柏木の欠席
陽がまだ高く昇っていない時だった。心に突き刺さるような冷たい風が吹き、教室内では耳障りな雑音が溢れかえっていた。
小町は早くも異変に気づいた。柏木の席が空席になっていた。
「ねぇ、柏木君まだ来てないの?」
隣の席の女子に尋ねた。不安の色を表情に出さないよう、努力した。
「えっ、うそ。小町さん知らないの?」
少女が細い目を大きく見開き、口元を手で抑えている。小町は知らないと答える代わりに、首を傾げた。不吉な予感がした。
「柏木君、二股をかけてるって噂が流れてるの。中村さんと、それと、その、小町さん」
「あ、あたし!?」
「実際はどうか分からないよ。でも、柏木君って、暗くて何考えてるかわからないし、多分色んなヒトに手を出してるらしいって」
「そんな人には見えないけど。それが、学校を休んでる理由なの?」
「やましい事があるから、学校に来れないのよ。噂じゃなくて、きっと本当。小町さん、あいつに騙されてたんだって。中村さんは変人だから、どうなっても良いけどさ」
小町は疑問を投げかけようとしたが、教室の扉の開閉音がそれを制した。年配の男が入ってきた。年は40を超えているように見える。丸顔で、見れた風貌ではない。肩には白いタオルがあり、清潔感の欠片もなかった。しかしこの汚らしい男が、クラスの担任を仕切っていた。
彼の姿を見ると、皆一目散に自分の席に戻った。小町も仕方なく、教師に視線を集めた。
「柏木は風邪だそうだ。今朝、連絡が入った。暫く休むことになりそうだ」
担任の息吹が単調に言い捨てた。教室内で騒めく声がした。
しかし同級生達は、興味がないといった顔色だった。無理もない。近頃は休みがちな生徒や、学校を去る人が相次いでいるからだ。
小町も先週までは、別の学年のクラスにいた。しかし生徒数が少なくなり、柏木と同じ教室に押し込められたのだ。




