「コビトは飛んだ」
少し雲の出ている、暗い夜。
俺は部屋の天井をボーッと見ていた。
グルルルルッ
今のは俺のお腹の鳴った音だ。
何を隠そう、俺は夕食を食べていないのだ!
自慢して言えることでもないけど!
いつもの酷い夕食を食べずに済んだものの、何も食べていないので物凄くお腹が空いている。眠れない程に。
ちなみに、俺は部屋にツマミがてらのお菓子を置いておく気はない。少し前まで置いてたんだけど、何か食べようと思って箱に手を突っ込んだら、誰が入れたのか、押しピンが入っていた。地味に痛かったよ。
何なんだろうな、この城の人たちは。
地味な嫌がらせから暗殺まで、メニュー勢揃いじゃねーかよ!
グルルルルッ
あ、またお腹が鳴った。
とその時。
カチャリ
と、ほんの僅かな小さな音がした。俺はとっさに寝たふりをする。
音のしたのは扉の方からではなく、ベランダの方からだったからだ。
…。おいおい、この展開はまさか。
俺は人間よりも聴力がいいので音が聞こえたがおそらく、普通の人間には聞こえなかっただろう。
まして、寝ている人間にとっては。
キィィー
何者かが、部屋の中へ侵入した。そして、俺の近くへとやっで来る。って、またか。昨日の今日もいいとこだぞオイ!
目を閉じたままでもわかる。気配がこちらに近づいてきた。
そして──────。
さっきまで、俺が寝ていた場所には鋭いナイフが突き刺さっている。
危なかったな。
俺の動きに驚いたのか、ナイフを突き立てた人物は少し遠くの方へ離れる。
俺はそいつを残念そうな目で見る。相手には見えてないだろうけど。
「まったくもって、昨日の奴と同じ行動だな。“教科書に載ったままの ” ってやつかよ。」
俺はボソッと呟く。
「で、聞かなくても分かってるけど、お前は暗殺者だよね?」
「そうだ。」
昨日の奴と同じ格好をしたそいつが言う。
あ、喋ってくれる。
昨日の奴は無言だったからな。
一人で話を進めてると、何か独り言みたいで虚しかったし。
「早速だが、お前には死んでもらおう。」
そしてナイフを構えて、俺に突っ込んできた。
暗殺者のナイフが俺の心臓を一突きした!
と、思いきや。
「ハイ、残念~。」
俺は素早く、その場にしゃがみこむ。暗殺者のナイフは空を刺していた。
バランスを崩した暗殺者の後ろに回り込み、昨日よろしく右手を鎖に変えて、縛り上げる。
「な、何だこれは!?」
「何だって、鎖だけど?」
俺は暗殺者を引きずっていく。
昨日と同じように。
「や、やめろっ離せ!!」
お、昨日の奴よりは勘が良いらしい。ベランダに着く前に、これから起こることに気づいた。
「あのね、俺は今お腹すいててイライラしてんの。あー、残念。今日は昨日ほど月が見えないな。」
ベランダにたどり着いた俺と、ぐるぐる巻きの暗殺者。
「雲が無いところなら、よく見えるかな。」
その言葉に、暗殺者は声がでない。
俺はビッと鎖を引っ張り、人間ではそうそう出来ないであろう、頭上でブンブンと回していた。
速度は徐々に上がっていき、俺は一歩、足を後ろに下げてグッと構える。
「空の彼方へ、さあ、行くぞ(笑)」
そしてコビトは、空を飛んだ。
高く高く…雲を突き抜けん勢いで。
どこへ落ちたのか分からないくらいに、遠くへ。