受け継がれる赤き魂
今回から、少し書き方を変えてます。はい、書籍化仕様というものです。
上手くいってるどうかは……わかりまそん。
一向に、再生する兆しがないムセルの腕。
ムキになって、ヒールを施し続ける俺。
「なんで……再生しないんだよ?!」
俺は、ヒールを中断してムセルを良く見てみた。
じぃぃぃぃぃぃぃぃ……
あ……こらこら。もじもじするなムセル。
見えにくいだろう?
俺は改めて、ムセルを見る。
右腕が、消し飛んでしまっている。
とても痛々しい、姿になってしまった。
別に……おかしな所は、見当たらないが……?
今度は、イシヅカを良く見てみる。
おいぃぃぃぃっ!?
おまえもかっ!? イシヅカ!!
イシヅカも、もじもじしてしまった。
俺はイシヅカを、ぐわしっ! と、掴んでジックリと観察した。
ううん……これと言って、違いは無さそうだが?
今度は、交互に見てみる。
「やはり分からん……」
一応ツツオウも見てみることにした。
ツツオウは、腹を見せて寝っ転がっていた。
見るなら……存分に見るがよいっ!
と、言わんばかりの姿。
まさに王者の貫録? ……だった。
まぁ……収穫は、何もなかったのだが。
考え込むこと数分。
俺は、ふと……気づいた。
みどりちゃんが、身魂融合を使っていたことに……
「ん? 待てよ……? アイツは、攻撃して破壊した部分を食ってたはず。
……って、事は!?」
嫌な予感がした。
俺の予感が……考えが正しければ、ムセルの腕はもう……
もう一度、俺はムセルにヒールを施した。
結果は……先程と同じだった。
「くそっ! もう、ムセルの腕は……治らないのかよ!!」
ダンッ! と、机を叩きつける。
実際は『ぺちっ』と言う音なのだが……
そして、手が痛かった。
分かっていても……やっちゃうんだぜ。
「治りそうに、なさそうだね?」
ゴーレムファイターが、治らないムセルを見て言った。
「あぁ……多分、魂を食われたんだと思う。
色々と、怪我人を治療してきたけど……
こんな状態の怪我は、初めて見たしな?」
ごめんな、ムセル。
今の俺は……魂なんて治せないよ。
俺が、うなだれていると……
ゴーレムファイターが、俺の肩に手を置き……
「まだ、方法はある。俺に……任せてくれないか?」
と、真剣な表情で言った。
いったい……どのような方法が、あると言うのだろうか?
だが、ヒールで治せない現状……
ゴーレムファイターの、方法に頼るしかない。
「ムセル……お願いしますっ!」
「あぁ、任せてくれっ!」
こうして、俺はゴーレムファイターに、ムセルを託すことになった。
「あとは、ムセルに使うパーツの調達だが……」
「それに関しては、当てがある。ただ……」
ザッキー・タケヤマが、言いかけた時。
選手控室のドアがノックされた。
「合言葉を言え!」
「えっ? ええっ!?」
女性の声。
そして、その女性は困惑していた。
やはり……俺達を狙う刺客かっ!?
「早かったな? どうぞ、ドアは開いている」
ザッキー・タケヤマが、勝手に入れと言ってしまった。
不用心だぞ!?
「失礼します」
部屋に入って来たのは……シア・スイセンだった。
マスクはしていない。
端正な顔立ちの少女が……そこに居た。
ただ、泣いていたのか両目が赤く腫れていた。
「すまない、約束を守ることが……できなかった」
俺達に、頭を下げるシア。
その姿は……とても痛々しかった。
「頭を上げてくれ。それに、悪いのはシアじゃない」
俺はシアの元に向かい、肩に手を……
置けなかったので、かわりに手を握った。
背が低いって、とっても不便!!
「ありがとう。エルティナ君……」
目に涙を浮かべるシア。
きゅっ、と俺の手を握り返してくる。
「ザッキーさん。これを……」
「ありがとう。助かる」
シアから、何かを受け取ったザッキーが、ゴーレムファイターにそれを手渡す。
「あとは、おまえの仕事だぞ? フォウロ」
「酷な役を、任せてすまんな? あとで、一杯おごるよ」
と、言って肩アーマーを開くゴーレムファイター。
そこ、開くんだ!?
その中に入っていたのは……様々な工具達だった。
「ヴォォォォォォォォッ! カッケェェェェェェッ!!」
「うおっ!? そういう……仕掛けがあったのか」
「二人は、ゴーレムファイターの作業を見るのは、初めてだから仕方ないねぇ?
ゴーレムマスターズを、やっていれば……遅かれ早かれ見る機会があるよ。
その腕前を、よ~く見ておくべきさ!」
まるで……自分のことのように自慢するプルル。
流石に、あの笑い方はしなかったが……
出かかっていたのは、間違いなさそうだった。
プルルの顔が『出そうで出ないクシャミの顔』だったからだ。
「ははは……おだてられると、緊張するな。
まぁ、見ていてくれ! きちんと成功させてみせるよ!」
そして、ゴーレムファイターは、手渡された物を俺に見せてくれた。
「そ……それはっ!?」
右腕だった。赤い腕。
そして……それには、見覚えがあった
「エスザクの右腕……」
「そう、エスザクの唯一残った部分だ。これを……ムセルに繋げる」
俺は、シアに振り向いた。
シアは……微笑んでいた。
「君が良ければ……使ってやってくれないか?
その方が、エスザクも喜ぶだろう」
こんな大切な物を、ムセルの為に……!!
俺の目頭が、熱くなっちまうじゃねぇか!(感激)
「おまえも良いか? ムセル?」
うなづくムセル。
そうか、おまえは……
「ゴーレムファイター、お願いします!」
「じゃあ、作業に入る。少し待っていてくれ」
と、言って作業に取りかかった。
早い! 流れるように進む修理。
そして、使い方がよく分からない道具達の活躍。
ただ、一つだけ分かった道具があった。
プラスドライバーみたいな物だ。
それで……ムセルとエスザクの魂を繋げているのが見えた。
多分、そういう使い方をする道具なのだろう。
「よし……修理完了だ! 腕を動かしてみてくれ」
言われたとおりに、右腕を動かすムセル。
少し……ぎこちないが、それでもゆっくりと動いている。
エスザクの右腕が。
「うん……成功のようだな」
「キメラゴーレムの技術か?」
なんか、聞きなれない単語が出てきた。
なんなのかザッキー・タケヤマに聞いてみた。
「昔……勝利に固執するあまり
ゴーレムに非道な改造を、施していた男が居たんだ」
うっわー、超ありがちなやつだ!
手段のためなら、目的を選ばないやつだ!
……逆だった。
目的のためなら、手段を選ばないやつか!?
「その改造が、他のゴーレムの優れている部品を
無理やり自分のゴーレムに、接続する……と、いう方法だ」
「それって、取られたゴーレムは……どうなるんだ?」
ザッキー・タケヤマが、顔を左右に振る。
つまりは、そういうことか。
「酷い技術だ」
「あぁ、当時も……これには、凄い批判が浴びせられた。
その男も、俺達によって倒されて……
この技術も、日の目を見なくなった」
そうか、やはり悪は滅びるって! それ、一番言われてっから!!
「それから、その男とは色々あって……
今では、改心してゴーレムギルドで働いている。
キメラゴーレムの技術は、改良を加えられて
今では、欠けた四肢を、補う技術にかわったのさ」
俺はムセルに、くっついたエスザクの腕を見て言った。
「じゃあ、今は良いものなんだな?」
「そういうこと……に、なるかな?」
ザッキー・タケヤマに、笑顔が浮かんだ。
ゴーレムファイターにも、同じものが浮かんでいる。
「ただ…腕は、くっついても戦闘には向かない。
と、言う事は憶えておいてくれ」
ゴーレムファイターが、衝撃の発言をぷっぱなった!
なんですと!? どういうことなんですかねぇ……?
「以前は、戦闘用に作られた技術だが……
その技術では、つけられたゴーレムに、相当な負担がかかってしまう。
そして、ゴーレム自体が、耐えられなくなって……自壊してしまうんだ」
ザッキー・タケヤマが、説明してくれた。
そんな、欠点があったのか……
つけた方も、取られた方も、悲惨な最期になるじゃないか……
「そこで、改良を加えたのが……今のキメラゴーレムの技術。
『リペアフュージョン』さ。
これは限界まで、負担を減らす技術を盛り込んであるんだ!
ただし……その分、反応が鈍くなるんだけどな?」
続いてゴーレムファイターが、今の技術を説明してくれる。
「それでも、無いよりは有った方が良いだろう?
反応は、かなり遅れるが……片手に比べれば段違いだ」
確かに……手段の選択肢が多くなる。
片手だと、転んだ時に起き上がる場合……完全に無防備になりかねん。
両手なら、反撃しながら起き上がることも可能だ。
「ありがとう! これで、ムセルはあと……十年は戦える!!」
ゆっくりと右腕を天に突き上げ……いつものポーズをとるムセル。
おまえに託されたものは、多く……そして重いが……
俺と一緒に、がんばろうな!
「次の戦いが最後だ……絶対に勝つぞ!?
そして、あいつ等に……ケツプリ土下座をさせてくれるわっ!!」
俺とムセルは、静かに闘志を燃やすのであった。