GGM優勝!
「負けたのか……? 我は……?」
崩壊していくギュンターの体。
憎悪と悲しみを具現化した黒い肉体はムセルの放った
『裂破桃撃拳』によって、桃色の光となって天に昇っていく。
「ギュンター、おまえも『輪廻の輪』に帰る時がきたのだ」
俺の口から、桃先輩の声が発せられた。
それを聞いたギュンターは力なく笑う。
「今更……我が輪廻に帰ると? バカな……我は……我は……」
最後に何か言いかけたが、ギュンターは最後まで言うことなく
桃色の光となって天に昇っていった。
『ウィナァァァァァァッ!! チーム「モモガーディアンズ」!!』
リィカさんが、俺達の勝利を宣言した!
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
会場に大歓声が沸き起こる!
勝ったのだ、ムセル達が、俺達が!
チーム『モモガーディアンズ』が!!
『チーム「モモガーディアンズ」の勝利です!
本当に辛い戦いを、よく勝利したものです!!
これで第五十五回グランドゴーレムマスターズの優勝は
チーム「モモガーディアンズ」に決定しました!
おめでとう! 「モモガーディアンズ」!』
『本当に見事な戦いでした。
ホビーゴーレムの可能性を見ることができた……
間違いなく、グランドゴーレムマスターズの歴史に残る
そんな戦いでした。
……見事です。優勝おめでとう!』
ゴーレムファイターとザッキー・タケヤマが
俺達を祝福してくれた!
「やったぁぁぁぁぁっ! 優勝だっ!」
俺は雄叫びを上げて……前のめりで、ぶっ倒れた。
んん~? 体が動かん!? どういうことですかねぇ?
「うおっ!? エル!! 大丈夫か!?」
「く……食いしん坊!?」
俺はライオットに抱き起してもらった。
心配そうに覗きこんでくるライオットとプルル。
「心配ない。エルティナは桃力を使い過ぎて、疲労状態になっただけだ。
安静にしていれば、すぐ動けるようになる」
桃先輩が俺の口で説明してくれた。
桃色だった髪は元のプラチナブロンドに戻っている。
「大丈夫か!? エルティナ君!!」
シアや『ホーリー』、『ブラックスターズ』の面々、
そして、共に戦ってくれたゴーレムマスター達が駆け寄ってきた。
「大丈夫だ、問題にぃ」
ほっ……と、胸を撫で下ろす皆。
心配させて、ごめんちゃい。
少し落ち着いたところで、俺は気になっていることを
桃先輩に聞いてみた。
「桃先輩、ギュンターは……どうなったんだ?」
「やつは『輪廻の輪』に帰った」
ふぅ……と、ため息を吐く桃先輩。
「『鬼』……確かにやつ等は、生きとし生ける者の敵だ。
しかし『鬼』達もまた……犠牲者なのだ」
「犠牲者?」
「そうだ」と言って……少し間を置いて続ける。
「やつ等とて、なりたくて『鬼』になったわけではない。
その原因がいる……それを滅ぼすことこそ
我等『桃使い』の最終目標なのだ」
「原因って?」
俺は桃先輩に聞いた。
さっきから桃先輩は、俺の口で皆に聞こえるようにしゃべっている。
ギュンターのこと、桃使いのことの説明を兼ねているのだろう。
「楽園を追放された……最初の人間の残した負の感情。
それが長い年月を掛けて、意識を持つに至った存在。
我々はやつを『憎怨』(ぞおん)と呼称している。
本当の名前は不明だ。
そもそも、名前を持っているかすらわかっていない」
「そいつが『鬼』の大将ってことか?」
ライオットが桃先輩に聞いてきた。
「そうだ。その認識でいい。
やつは自分の手駒を増やしつつ、世界を食い潰そうとしている。
神への復讐としてだと推測されているが……」
「その手駒が『鬼』ってこと?」
今度はプルルが桃先輩に聞いてくる。
プルルの傍にはイシヅカが寄り添っていた。
どうやら無事だったようだ。……よかった。
「うむ。『鬼』は普通には発生しない。『鬼』に至るには、まず『種』を植えられる。
その『種』が負の感情を餌にして成長すると『鬼』になるのだが……
非常に時間が掛かる」
「じゃあ『鬼』になる前に、種を取っちゃえばいいんじゃ?」
「そのとおりだ」と桃先輩は言った。
そ~なのか~。
「問題は、何時……種を植えられているかわからない。
……と、いうことだな。
気付いた時には手遅れ……というのも珍しくはない」
「厄介だねぇ」
眉間にシワを寄せるプルル。
「まぁ、考えることや、なすべきことは沢山あるが
おまえ達は、今まで過ごしたように生活していればいい。
これは『桃使い』がやるべき仕事だ」
「つまり俺がひーこら、ひーこら、すれと?」
「おまえが選んだ道だ」といって笑う桃先輩。
で~す~よ~ね~!(白目)
「とにかく、今は体を休めるがいい。
『鬼退治』ご苦労だった」
そう言って、桃先輩は帰っていった。
「うおぉぉ……何か、問題が山積みになってきた」
俺が嘆いていると、みどりちゃんを抱えたムセルが帰ってきた。
「ムセル、お疲れさん。よくやってくれたな」
俺はムセルの頭を撫でてやった。
本当に、本当によくやってくれた! おまえは、俺の自慢の息子だ!
「にゃーん」
「シシオウ。おまえも、よく頑張ったな」
ライオットが差し出した手に、甘噛みで答えるツツオウ。
そこには、いつもの二人がいた。
「やぁ、チーム『モモガーディアンズ』!
改めて優勝おめでとう!
さぁ、表彰式だ! 皆が君達の勇姿を待っているぞ!?」
ゴーレムファイター達が、俺達を迎えに来てくれた。
「そうだった。俺は表彰されるぞ~!」
そう言って、立ち上がろうとしたが……
「ふきゅん!?」
またしても転ぶ。ぜんっぜん、力が入らない。
「無理するな? 俺が抱きかかえてやるから」
「それって、くっそ恥ずかしぃんですがねぇ?」
結局、俺はライオットにお姫様抱っこをされて表彰されることになった。
あぁ~! 恥ずかしいんじゃ~!!(赤面)
◆◆◆
「か……勝ちおった!? 『全てを喰らう者』に、勝ちおった!!」
ワシは信じられないものを見た。
ホビーゴーレムが『全てを喰らう者』を滅ぼす瞬間を!
たった十数体のホビーゴーレムが……伝説の化け物を倒す。
何という奇跡! 何という……
偶然! と、言いかけて……
「いや、必然か」
ワシはポツリと漏らした。
見詰める先は……『聖女エルティナ』。……愛するべき少女。
ワシの宝……げふん。ラングステンの宝。
彼女の元に集いしは、数多の戦いを経た勇者達。
ピンクの光へと変わり、天に昇っていく『全てを喰らう者』。
まるで穢れた魂が浄化されて、天に帰っていくかのようだった。
「やはり……あの子は、ラングステンに必要だ」
このことは、ワシにある決断をさせる切っ掛けになった。
まだ早いかと思っていたが……予定を繰り上げてでも行わなくては。
「あぁ!? ライオット! ずるいぞ!」
孫のエドワードが叫んでいる。
原因は……エルティナがライオット少年に
抱きかかえられて表彰台に上がっているからだろう。
ふむ、争奪戦も激しいものになりそうじゃのぅ。
今のうちに、好感度を高めておくんじゃぞ? エドワード。
窓にへばり付いて、文句を言い続ける孫に目を細める。
あの子がいれば『黒い男』を、どうにかできるやもしれない。
そうすれば……エドワードの未来は安泰じゃ。
それだけではない、この世界すらも……
「希望は……すぐそこにあったのだな?」
表彰台に並ぶ、三人のゴーレムマスターと、そのゴーレム達。
その可能性を見せてくれた者達に、ワシは深く感謝した。
「ありがとう、若者達よ……これで希望は見えてきた!」
誰かが言った「明けぬ夜はない」と。
ワシの夜は……ようやく、明けようとしているのだろう。
聖女エルティナによって。
新しき『マイアスの化身』エルティナによって……
誤字 ギュンターは財後
訂正 ギュンターは最後




