 満足、満足!

 やはり、メリッサさんが作った『大福もち』は最高じゃな!」


「ふふ……そうだな。私もこれが好きだよ」


私達が何故、こんな秘密の部屋で『大福もち』を、食べているかと言えば……

ウォルガングが、城の者達によって徹底的に食事管理をされているからである。


栄養バランスに始まり、毒見、かむ回数、までチェックされるのだ。

これも、ウォルガングが皆に愛され過ぎているからである。

皆、ウォルガングに長生きを望み、当の本人もそれを受け入れていた。

しかし……そこに、問題が発生した。


『大福もち』が入る余地が、なくなっていたのである。

おやつに、分類されるであろう『大福もち』は当然、却下された。

三食の食事だけで、完璧な栄養バランスになっていたからである。


「確かに、栄養バランスは完璧じゃが、心の栄養が傾いてはな?」


「ほどほどにせんと……ばれるぞ?」


「わかっておる!」と、白い歯をのぞかせて笑うウォルガング。

こういうところは、まったく変わっていない。


「さて、こんな夜更けに来てもらって悪いついでに……

 もう一つ、相談があるんじゃが?」


「その顔だと……エルちゃんのことだな?」


ウォルガングの、にやけた顔を見て察した。

私の顔も、にやけてしまっていることだろう。


初めて会った時より、ほんの少し大きくなったが……

それでも、同じ年頃の子供より遥かに小さい少女。

未だに……膝に乗せても苦にはならない。


っと、これを言ったらウォルガングに、何をされるかわからんな。

黙っておこう。


そのエルちゃんだが、やはり……少しずつ大人になっていく。

嬉しい反面、さみしい気持ちもある。

年頃になれば、膝に乗せて可愛がってあげることも

本を読んであげることも、叶わなくなるだろう。


「うむ、例の計画を、前倒すことにしようと思うのだ」


にやけた顔を引き締めるウォルガング。

そこには、国王の顔があった。


「それは、また急だな……何があった?」


ウォルガングはグランドゴーレムマスターズで、

起こったことを私に聞かせてきた。


信じられないような内容だった。

我等のエルちゃんが『聖女』ではなく『マイアスの化身』の可能性があると!?


「ウ……ウォルガング! それは本当かっ!?」


「落ち着け! 声が大きいわい! これは、城の者にはまだ公表しとらん。

 知っているのは、ワシとエドワード……そして、おまえだけじゃよ」


ウォルガングの警護に当たってた者も、当然エルちゃんの力を見ているが

それは『聖女』の力と認識している様子だった……と、ウォルガングは言う。


エルちゃんが『マイアスの化身』であるなら、事態は急を要する!

私達『マイアス教』にとって……何ものにも代えがたい聖人の可能性が!!


「あくまで可能性じゃが……早急に手を打ちたいのじゃ」


「ふむ、ミリタナス神聖国に、牽制するわけだな?」


当然、彼等もエルちゃんを狙ってくるだろう。

『聖女』というだけでも、うちに寄越せと言ってくる連中である。

これが『マイアスの化身』でした。

となれば、エルちゃんが連中に攫われる可能性も……否定できない。


で、あるなら「エルちゃんは、うちの子ですから」と……

ミリタナス神聖国に通達しておく必要がある。


「なるほどな、これは前倒しても、計画を実行しなければならないな……」


「うむ、忙しくなるぞ」


そう、遂に発動するのだ! 『聖女エルティナ育成計画』が!!

深夜の小部屋に、私達の笑い声がこだました。

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