「ひろいもの」
俺は『百変化』である。
名前は、まだない。
ちなみに『百変化』と言うのは生体名であって名前じゃない。
昔人々からつけられたあだ名のようなものだから、正しい名ではないんだ。
俺の名前呼ぶひといないし、必要ないんけどね。
さらに言っておくと、『百変化』は俺だけ。
一人だ。
いや、一匹?
数え方すらわからないよ。
つまり今まで話してるこの話も独り言ということになるんだよ。
さみしぃ。
まぁその話は置いとき。
俺は先程、黒い服を着た怪しげな人間たちを見かけた。
誰が見ても怪しい俺が言っていいのかわからないけど、人間の平均的な思考では怪しい分類に入ると思う。
その人間たちはどんどん森の奥に入って行く。
することもないので、離れたところから観察してみることにした。
ほぼ全員が軽く武器や荷物を持つ中、一人は重そうなずだ袋を担いでいる。
なんだろう、キャンプかな?
ここの森、結構危ないですよー。
獰猛な狼とかモンスター出たりするし。
俺は住んでるんだけどね。
そんな俺の心の声は悲しいことに聞こえていないようで、男たちはシャベルを取り出し、黙々と穴を掘り始めた。
キャンプで穴って掘ったっけ?
俺はキャンプしたことないけど。
昨夜は雨だったので、地面は水を含んで掘りやすかったらしい。
数時間ほどで作業は終わって、一人の人間が先程運んでいたずだ袋を中に投げ入れた。
穴は結構深かった。頑張ったな。
そして土を被せ穴を埋め、何やらキョロキョロと辺りを警戒した後、何事もなかったかのように男たちは元来た道を帰っていった。
どうやらキャンプではなかったらしい。
少し残念だった。ここにはあまり人が来ないから。
話しかけると危なさそうな人達だったから、のんびりしていくなら脅かすくらいはしようと思ったのに。
まあ過ぎたことは仕方ない。
することないし、とりあえず何を埋めていったのか見てみるか。
俺は自由自在に変えられる右手をシャベルの形に変えて、ザックザックと先ほど何かを埋めた所を掘った。
しばらくしてから、目的のものが見えてきた。
ずだ袋だ。
よっこいしょと持ち上げると、早速中身を見てみる。
何か面白いものかなー…
…。
うわぁ、嫌なもん見たな。
中には体の大きさからして、16歳くらいだろう、人間が入っていた。いや、人間だったものが入っていた。
顔、ぐっちゃぐちゃで死んでたけど。
最近の人間は怖いなぁ、なぜに普通に殺さないんだよ。
ワクワクしていた俺のテンションはガタ落ちだよ。俺の楽しみを返せよこのやろう…。
仕方ない、また埋めるか…と、思っていたその時。いいことを思いついたんだ。
そうだ、こいつの姿使って久々に町でも行くか!
こんなとこに埋められるくらいだ、まぁ大丈夫だろう。
そうと決まれば。
と、俺はぐっちゃぐちゃの頭があったであろう辺りから、髪の毛を一本拝借する。そしてそれをゴクンと飲み込んだ。
すると俺の体は一呼吸の間で形を変え、一人の人間の姿になった俺がいた。
どうしてそんなに早く変身できるのかって?
慣れだよ、慣れ。
丁度いいところに、水溜まりがあったので、顔を見てみる。そこに映るのは一人の少年だった。
女じゃなくてよかった。そしてなかなかの美男子である。
綺麗な金髪で、瞳は深い翠色。
ただ文句を言えば、前髪の一部がぴょーんとはねているのが気になる。
服は作れないこともないんだけど体力温存のため、元美男子少年から譲ってもらった。
ちょっと汚れているけど、まぁ気にしない。
服を着てから、ずだ袋をさっきよりも奥深くに埋めなおす。普通の人が掘り返しも、きっと見つけることは不可能だろう。ざっと地下7メートルくらいの深さがあるから。
準備万端。
さあ、町へ出かけよう!