「それゆけ!ランソワおばさん!」
「ねえ知ってる?あの子たち、王子の夕食にまたイタズラしたらしいよ。」
その言葉に、私、ランソワ・ストロリーはその言葉を言った者の方向に振り返った。
ここは、城の中にある厨房である。
王子に運ばれる夕食に、イタズラとは言いがたいほど酷い事をしている犯人を突き止めるべくやって来たのである。
王子本人は気にしていなかったのだが、私が気にする。と言うより気にしないのがおかしいと思う。
私は今、その事について話していた召し使いたち3人に尋ねた。
「あなたたち、それはどこで仕入れた情報かしら?」
3人が驚いて、肩をビクッとさせる。顔こそ違うが、動きがぴったりと揃っていて三つ子のようだった。
「ランソワ様!あの、これはですね…」
「この厨房で、給事をしている者が…」
「話しているのを聞きました。」
と、3人が交互に喋る。
「つまり、この厨房で給事をしている者が犯人だと?しかも、あなたたちはそれが誰だか知っているんですね?」
「「「…はい。」」」
少しビクビクとしながら3人同時に答えた。
「正直に全て話しなさい。大丈夫よ、首にはしないから。」
すると、3人の中の1人が話始める。
「給事係りの、エネンです。あの子、自分の恨み分だけでなくて他の人の分まで仕返ししてやろうって言ってて…。」
さらに、他の1人が言う。
「あの子は悪くないです!ただ少し調子にのって、あの、はい。」
「ついには毒を盛ってしまって…。」
さらにしょんぼりとする3人。
「…たしかに、あなたたちが前までの王子にいじめられていたのは、聞かなくてもいいくらいに分かっているわ。でもね。」
私は言葉を区切る。
「今の王子は、今までの事を無かったことにして接してあげなさい。」
「「「え…?」」」
「王子が記憶喪失になってから、ずっと近くで世話をしていた私には分かるの。今までの『闇の王子』とは違うんだって。せっかくのチャンスよ。王子も大人しい性格になったのだから、優しく接してあげましょう?」
その言葉に、3人は目をうるうるさせながら元気よく頷いた。
素直でよろしい。
ひとまず犯人は突き止められた。…と、ここで自分が空腹なことに気が付いた。
感覚的に今は昼頃。
「ふう…あとはエネンにも伝えれば万事解決ね。ああ、お腹すいたわ。朝から何も食べてないのよ。」
「あっ!?」
三人のうちの一人が大きな声をあげた。
いったい何事ですか。
「…どうしたの?」
「お…王子に朝食、持っていくの忘れてました。」
私の心配事は、どうやら簡単には無くなってくれないらしかった。