第8話:フルマージャの秘密
第8話:フルマージャの秘密
ソワル・ジダルの街から冒険者の宿に帰ったのは、夜遅くになってからだった。
「君たちの求めるものはフルマージャにあるだろう」
街で見た幻の老人はそう言った。
「本日のご予定は?コーヘイさま」
朝食を用意しながら部屋の精霊マーが言う。
「皆でギルド図書館に行く予定だよ」
「図書館、ギルドの知識の宝庫。とても良い選択ですね!」
フルマージャについて少しでも情報を得たい。現実世界ならネット検索があるのだが、冒険世界だから、やはり図書館になるのだろう。
「ありがとうマー、美味しかったよ!」
そう言うと、皆と待ち合わせているファロスギルドのホールに向かった。
「おはようございます!ルマさん」
ギルドのカウンターで受付嬢のルマさんに挨拶をする。
「おはようございます!昨晩は遅いお帰りだったようですね」
「街で色々あってね」
そうだ、ルマさんなら何か知っているかもしれない。
「ルマさん、フルマージャって知ってます?」
「フルマージャ?うーん、どこかで聞いたような響きですね…遺跡かな?」
首をかしげて考えるルマ。
「もしかしたら、グランドマスターが詳しいことをご存知かもしれません」
「グランドマスター?」
初めて聞く役職だ。グランドマスターということは、ギルドマスターの上官ということか。
「はい、ふだんは滅多にお顔を見せられないのですが、たまに見回りにいらっしゃいます」
「それはすごい。いつか会えるかな」
「そうですね…機会があれば」
それからルマは、気づいたように言う。
「あ!あとは図書館に行けば、調べられるかもしれませんね」
その言葉にコーヘイはニッと微笑む。
「ありがとう!これから行くんだ!」
ルマは照れくさそうに笑った。
「へ…へへ、さすがはコーヘイさんたち、いってらっしゃいっ!」
待ち合わせ場所のホールに行くと、ちょうど四角い柱の前にシュウとユカがいた。
「お!コーヘイきた。あとはヤストだけだな」
遅れてドタドタとヤストが来る。
「ごめーーーん!寝坊したぁ」
「あはは、ヤストんとこの部屋の精霊は起こすの大変だったろうな」
シュウがからかう。
「ほら、鎧がズレてるよ」
確かに鎧が傾いている。ユカがそれを整えた。
(ほんとみんな、仲がいいなぁ)
コーヘイは目を細めながら思った。
「さあ、図書館に行こうか…フルマージャは遺跡かもって、ルマさんが言ってたから、その辺からだな」
シュウがうなずく。
「さすがコーヘイだ。よし、手分けして調べるぞ!」
ユカは魔法関連、シュウは地図、コーヘイとヤストは歴史の書物を調べる。
「ん?これかな?」
シュウが地図にフルマージャという名前を見つける。やはり古い遺跡のようだ。
「レイワーナ地方の近く、小さいけれども確かに手書きでフルマージャって書いてある」
「そっちはどうだった?コーヘイ」
「…歴史書には、フルマージャに秘密のダンジョンがあるって書いてあった」
ヤストが続ける。
「そこに宝があるらしい、何なのかはわからないけど…」
「おそらくそれは魔法の書」
魔法使いのユカが言った。
「我、アメジストの魔導書をフルマージャに隠すって記述があったよ」
「…つまり秘密のダンジョンに行って、アメジストの魔導書を手に入れろってことか」
シュウがうなる。
「これ、かなり調べないとわからないようになってたわ」
「…よし、やるか?」
コーヘイが皆を見回した。
「うん、やろう!」
他の三人がうなずいた。
その時だった。
四人の冒険者パスポートが熱を帯び、わずかに震えた。慌てて確認するコーヘイたち。
【アメジストの魔導書クエスト進行中】
そこには、新たなクエストが記されていた。
(…そうだ、僕たちは冒険者なんだ!!)
翌日、四人は再び馬車をチャーターして
レイワーナ地方へと向かった。
(まずは正確な場所に移動しないと)
馬車が止まる。
「…地図の場所はここですね」
御者が言った。
「何もないよね、ここ」
あたり一面の岩場。入口らしいところは見つからない。
「待って!あそこに誰かいる!!」
ユカがある場所を指差した。
そこに立っていたのは、白い髭と杖を持った老人、街で会ったあの人だ。身体は半分透き通って向こうの景色が見える。まるでこの世の人では無いみたいだ。
その姿がすうっと歩いて止まり、杖で地面をトントン、と小突いて、消えた。
「きっと、私たちに入口を教えてくれたんだ」
ユカがヒソヒソ声で言った。
「たぶん、これだよ」
ヤストが老人が杖で指し示した場所を探ると、ひとつだけ違う色の小さな岩を見つけた。まずその岩を押すが、何も反応が無い。
「うん、回せるかも」
そう言うとヤストは岩を回転させた。
「うわっ!」
ゴ、ゴ、ゴゴゴ…
そこから数メートル離れた場所の岩がゆっくりとスライドしてゆく。
コーヘイたちは、ついにフルマージャにあるダンジョンの入口を発見したのだ。
ダンジョンは、長い年月を経て風化した石造りであり、壁には奇妙な模様が刻まれ、まるで生きているかのようだ。
「このダンジョン、何か仕掛けがありそうだ」
コーヘイは装備品の光る棒を掲げる。
「ああ、慎重に進もう」
シュウも警戒しながら辺りを見渡す。ユカは魔法の力で罠を探り、ヤストは宝箱がないかと目を凝らしている。
崩れかけた通路や、突然現れる落とし穴を回避しつつ奥へと進む。
「うわっ、危ない!」
ヤストが叫びながら飛びのく。壁から矢が射出される罠が仕掛けられていたのだ。
「気を付けて!」
ユカが心配そうに駆け寄る。
「大丈夫だって!それより、なんか食べられるものは落ちて無いかな?」
ヤストは冗談で言ったつもりだったが
「今は遺跡の探索に集中して!」
ユカにはマジでキレられた。
コーヘイとシュウは苦笑いしながらも、気を引き締め直して、進んだ。
しばらく行くと遺跡の奥に巨大な空間が広がっていた。しかし、妙に熱い。おそるおそる中に入る。
突然、四人の上を巨大な影が横切った。
「ド、ドラゴン!!」
ユカが悲鳴のような声を上げた。
上を見ると巨大な翼を持った怪物が大きな口を開けている!
「くるぞ!ブレスだ!!」
ドラゴンは咆哮を上げ、炎の吐息を吹きかけた。コーヘイたちは、ダメージを減らすために、口の正面を避けて、それぞれの武器を構える。
激しい戦いが始まった。ドラゴンの牙や爪がコーヘイたちを襲い、遺跡の壁を破壊していく。シュウはアックスを振るい、ユカは攻撃魔法で応戦する。たが、ドラゴンの力は圧倒的だった。
「もうダメ!あと一撃耐えられない!」
ユカが叫ぶ。
「僕が食い止める!逃げられるなら、逃げてくれ!」
シュウは残りのチカラを振り絞って立ち向かう。ヤストも必死だ。
「そんなのダメだ!ボクも戦うよ」
(くっ!ドラゴンは想定外だった!)
このままでは、全滅だ。
「…ここまで来たんだ」
コーヘイは痛みに耐え、傷ついた身体で立ち上がった。
「あきらめてたまるかーーっ!!」
その時、魂の中で何かが目覚めた。
冒険者パスポートが熱を帯び、新たな文字が浮かび上がる!
【魔法戦士に覚醒転職します】
【戦士のダメージが追加】
【攻撃魔法を覚えました】
【回復魔法を覚えました】
【魔法の書が使えます】
グオオオオオオオオオ!!!
ドラゴンの爪がコーヘイに襲いかかる。
ガキィィィン!
それを剣で弾く。
「コーヘイ!!??」
驚くシュウ、ユカ、ヤスト。
(…わかる!今の僕には魔法も使える!)
コーヘイの手から閃光がほとばしった。
「攻撃魔法?!」
ユカが目を丸くする。
突然の魔法にドラゴンが戸惑う。
「よし!僕も続くぞ!!」
チカラを取り戻したシュウがアックスで迎え討つ。
「これでどうだぁ!!!」
コーヘイが渾身のチカラでドラゴンに剣を突き立てた。
グギャアアアアアァァァ!!
悲鳴とともに崩れ落ちるドラゴン。
ついに四人はドラゴンを倒した。
みるみるダンジョンの気温が下がっていく。
コーヘイは回復の魔法で仲間を癒しながらフルマージャの宝【アメジストの魔導書】を探し始めた。
「あった!これかな、コーヘイ、ユカ?」
ヤストが見つけた石碑には魔法文字がびっしり書かれている。…残念ながらコーヘイにはその文字は読めなかった。
「え…と、なになに?我に触れよ、宝は手の中に」
ユカは魔法文字を読むと石碑にそっと触れた。
石碑が淡い光に包まれる。
光は洞穴に広がり、やがて収縮する。一冊の本がユカの手に現れた。希少金属で
装飾された本、中央には大きな紫水晶がはまっている。
「これが、アメジストの魔導書…」
ユカは呆然としている。
「すごい!本当にあったんだ!」
ヤストも興奮を隠せない様子だ。
こうしてコーヘイたちは、伝説の宝【アメジストの魔導書】を手に入れ、フルマージャのダンジョンを後にした。
フルマージャのダンジョンで覚醒転職を果たしたコーヘイ。達成感と喜びに包まれる四人。
だが、帰りの馬車の中、突然コーヘイの冒険者パスポートが真っ白になり、彼は意識を失った。
第8話(終)