ACT1
「ここは帝国なのか.........?」
オレは呆然と立ち尽くす。
目の前に広がるのは、辺り一面の焼け野原とそこに散らばる身体がバラバラになった人たちの姿.........
2012年12月22日、マヤの大予言における世界滅亡の日。
謎の生命体Despair(絶望)という存在が世界各地で出現し始め、多くの国はDespairの侵攻によって消えていった。
しかし帝国はDespairに対抗すべく、生き残った他の国々との協力の下、2013年1月6日に対Despair組織ブラッドサイズが結成された。
そしてその二週間後、各国の優秀な科学者が対Despair兵器、Savior(救世主)が完成した。
大型戦闘機が開発された事により、人類は歓喜の声を上げた。
しかし、これには一つ問題があった。
それはこのセイバーに搭乗できる人間がいないということ。
どの国の軍部も殆どがDespairにやられているため、現在、殆どの国は戦時中の大日本帝国の憲法にのっとった法律に変え、兵役が復活したり、新しく兵学と言う教科も定められた。
兵役は16歳になったら各国に設立されたブラッドサイズ養成学校に入学しなければならない、という内容に変わった。
子を持つ親は大いに反対したが法律には逆らえず、泣く泣く我が子を送った。
当時13歳だったオレはそれを他人事の様に感じていた。
三ヵ月後、帝国は初めてSaviorをDespairとの実戦に投入した。
始めはこちらが優勢だったが、次第に数の多さで押され始め、結果最初20人いたSaviorの搭乗員は5人しか残っていなかった。
この出来事はすぐさま報道され、国民はその無残な結果に涙した。
アレから5年後、オレはブラッドサイズ養成学院の三期生になっていた。
オレが入学した時には300人いた同級生が今では44人しか生き残っていない。
今では三期生は一クラスでの授業、実習を行っている。
五年も経ったのでSaviorは初期の《ZERO》モデルから進化し、強くなっていた。
しかし、despairもこの五年間の内に更に進化していた。
最初は四足歩行型しかいなかったが、今は砲撃型が現れ始め、被害は更に多くなっていた。
そんな最中、オレは学院の屋上で昼寝を満喫していた。
風が血と火薬の臭いを運んでくる。本当なら今頃は桜が咲いている季節なのだが、見ることはできない。
「アンタはまた授業サボって......」
女の声がしたからそちらを見ると、緋色の髪が揺れていた。
起き上がって背伸びをしながら、「カナタかよ。もう少し寝かせて欲しかったところだが......」と言う。
空美カナタ、オレの同期生だ。
「全く、なんでアンタはいっつも授業来ないでこんな所で寝てるのよ。」
「オレらはDespairを倒すためにいるんだから他の教科なんてやってられるかっての。」
そう言い返してやると、「それでも私らは学生なんだからね。」と不機嫌そうに言うが、
「それにしても、あと4ヶ月で私達は卒業か~。」と呟く。
「お前は卒業したらどうするんだよ?」そう問いかけると、
「ブラッドサイズの実戦部隊に入る予定よ。そう言うアンタはどうするの?」
「オレもそうなるかな。そういえば教官達の話を盗み聞きしたんだけどよ、お前のSavior〈フレア〉を新モデルにしたって話なんだが、本当なのか?」
Savior〈フレア〉とは、初期モデル《ZERO》の機動性能を重視して、装備を銃火器中心にした機体だ。
今の所〈フレア〉は、遠距離用機体では一番の性能を誇っていると言われている。
カナタは腕を組むと、「ええ、そうよ。」と言った。
「機体名はなんだよ。」と聞くと、
「〈紅椿〉よ。〈フレア〉の装甲を軽めにして、代わりに圧縮板金を入れたの。かなりの硬さなのに、とても軽いから遠距離戦ならどんな機体にだって負けないわ。」
さっきカナタの言った圧力板金とは最近、帝国で開発されたばかりの物で、特殊な鋼を超低温の状態で限界まで圧力をかけて分子間の隙間を詰めることによってサビに強く、薄く張っても目に見えた強度を持つという優れものだ。
「誰でもって。凄い自信だな、なんなら今度模擬戦でもするか?」
そう言うオレにカナタは人差し指をビシッ!っと向けると、
「いいわよ。絶対負けないんだから!」
と言ってオレに最高の笑顔を向けてくれるのであった。
だが、オレ達はまだこれから起きる事を知らない。
だから、こんな日常がいつまでもずっと続けば良いな、と信じていた。