13
謁見を終えた後、瑠那はアルとレオンに呼び出された。
「ルーナ、こちらに来ていた…というのは本当か?」
「そうよ、それが…どうかしたの?」
「どうやってこちらへ来ていたんだ?」
「もちろん魔法で。空間転移の魔法があるでしょ?私、魔力が強いから簡単に出来るのよ、すごいでしょう」
ふふ、と笑みを浮かべて瑠那は言う。
「いつから、こっちに来ていたんだ?」
次に問いかけてきたのは兄。
「こちらとあちらを行き来するようになったのは、2年位前かな?兄様が勇者として召還された時には驚いたわ」
…もう、予想外の展開でどこからつっこんでいいか、分かりません。
アルとレオンは少し呆れ顔である。
「なあ、母さんの行方、知ってるか?」
「え、兄様ったら知らないの?」
「ああ、知らない」
「結構有名人なのだけど…。もしかして、国王陛下もご存知ないの?」
「は?何で父上?お前達家族も知らないのに、父上が知っていると思うか?」
まさかの事実。てっきり、みんな知っているかと思っていた…。
「えーと、結論を言うと…生きてます。今は、セリファスって国で新しい家庭を築いてて、子供は男の子が一人いるかな?あと、数ヶ月後にもう一人生まれる予定」
「うっそ、また兄弟が増えているのか?」
兄は信じられない、といった表情をしている。
だって、その二人を含めたら5人兄弟ってことになってしまうものね~。
「でも、お母様には近付かない方がいいと思う。これ以上人質候補増やしたらまずいと思うわよ?」
勇者と母が接触すれば、家族だということがバレてしまう。そうすれば、勇者の弱点が増えていくばかりである。
「そっか…。分かった…」
兄はしょんぼりとして、寂しそうな表情をしている。
「でも、姿を見るだけなら出来ると思うわよ?セリファスの王妃様は、民にとても気さくな方だからよく姿を見せられるのよ」
二人ともゆっくり首を回してこちらを見た。
「…………王妃?」
「…………そうよ?」
「セリファスといったらうちと仲がいいぞ」
「なのに何で気付かないの」
「外交は苦手だ…」
「未来の国王が外交苦手でどうするのよ…」
頭を抱える瑠那の言葉にアルは眉をしかめた。
「ま、瑠那ちゃんそういうの上手そうだから任せればいいんじゃない?」
兄はアルを宥めるように言った。
「とにかく、絶対このことは内緒よ。これ以上敵に弱点さらすなんて、今度こそ世界が終わるわよ。お母様のことは国家機密よ、分かった?」
瑠那はびしっと人差し指を立てていった。
「あ、あと兄様、地球に忘れ物したとかあったら遠慮なく言ってね。いつでも帰れるから」
「………………ああ」
勇者は複雑な心境だった。
あのときの決意は何だったのだろう?
帰る術さえ分からないこの世界に来て、命をかけて世界を救うことを決めて。
地球のことは、家族のことは、友人のことは、全て忘れるようにしてきたのに。
「地球に帰れるわよ」って…。
こうもあっさり言われると、なんだかなぁ。
まあ、そこが瑠那ちゃんらしいのかな?
―――――彼女は、誰も持っていないものを与えられる人だから。