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THANK YOU!!  作者: silver
5/8

5:波乱と引き金


次の日。

瑞稀はいつも通り水道に寄り掛かって座っていた。今日は読む本が無く暇をしていた。すると、声をかけられた。


「おはよ、瑞稀」


瑞稀が見上げると、そこには昨日知り合った転校生。


「おはよう、秋乃。早いんだね」


瑞稀がそう言うと、秋乃は首を傾げた。


「何で?8時までに来なきゃいけないんじゃなかった?」

「え?そんな事ないよ?」


簡単に朝の話をすると、秋乃は溜め息をついた。

どうやら親が間違って覚えた話をそのまま鵜呑みにしたらしく、こういう食い違いが生まれてしまったようだ。


「ったく・・・」

「ま、ややこしいから間違えやすいからしょうがないよ。私もしょっちゅう間違えてたし」

「そうなんだ。」


それから昇降口の扉が開くまでずっと喋っていると、幼馴染の千晴が声をかけてきた。


「おっはー、瑞稀。・・あれ、この子誰?」

「あ、おはよ、千晴。この子は転校生。」


千晴の目の前に秋乃を押して対面させた瑞稀は、秋乃に紹介する。


「秋乃、こいつは私の幼馴染みで千晴っていうんだ。3組だけど交流あると思うから、ちゃんと覚えておいたほうがいいかも」


後半は半分冗談で言う。秋乃はそれが分かったようで、笑いながらも千晴に向き直った。


「千晴、よろしく。ウチは柊秋乃。秋乃で良いよ」

「うん、よろ~。瑞稀によく会いに行くから覚えてね~」

「分かった」


二人とも瑞稀の冗談を利用し、挨拶をする。

すると、近づいてきたのは・・


「よぉ。」

「・・あ、鈴乃、おはよ」

「おっはー。」


拓斗だった。いつも遅刻ギリギリな拓斗が8時前にいるのは珍しい。


「今日は早いんだね~」

「嫌味か、八神。さすがに今日は決め事とかするから遅刻しねぇよ」


瑞稀の嫌味に、拓斗は軽く拗ねながらも答える。一方、拓斗を知らない秋乃は首をかしげた。


「瑞稀、誰?」


隣にいた瑞稀に声をかけた秋乃。その発言に、同じクラスなんだけどなと思いつつ苦笑した。それは拓斗や千晴も同じだった。


「えっとね、こいつは鈴乃拓斗。一応私達と同じクラスなんだよ」

「え?」

「まぁ、お前は八神しか話してなかったみたいだから知らないのも当たり前だろうけど。」


そう、結局昨日、秋乃は瑞稀以外の誰とも話そうとせず、ずっと瑞稀と一緒にいた。

周りは話そうとしたのだが。


「あぁ・・ゴメン。同じクラスだったんだ。よろしく」

「・・あぁ。よろしく。」


ため息をつきながらも挨拶を返した。そこでチャイムが鳴り、昇降口の扉が開いた。

相変わらず、人でごった返している中を行こうとする秋乃を無理やり花壇まで連れていき、この混雑が済むまで待ったほうがいいことも説明した。


  2

今日の一時限目は、委員会等のクラスでの決め事だった。そのあとは係决め。


「瑞稀。瑞稀は、何の委員会をするの?」


前置きの話を聞かずにこれまたいつも通り窓の外を眺めていると、秋乃から声がかかった。どうやら、前置きの話は終わったようだ。

瑞稀は黒板に書かれた委員会一覧を見たあと、秋乃に向き直った。


「うーん、余ったのでいいや。秋乃は?何かやりたいのある?」

「ウチも特には・・・。あぁ、でも、あれやりたいかな。栽培。」

「そなの?じゃあ、言ってみなよ!多分OKだと思うよ!」

「瑞稀も一緒にやらない?」

「いいよ!ちょっと興味あったし」


そういうと、瑞稀と秋乃は同時に手を上げて栽培委員に立候補した。

すると、先生が、


「・・八神さん、話聞いてた?八神さん、運動委員の委員長だからほかの委員会出来ないんだよ?」

「・・え!?」


全く初耳。前置きの話の時に話したようだが、聞いてなかった瑞稀は知らない事実だった。しかも、いつのまに委員長になってたんだと不思議に思っていると先生が笑って、


「しっかりやってたみたいだし、下級生からの慕われ方が凄かったからね」


と言った。確かに、下級生から懐かれていたが・・・。


「・・・・マジか」

「瑞稀、凄いじゃん。頑張ってね、委員長」

「秋乃、ゴメン。一緒にやれなくて・・」


手を合わせて謝る瑞稀。秋乃は小さく笑った。


「いいよ。気にしてないし・・クラスの係は一緒だから、大丈夫」

「ありがとー!」


瑞稀は笑顔でお礼を言う。

委員長にされていた事は不本意だが、運動委員の仕事は結構気に入っていたので特に文句は無かった。瑞稀が黒板を見ると、そこには集会委員の所に菜美の名前があった。どうやら、菜美も集会委員の委員長になっていたようだ。


瑞稀は以前より菜美のことが苦手になっていた。

5年の時もちょくちょくあったが、拓斗と話しているときに必ず視線を感じるのだ。

今日も朝教室に着いてから秋乃と3人で喋っていたが強い視線を感じた。

5年よりも、強く感じられる視線だった。

何でこんなに見られなければならないのか分からない瑞稀はただ無視し通すしかなかった。

そのため、今回も委員会が別という事に少し安堵していた。


「(そういえば・・鈴乃はどこに入ったんだろう)」


そう思い、黒板を端から端まで見ていくと最後の列・・放送委員のところに拓斗の名前があった。


「(へぇ!鈴乃、放送なんだ!)」


少し意外に感じた瑞稀は次の休み時間に、放送委員に入った経緯を聞くことにした。


「鈴乃、放送委員なんだね!」


授業の終わりの挨拶もそこそこに、拓斗の席まで来た瑞稀はいきなり聞いた。

拓斗は少し驚いたが、瑞稀が自分の席に来てくれた事を嬉しく思ったのか笑顔になった。


「あぁ。ちょっと、前から興味あったんだ。」

「そうなんだ!びっくりしたよ!」


そう大袈裟にリアクションをしてみると、拓斗は拗ねたのか顔を逸らしてしまった。


「・・・そんなに意外か?」

「ん?意外だし、新鮮だね。」


隠すこともせず、はっきり言う瑞稀。その言葉に少し傷ついた拓斗は顔を歪めた。

隣に座っていた菜美もピクっと反応した。だが、瑞稀は続けた。


「でもさ、拓斗が放送してるの、見るの興味ある!凄く楽しみだよ!」


屈託の無い笑顔で言った瑞稀。多分、いや、絶対拓斗が傷ついていることに気づいていない。でも、そんな拓斗の刺を、抜いた言葉だった。

(注:瑞稀が思いっ切り突き刺した刺です。)


「・・そっか。・・楽しみ、か。」

「うん!」


小さく瑞稀の言葉を呟いた拓斗は小さく笑った。


「じゃあ、楽しみにしてろよ。期待、応えられるように頑張るから」

「本当!?分かった!楽しみにしてるね!」


拓斗の言葉に、嬉しくなった瑞稀は笑顔で頷いた。すると、後ろから顔をのぞかせた秋乃が意地悪な笑顔で言った。


「意気込むのはイイけど、噛まないように。」

「・・おい、柊?」

「ん?何?」

「お前なぁ・・。」


犬猿な空気になりそうな所を瑞稀が慌てて宥める。どうやら、秋乃は毒舌なようです。そこで、2時限目のチャイムが鳴り、教師が入ってくる。

瑞稀と秋乃は急いで自分たちの席へ戻った。

そんな二人を見ながら、菜美は不満を募らせていた。


「(・・なんなの?拓斗君が、傷つくようなこと言っといて謝りもしないなんて)」


そう心で呟いた瞬間に、自分の心にあった黒い感情がふつふつと湧き上がってきた。


「(・・大体・・最近瑞稀ちゃんって調子乗ってる気がする。)」


委員会のことも然りだが、何より拓斗に遠慮ない言葉が菜美の気に障っていた。

5年の最初はそこまでひどく思わなかった。だが、運動会が終わってから何故か凄く仲良くなった。そして瑞稀は拓斗に気を許してきたのか、言葉選びに躊躇しなくなっていた。


― 自分なんか、長く会話できないのに。


そう思っていた。

瑞稀は性格上、すぐには心を開かないが少し気を許せる仲間が居ると簡単に寄りかかってしまう。だが、そう感じている菜美も同じような性格だった。だから、気に入らないのかもしれない。

同じ人を、気の許せる人としてしまったから。


はっきり言うと、菜美は拓斗にたいして淡い恋心を抱いている。もちろん、それは純粋な物だ。だが、純粋が故に一つ道を間違えると、狂気に変わってしまいそうだった。

そんな心のくすぶりに、気付かない振りをした菜美は真面目に授業を聞いている瑞稀を一瞥すると自分も授業へ耳を傾けた。

そんな隣の席の人間に目を向けた拓斗は冷たい表情をしていた。


   3

委員会が決まり、最高学年として始まった4月が終わった季節は梅雨に変わっていた。

ジメジメして湿気が溜まり、雨のために外で遊ぶことができなくなってしまう季節。

みんなのストレスも貯まる季節でもあった。


「ふう・・暑い・・」


窓際の席で机に伏せているのは瑞稀。一応窓は開けているのだが、教室の湿気に勝てるわけもなく風は気持ちいいと言える物でなかった。その様子を見た秋乃は小さく笑った。この二人の仲も、一ヶ月の間に親友と呼べるほど縮まっていた。


「もうちょっと我慢しなよ。そしたら、雨止むだろうから」

「うー・・秋乃がそう言うなら、止むんだろうけどさ。」


口を尖らせた瑞稀に、しょうがないなと思いつつ、机の中にしまっていた下敷きで風を送る。それが、冷たくて気持ちよかった。


「わー。気持ちいー!秋乃、ありがとー!」

「いーえ。瑞稀に鬱陶しくされても困るし。」

「・・一言多いよ。」


涼みながらも、イヤミを返す瑞稀。視線を横にずらすと、拓斗と談笑している菜美の姿が目に入った。


「・・っ・・」


この一ヶ月の間で菜美から受ける少し恨みのこもった視線のせいで、もう自分から話しかけに行くことがなくなった瑞稀。最近は拓斗も菜美から離れることが出来ずに、二人で話すことは少なくなっていた。

瑞稀は二人から目線をずらした。その親友の様子に気づいた秋乃はチラッと菜美の方を向いてから瑞稀に言った。


「・・いや?あの、菜美って子と鈴乃が話しているのを見るの。」

「・・え?」


瑞稀は思わず反応してしまった。タイミングよく聞かれてしまった為と、図星な事も災いした。


「まぁ、好きな奴がほかの女子と話してれば誰でもそうか。特に、あの菜美って子は毎回のように変な視線を向けてきたからね」


そう言った秋乃に、視線を気づいていた事に驚いた瑞稀だったが前半の言葉を理解するとガタッと椅子が強い音がするくらい、凄い勢いで体を起こした。


「ちょ、ちょっと、待って!好きな奴って何!?」

「あれ?瑞稀、鈴乃が好きなんじゃないの?」


顔を赤くした瑞稀の向かいで、本気でそう思っていた秋乃は首を傾げた。瑞稀は慌てて言う。


「そ、そんなわけないじゃん!何でそんな話になんの!」

「だって、明らかに凄く仲いいし。お互いを気にかけてる感じするし」


秋乃が言葉を続ける度に瑞稀の顔はますます赤くなっていた。それを他のクラスメイトに見つからないように慌てて座り、顔を隠す。と言っても腕を頬に当ててるだけなので実際はそこまで隠れてはいない。


「・・違うの?」

「違うよ。アイツは・・友達。うん、友達だよ」


そう言った瑞稀は何故か自分の心に引っかかるモノを感じた。それは、もう一度繰り返した言葉に更に反応した。


「・・(なんだろ・・)」


そう思ったところで昼休みが終わり、国語の教師が入ってきた。引っかかったモノを不思議に思ったが、深く気にしないことにした。


    4


放課後。瑞稀は運動委員の仕事が急に入り、帰れなくなってしまった。

そのため、秋乃や千晴に先に帰ってもらった。

その急な仕事とは、低学年がやってしまった事の後始末。


「・・うわー・・。またまぁ、派手に・・。」


校庭から自分の身長の半分もある体育館倉庫の窓をのぞき込んだ瑞稀は立ち上がると溜め息をついた。

なんと体育館倉庫の窓下の部分が割れてしまっていたのだ。


理由はストレスに耐えられなくなった低学年が蹴ったボールが窓ガラスを割ってしまったらしい。ガラスの破片は先生達で片付けたらしいが、業者に修理を頼むのに時間がかかるからとその後始末を運動委員長である瑞稀が頼まれたのだ。


「全く・・。物に当たるなよな・・。」


ため息を付きながらも持ってきたガムテープで斜め十字に貼り付けると手にしていたダンボール紙に、ポケットから出したサインペンで大きい文字で「ガラス注意!近づくな!」と書いて、窓ガラスに立て掛けておいた。

次に体育館の外扉を開けると靴を脱いで真っ直ぐ体育館倉庫に向かってこちらも同じく同じことを書いた段ボール紙を立て掛けておき、割れてしまった部分の窓を隠した。


「こんなモンかな。」


瑞稀は簡単な後始末が終わった事を報告して職員室を後にした。階段まで来たとき、ふと外を見た。綺麗に赤い夕焼けの光が眩しい。


「・・・もう、こんな時間。てか、雨止んで久しぶりの快晴だな・・。」


雨は、嫌いじゃない。むしろ好きかもしれない。でも、今は・・嫌い。

雨は、「涙」誰かの心が、泣き叫んでいる。

瑞稀は、母親にそう言われてから、雨が降る度にいつも思う。


「・・・今日は、誰の心が泣いてたんだろう。」


と・・・。


― 今日の雨は・・私かもしれないな・・ ―


拓斗と話せないだけで、こんなに情緒不安定になると思わなかった。自分の単純さに呆れてしまう。

瑞稀は自分を嘲笑うと、重く感じる足を上げて階段を登った。

せめて夕陽の光が消えるまでに、帰路に着いて空を仰いでのんびりしたい。

光が消えてしまったら、自分の心に光は無くなるだろうと考えながら・・。


沈む心を感じながら瑞稀は、疲れた表情をしつつ教室の扉を開けた。すると、そこには思いがけない人物が居た。


「・・!なんで・・」

「お疲れさん。」


自分の机にランドセルを背負ったまま座り、瑞稀に向かって片手を上げた人物。

瑞稀は、その人物の名を呼ぶのは久しぶりだった。


「・・鈴乃・・・」


待ってくれていたのは拓斗だった。拓斗は体制は変わらず、上げた手を下ろすと微笑みを見せた。一方、瑞稀は教室の入口で止まったまま。

驚きが隠せなかった。

そんな様子に気づいた拓斗は笑いながらも、「入れよ」と勧めた。

瑞稀はその言葉で自分の席に置いたままにしたランドセルを手にとった。隣まで歩いた拓斗は表情は優しいまま、口を開いた。


「なんか、ちゃんと二人で話すの・・久しぶりだな」


その言葉におどろいた瑞稀はバッっと顔を上げ、拓斗を見た。

拓斗の表情は優しいままだったが、少し悲しんでいるように見えたのは、瑞稀の気のせいじゃない。


「・・うん、そう、だね。・・でも、どうして鈴乃が?」


頷いた瑞稀だったが、どうしてもこの疑問は解決させたくて聞いた。拓斗は小さく笑った。


「柊が言いに来たんだよ、掃除ん時。お前が一人で残ること。」

「・・秋乃が・・?何でまた・・」

「・・・俺達がちゃんと会話してないの見ないと落ち着かないんだと。それだったら今も見てればいいのに帰ったし。」


その言葉で、瑞稀は気づいた。秋乃は自分に気を使ってくれたことに。

最近拓斗と話せていないことをココロのどこかで悲しんでいた瑞稀に一番早く気づいた秋乃はなんとかしようとしてくれたんだろう。

そんな時に、瑞稀一人だけが残ることになったのはキセキだった。これを利用しない手は無い、と思ったんだろう。

そこまで、理解した瑞稀は目に涙が溜まった。感謝の気持ちでいっぱいだった。


「・・鈴乃。最近、話かけに行けなくてゴメン。・・気にしてなかったかな」

「え?・・あ、いや・・お前、何かあったのかなって思ったから気になってた。それにいつものお前らしくなかったし。」

「大丈夫。明日から話し掛けに行く。秋乃の為にも・・自分の為にも。」


そう言い切った瑞稀は、ここ最近の弱った表情が嘘のように晴れ晴れしていた。

自分が強い視線に負けてしまった事を後悔した。心配してくれる友達がいることに感謝した。

そんな瑞稀を見て、拓斗は心から安心した。

やっと自分の知っている瑞稀に戻ったからでもあり・・。

そこまで考えた拓斗は続きが照れくさくなり、それを隠すように瑞稀の頭をなるべく強くならないように優しく撫でた。その体温を久々に感じれた瑞稀は笑顔になった。


   5

次の日。瑞稀は教室で秋乃と話していた。

昨日のことを知った瑞稀がお礼を言うと、照れた秋乃はそっぽを向いたが、うまくいったなら良かった。と言われ余計に頬を緩ませた。そして、教室の扉を開けて入った来た人物の元へ駆け寄った。


「おはよ、鈴乃!」

「・・!あぁ。おはよ、八神」


声をかけられて驚いた拓斗だったが、その人物が瑞稀だと分かると顔を綻ばせた。

そして、そのまま拓斗の席へ。勿論、隣には菜美の姿がある。じっと見られている。

だが、瑞稀はもう負けなかった。


「あのね、昨日お兄ちゃんが新しいゲーム持ってきてくれてさ!すっごい、面白いんだよ!」

「へぇ!どんな奴?」

「うーんと、***の流星って奴で。バトルゲームなんだけどテイ*ズとかとちょっと違うんだ!」

「どんな感じなんだ?」


最近話せなかった二人には短時間じゃ足りないくらい話したい事がたまっている。

異常なくらいの盛り上がりを見せる二人に、菜美は驚いた。それに、瑞稀が久々に話しかけたことに強く驚いた。

すると、菜美の机に影が映った。誰かと思って顔を上げると、そこには秋乃がいた。

その表情は冷たいモノだった。


「・・瑞稀は、アンタの視線を乗り越えた。今の瑞稀に怖いモノなんか無い。何も言わない瑞稀に変わってウチが言うけど。」

「・・・・なんのこと?」


あえて、惚けてみせた。だが秋乃は引かず、さらに意地の悪い笑顔を浮かべた。


「気づいてる?鈴乃が優しそうな顔するの、瑞稀にだけってこと。」

「・・・!」

「それだけじゃなくて・・心からの表情を、瑞稀にだけ見せてる。」

「・・・だから?」


秋乃に言われている事は既に気づいていた。だからこそ腹立たしかったり、黒い感情を持っていた。嫉妬・・という奴だろう。


「鈴乃の表情を出せるのは瑞稀じゃないとダメなんだ。もう言いたいこと解るよね?」


有無を言わせない秋乃の迫力からは瑞稀を思う気持ちが伝わってくる。

それを直で感じた菜美は渋々頷いた。それを確認した秋乃は自分の席に戻った。


菜美は、手のひらをギュッと強く握り締めた。その拳は次第にふるふると震え出す。


何故、自分の純粋な恋なはずなのに、ここまで言われなくてはならないのか。嫉妬したりするのが、そんなにいけないことなのか。

何故、自分には心からの表情を見せてくれないのだ。

何故、後から知り合った瑞稀なんかに見せるのか。何故、瑞稀なら、拓斗と良い感じに見えるのか。何故、自分の気持ちを、分かってくれないのか。


何故、何故、何故、何故、何故・・・!


菜美にはもう限界だった。今までとは違った視線を楽しそうに想い人と話す瑞稀に送った。今までより憎しみが籠った目で・・。


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