2:5年生スタート
始業式が終わると、今度は各クラスでHR。今回は転校生も居ないし高学年なので自己紹介は軽め。
席から立ち上がって、名前とあだ名、高学年へ向けてのメッセージ。
「えっと、笹野菜美です。菜美で良いです。高学年になったので、責任を持って下の学年達を引っ張っていきたいです」
瑞稀が空を見るという自分の世界から帰ってきた時に、聞こえた自己紹介。
その自己紹介をしたのは、自分の3つ前の斜めの席に座っていた女の子。
つまり、一番前の席の女の子。
瑞稀はその女の子に若干見覚えがあった。同じクラスになった事は無いが、あまり良い噂を聞いた事がない。
それは、彼女がイジメを受けているという噂だった。ポッチャリした体型に、ピンクのカーディガン。
天然パーマなのかくるくるした髪は横に一つにまとめられている為、余計くるくるしていた。
甘ったるいその言葉は、ブリッ子を思い出させた。
「(・・確かに好かれるタイプではないなぁ。甘ったるい・・)」
瑞稀は少しうんざりしながらも、自己紹介していくクラスメイトを見た。
順番が回って、次は隣の席に座っている拓斗。
「・・鈴乃拓斗。あだ名は何でも良いです。・・とりあえず勉強頑張ります」
あからさまに、めんどくさがった様子の拓斗は簡単にそれだけ言うと座ってしまった。
瑞稀も気持ちが分からないわけでもないので、とりあえず声をかける。
「そんなに面倒臭がらなくても・・」
「しょうがない。面倒なのは面倒だから」
悪びれる様子もなく、むしろ綺麗に開き直った拓斗に溜め息を付いて更に会話を
続けていた瑞稀は、どれほどの時間が経ったのかわからないが自己紹介が自分の番になっていることに気づく。
慌てて立ち上がった瑞稀は何を言うか迷った。何も考えていなかった。
「えっと・・。八神瑞稀です。あだ名はなんでもいいです。・・う~ん・・とりあえず、自分にやれる事はしていきたいです」
そこまで言うと、座る。
得に思いつかなかったので、その場しのぎになってしまうが頭からポンっと出てきたセリフを言う。
確かこんなセリフをどっかのマンガの主人公が言ってたな、と思いつつ。
瑞稀が自己紹介を終えた所で、やることが全て終わったので始業式恒例の大掃除に入る。
班は、先生が適当に言っていく。
「じゃあ、廊下掃除をお願いするのは3班。ホウキでゴミを取るだけだから3人でね。メンバーは、・・そうだなぁ、八神さんと鈴乃君と笹野さんにしようかな」
「ちょ、適当過ぎません!?」
担任の決め方に思わず反論する瑞稀。すると、拓斗が笑いながらなだめる。
「まぁ、良いんじゃないか?」
「笑いながら言う事かな・・」
溜め息をついた瑞稀にクラスメイト達から声がかかる。
「廊下掃除なんだからいいだろ!」
「そうだぞ!トイレ掃除よりマシだ!」
「頑張ってね、瑞稀ちゃん!」
暖かい言葉だが、明らかにクラスメイトたちの顔はニヤけている。
理由は、拓斗とずっとゲームトークを繰り広げていたからだろう。それを、ラブラブなものだと勘違いされたようだ。
「あの、皆?なんか分かんないけど誤解!誤解だからね!?」
自分でも何を言ってるのか・・、よく分かってはいないがとりあえずこの場を収拾するにはコレが何か言っておくのが一番だろうと思った。
ただし、赤くなっていく顔で言われても全く効果ない。
「顔赤いぞ!」
「ヒューヒュー」
とうとう騒ぎ出してしまった生徒を、担任が見ていられなくなったのか落ち着かせた。そして、班の発表を再び伝え始めた。
その話を聞くどころじゃなくなった瑞稀は赤くなった顔を見られないように窓の外を見つめた。その様子を見た拓斗は、小さく笑った。
その微笑ましい二人を、菜美は見つめていた。
2
担任の話が終わり、クラス全員で掃除に取り掛かる頃にやっと顔の火照りが取れた瑞稀は拓斗と一緒に廊下に向かった。
あまり汚い訳ではないが春休みに掃除をしてなかった分、綿ゴミが存在を強調していた。
「とりあえず、ホウキとちりとりだね」
「あぁ。・・面倒」
「今小声で面倒とか言ったっしょ。全部押し付けるよ?」
「げ。勘弁してくれよ・・」
「アハハ!」
ホウキとちりとりを持って二人はもう一度廊下に出た。すると、一足先に菜美がホウキで綿ゴミを集めていた。
その姿を見た瑞稀は一瞬驚いたが、とりあえず声をかけてみることにした。
「ゴメン、遅くなって。ありがと!」
「あ、大丈夫。えっと・・八神さん?」
「そ!八神瑞稀。よろしく」
「笹野菜美だよ。よろしくね」
瑞稀は笑顔で自己紹介。菜美もそれに答えた。
「あ・・」
すると、菜美は瑞稀の隣に立っていた拓斗に目線を映した。
その視線を感じた拓斗は、視線を泳がせた。
そんな拓斗に気づかない振りをしているのか、菜美は瑞稀に自己紹介したときよりも笑顔になった。
「“拓斗”君も、またヨロシクね!」
「・・あぁ」
菜美に対して、視線を戻して軽く言葉を返す拓斗。
瑞稀は菜美の言葉に引っかかりと、ちょっとした気持ちを覚えた。
「(・・名前、呼びなんだ・・)」
そう、ちょっとした・・誰でもあるような気持ち。“嫉妬”・・と呼ばれるモノ。
だけど鈍い瑞稀は、勿論今自分が感じている気持ちがそれによるものなんて分からない。
分からないからこそ、タチが悪いというか・・。それでも瑞稀の元気を奪うには十分だった。
「・・・」
「八神?どうした?」
すっかり黙ってしまった瑞稀を見て、拓斗が心配し声をかける。
菜美も、瑞稀に視線を送っていた。
「あ、ううん!なんでもない!早く掃除終わらせちゃおう!」
我に返った瑞稀は、気持ちを悟られないように笑顔を二人に向けた。
その笑顔を見て安心したのか拓斗は小さく笑うと集めた綿ゴミをちりとりに。
瑞稀も、その作業を手伝う。
菜美は、何とも言えない表情をしていた。
こうして、掃除も終わり、小学校高学年スタートの一日目が終了した。
3
次の日。
瑞稀は昇降口の脇にある水飲み場にランドセルを背もたれにして寄り掛かって座っている。
何をしているかというと、買ったばかりの最新作の推理小説を読みふけっていた。
瑞稀の小学校は、8時にならないと昇降口が開かないようになっている。
それまで校庭で時間を潰すかギリギリで学校に着くようにするかだ。
まぁ、大抵の生徒は8時前に来て校庭で遊んでいるけれど。
8時になったら昇降口に入り、教室に行く。そして準備ができたら校庭に遊びに行ったり、近くの教室に行ったりなど自由な時間になる。
これは、8時25分まで。この自由な時間を朝休みと呼んでいる。
8時25分になったら、自分の席に着き、朝自習と呼ばれる時間になる。
これは、担任が入ってきて、決め事をしたり、クラスのためのちょっとした時間。
主に行事の事が議題となる。
これは10分しかない。35分になったらHRとなり、連絡事項を伝えたりする。
このときに、席に着いていない生徒は事情が無い限り、遅刻になってしまう。
瑞稀は小説に影が出来たのを感じると、視線を上に。そこに居たのは菜美だった。
「おはよう。随分早いんだね」
「あ、おはよ。笹野さんも早いね。」
昨日の掃除の事が頭に残っている瑞稀はためらいがちに菜美に答える。
菜美は瑞稀の真正面に屈んだ。
「菜美でいいよ!ね!瑞稀ちゃん」
「あ・・うん、分かった。菜美」
いきなり名前で呼ばれて驚くが、友達になりたいだけだろうと頭のモヤモヤをかき消そうとする。
だが、やはり甘く感じる口調に抵抗を感じた。
「あれ?それ、文庫本?」
「うん。大好きな推理小説のシリーズの最新刊が出たから!」
本の話題になりそうで、少し嬉しくなった瑞稀はその気持ちを表情に出す。
「そうなんだ。やっぱり、頭良い瑞稀ちゃんってそういうのしか読まないの?」
「え・・・。いや・・そうじゃないけど・・」
菜美の言葉が皮肉にしか聞こえなかった瑞稀は少し苛立ってしまう。
それに気づいたのか、菜美は、
「あ、ゴメン。そういう意味じゃなくて・・やっぱり瑞稀ちゃん、頭良いから本しか読まないんじゃないかって・・」
「あー、いいよ。実際推理小説好きだし。でも、ゲームもやるよ」
無意識だろう。
そういうことにした瑞稀は苦笑して答えた。菜美は、その答えに安心したようだった。
「そっか。ゲームかー・・。私ゲーム得意じゃないから・・」
「そなんだー。でも面白いのあるし、菜美が好きになれるゲーム、あると思うよ」
「ありがとう!」
得意じゃないと言われた瑞稀はなんて言葉をかけたらいいか分からず、
とりあえず、またも頭に浮かんだセリフから言葉を引っ張ってくる。なんとか、言葉選びの失敗は無いようだ。
お礼を言われた所で、幼馴染みである千晴が寄ってきた。
「瑞稀。おはよーさんば!」
「あ、千晴!おはよう。それ、どこのマンガから持ってきたの?」
千晴のおはようの挨拶の仕方に覚えがあった瑞稀は笑いながら聞く。
その千晴は瑞稀のそばまで来ると、笑顔を見せた。
「ん?瑞稀のことだから何のマンガからかは分かってるんじゃないのさ~?」
「あのねぇ。さすがに3000くらいある千晴のマンガのセリフ全部覚えてる訳ないじゃん。」
千晴は大のマンガ好きで、千晴の部屋の天井まで高さのある本棚はマンガで埋めつくされている。
マンガの種類は大体1000は超える。
瑞稀もマンガは好きだし幼いころから千晴の家にしょっちゅう行っているので、ほとんどは読んだはず。
だから、千晴が時々マンガから言葉を貰ってくるのでそれを当てたりしている。勿論、瑞稀もマンガから言葉を拝借することもしょっちゅうだ。
「えー。瑞稀なら分かるってさ~。」
「あのね。さすがに語尾付けるだけのセリフは覚えきれないって。」
「だいじょぶ!」
「何がだよ」
笑いを零した瑞稀は、いつの間にか自分の真正面にいた菜美が居なくなっていたことに気づいた。
「あれ?」
「どしたの?」
「いや、今ここに菜美いたよね」
「うん」
首をかしげる瑞稀に千晴は遠くに見える校門を指差す。
「なんか、あっち行ったよ?」
「あ・・そうなん・・っ!」
千晴が指差す方に視線を向けると、そこには今校門を通ってきた拓斗に話しかけている菜美の姿だった。それを見て瑞稀は思いっ切り顔を背けた。
「・・どうしたの?」
「・・いや、なんでもない。・・千晴って、去年3組だよね」
「うん?それがどうした?」
「・・菜美と、鈴乃拓斗って居た?」
おそるおそる聞いてみた。
昨日菜美が言ってた“またヨロシクね”、そして、拓斗が言っていた“3年の時に転校してきた”・・去年、二人は同じクラスだったんだろうと、簡単に察しがつく。
だが、こんなことを言う自分が二人の関係を探っているようで、嫌になった。
「ゴメン、今の忘れて!」
「・・・ウチは別にいいけど・・瑞稀、大丈夫かい?」
「うん・・昨日からちょっとおかしいんだ。疲れてるのかな」
幼馴染みには、簡単にバレてしまうというのはこういうことか・・と納得しながら、心の中でお礼を言いつつ、ボケてみる。余計な心配は掛けたくない。
「瑞稀の場合、トランペット吹けてないからじゃない?」
「え、原因それ!?」
それを理解しているからこそ千晴も深く聞かずに更にボケを重ねてみる。そんな幼馴染みの優しさに有難さを感じた。
「瑞稀はトランペット命だもんね~」
「命って・・」
苦笑しながらも、否定はしない。本当に、トランペットが好きだから。
瑞稀は4年の頃、地域の鼓笛隊に入りトランペットを吹いている。
母親を含めた兄妹が入っていた鼓笛隊でもある。
母親はバトンを回していたが、弟である叔父がトランペットを吹いていたのだ。
その発表舞台のビデオを見た瞬間、瑞稀は音楽に取り込まれた。
トランペットを吹いてみたい。
そう思って鼓笛隊に行って、実際吹いてみると楽しくてしょうがなかった。
それから瑞稀は時間があったり、学校が休みの土日は家から一時間くらいかかる練習場所の鼓笛隊の練習に参加して、トランペットを吹いている。
才能があるのかと言われれば、無い。だが、楽しいので吹いている。
それだけで、充分だ。
夏休みに、舞台発表の大きな大会があり、鼓笛隊全員で頑張っている。
去年は、団体では賞を貰えなかったが、個人賞として、同じトランペットの友だちと、ドラムの子が選ばれた。
瑞稀も、貢献できるように頑張っている。そのことを知っているのは、家族と幼馴染みである千晴だけ。
「ま、明後日練習っしょ~。だいじょぶ!」
「うん、楽しみなんだ!ありがと」
「いーえー」
そう言って笑いあった瞬間、8時のチャイムが鳴り、教師が昇降口の鍵を開けた。
このときを待ってましたと言わんばかりに生徒が一斉に昇降口に向かう。
このときだけ、昇降口はデパートのセール並みに混雑する。
人ごみな嫌いな瑞稀と千晴はすぐさま、昇降口から離れている花壇に避難する。
「毎朝嫌だよね、これ」
「も~慣れちゃったけどさ~」
そう言うと、二人は混雑が収まるまで花壇に避難していた・・。
4
なんとか昇降口の混雑の時間が過ぎ、教室の手前で千晴と別れた瑞稀は教室に入った。そして、自分の席に着く。
いつもなら空を見上げるのだが、今日は別。何といっても、文庫本があるのだ。
瑞稀はランドセルを横にかけるとすぐさま、本の世界に夢中になる。
結局、拓斗に肘をつつかれるまで、そのままだった。
拓斗は「自分の世界に入ってたから声かけなかった」と言って笑っていた。
それを聞いた瑞稀は、またも見られていたことに恥ずかしくなった。
だが、昇降口に入る前に見た拓斗と菜美の時に感じたモヤモヤも少し残っていた。
朝自習の時間。
今日は来月行われる運動会についての決め事。
しかし、高学年は出る種目が決まっている。5、6年合同の組体操と鼓笛パレードだ。あとは、裏方の仕事。
組体操は体育の時間にできるとして、鼓笛隊も5年生はリコーダーなので決める必要が特に無い。なので、裏方の仕事の事を決めたいということだ。
「じゃあ、黒板に書いていくから、決めといてねー」
そう言って、担任は次々に黒板に仕事の係を書いていく。
それを見た生徒たちはうんざりした。
「先生ー、なんでそんなに多いのー」
「お、得点板係っていいな」
「お前・・本気か・・?」
そんなクラスメイトの騒ぎに思わず苦笑してしまう瑞稀。拓斗も、それに釣られる。
「お前は、何やるんだ?」
担任が黒板に全て書き終わった事を確認すると、拓斗は瑞稀に聞く。
聞かれた瑞稀は一通り黒板に書いてある係を見てから、
「うーん・・あ、審判やってみたい」
「審判!?お前・・変わってるな。」
「え!何で!?ひどいよ!」
瑞稀は冗談だと分かっていながらも、困らせたくてぷくっと膨れてみせる。
それを見た拓斗は笑いながらも謝った。
「じゃあ、許そう。鈴乃は?」
「俺?・・特には・・。でも」
「でも?」
「・・お前と一緒に審判やってみたい」
「・・・!」
拓斗から不意に出た言葉。その言葉に驚き、声が出なかった。
だが、勿論嫌とは感じなかった。むしろ嬉しかった。
「・・じゃ、じゃあ、立候補してみる?ちょうど決めてるみたいだし」
あくまでも冷静を装い、前を指差す。
そんな瑞稀に気付かないのか、拓斗も「あぁ」と言って、前に向き直った。
すると、ちょうど先生が審判の話をした。
「審判は二人枠で、タイムの計測とか違反が無いか確認する係。やってくれる人~」
「先生~。そんな面倒なのやる人いないだろー」
そうクラスメイトが漏らしたとき、瑞稀と拓斗は頷きあって同じタイミングで手を挙げた。
「「はい」」
瑞稀と拓斗が同時に手を挙げたので担任を含めその場に居た全員が固まった。
皆、あっけに取られている。
しらけた空気に当てられ、二人は思わず手を下ろして狼狽えた。
「え、え、何で?」
「さあ・・」
何故こんな空気になったか、当の本人たちは全く気づいていないが。
しばらく固まっていた皆だが、状況に理解できると全員で冷かし始めた。
「おいおい、まさか係までも一緒!?」
「どんだけラブラブなんだよ!」
「うわー。やばいよコレ」
「カップルいいなー」
瑞稀は冷やかしが止まらなくなったクラスメイトに、何か言おうとして言えなかった。
一緒に審判の係をやろうとしているのは事実だ。
拓斗もそのことを分かっているのか、何も言わなかった。
担任は黒板の審判のところに、瑞稀と拓斗の名前を書いた。
こうして、瑞稀と拓斗は同じ係についた。
その後、瑞稀と拓斗に促されたかのように、次々に係が決まった。
5
「・・疲れた・・」
給食が終わり、昼休み。クラスメイト達は瑞稀と拓斗に散々冷やかしをかけていた。
今は校庭へ遊びに行っていて、教室には瑞稀しか残っていない。
その冷やかしに対抗するため、弁解を頑張ったのだが結果としてほとんどの体力を使ってしまっただけだった。
大好きな推理小説も、頭に入ってこない。
本の世界に夢中になれなくなった瑞稀は本を閉じると、机に突っ伏した。
そして出た言葉が、冒頭のセリフ。
「・・八神」
「ん?あ、れ?鈴乃」
声をかけられて、頭を上げると自分を見つめている拓斗にバッタリ。
「鈴乃、外行ったんじゃなかったの?」
「まさか。図書室行って本借りてきた」
てっきりクラスメイト達と同じで校庭に遊びに行ったと思っていた瑞稀は驚いた。
拓斗は自分の席に着くと、借りてきたであろう本を机の上に置いた。
何気なく、その本に視線を移す。
その本のタイトルは“星見図鑑”
それを理解した瑞稀は、嬉しさのあまり興奮したような声で、拓斗に話しかける。
「ねぇねぇ!鈴乃も星、好きなの!?」
「あぁ。・・お前も?」
「うん!あまり詳しくは分かんないけど・・好き!」
そう。瑞稀は空を眺めるのが好き。それと同じくらい夜空を見るのが好き。
ただ、どれがどの星というのは分からないのだが。
「本当か!?」
「うん!」
瑞稀の言葉に、拓斗も興奮したような声に変わる。それが嬉しさだというのは鈍感な瑞稀にも分かった。
「良かった。本当に、色々好きなもの被るんだな」
「そうだね、ちょっと驚き!あ、鈴乃は好きな星とかある?」
「あぁ、勿論。お前は?」
「うーん・・やっぱり誕生日近いし七夕で有名なベガかな。あ、でもアンタレスも綺麗だし・・南十字星も外せないし・・」
深く考え出した瑞稀を見て、拓斗はぷっと笑った。
それに気づいた瑞稀は笑われた意味がわからなくて、首を傾げた。
「悪い。本当に好きなんだって思って。・・俺で良かったら星についての色んな話、するけど?」
「本当!?やったぁ!」
思ってもない言葉に思わず我を忘れてはしゃぐ瑞稀に、拓斗は少し嬉しさを感じた。
それから瑞稀は、図鑑を使いつつ自分の知っている神話をいくつも話す拓斗の話に夢中になった。
それは、委員会を決める5時間目の総合の為に来た先生の前振りの話も気付かない位。
そうして再び冷やかしを受ける瑞稀と拓斗だったが、星の話が出来た瑞稀としては、今度はその冷やかしを聴かないことに成功した。
すると、拓斗が小さな声で
「また、星の話も、するか」
と言ってくれたので、瑞稀も笑顔で頷いた。
そのあとは、嬉しさの余韻が残りつつ、委員会を決めていった。
瑞稀は特に希望がなかったので運動委員会。
運動委員会は水曜日の朝に行われる縦割り班での体育集会の進行や、体育倉庫の掃除や管理、備品調整の仕事。
拓斗も希望がなかったので栽培委員会。
栽培委員会は、その名の通り花壇に水やりをしたり、委員会の時間に花植えや植え替えをする仕事だが基本することがない。
菜美は集会委員会に立候補して入った。
集会は、体育集会も含め、時々行われるゲーム集会の司会や企画等を受け持つ。
結構ゲーム集会の数は多いので忙しかったりもする。
瑞稀と拓斗が一緒の委員会じゃないのに、クラスメイト達はブーブー言っていたが、
担任は「枠が一つずつしか余らなかったから」と言い、皆をなだめた。
これで改めてちゃんとした委員会を決め、高学年をスタートした・・。