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異世界紀行・ダンジョントリッパー  作者: アルゴラインズ/牧野円(リュウケン)と森さとる
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第9話:帰還と決意

第9話:帰還と決意


コーヘイの意識が戻った。

「ん…僕はいったい?」

一瞬、記憶が混乱する。


ここは、冒険者の宿…僕の部屋だ。


「コーヘイ、目が覚めたか!」

起き上がると、シュウ、ユカ、ヤストが心配そうにこちらを見ている。

「みんなも無事だったか…良かった」


「やった!コーヘイ様が起きた!」

部屋の中をフワフワ飛び回る精霊マーに、コーヘイは安堵の息をついた。


ヤストがポロポロと泣き始めた。

「コーヘイのおかげで助かったんだ」

「まる二日、眠っていたのよ」

ユカとシュウも涙ぐんでいる。

「そうか、そんなに意識を失っていたのか…」


その時、部屋の扉がガチャリと開いて、ファロスギルドの受付嬢、ルマが入ってきた。

「コーヘイさん、良かった。まずは大変な冒険の達成、おめでとうございます」


それから少し視線を落とした。

「実は、お伝えしなければいけないことがあります…」

ルマが苦しげに声を詰まらせる。

「どうしたんだ、ルマ?」

「コーヘイさんは奇跡的に魔法戦士へと覚醒転職されました」

「…つまり冒険世界との親和性が急速に高まったということになります」

シュウたちは辛そうに、じっと固まって聞いている。


「このままだと、完全にここの住人になり、元の世界の記憶を失うばかりか、存在しなかった事になってしまいます」

ルマの言葉に、コーヘイは愕然とした。

「そんな…どうすればいい?」

「ご安心ください。一旦帰還すれば、いまの状態はリセットされます。ですが…再びライオースに戻れる保証はありません」

え?保証が無いだって?僕はもうこの世界に来れないかもしれないのか?この素晴らしい冒険世界に。


「…しばらく考えさせてほしい」

かろうじて声を絞り出す。

ルマは真っ直ぐコーヘイの目を見ながら言った。

「わかりました。ご決断はコーヘイさんに任せるよう、言われています」


コーヘイは天井をじっと見ながら、この数日間の出来事を思い返す。

ここでの冒険は、危険で刺激に満ちていた。モンスターとの戦い、ダンジョンの攻略、そして、かけがえのない仲間たちとの出会い。


「ご一緒に過ごした時間は、何物にも代えがたい宝物です」

マーの言葉が胸に温かい光を灯す。

「うん、僕もだよ」

心からそう思った。

「コーヘイ様は、冒険を通して変わりましたね、すごく生き生きされた」

確かに、ライオースでの冒険を通して、コーヘイは変わった。


臆病だった自分に、勇気が芽生えた。

迷っていた自分に、目標ができた。

「でも、もうすぐこの世界ともお別れか…いつ帰って来れるかもわからない」

コーヘイの表情に、寂しさが滲む。

「寂しい気持ちは分かります、でもまたきっとお会いできますよ!」

「ああ、そうだよな」

できるなら、その言葉を信じたい。

…いや、信じよう。


根拠なんてない。

でも僕はいま、信じることにした。

それが、冒険世界で学んだことだ。

(信じることから始める)

コーヘイはようやく元の世界に戻ることを決意した。

「ありがとう!マー」


ファロスギルドの帰還の間にて。

受付嬢ルマが、寂しそうな表情でコーヘイに話しかける。

「では冒険者パスポートをお返しいただきます」

コーヘイは、冒険者パスポートを服の中から取り出すと、ルマに手渡した。

「またいつ来れるかはわからないな」

コーヘイの言葉に、ルマは悲しそうな表情を浮かべた。

「はい、いつまたライオースに来れるかは、人によって違います。場合によっては永遠に来れないことも…」

ルマの言葉に、コーヘイは胸を締め付けられるような思いがした。

シュウ、ユカ、ヤストが、別れを惜しむ言葉をかける。

「あとは僕たちが調べておくよ」

「寂しくなるわ」

「ボクもコーヘイみたいに強くなるよ」

仲間との別れはツラい…でもきっと永遠の別れじゃない。

「大丈夫、また来れるさ」

コーヘイは、笑顔で答えた。


ゆっくりと歩みを進めて、帰還の間の奥にある扉を開ける。眩い光が一瞬にしてコーヘイを包み込む。


…そして、コーヘイは風丘康平として現実世界へと戻っていった。



【帰還して数日後、風ノ宮公園】

ベンチに座り、コーヘイは空を見上げていた。ライオースでの出来事が、まるで昨日のことのように思い出される。


あの時、パスポートを手にしたのは、何かの意味があったのかもしれない。


異世界での出会い、経験、

全てが今の自分に繋がっている。


コーヘイは、また現実世界で歩き始めた。心の奥底に、再びライオースに戻る日を夢見ながら。


第9話(終)

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