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「結婚?」
「ああ…お前の兄も了承済みだ」
瑠那は兄に対する怒りが込み上げてきて、ふるふると身体を震わせた。
現在の状況を説明すると、瑠那は異世界の王城にいて、銀髪に紫の瞳を持つ大国のイケメン王太子殿下に求婚されている。
何故こんなことになったかというと、間違いなく兄が勇者としてこの国に召還されたのが原因である。
勇者を召還して権力を強めすぎた大国は、他の国から警戒されるようになった。他の国は大国に対抗するため、自国にも勇者の血を欲したのである。…そこで目をつけられたのが、勇者の妹である瑠那である。
大国は対策として、勇者の妹を王太子妃に迎えて瑠那を守ることにした。
瑠那が風呂上りにのんきに服を身に付けていると、いきなり足元に魔法陣が浮かび上がったのだ。
…あの時、服を引っ掴んで良かった。あのままだと下着で召還されるところだった。
「大国の王子なら、王女サマでも貴族の令嬢サマでも迎える方が国のためだと思うんだけど?」
瑠那は大国の王子をじとっと睨みつける。
本当に腹が立つ。私はイケメンが嫌いなのだ…顔の良い者は兄だけで十分だ。
「あいにく、うちは圧倒的権力を誇っているのでな。これ以上権力を得る必要もない。唯一心配なのはお前だ」
「私のせいで国が滅びそうだったのに、よくえらそーに言えるわね」
「お前ごとき…と言いたいところだが、お前に何かあれば俺の命が危ないのだ」
そう…重度のシスコンである勇者は、きっと瑠那が危険な目にあえば王子を殺すだろう。というか、魔王と手を組んでこの世界を破滅させかねない。それを防ぐためにも、彼女との結婚は必要不可欠なのだ。
「大体、私は勇者の血なんか引いてないのに…」
そうだ。私は勇者の血など、流れていない。勇者の血は、兄の父親の家系に流れている血である。兄とは異父兄妹の関係である瑠那には、勇者の血は一滴も流れていない。
明らかに、異世界の人々の勘違いである。お前らの勘違いだと叫んでやりたい。迷惑極まりない。
「私は…しないわよ」
「ふっ、残念だな。もう書類は提出済みだ」
最大の爆弾を投下された。
…ここで言う書類とは、間違いなく婚姻届のことだろう。
ということは、瑠那はもう結婚しているということになる。では、先ほどは求婚でなく結婚することへの確認に過ぎないのか。
15歳で既婚者なんて、ありえないんですけど。
「…そういえば私、署名した覚えないんだけど」
「問題ない。兄が代筆したからな」
……この世界は、代筆で人の結婚が決まるのか。理不尽だと感じずにはいられない。私の幸せはどこに消えたのだろう。
「ちなみに、離婚は無理だ」
最後の望みも先回りされてあっけなく打ち砕かれてしまった。
瑠那は、はあ…とため息をつく。
逃げ道はない。この結婚を認めるしかないのか?
今日は今までで最悪の一日だった。そして、今までで一番世の中は理不尽だと感じた一日だった。
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9/9 王子の容姿変更。