表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幽樂蝶夢雨怪異譚

メグミの手料理

作者: 舞空エコル

 このシリーズは読者投稿の体験談をラジオドラマに

 して紹介する…… というのが大前提だったのですが、

 ディレクターから「何でも好きに書いていいよ」と

 お墨付きをいただいた私は、逆にちょっと戸惑った

 のでした。それはつまり幽霊/妖怪/超常現象など

 オカルト系の “お化け”が出ない、サイコホラー的な

 お話も書いてよいということなのだらうか?


 するとあっさり「それもいいよー」と言われたので、

 すっかり嬉しくなってこれを書いて原稿を送ったら、

 電話がかかってきて「このメグミってさ、君が書く

 からには、あのメグミでしょ? やばくな~い?」


 正直、そのメグミのことは全く念頭になかったので

「違いますよー」と答えたら「じゃあしょうがないか」

 しょうがない? ディレクターは一体、どのメグミ

 を想定していたのか? メグミといえば(十五行削除)



 まあとにかくこの話は、徹頭徹尾、完全に純然たる

 フィクションです(※ハクションではありません)

 メグミちゃんは架空の登場人物でモデルはいません。

 いないったらいない。いないのよ~! そこんとこ

 よろしく哀愁笠智衆。ハッパフミフミ加藤一二三。

 では読んでみてくらんしよー♪


挿絵(By みてみん)

        "Bonne dégustation !!!"

 出会いは、2年前の秋でした。大手の広告代理店に

 勤めていた私は、小さな芸能事務所のマネージャー

 からデビュー以来鳴かず飛ばずのアイドルを何とか

 売り出してやってくれないかと泣きつかれました。

 プロポーションは抜群でしたが、顔はかなり地味で、

 トークが苦手なのがネックでした。高校時代に国体

 アーチェリーで三位入賞の実績だけが取り柄という、

 事務所曰く、癒しの体育会系グラビア・アイドル……

 それがメグミでした。しかしこういう地味で難しい

 素材をブレークさせるのも、この仕事の醍醐味です。

 男性誌のグラビアや、深夜番組の準レギュラーなど、

 懸命に売り込んでいるうちに情が移って、男と女の

 関係になっていました…… あまり褒められた話では

 ありませんが、事務所も見て見ぬ振りをしていたし、

 メグミも満更ではなかったように思います。休みの

 日には部屋に来て料理を作ってくれたりもしました。


 しかし肝腎の仕事では、なかなか思うように売れず、

 むしろ彼女の現場でのぎこちなさや融通の利かなさ

 に、苛立つことの方が多くなってきました。


「カメラの前では能面みたいな無表情になるな」

「MCの振りにはちゃんとリアクションをとれ」

「あざとく見えてもいいから、笑顔を絶やすな」

 

 噛んで含めるように厳しく言い聞かせても、メグミ

 は無言で項垂れるだけで、パフォーマンスは一向に

 良くなりませんでした。これはもう見込みがない、

 そろそろ潮時かな…… 気持ちが冷め、体の関係にも、

 正直、飽きが来ていました。


 そんな私に彼女がいきなり妊娠の事実を告げたのは、

 最初の顔合わせから半年が過ぎた、春のことでした。

 すでに所属事務所も辞めてきた、入籍してほしいと。

 冗談じゃありません。こんな売れない三流アイドル

 とデキ婚なんかしたら、私のキャリアが台無しです。

 金は出すから中絶してくれと必死に掻き口説く私の

 目をじっと見つめて、メグミは終始無言でしたが、

 やがて分かったわとつぶやいて、立ち去りました。


 その後メグミは音信不通になりました。あきらめて

 故郷に帰ったのでしょう。ありがちなパターンです。

 罪悪感もありましたが、安堵感の方が大きかった……

 彼女の口座に、中絶費用も含め、手切れ金としては

 それなりに奮発した金額を振り込んだ私は、すぐに

 気持ちを切り替えると、罪滅ぼしも兼ねて、メグミ

 が所属していた事務所の次期イチ押し新人アイドル

 の売り込みに全力を傾けました。幸いにも、今度の

 サトミはキャラクターが立っていて、すぐに各方面

 に売れてくれたので、忙しくなり、休む暇もない程

 のハードスケジュールに追われるようになりました。

 メグミで懲りたので、サトミとは必要以上に親密に

 ならないように心がけ、充実した多忙な日々を送る

 うちに、メグミの記憶もどんどん薄れていきました。


 しかしある日、一通のメールが届きました。妊婦服

 を着たメグミが、大きくなったお腹を笑顔でさする

 画像が添付されていました。件名は「6か月」……


【安定期も過ぎたので会いに行きます。予定を教えて】


 鳥肌がたちました…… メグミは中絶していなかった!

 子供の認知と養育費、そして改めて入籍を迫られる

 と思うと、吐き気と震えが止まらなくなりました。

 私は即座にメグミの電話番号とアドレスを着信拒否

 にすると、秘密裏に都心から郊外に引っ越しました。

 そしてサトミのファースト写真集撮影のロケに同行

 して日本から離れ、撮影終了後もリフレッシュ休暇

 と称して、そのまま観光地を転々としました。更に

 数週間を海外で過ごし、ようやく私は帰国しました。


 空港から何本も電車を乗り継いで郊外の新居に到着

 したのは夜中でした。あのメールから既に三か月が

 経過していました。どんなにメグミがしつこくても、

 さすがにもう諦めているでしょう。やれやれと思い

 ながら、内見を含めてまだ二回しか足を踏み入れた

 ことのない部屋のドアに、鍵を差し込んで…… 鍵が

 開いていました。


「もう、遅いんだから…… 待ちくたびれたわ」


 冷房も止まって灯りもなく、残暑に焙られ蒸し暑い

 真っ暗なリビングの座卓の向こうに、メグミが正座

 していました。ぼさぼさの髪、汗にまみれた薄笑い、

 そして、鼻が曲がるような悪臭…… 座卓には、一本

 だけ灯された蝋燭の炎にぼんやりと照らされながら、

 丹精込めて作られたらしいメグミの手料理が並んで

 いました。皿の上を夥しい数の蠅が飛んでいました。

 一体いつからここにいるんだ? 恐怖よりも怒りと

 苛立ちが、嫌悪感と共にふつふつと込み上げてきて、

 思わず声を荒げていました。


「何をしている? ふざけるな、このストーカーめ!」


 激高して暗い室内に足を踏み込んだ瞬間、大きな音

 がして衝撃が走ると、為す術もなく前のめりに転倒

 しました。狩猟に使われるトラバサミの金属の咢が、

 ガッチリと足首に食い込んでいました。骨が砕けた

 かも知れない…… 私は経験したことのない凄まじい

 激痛に悲鳴をあげ、床の上をのたうち回りました。


「ダメ、動かないで。私まだ、止まった的しか射った

 ことがないから、どこに当たるか分からないよ?」

    

 メグミはアーチェリーの弓に矢をつがえて、苦痛に

 喘ぐ私に向け、しっかりと狙いを定めていました。


「お料理、冷めちゃったね…… 温め直す?」


 正座して背筋を伸ばし、弓を構えるメグミの姿に、

 微妙に違和感を覚えました。妊娠6か月+3か月……

 臨月の筈の妊婦が、こんなにもほっそりとしている

 ものだろうか…… 一体メグミに、何があったのか? 


 その答は、目の前の座卓の上にありました。大皿に

 盛られたメインディッシュ。じっくりと丁寧に時間

 をかけて茹でられ、萎びた夏野菜が添えられている

 白っぽいそれは、魚でも鳥でも、ポークでもビーフ

 でもなく……


 アーチェーリーの弓を、ギリギリギリと音を立てて

 引き絞りながら、メグミは瞳孔がいっぱいに開いた

 真っ黒な目で私を見ると、口角をあげ、涎を垂らし、

 満面の笑顔を作ってほがらかに、こう言いました。


「さあ…… 召、し、上、が、れ!」

【ネタバレあり。本編読んでからの閲覧を推奨速水奨】






 メグミの手料理とは、一体何だったのか? 皆様も

 いろいろと思いを巡らせられたかもしれませんえん。

 大岡昇平かアシュラか、ピーター・グリナウェイか、

 日野日出志先生か、永井豪先生か、生きてこそか、

 レクター博士か、或いはそのものズバリ食人族か?


 しかし書いた私が一番最初に意識したのはあれです、

 ティプトリー「苦痛志向」あと「ブレードランナー」

 でデッカードがレイチェルをVKテストしたときに

 質問に出てきた茹でた以下略さらにはポランスキー

「反撥」の兎さんとかリンチ「イレイザーヘッド」の

 あの子とか「屋敷女」の、そのものズバリの以下略。

 あと木乃伊にして漢方薬とかも実際にありますなあ。

 まあ「食べちゃいたいくらい可愛い」ともいうから、

 勢い余って実際に食べてしまうことも(二十七行削除)


 こういう話は総じて忌避されるし物議を醸しやすい

 かもですが、ディックじゃないけど私も『生まれた

 後の赤ん坊を殺すのは犯罪行為だが妊娠中の中絶は

 正当な医療行為』という線引きの正当性が正直よく

 分かりま千川駅(板橋区)胎児をどの段階から人間

 とみなすべきかという議論もあります。しかし中絶

 は合法だし、やむを得ぬ諸般の事情もあってのこと

 だろうから、反対も非難も否定もしません。本邦に

 限っても川遊びとか蓬摘みとか蜆拾い等々の隠語が

 たくさん残っているように飢饉など過酷な状況では

 口減らしに子供を殺すこともあっただろうし、逆に

 楢山に老父母を捨てに行ったり、夏至に崖の上から

 老人に飛び降りをさせたりするのも村の掟だったり

 するわけです…… 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無~


 事程左様にケース・バイ・ケースだし、是々非々で

 賛否両論はあるにせよ、このテーマで問題提起や、

 或いは完全にエンタメ志向で、創作したり考えたり

 論じたりすることには何の問題もないんジャマイカ。

 表現や思想の自由は最優先に尊重すべきで、それを

 単に自分の趣味に合わないからと不謹慎だ不道徳だ

 と叩いたり非難したり排除したりするのは逆に野蛮

 で反知性的な振る舞いなんジャマイカ。現実に子供

 を殺した母親は、割とお約束で執行猶予になるのに、

 誰も被害者がいないフィクションは許せないなんて

 ナンセンスでアタオカで意味不明。病気ですよ病気。

「禁忌=タブーが多い社会は未開社会」とは筒井康隆

 先生のお言葉ですが、全くもって禿同であります。

 タブーはカトちゃんだけでよい。ちょっとだけよ♪


 というわけで、臆してはいけないのら。これからも

 どんどん書くぞ…… グロテスクで無節操で悪趣味な、 

 “人を食った”話を!(うまくオチがついた←そうか?)

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ