桃の守護者
『さあ……決勝戦も、いよいよ決着が付きそうです!
パイルバンカーで口を潰されたギュンターですが
謎の力を取り込み、パワーを上げているもよう!
まだまだ、油断できないぞ!?』
『一方「モモガーディアンズ」はツツオウが再び
ピンクの獅子に変身し盤石の構えです。
ムセルの右腕も、何故か自由に動かせるようになっているみたいです。
そして、イシヅカの行動。彼の動きは想像が付きません。
この勝負の、キーマンになるやもしれません』
ムセル達とギュンター……双方の睨み合いが続く。
永遠に続くかと思った矢先……獅子王が動いた!
「ゴォォォォォォォンッ!!」
裂帛の咆哮を上げて、ギュンターに突撃する!
イシヅカは剣を水平に構えた。
今の獅子王の姿は翼の生えた獅子のようだ。
『獅子王が動いたぁぁぁぁっ!!
ぐんぐんとギュンターとの距離を詰めていくぅぅぅぅっ!!』
ゴーレムファイターの実況にも熱が入る!
「くぅあぁぁぁぁぁっ!! 消えろっ! 消えろぉぉぉぉぉっ!!
我の前から、消え失せろっ! 『桃の戦士』共ぉぉぉぉぉぉっ!!」
半狂乱になっているギュンターの体から、無数の小みどりの頭だけが飛びだし
その口を開け……魔力光線を放ってきた!!
おびただしい魔力光線の数! とても数えきれない!
「シシオウ! 落ち着いてよく見るんだ!
おまえなら……かわせる!」
ライオットの激励がツツオウに飛んだ!
「ゴォォォォォォォンッ!!」
わかったと言わんばかりに咆哮を上げる!
獅子王は魔力障壁を展開して、光線をかわしながら距離を詰めていく!
その距離は、最初の半分まで詰め寄っていた!
「何故! 何故……当たらんのだ!?」
ギュンターは、更に光線の数を増やしてきた!
流石に、これはかわせない!? いや!
バチュンッ! ビキュンッ!
イシヅカが、持っている剣で光線を弾いている!
その剣は桃力の光を纏っていた!
ここでムセルが合流する!
「あ……あのフォーメーションは!?」
獅子王の後ろに、ぴったりとムセルが付いてローラーダッシュをしている!
『あ~~~とっ!?
これは「シューティングストリーム」だぁぁぁぁっ!?
「モモガーディアンズ」! 何とライバルである
「ブラックスターズ」の必殺技を使用してきたぁぁぁぁぁっ!!』
「あいつ等……本当にやってくれるじゃないか!」
ガイナお姉さんは、笑っていた。怒ってはいない。
とても、とても嬉しそうだった。
「バカなっ!? 我は全ての力を……全ての力を戻したのだぞ!?
おまえ等、玩具ごときに! 出来損ないの『桃の戦士』なんぞに!!」
獅子王に全魔力光線を集中させて放つ!
イシヅカは剣を前方に突き出す!
その剣の桃力が、獅子王の魔法障壁と融合し……桃色の障壁となる!
「いけぇぇぇぇぇっ! イシヅカッ!!」
プルルの、あらん限りの声で言うイシヅカへの応援!
イシヅカの剣に宿る桃力の輝きが更に増した!
そして、そのまま魔力光線に突っ込む!!
バチバチバチバチッ!!
せめぎ合う二つの光! そして爆発!!
爆風の中から何かが吹っ飛んで来た!
……獅子王の足だった。
「ツツオウ!?」
「ゴォォォォォォォンッ!!」
爆風から飛び出す、ボロボロの獅子王とイシヅカ!!
その距離は……ギュンターの目前!!
「ひぃっ!?」
恐怖のあまり、悲鳴を上げるギュンター。
そこに……イシヅカの、二つの剣が振るわれた!
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
胸をバツの字に切り裂かれるギュンター!
しかし、苦し紛れに振るわれた剛腕がイシヅカに当たり
イシヅカは獅子王の背から吹っ飛ばされた!
「まずは一匹! 次は、おまえだ!!」
調子に乗ったギュンターは、足をやられて動けない獅子王に
その凶悪な腕を振るった!!
ザシュッ! ……ゴトリ。
獅子王の頭が、体から切飛ばされた。
頭を失い、ぐらりと傾く獅子王。
ニヤリと笑うギュンター。
『な、何ということでしょう!? イシヅカとツツオウが……!?』
ゴーレムファイターが、そう言いかけて止まる。
どうしたんだ? ……ああっ!?
ゆっくりと、崩れ落ちていく獅子王の体から、飛び出してくる獣がいた!
「にゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!」
「シシオウ! いけっ! ムセルに届けろ! このチャンスを!!」
ライオットの期待に応えるツツオウ。
決してあきらめない勇気を持った『獅子』がそこにいた!
ツツオウのタンポポが、たてがみの遠隔操作砲台を展開し
イシヅカが傷つけたギュンターの胸に集中砲火を浴びせる!
そして……凄まじい爆発が起こった!
「ふにゃ~~~~~~ん!?」
体重の軽いツツオウは吹っ飛ばされてしまった。
がんばったな! ツツオウ!!
そして、ギュンターのぽっかり空いた胸の中に……ちいさな
ちいさな緑色の恐竜のホビーゴーレムが
黒い触手のようなものに囚われていた。
……あれが『みどりちゃん』だろう。
「ぐがががががががっ!? わ、我の体が!? おのれ! おのれぇ!!」
「ギュンター! もう観念しろ! おまえの負けだ!!」
「何を……」と、言いかけて固まるギュンター。
目の前には、空中に浮いているムセルの姿。
両足のローラーからは桃力が溢れている。
いや、そこだけではない。全身から溢れているのだ……桃色のオーラが!
『エルティナ! ムセルに邪を祓う拳を!「裂破桃撃拳」を承認するんだ!』
俺の頭に『裂破桃撃拳』の知識が入ってくる。
『裂破桃撃拳』(れっぱとうげきけん)
極限まで高めた桃力を、拳に纏わせ『陰の力』を粉砕せしめる。
力の変換によっては、星をも砕く。使用には、他者の承認が一人必要。
決して、悪用させてはならない。決して自己のために使ってはならない。
この拳は、他者の未来のために振るわれるべし。
……桃の神。
そして、俺の目の前に荘厳な縁取りで囲まれた
半透明のパネルが出現した。
『ムセルには、別のオペレーター……桃先輩が憑いている。
後は……おまえの承認だけだ』
『ムセルは……桃使いになったのか?』
その質問に桃先輩は……
『いや、ムセルは「桃の守護者」になったのだ。
そう……おまえを守る戦士にな』
『ムセル……!』
俺は、目の前にあるパネルに手を置き……桃力を込めた。
そして、力強く……責任ある言葉を言い放った。
「ムセル!『裂破桃撃拳』発動……承認!」
その瞬間、ムセルの左の拳が、凄まじい桃力に包まれる!
「こ……これが『裂破桃撃拳』!?」
「エル!? あれは!?」
ライオットが驚いて聞いてきたが、今はそれどころじゃない!
後で説明するからね!? 今は許してちょうだい!
『エルティナ! 再度「桃源光」だ!』
『がってんだ! ユクゾッ!』
「とぉぉぉぉぉぉ! げんっ! こぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
再度『桃源光』を発動する!
凄まじい桃色の光が辺り一面を覆い尽くした!
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
力が弱まっていたのか、ギュンターが悲鳴を上げてたじろいだ!
その隙に……ムセルがみどりちゃん目がけて突っ込んだ!
ムセルは、腰の片手斧を右手……エスザクの手で掴む!
「エスザク……!」
シアのつぶやきを、俺の大きな耳が拾った。マジ地獄耳。
ムセルは、その斧でみどりちゃんを捕らえている触手を切り裂き……
遂にみどりちゃんを、救出することに成功した!
「わ……我の肉体の核を!? か、返せぇぇぇぇぇぇっ!!」
ギュンターが、みどりちゃんを取り返そうと、手を伸ばすが……
「ひ、ひぃっ!?」
右手で、みどりちゃんを抱えたムセルを見て、悲鳴を上げるに留まった。
ムセルの怒気に怯えるギュンター。その姿に……かつての尊大さはなかった。
そして……左手には、邪を祓う拳。
「終わりだ! ギュンター! おまえが苦しめてきた、人やゴーレムに詫びを入れろ!
ムセル! 『裂破桃撃拳』!!」
ムセルの渾身の一撃が、ギュンターに突き刺さった……!