「また一難」
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「がは…っ。」
俺は今、意識の朦朧とする中、床で転げ回っていた。
苦しい…。
まさか、料理に毒が…!?
最悪なことには、料理はすでに完食した後なのである。
全部食べちゃったよ、俺!!
半端なく毒を取り入れてしまったらしい。視界がぼやける。
くそっ、もはや
ここまでか…──────!
と、普通なら思うところなのだが、俺は違う。
だって俺、化物だから。
俺の中の毒は、時間はかかるけど消すことが出来る。
いや、正確には吸収すると言った方がいいのかもしれない。
王子の体を借りたときのように、体に取り込んでいる毒をコピーすればいいのだ。
その後、その毒に対して耐性がついているうえに、俺の力として使うことも可能になる。
しばらくすれば何ともない状態で起き上がれるのだが、タイミングが悪かった。
コンコン。
あぁー、やばいな。
ノックすると言うことは…。
「王子、失礼します。」
出たー!
タイミング悪いランソワおばさんだー!
床に倒れてる俺に気づき、急いで駆け寄ってくる。
「王子!?どうなさったのですか!しっかりしてください!」
俺を抱き上げて、ゆっさゆっさと揺らす。
心配する気持ちはありがたいけど、毒が回ってるひとを揺らすのはよろしくないよ、おばさん。
やば、気持ち悪くなってきた…。
「う…ぅっ…。」
かろうじて、声を出した俺。
同時に口の中からごぽり、と、
血を吐いた。
まぁいくら化物でも、このくらいはダメージを食らうのである。
「!まさか、毒に殺られたのですか!?」
おいおい。
“殺られた ” って、まだ死んでないですけど。
「今すぐ医者を呼んできます。待っててください!」
そのまま、俺を床に放置して廊下を走っていくおばさん。
せめて、ベッドまで運んでほしかったよ。
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私は護衛団団長、グィルバー・デモンド。34歳。皆からは老け顔だと言われ、ここ五年くらい落ち込みぎみである。
何者かが王子の毒殺を謀ったと言う話が、城中に広まっていた。
王子は、犯人が分からないと言う。
早速、我ら護衛団が捜索に当たろうとしたのだが、王子直々にストップがかかった。
話を聞くと、
「別に死んだわけでもないし、もういいです。」
と言う。
なぜだろう。
記憶喪失になるまではあんなに酷い性格だったのに、人はここまで変わるものだろうか?
以前までだったら即首を跳ねるところだったが、今回は刑どころか捜索までもしなかった。
時代は流れていくものだな…。
しみじみと思う。
最近は考えることまで爺臭い、と我ながら思う今日この頃であった。
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今朝、息子の毒殺未遂の事件を聞いた。
「やるなら、今、か…。」
私は誰にも聞かれることのない呟きを、ポツリとこぼした。