「コビトはかえる」
じりじりと、俺との距離をつめてくる暗殺者。
さっきから、結構ドタバタしてるのに誰も起きてこないのは…王子が嫌われていて、この建物にあまり人が居ないからだろうな。
逆に今は、それがありがたい。
どれだけ暴れようが、この建物が吹っ飛びでもしない限り誰も来ないと言うことだからだ。
思う存分やらせてもらおうじゃないか。
俺は、場に合わない陽気な口調で話しかける。
「こんばんは。今日は月が綺麗だね。」
「…。」
もちろんの事、暗殺者は無言である。
「君は暗殺者よね?王子を殺しに来たんだ?」
「…。」
相変わらず、無言のまま少しずつ俺に近づいてくる。
「あれ、よく平気でいられるね?僕のこと、殺したはずなのに生きてて驚かないんだ?」
「!」
わずかに、隙ができた。
その隙を俺は見逃さない。
暗殺者に向かい右手を鎖へと変え、そのまま身動きが出来ぬように縛りつける。
「な、なんだこれは…!?」
暗殺者から、驚きの声があがった。顔を隠していたが、唯一見えていた目は見開かれていた。
「お前…何者だ!?」
「何者も何も、俺は人間じゃないってことくらい分かるだろ?」
そう言いながら、ズリズリと暗殺者を引きずっていく。
ベランダに向かって。
「何をする気だ!は、はなせ!」
必死にもがいている暗殺者を無視し、扉を開ける。
俺は何事もないような陽気な声で、暗殺者に話しかけた。
「いやぁ、今日はホントに月が綺麗だ。」
暗殺者はこれから自分の身に起きようとしている事を察して、カタカタと震えていた。
「よく、こんな高いところまで登ってこれたね。登るのが得意なら、降りるのも得意だよな?」
俺は口を三日月形につり上げて、ニヤリと笑った。
「土へお還り。(笑)」
鎖をブンッと振り上げて、空中で緩めた。
暗殺者は声にならない声を発して、そのまま下へと落ちていく。
その少し後に、遠く下の方から鈍い音が聞こえてきた。
雇人は、土へ還った。
月の綺麗な、夜だった。