「知らぬ間に事件が」
一瞬のすきもないほどの緊張感が漂っている。
そこでにらみ合う、只者ではない二人。
「平和ですね…。王子が言うことを聞いてくれない以外は。」
「そうだねー…。ランソワおばさんが町に行かせてくれない以外は。」
只今、俺はランソワおばさんと町に行くことでもめている最中である。
どうにかして、今日は町にいくんだ!
じゃないと、今日限定の七種のフルーツ入りスコーンが売り切れてしまう!!
「おばさん行かせてよ!早くしないと売り切れる!!」
「そうはいきませんよ!そもそも買いにいくのは私でもいいでしょう!!」
俺に負けじと、おばさんは叫ぶ。
さらに俺は叫ぶ。
「おばさんじゃダメなんだよ!何故か子供限定商品なんだから!しかもマイトかヘレナに頼もうにも二人とも今日はバイトで忙しいんだ!!」
かれこれこんなやり取りを、三時間はやっている。
たまに、通りすがりの召し使いたちが横目に見るが、なにも見なかったかのように通り過ぎていく。
いや、何か反応しろよ。
スルーしないで。
「子供限定って、王子今年で成人でしょう!(成人=17歳)」
「まだ、なってないもんね!俺まだ16だもんね!!」
あ、咄嗟に“俺”って言っちゃった。城の中では“僕”だからな。
しかしバレていない様子。
ホッ、よかった。
ランソワおばさんが再び口を開こうとしたその時、召し使いのエネンがパタパタとこちらに向かって走ってきた。
ナイスタイミング!
「ランソワおばさんじゃあね!!」
「あっ、王子…!」
後ろから何か言いかけていたおばさんを無視して、俺は自室へと走る。
よし、急いで着替えて町へ行こう!
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「まったく、記憶喪失以来性格の面では良くなったのに、行動がまるで子供だわ…。」
「あのー、ランソワさん…。」
王子の走っていった方を睨みながら愚痴っている私に、エネンが話しかけてきた。
「はい、何でしょうエネン。あなたのせいで王子を逃がしたではありませんか。」
「そ、そんな風に言わないでくださいよ!?王からランソワさんを呼んでくるように言われたんです。」
半分涙目になりながら、必死に答えるエネン。
「…何の用事でしょう?」
今日は特に用事もないはずなのだけれど。
私はできるだけ早く、王の自室へと向かうのだった。
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「よかったー、売り切れてなかった!七種のフルーツ入りスコーン!!」
「はっはっは!毎度ありがとうよ王子。」
俺は今、町の市場でいつものスコーンを売っている店に来ている。急いだ甲斐があって、丁度買おうと思っていた数だけ残っていたのだ。
買っていく人は、
俺。
バイトを頑張ってるマイトとヘレナ。
密かにお土産を期待してるフーリストおばさん。
最近ランソワおばさんにボコボコにされてるアレグム。
五個である。
で、目の前にあるフワッとサクッとしている程よい焼き加減の、美味しそうな香りを漂わせているスコーンも五個。
「いやー、ホントに間に合ってよかった!ランソワおばさんの話に付き合ってたら、危うく買えなくなるところだったよ。」
紙袋に入れた七種のフルーツ入りスコーンを受け取りながら、俺は言った。
「それでいいのかい王子…。そういえば、今城でも話題になってるだろう?」
スコーン屋のおじさんが急に話を切り換えてきた。
「ん?話題って?」
何かあったっけ。
「おいおい王子。隣国のカシリス王国のシェイリア王女が拐われたって話だよ?しかも怪物に。」
初耳である。
「ふーん、大変だね。」
ガンバ、カシリス王国の皆さん!
と、他人事のように思っていた俺だったが、スコーン屋のおじさんの言葉で危うく紙袋を落としそうになった。
「王子…、シェイリア王女はあんたの婚約者じゃないか。」
スコーン食べたい。
いや…どっちかというとモンブラン食べたいです。
・±・




