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「おい、お前、どうする気だ?」

目の前には、世の女性たちが見たら喜びそうな、王子様の正装をしたアルが眉間にしわを寄せて立っている。



とうとう、礼儀作法の勉強を逃げ回りつづけ、謁見の日が来てしまいました…。


多少は練習しました、多少は。昨日の夜にアルに必要最低限のことは叩き込んで貰った…はず。



「なるようになるわよ、大丈夫、大丈夫」


笑いながら瑠那は手をひらひらと振った。

今日は瑠那もきちんとドレスを着て化粧を施している。

いつもは楽な格好で城内を歩き回っている(逃げ回っている?)のだが、謁見となればそんな格好で望むわけにもいかない。


侍女さんたちはかなり張り切って、瑠那をお姫様に仕立て上げた。

ドレスは瞳の色に合わせて淡い青色のものを選び、髪飾りは黒髪に映えるように白い大きな花を選んだ。


「しかし、本当に化けるものだな…」


アルが感心した様子でこちらに視線を向けてくる。


「侍女さんたちのおかげね」

「いや、ルーナはそのままでも綺麗だ。何と言うか…存在感が希薄だから目立たないが」

「そんな評価、はじめて貰ったわよ」


本当に、勿体無いと思うのだ。彼女は誰が見ても美しいと言うほどの美貌を持っている。だが、それにもかかわらず、人の目を引き付けない。表現に困るが…綺麗なのに、地味なのだ。


しかし、今日は違うようだ。きちんと、人を引き付ける魅力が出ているように思う。普段と何が違うのだろうか。


「ほら、手を出せ…」


アルはすっと手を差し出してきた。

瑠那は、その手のひらに、自分の手を重ねた。



途中で、勇者と合流した。



「瑠那ちゃん、可愛いー!!さすが俺の妹だーーー!」


そう言いながら、瑠那に抱きついてこようとしたが…。


「今はやめろ。ドレスや髪が乱れるだろう」

「え~。普段見ないくらいにお洒落してたら、抱きつきたくもなるよ」


…アルが冷静に止めてくれた。




長いこと歩いて、ようやく謁見の間に辿り着いた。


「ルーナ、絶対に失態を犯すなよ」


アルから恐ろしい声が聞こえて来て、謁見の間に入った。


――――国王陛下の前に行くと、まず礼をする。

昨日、アルから教えてもらったとおりに頭を垂れる。


瑠那はまったく気付かなかったが、彼女の隣ではアルが怒っていた。

…あいつ、完璧な礼儀作法、出来るじゃないか…馬鹿にしやがって。


「ほう、急いであつらえた姫君にしては綺麗な礼をするな」


国王は嫌味を言ってきたが、瑠那は反応しない。今はまだ、言葉を話すのを許されていないからだ。


「面を上げよ」


当分して顔を上げることを許される。


「アルヴィアス、そちらがお前の妃か?」

「はい、こちらがわが妻となった、ルーナ・リーウェン。勇者レオンの妹にあたります」

「ほう…にしては、勇者の色をもっておらぬな、ルーナ・リーウェン?」

「はい。おそれながら、わたくしは兄の異父兄妹にあたります、陛下」


瑠那の完璧な返答に、アルが目を見開いている。


「そうか」


陛下はそのことには興味を示さず、次の話に移った。


「勇者レオンよ。勇者としてのつとめ、ご苦労だ。何か、要望はあるか?」

「はい。妹の花嫁姿を、出来れば出発する前に見たいのですが」


ナイス、兄様!

瑠那は心の中で叫んだ。


「わかった。手配しよう」


国王はあっさりと受け入れた。


「ところで…レオンよ、国内で何か、変わったことはないか?」


兄は、国内を巡り、修行中の身である。


「はい、国境付近で小競り合いが激しくなっているようです」

「そうか…」

「何かしらの対処をした方がいいかと」

「ルーナ殿は、どう思うか?」


王が、挑戦的な瞳を向けてくる。


何でこっちに話を振られるのかなー?世間知らずの女に、政治のプロが何を聞こうというのかしら?


アルは冷や汗をかいていた。

…まずい。礼儀作法や一般常識については叩き込んだが、現在の国の情勢などについては何一つ教えていない。


「そうですね、原因は軍部の暴走によるものです。国家は弱体化してもう軍部を抑えられそうもありませんし…。軍が国家を倒して強力な軍事国家が生まれる前に、何らかの対処をしておいた方が得策ですね」


瑠那はアルの心配をよそに、すらすらと淀みなく答えた。


「…それは、単なる憶測かな、花嫁殿?」

「いえ、現地での入念な情報収集によるものです」

「確か、花嫁殿はこちらに呼ばれたばかりだと聞いたが…」

「もともと私はこちらの住人でございます。それで、しばしばこちらに滞在しているのです」


その瞬間、3人は驚いたような顔をして瑠那を見た。


しばしばこちらに滞在している…?


「ほう?父親は、こちらの世界の者か?」

「はい。私は、セレイアの王の血を引くものです」

「亡き国王には、子がいないと聞いていたが?」

「表向きは。国王には、妃もいましたし、娘もおりました。命が狙われる危険性から、存在は秘匿されておりました」

「そうか、礼儀作法が完璧なのはそのせいか」


陛下は納得したように頷いた。


「セレイアの姫よ。妃として、アルを支えてやってくれ。…ちなみに、子供は早い方がいいな」


にやりと笑ったその最後の表情は、もう国王の顔ではなかった。



…こうして、瑠那の謁見は無事?終了したのだった。


瑠那ちゃんの秘密がだいぶ暴露されました。

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