成長の証
◆◆◆
グランドゴーレムマスターズから一夜明けた。
清々しい朝だ。少し目覚めるには、早すぎたかもしれない。
全開の窓には、もっちゅ達が「ちゅ、ちゅ」と、さえずっている。
俺は顔を横に向けた。
俺の部屋の机には、優勝の証であるトロフィーが飾られている。
朝日に照らされて、素晴らしく輝いていた。
尚、その隣にはダナンに貰った……例の卵が転がっていた。
今だに、何なのかわからない。
ムセル達の姿は見えない。
おそらく、桃先生の芽のお世話に行ったのだろう。
「にゃ~」
野良猫が俺の足元で丸くなっている。
どうやら……起こしてしまったようだ。ごめんよ?
俺は再度、トロフィーを見た。
「本当に優勝したんだな……」
昨日の激闘が、本当にあったのか疑ってしまう。
実は、これは夢なのではないかと……
「一部、夢であって欲しい」
シアとエスザクの出会いと別れ。
彼女等に出会って、戦い、敗れ……再戦を望み……叶わなかった。
しかし、この出会いがなければ俺達は
ここまで、頑張れなかっただろう。
「今回も、桃先生に凄くお世話になったなぁ……」
桃先生なくして、俺はギュンターに勝てただろうか?
おそらく、勝てなかっただろう。
最終的な心の拠り所は、やっぱり桃先生なのだ。
「でも、皆の力なくして俺は……頑張れなかった」
そう、皆が居たから……俺は限界を、超えることができた。
俺一人じゃ、何もできずに……何かを失っていただろう。
今、考えると……すっげ~、こわひ。
「陰と陽の力と、鬼と桃使い……か」
正反対のように見えて、大本は同じとか……
これもう、わっかんね~な!?
いい加減に見ても、鬼と桃使いが同じって、ね~だるるぉ!?
ギュンターみたいな桃使いがいたら……ビビるわ!!
「しっかし、色々な人に出会えたなぁ」
『ホーリー』のミカエルと、メルトにサンフォ。
『ブラックスターズ』のエロイお姉さん達。
一番お尻がエロイのが、ガイナお姉さん。
一番おっぱいがエロイのがナッシュお姉さん。
一番太ももがエロイのがオルテナさん。
「ふぅ……エロは良い。最高だよ」
じゃなくて! 良い人達に巡り会えた。
『ホーリー』のミカエル達は暫く、フィリミシアに滞在するそうだ。
観光でもしていくのかな?
『ブラックスターズ』のお姉さん達は、新たに生まれたギルド……
『ホビーゴーレムギルド』に就職するそうだ。
この件で、ゴーレムギルドのマスター、マウゼン・キュライムが
逮捕、更迭され……
事態を重く見たゴーレムギルドが、ホビーゴーレムの管理権限を辞退。
新たに『ホビーゴーレムギルド』が創設された。
初代ギルドマスターは、フォウロ・キョウダ。
三代目ゴーレムファイターだ。
サブマスターに、ザッキー・タケヤマと……シア・スイセン。
「あの人達なら、きっとゴーレムマスターズを
より、良いものにしてくれるだろうなぁ」
あ、そうそう。
ゴーレムギルドの新しいギルドマスターは、ドゥカン・ドゥランダ。
プルルの、じ~ちゃんだそうな。
プルルは「また一緒に居れる時間が減る……」と嘆いていた。
「結局、黒幕は捕まらなかった……と」
そう、一番悪いヤツが捕まらなかったのだ。
あのチートの能力をもってしても、逃げおおせるとは。
とんでもない悪党である。
フウタは、未だに追いかけているようだが……
「まぁ、それはチートに任せよう」
今、俺がやるべきことは……耐えることである。
そう、耐えることしかできない。
たえるこ……!?
「ふきゅ~~~~~~~~~~~~~~ん!?」
恐るべき激痛に、珍獣の悲鳴がこだました。
◆◆◆
「ひゃあっ! たまんねぇ! 祝勝会だぁ!!」
俺達は喫茶『ぽやぽや』で共に戦った皆を誘って
ささやかなパーティーを催していた。
お金? ふふふ! 優勝賞金、何と金貨九十枚!
一人、金貨三十枚だ! ふところが温かい! いいぞ~!!
「うふふ、優勝おめでとうエルちゃん。
はい、これはお婆ちゃんからのご褒美だよ」
「ふぉぉぉぉぉっ! ケーキだぁ!!」
メリッサお婆ちゃん特製のシフォンケーキだ!
絶妙な甘さで、くどさがなく……決して食べ飽きない魔力を持つ!
「ありがとう! メリッサお婆ちゃん! 愛してるっ!」
俺は、メリッサお婆ちゃんに抱き付いた。
「おやおや」と、目を細めて笑ってくれた。
このパーティーに来てくれたのは
『ホーリー』、『ブラックスターズ』と『マッスルブラザーズ』。
そして、クラスの皆。そして、予選で戦った……ライバル達だ。
残念ながら、ゴーレムファイター達は『後片付け』があるとかで
参加はできないそうだ。……残念!
全員にジュースが行きわたり、料理も運ばれて準備が整った。
流石、メリッサお婆ちゃんの、手際の良さは半端ねぇぜ!(尊敬)
まぁ、予め……勝っても負けても、パーティーする予定だったんだがな!
勝てば祝勝会、負けたら……ちくしょう会だ!
「今日は皆、一緒に戦ってくれて、ありがとう!
皆が共に戦ってくれたからこそ……俺達は勝てたんだ!
そして、優勝できた!
俺達が、ムセル達が戦ったライバル達も、強かったことを証明できた!
こんなに嬉しいことはない!
さぁ! 皆で祝おう! 俺達、全員でつかみ取った勝利を!!」
グッと、コップを上げて俺は言った。
「乾杯!」
「乾杯!!」と、皆の声が重なり、宴は始まった!
テーブルに並ぶ、美味しそうな料理の数々!
鳥の唐揚げ、ポテトフライ、白身魚のフライ!
お手製の煮物に、こだわりドレッシングをまぶしたサラダ!
サンドイッチにホットケーキ、おおぅ! おはぎもある!!
「俺の目の前に、楽園が広がっているぅ……」
「んふふ……食いしん坊らしいねぇ」
「そりゃあ……がふがふ、仕方ねぇって、んぐんぐ! もんだ! ごくん!」
「げふぅ!」と、ゲップするライオット。
食い終わってから喋りなさい。ライオット君。
「へぇ……ここって、こんなに美味しい料理を出してたんだ?」
リンダが煮物を食べて感心していた。
「このホットケーキは、何時食べても最高ですね」
ホイップクリームを、山盛りで食べているのは
もちろんフォクベルトだ。
既にチェック済みとは……やるな!? フォクベルト!
「久しぶり、メリッサお婆ちゃん」
「あらあら、綺麗になったわねぇ? ガイナちゃん」
彼女達も、ここにお世話になったくちか。
本当に、色々な世代に愛されているんだなぁ……
願わくば、長生きして欲しいな。メリッサお婆ちゃん。
「おめでとう、エル。たいして、力になれないで……ゴメン」
「んなことね~よ! 応援に来てくれたから、頑張れたんだ!」
ヒュリティアが、お祝いを言いに来てくれた。
俺はヒュリティアに抱き付いた。ぐぅわしっ!!
暫く抱擁する。
ふぅ……この温もりが俺を奮い立たせるのだ! 色々と!!(意味深)
「あー! ずるい! 私もっ!!」
リンダが興奮している! マズイ!
『エルティナ、聞こえるか?』
桃先輩だ! 脳内通信で俺に話してきた。
「リンダ、ちょい待ち! 桃先輩から連絡がきた」
「へ? 桃先輩が?」
桃先輩の名前を聞いて、流石に落ち着くリンダ。
やるな、桃先輩! 今度からこの手でいくか!
『おまえ、今体調はどうだ?』
『どうって? だいぶ良くなって、今は一人で歩けるぞ?』
そう言った……次の瞬間!
ピブゥ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!
と、いう音が鳴り……俺は……
「ひ、で、ぶぅぅぅぅぅぅっ!?」
と、言ってテーブルに突っ伏した!!
「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!? 痛い~! 痛い~!?
なんじゃこりゃぁぁぁぁぁっ!? イタタッ! アゥチッ!!」
「ど……どうした!? エル!!」
「しっかりしなよ!?」
ライオットとプルルが、慌てて俺を介抱してくれた。
俺の手に光が集まり、桃先輩がやってくる。
そして……そのまま、コロリとテーブルに転がった。
「ふむ、やはり『魂痛』(たましいつう)に、なっているな」
「何? その筋肉痛っぽいの? イタタ!」
桃先輩は、大笑いした。
「いや、すまん。
これでおまえも、本当に一人前になったのだな……と、思うと……な?」
「この痛みが、一人前の証?」
正直、こんな証いらん。
「桃力を使い、限界を超えた者のみが、この症状になる。
つまりは成長の痛みだ。
これが治まれば、おまえの桃力は倍になるだろう」
「何時、治まるんだ?」
俺の質問に、桃先輩は……
「ふむ、俺の時は……一週間ほどだったかな? 個人差があるようだぞ?」
「い……一週間!? ぬふぅ!?」
その言葉を最後に、俺は意識を手放した。
疲れていたせいもあってか、耐えることができなかった。
がっでむ! またしても、美味しそうな料理が、お預けになってしまった!
そして……冒頭に戻る。




