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闇の王子、影の王子  作者: チェル
一章──奔走、影の王子編
16/79

「コビトは飛んだ」





少し雲の出ている、暗い夜。

俺は部屋の天井をボーッと見ていた。



グルルルルッ



今のは俺のお腹の鳴った音だ。


何を隠そう、俺は夕食を食べていないのだ!

自慢して言えることでもないけど!


いつもの酷い夕食を食べずに済んだものの、何も食べていないので物凄くお腹が空いている。眠れない程に。


ちなみに、俺は部屋にツマミがてらのお菓子を置いておく気はない。少し前まで置いてたんだけど、何か食べようと思って箱に手を突っ込んだら、誰が入れたのか、押しピンが入っていた。地味に痛かったよ。


何なんだろうな、この城の人たちは。

地味な嫌がらせから暗殺まで、メニュー勢揃いじゃねーかよ!


グルルルルッ


あ、またお腹が鳴った。

とその時。


カチャリ


と、ほんの僅かな小さな音がした。俺はとっさに寝たふりをする。

音のしたのは扉の方からではなく、ベランダの方からだったからだ。


…。おいおい、この展開はまさか。


俺は人間よりも聴力がいいので音が聞こえたがおそらく、普通の人間には聞こえなかっただろう。

まして、寝ている人間にとっては。



キィィー



何者かが、部屋の中へ侵入した。そして、俺の近くへとやっで来る。って、またか。昨日の今日もいいとこだぞオイ!


目を閉じたままでもわかる。気配がこちらに近づいてきた。



そして──────。



さっきまで、俺が寝ていた場所には鋭いナイフが突き刺さっている。


危なかったな。



俺の動きに驚いたのか、ナイフを突き立てた人物は少し遠くの方へ離れる。

俺はそいつを残念そうな目で見る。相手には見えてないだろうけど。


「まったくもって、昨日の奴と同じ行動だな。“教科書に載ったままの ” ってやつかよ。」

俺はボソッと呟く。


「で、聞かなくても分かってるけど、お前は暗殺者だよね?」


「そうだ。」


昨日の奴と同じ格好をしたそいつが言う。

あ、喋ってくれる。

昨日の奴は無言だったからな。

一人で話を進めてると、何か独り言みたいで虚しかったし。


「早速だが、お前には死んでもらおう。」


そしてナイフを構えて、俺に突っ込んできた。


暗殺者のナイフが俺の心臓を一突きした!

と、思いきや。

「ハイ、残念~。」


俺は素早く、その場にしゃがみこむ。暗殺者のナイフは空を刺していた。

バランスを崩した暗殺者の後ろに回り込み、昨日よろしく右手を鎖に変えて、縛り上げる。


「な、何だこれは!?」


「何だって、鎖だけど?」


俺は暗殺者を引きずっていく。

昨日と同じように。


「や、やめろっ離せ!!」


お、昨日の奴よりは勘が良いらしい。ベランダに着く前に、これから起こることに気づいた。


「あのね、()は今お腹すいててイライラしてんの。あー、残念。今日は昨日ほど月が見えないな。」


ベランダにたどり着いた俺と、ぐるぐる巻きの暗殺者。


「雲が無いところなら、よく見えるかな。」


その言葉に、暗殺者は声がでない。


俺はビッと鎖を引っ張り、人間ではそうそう出来ないであろう、頭上でブンブンと回していた。

速度は徐々に上がっていき、俺は一歩、足を後ろに下げてグッと構える。


(うちゅう)の彼方へ、さあ、行くぞ(笑)」




そしてコビトは、空を飛んだ。

高く高く…雲を突き抜けん勢いで。




どこへ落ちたのか分からないくらいに、遠くへ。








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